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第266話 黒猫のミーちゃん

 



「よしそれじゃあオレ達の後を付いてきてください。先程のサンドウルフみたいに後ろから襲って来る奴らもいますから、後ろの警戒をお願いします。」


「「おう!」」


 オレは砂漠の狼の二人に注意事項を述べた。このダンジョンに出てくる魔物のレベルから考えてオレ達3人で十分なんだが、お前らはいらないなんて言えないよな。オレにとったら足手まといが二人増えたようなもんだが、そんな事は言えねえ。言えねえ。


「エイミー、止まって!」


 オレは先頭を歩くエイミーを止まらせた。どうやらこの辺はサンドパンサーの巣のようだ。たくさんいるようだな。また屋根の上に潜んでやがる。


「どうしたんだ?」


 何が起きたのかとアリが声をかけてきた。


「屋根の上にサンドパンサーが3匹潜んでいます。」


「え!俺には何も見えんぞ!」


「ええ。屋根の上に隠れていますからね。」


「そ、そうか。」


 屋根の上にサンドパンサーがいると言う事は、


「サンドウルフよ!」


 しんがりのサリーが声をあげた。やはりサンドウルフがきやがったか。サンドウルフをやっつけてから屋根の上のサンドパンサーを退治するのがセオリーだが、今回は5人もいるんだ。めんどくさい。いっぺんにやっつけるぞ。


「サンドウルフが3匹ですけどお二人で大丈夫ですか?」


「うーん。ちょっと厳しいかな。」


「よし!わかりました!オレも加わります!マーム!エイミー!屋根の上は任せた!」


「「おう!」」


 オレは回れ右をしてアリとサリの砂漠の狼組に加わった。サンドパンサーも3匹だけど、マームとエイミーなら大丈夫だろう。なにより、さっきのオレの戦い方を見ているから屋根の上から追い落とす方法も分かっているしね。


「連続石弾!」


 まずはサリーの杖による魔法攻撃だ。石の礫がマシンガンのように発射された。中々良い攻撃であるが、土の属性の魔物であるサンドウルフに対して土の属性魔法ではやはり効果が薄い。3匹のサンドウルフは石の弾丸を雨あられのように受けたが致命傷にはなってないようだった。それならばとアリが剣を抜いて走り出した。オレも後に続いた。


 連続石弾は致命傷にはならなかったが充分に効いていた。石弾を受けて動きの鈍ったサンドウルフをアリは簡単に斬り伏せた。もちろんオレも一匹斬り伏せたさ。しかし残りの一匹がサリーに向かった。まずい。至近距離に入られた魔法使いは無防備だ。縮地で間に合うか。


「キエー!」


 なんと気合一閃、サリーが見事な蹴りでサンドウルフを撃破した。3匹は光の粒子になって消えた。


 これで残るはサンドパンサー3匹だ。振り返ると最後の一匹をエイミーが斬り伏せたところだった。オレの戦い方を真似したと言え、サンドパンサー3匹を簡単にやっつけるとはマームとエイミーも強くなったもんだ。そんな事よりサリーだ。


「サリーさん。凄いじゃないですか。」


 オレが褒めると、


「ああ。私とアーシャはこんなひょろい杖しか武器がないから、体術を鍛えているのよ。武器なしでも戦えるようにね。」


 ほう、なかなかやるじゃないか。魔法使いの弱点は接近戦だけどこれなら大丈夫だ。まあ、オレ達に関しては全員剣も使える魔法剣士だから心配ないけどね。それにオレ達だって武器なしの組手はいつもやっているからね。


「それよりもそっちのお二人のほうが凄いじゃない。二人きりでサンドパンサーを倒したんでしょ。」


「まあサンドパンサーは奇襲を得意としていますからね。居場所のわかったサンドパンサーなんてただの雑魚ですよ。」


 自分の手柄のように得意げにオレは話した。仲間を褒められるとやはりうれしいものだ。


 ドロップ品の魔石を何個か回収すると、再びエイミーを先頭に歩き始めた。屋根の上のサンドパンサーに注意しながらのお宅訪問である。


 エイミーは一軒一軒ノックしながら扉を開けていた。中にいるのは魔物になったと言え、意思を持った元人間であるから失礼な事はできない。


 何軒目かに中から反応があった。エイミーが扉を開けずに待っていると若い女の人の声が中から聞こえた。


「どちら様ですか?」


 もちろん、イーラム語の分からないエイミーもマームも答えられない。


「旅の者ですが、この町の事についてお聞きして良いですか?」


 代わりにオレが答えた。


 しばらく間があってから扉が開いた。おそらく中からオレ達の様子を伺ったのだろう。女4人に男一人の異様な集団であるが、強盗や人さらいには見えまい。美少女でチームを組んでいて良かった。


