第27話 冒険者アカデミー
冒険者ギルドで聞いてみると、学校の名前は冒険者アカデミーと言い、ちょうど一か月後に試験があると言う話だった。授業料がただのうえ、成績次第では卒業後に騎士団や冒険者ギルドの専属冒険者になれるということもあって人気があって、倍率は10倍を超えているという事だった。
試験は敵に見立てたダミー人形に攻撃を加えると言った内容で、剣で攻撃しようと魔法で攻撃しようと自由で、その攻撃を見て審査員の教師が採点するという内容であった。魔法が使えれば、ほぼ100パーセント受かるが、剣だけの場合は相当に腕がたたないと難しいとのことだった。この世界では自衛のために女子供でも剣を握るし、魔法を使える者は貴重であったから当然であった。
さてと、困った。オレとサオリは魔法も剣(サオリは槍)も使えるから間違いなく受かるだろうが、問題はリオとセナであった。剣の使えない剣士に魔法を使えない魔法使いでは、間違いなく落ちるだろう。
その日からオレ達は、試験に向けての特訓を始めた。午前中はダンジョンに潜ってのレベル上げをして、午後からはメアリー師匠の家での座学であった。サオリは王国語を、リオとセナは魔法を学んだ。オレはまだ使えない魔法をメアリー師匠から学んだ。剣士のリオに魔法と言うのも変であるが、一か月やそこらで上達するほど剣の道は甘くないと判断し、それなら魔法の一つでも覚えたほうが早いと判断したからであった。オレはリオとセナの二人に魔法の極意を説明した。魔法と言うのは、精霊に古代王国語で命令をするものだと言う事を。そのため、精霊をイメージして正確に古代王国語で呪文を唱えれば、誰でも魔法が使える事を。意外な事にはリオの方が呑み込みが早く先に魔法を覚えた。おかげで、魔法剣士三人に魔法使い一人のいびつなパーティーになってしまった。試験の日までにサオリとセナの二人もファイアーボールやファイアーなどの初歩の攻撃魔法の呪文をマスターした。さすがに本職の二人の魔法はオレとリオの魔法とは威力が違った。そのおかげか、試験の日までに東のダンジョンを攻略することができた。
そして、いよいよ、今日が試験の日であった。
オレ達受験生は校門で受付をすますと、校舎裏のグランドに集合していた。募集人員30人に対して、ざっとその10倍の300人は集まっていた。冒険者を志す者たちである、どいつもこいつも腕っぷしに自信のある荒くれものの集まりであった。あっちこちでいさかいが起きて、会場は騒然としていた。その騒然とした状況の中、一人の男が壇上に上がった。
「やかましい!静かにしろ!」
とんでもない大音声であった。威嚇のスキルも使っているのであろうか、会場が一瞬で凍り付いた。やがて、その男が口を開いた。
「みなさん。おはようございます。わたしが当冒険者アカデミーの校長です。
今から、試験の内容を説明いたします。試験は・・・・・」
試験の内容は、聞いてた通りいたってシンプルで、三分以内に甲殻魔物の殻で作ったダミー人形を破壊すれば合格と言ったものだった。使える武器は会場に用意された木剣か木槍だけであり、魔法の使用は自由であった。また、受験の順番で不公平が出ないように定期的に「リペア」の魔法で修復するとのことだった。また、破壊できなくても、技の型、技の切れ、スピード等を審査員で審議して、優れていれば合格できるとのことだった。受験生は受付の番号で三班に分けられ、オレ達4人は同じ班だった。
甲殻魔物の殻は想像以上に硬く、いかにも力のありそうな大男が力任せにいくらぶっ叩いても傷一つ負わせられなかった。誰も破壊できないとなると、攻撃力よりも、技の型の美しさや、切れ、スピードを審査するしかなく、ほとんど自己流のリオの剣では受かるはずがなかった。無理にでも魔法を習わせて良かった。
オレ達の班での最初の一発合格者は、剣士風の大男でその力も凄いが技の切れも良かった。合格者の出現に会場は沸いたが、その男にしてもダミー人形に少し傷をつけただけであった。ダミー人形はすかさず、リペアをかけられ修復された。その後、一発での合格者は出ず、いよいよオレ達の番が回ってきた。