「なんでしょう?」


 イーラム人の美少女が一人出てきた。美少女と言っても、もちろん残念ながらファントムである。しかも自分は人間だと思っていそうだ。


「はい。実はオレ達は旅の者と言っても実は冒険者なんですが、何かお困りの事はありませんか?」


「あら。外国の方?珍しいわね。ちょうど良かったわ。頼もうかしら。」


 オレは正直に名のったが、外国人って事以外は不信感を持たれなかったようだ。これはまたイベント発生の雰囲気十分だぜ。


「はい。魔物退治から迷子探しまでなんでもやりますよ。」


「じゃあ。私のミーちゃんが最近帰って来ないんだけど探してもらえないかしら?」


「もちろん良いですけど、ミーちゃんて?」


「ええ。これぐらいの大きさの真っ黒な猫なの。」


 迷子探しでもなんでもやると言ったけど、まさか本当に迷い猫探しを頼まれるとは。


「俺達はこれでもBランクの冒険者なんだ。迷い猫探しは初心者の冒険者に頼んでくれよ。」


 案の定アリが文句を言ってきた。


「いや。受けさせていただきます。どうせオレ達はしばらくこの町にいますから、ついでに探しますよ。」


 オレはアリを無視して話を進めた。


「あの。なんか反対しておられる方がいるみたいだけど?」


「大丈夫。大丈夫。オレが言い聞かせますから。」


 オレ達はミーちゃん探しの依頼をその家の少女から受けると家を出た。


「アメリ、あの少女はファントムなんだろ?猫が逃げ出したのは何百年も前の話じゃないのか?」


 家を出るとすかさずアリが聞いてきた。


「もうミーちゃんはいないと言いたいんですね。たぶんミーちゃんもファントムですよ。今までのパターンからして。」


「それじゃあ、あの子は何百年もミーちゃんを探しているのか?」


「ええ。よくある話ですよ。たぶんそれが気がかりで成仏できなかったんでしょうね。」


 幽霊ファントムが何百年も同じことをし続けるのはうちのマームでよく分かっている。おそらく彼女らの時は死んだ時点で止まっているんだろうな。まあ、うちのマームの時間はオレが動かしてあげたんだけどね。この少女の時間もオレが動かしてやろうじゃないか。


 迷い猫探しと言っても特別な事をするわけじゃない。今まで通り一軒一軒お宅訪問するだけだ。サンドパンサーに気をつけながら。オレ達はまたエイミーを先頭にしてお宅訪問を再開した。


「エイミー。止まって。」


 何軒目かでオレはエイミーを止まらせた。オレの「鑑定」がファントムキャットを屋根の上に発見したからだ。


「猫が屋根の上にいますね。」


「相変わらず俺には見えないけど、そうなのか。」


 アリが訝し気に聞いた。


「ええ。猫も隠れるのうまいですからね。」


「で、どうするんだ?まさか屋根の上に飛び乗るんじゃないだろうな。」


「まあオレに任せてください。」


 そう答えてオレは呪文を唱え始めた。


「サンダー!」


 威力を極限にまで絞った雷を屋根の上に落とした。下手して殺さないためだ。幽霊を殺さないとか変な話だが。


「フギャー!」


 叫び声を上げると黒猫が屋根の上を逃げて行った。


「ありゃ!ちょっと弱すぎたか?」


「ま、魔法って威力を調整できるものなのか?」


「ええ。ちょっとだけ難しいですけど。そんな事より追いますよ。」


「追うって。どうやって。」


「ほら。そこに屋根に上がる梯子がありますよ。」


 オレはアリに梯子を指さして教えた。でもオレ達美少女戦隊に梯子はいらないだろう。


「みんな屋根の上に乗って!」


 オレは王国語でエイミーとマームに指示すると屋根に飛びついた。そのまま懸垂の要領で体を持ち上げた。雨の降る心配の無い屋根は平らで各家々は繋がっているので道のようになっていた。そこを黒猫が駆けて逃げて行くのが肉眼でも見えた。


「みんな追うよ!」


「「おう!」」


 さすがのオレ達でも屋根の上の猫には追い付けない。あっと言う間に下に飛び降りられて見失ってしまった。


「どうした?逃げられたか?」


 追いついてきたアリが聞いた。


「ええ。残念ながら。」


 オレは黒猫の飛び降りた方を差して言った。


「じゃあ降りますか。」


 そう言ってオレは下に飛び降りた。エイミーとマームも飛び降りたが、砂漠の狼の二人は梯子で降りた。ちょっと悔しそうな顔をしていたが、オレ達の真似をして足をくじかれでもしたら面倒だから賢明な判断だ。


 魔物に注意しながらも黒猫を探してお宅を一軒一軒訪問していると、イサキが空を飛んでいるのが見えた。どうやらイサキ組も黒猫探しをやっているみたいだな。空から探すなんて反則じゃないかと思っていると。


「な、空を飛んでいるのはお前さん達の仲間だよな?」


 案の定砂漠の狼の二人を驚かせてしまった。


「ええ。イサキです。」


「イサキったらあの双子か?」


 イサキの式神であるイサキちゃん2号を双子の姉妹としてごまかしていた。


「まあそうです。」


「お前さん達も飛べるのか?」


「まさか無理ですよ。でもいつかはマスターして見せますけどね。」


「まあお前さん達なら不可能ではないだろうな。」


 アリがうんうんと一人うなずいて納得していた。空を飛ぶのはさすがに一筋縄ではいかなくて、毎日イサキの特訓を受けていた。


「イサキー!」


 オレが大声で呼ぶとイサキがオレ達の前に降り立った。


「もしかしてイサキ達も黒猫探しをしているんかい?」


「そうだけど。砂漠の狼の人達?」


 アリとサリーを見つけたイサキが聞いてきた。


「こんにちは。俺とサリーはアメリさん達と同行させてもらっているんだ。」


 アリが自分らの事を言われているのを聞きつけてイサキに挨拶した。


「へえー。」


 二人に頭を下げながら、横目でイサキが説明しろとサインを送って来た。


「オレ達の戦い方を見たいと言うから一緒に行動しているだけで特に深い意味はないよ。」


 肝心な事は隠すけど、戦い方ぐらいは見せてもこまらないからね。オレはイサキにそう説明した。


「そうなんだ。それで黒猫のミーちゃんは見つかった?」


「うん。らしき猫を屋根の上で見つけたから追っかけたら、ここに逃げ込まれたってわけさ。」


「じゃあこのへんにいるって訳ね。リオとアーリンを呼んで来て良い?」


「うん。良いけど。」


 オレの返事を聞くなりイサキは飛んで行った。


 すぐにイサキはリオとアーリンを連れてきた。


「アメリ達も黒猫探しの依頼を受けたんだって?どう?どっちが先に捕まえるかで勝負しない?」


 オレの顔を見るなりリオが勝負を仕掛けてきた。本当に勝負事が好きな女だ。オレも嫌いじゃない。良いだろう。受けてやろうじゃないか。


「良いけど。勝負するんだったら何か賭けないといけないよね。何を賭ける?」


「互いの名誉って言いたいけどそんな物いらないよね。お金も今更いらないし、そうだ。負けた方が勝った方の付き人になってなんでも言う事を聞くってのはどう?」


「おもしろいわね。でも一生じゃリオ達がかわいそうだから三日間にしてあげる。」


「してあげるってもう勝ったつもりでいるの?良いわ。その条件で。悪いけどイサキと砂漠の狼の皆さんに説明してもらえない?」


「うん。良いよ。」


 オレはイーラム語で勝負の概要を説明した。もちろんそれを聞いたイサキはやる気満々だ。しかしこの人たちは微妙だ。


「俺達も負けたら付き人をしないといけないのかい?」


 アリが恐る恐る聞いてきた。


「あ、それは大丈夫です。これはオレ達美少女戦隊の中での勝負ですから、アリさん達は負けても関係ないですよ。」


 負けたらどうするって、アリもオレ達が負けると思っているんだな。まあ普通に考えたら空からも探せるリオ組が圧倒的に有利だもんね。しかしこいつらは突っ走るしか能の無い脳筋組だからね。オレ達にも勝機はあるってもんだ。


 こうしてひょんな事から迷い猫探しの勝負が始まったが、ただ探しまくってもだらだらと時間ばかりかかってしまうだろう。こうして勝負の形にすれば、互いに創意工夫を凝らして早く見つけられるってもんだ。それに勝負はやっぱり楽しいからね。


「じゃあそう言うわけで黒猫探しの勝負をするよ。負けた方は勝った方の付け人を三日間する事。良い?じゃあ始めるよ。」


「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 オレの開始の合図とともにリオとアーリンは走りだし、イサキは空に飛びあがった。


「じゃあオレ達はお宅訪問再開としますか。」


「え!そんなのんびりしていて良いのか?向こうは走り回っているぞ。」


「良いんですよ。慌てる乞食は貰いが少ないって言いますからね。まあのんびりと行こうじゃないですか。」


「お、おう。」


 早く探し回らなくて良いのかとアリが心配して聞いてきたが、まあオレにも考えがあるんだよ。




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