最初はリオからであった。
「リオ。頑張って。」
「剣では無理みたいだから、魔法をかけて。」
オレ達は声援を送った。
「おう。お姉ちゃん。その細腕で剣なんか振れるんか?ベッドで腰振ってたほうがいいんじゃねえか。」
「叩くならオレのお尻を叩いてくれよ。」
お約束通り下品なヤジも送られた。開始の合図とともにリオは渾身の力を込めた面をダミー人形に打ち込んだが、案の定、傷一つつけることはできなかった。木剣を放り出すとリオは呪文を唱え始めた。
「ファイアーボール。」
リオのファイアーボールがダミー人形に炸裂した。ダミー人形はひびが入り、見事リオは合格した。ダミー人形の弱点は魔法みたいだった。二人目の一発合格者に会場は沸いた。
「お姉ちゃん。みなおしたぜ。オレと付き合ってくれ。」
「お姉ちゃん。オレのお尻も叩いてー。」
リオのおかげで会場が盛り上がってきたところで、サオリの番が来た。サオリはどことなく緊張していた。
「サオリ。リラックスして。」
オレが声援を送ると。
「サオリちゃん。結婚して。」
「サオリちゃん。お尻叩いて。」
下品な男たちも声援?を送った。
サオリはブツブツ言いながら手を振って、声援に答えると木槍を手に取った。あれをやる気だな。
「ファイアーボール。そして、突きー。」
サオリは開始の合図とともに、ファイアー突きを繰り出した。ダミー人形は首にファイアー突きを受けて大きくひび割れた。崩壊寸前であった。会場はリオの時以上に沸いた。サオリが周りの受験生に手を振って答えると、さらに会場は沸いた。
サオリがオレにハイタッチをして、いよいよオレの出番が回ってきた。ダミー人形はリペアの魔法をかけて修復された。
「アメリー。がんば。」
「ちっちゃいお姉ちゃんも、頑張れー。」
「オレのお尻も叩いてー。」
オレは声援に手を振ると、呪文を心のなかではなくて口に出して、大きくはっきりと唱え始めた。本家本元のファイアー突きを見せてやる。
開始の合図とともに。
「ファイアーボール。そして、突きー。」
オレはファイアーボールの着弾と同時に木剣の突きをサオリが突いた所と同じ所に打ち込んだ。ファイアーボールと突きのタイミングがうまく合うと、二つの技の相乗効果で威力が倍増する。いわゆるクリティカルヒットになる。少しタイミングがずれたサオリのファイアー突きの二倍の威力で、修復したと言え、まったく同じところを攻撃されたダミー人形はたまらずに完全崩壊した。会場のオレ達の班は水を打ったように静かになった。ややあって。
「やっぱり。アメリが一番凄―い。」
リオが大声を出すと、釣られたように。
「す、すげー!さっきの姉ちゃんと言い、こいつらすげー。」
「うおー!興奮したぜー!」
「うおー!結婚してくれ!」
「オレのお尻も破壊してくれー!」
やんややんやの盛り上がりになった。オレは声援に手を振って答えると、セナとハイタッチをして交代した。ちなみにダミー人形は修復不可能ということで新しい物と替えられた。
「今度の姉ちゃんは何やってくれるんだ。」
「うおー。かわいい。オレは最後の姉ちゃんが一番好きだ。結婚してくれ。」
「オレの尻は崩壊寸前だぜー。」
大歓声の中、セナは静かに呪文を唱えた。
「ファイアーボール。」
ダミー人形に少しひびが入ったのを確認すると、セナはペコリと頭を下げて席に戻った。
「え?もう、終わり?木剣で叩かないの?」
「もっと、派手な技を見せてくれよ。」
「オレの尻も叩いてくれ。」
観客?はセナの演技?に大不満であった。
ともあれ、オレ達は全員一発で合格できた。その日のうちに合格者は発表され、オレ達は入学手続きをしてから、メアリー師匠の家に合格の報告に行った。
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