第262話 イベント再発生
私はアーリン。美少女戦隊一の魔法の使い手にして一番の美少女よ。誰が決めたって、私よ。私が決めたのよ。それが何か。それで今日は私アーリンさんが実況するわ。
私は脳筋と守銭奴とチームを組んだの。そう。王国の狼チームね。なかなかかっこいいチーム名でしょ。脳筋が付けたんだけど、脳筋にしてはやるもんよね。こう言うもんはネーミングが大事よね。ダサいチーム名だとやる気も失せるからね。
かっこいい名前もついて張り切っていたら、なんと狼犬まで仲間になったわ。私達は真の王国の狼になったのよ。大好きな狼犬が仲間になって脳筋は大張り切りよ。もちろん私と守銭奴だって大張り切りよ。真っ先に階段を駆け下りる脳筋と狼犬をあわてて追いかけたわ。
私達、王国の狼は生粋の王国人よ。魔物の喋ってる言葉なんか分からないわよ。そしたらどうなるって。何も起きないわよ。話が通じないから、怒った魔物が斬りかかって来るだけよ。斬りかかって来られたら応じるしかないでしょ。私達は魔物を斬って、斬って、斬りまくったわ。雑魚魔物を魔力が尽きるまで斬ったのよ。
これで強くなったかって?さあ、どうだろうね。魔力が尽きるまでサンダーソードをしたから、魔法は少しだけ進歩したかも。だけど、剣に関しては雑魚をいくら倒しても進歩はないわ。強い敵と戦わないとね。
ホームに戻って休んでいたら、戻って来た犬女達はなんか強いボスと戦っていたみたいじゃないの。犬女がいきって話してくれたわ。犬女も男女に鍛えてもらって少しだけ強くなったみたいだし。格下だと思っていた犬女や幽霊が力をつけてくると少しだけ焦るわ。
そんなときに男女がボス戦の戦利品の水の剣を披露していたわ。なんでも誰でも傲慢娘の必殺技である水煙斬りが撃てる凄い剣みたい。そんな凄い剣なら私も欲しいわと思っていたら、黒髪にやろうかって、まあ仕方ないわ。こういう物は上から順にあてがわれる物だからね。なのに、黒髪も傲慢娘も断ったわ。なんでも一振りごとに魔力を吸い取られるんだって、それって呪いの剣じゃないの。ハッキリ言って。魔力を吸い取られると分かって誰もくれと言わないわ。私も一瞬躊躇したんだけど、思い切ってもらう事にしたわ。だって振るだけで水煙斬りが撃てるのよ。呪文を唱える必要がないのよ。黒髪みたいに連続で魔法が撃てるのと一緒よ。この剣を手に入れれば強くなれると確信したわ。幸い私は魔力量だけなら男女にも黒髪にも負けないから、魔力切れの心配もそれほどないしね。
実験したら、思った以上に水の剣は使える剣だったわ。この剣さえあれば、私だって脳筋や守銭奴の元王国A級冒険者と同等以上に戦えるわ。元々彼女らに私が劣るのは剣技だけだったからね。
力を得たら当然それを使ってみたくなるよね。私もファントムスライムと戦ってみたくなったわ。でもこの魔物と戦うには手順を踏まないとダメみたいなの。いわゆるイベント発生の手順ね。それには当然イーラム語の理解者がいるわ。私はダメもとでチームリーダーの脳筋に頼んでみたわ。脳筋もただの斬り合いに飽きていたみたいで、二つ返事で了解してくれて、男女にかけあってくれたわ。その結果、守銭奴と狼犬と、傲慢娘のトレードが成立したわ。大好きな狼犬を取られて脳筋はちょっと不満そうだったけど。
そう言うわけで今日も私達新王国の狼チームが一番に階段を駆け下りたわ。昨日と同じく一軒目の家の屋根の上にサンドパンサーが潜んでいたわ。昨日は狼犬が教えてくれたけど、そこにいるのが分かっていれば、私だって気づくちゅうの。
「リオさん。イサキさん。いますね。」
私は先頭の二人に注意した。
「うん。いるね。じゃあ、水の剣を使いたいだろうし、アーリンに任せた。」
「わかりました。」
サンドパンサーごときは私一人で十分って事か。ちょっと緊張する。私は二人の前に出ると、気づいていないふりをして歩いた。私の演技が良かったのか、気づかれていないと思ったサンドパンサーは屋根の上から飛びかかってきた。不意打ちは不意を突くから有効なのであって、不意を突けなかったらただの間抜けな攻撃である。私は居合抜きでサンドパンサーを斬り払った。サンドパンサーは見事に真っ二つになって、青白い光になって消えた。今のは水の剣じゃなくても一刀両断できたタイミングじゃないの。水の剣の威力を試せなくて残念。
「お見事。」
脳筋が褒めてくれた。剣の第一人者の脳筋に褒められるとうれしい。私は褒められて伸びるタイプだ。
「ハイルヨ。」
傲慢娘が片言の王国語で言って扉を開けた。それにしても傲慢娘は凄い頭の良い人だ。ぺらぺらのイーラム語の他に、王国語までマスターしようと頑張っていて片言まで話せるようになった。私達なんて揃いも揃ってイーラム語が全く喋られんあんぽんたんなのにね。
中には昨日と同じく同じ親子がいた。
「あれ?今日はお姉ちゃん達、組み合わせが違うね。」
「そうよ。私達にもいろいろ都合があるのよ。」
もちろんイーラム語で子供と傲慢娘が会話していて、傲慢娘が片言の王国語で伝えてくれているんだけど。驚くことに子供は私達の事を覚えていた。
「あの。私達の事を覚えているの?」
私は傲慢娘に疑問を伝えてもらった。
「もちろん。覚えているよ。お姉ちゃん達みたいな珍しい顔の人はここらにいないもん。」
そう言って私達の顔をじろじろと見た。なるほど金髪碧眼の王国人は珍しいか。黒髪の傲慢娘だってここらじゃ珍しい顔しているもんね。
「じゃあ、話は早いわね。」
そう言って傲慢娘は背負った鞄から取り出したお菓子を子供に手渡した。
「僕のお宝だね。昨日と一緒の場所に埋めてあるよ。」
こっちの子も察しが良い。さすがは何百年も同じことをしているだけある。
「「「ありがとう。」」」
私達はお礼を言って親子の家を出た。
「コッチ。コッチ。」
傲慢娘の後を付いていくと大きな建物の前に着いた。昨日は扉が開かなかったから素通りしたけど、ここに秘密があったんだね。
「ココ。」
そう言って傲慢娘は地面から小さな箱を掘り当てた。その箱から鍵を取り出すと公民館の扉を開けた。こんなカラクリがあったんだ。イーラム語が分からない私達じゃ絶対にきづかないよね。
「なんだ!お前らは!て、昨日の姉ちゃんじゃないか?」
中にいた男達も傲慢娘の事を覚えていたようだ。
「私の事を覚えてくれてたんだね。じゃあ、話が早いわ。早く魔物退治の依頼をしなさいよ。」
依頼される側が依頼を要求するなんて変な話だ。しかも上から。
「わ、わかった。昨日と同じく食糧倉庫の魔物退治を依頼するよ。」
「私達にお任せください。」
「頼めるかい?退治してくれたら良い物を渡そうじゃないか。」
私達は魔物退治の依頼を受けて公民館を出た。
「ここからは私も知らないわ。アメリ達とここで別れたから。」
食糧倉庫の前で傲慢娘が言った。
「ボスの情報はないの?」
「ぶよぶよなのがいっぱいいて、そいつらが斬っても叩いてもまったく平気って事だけど。」
脳筋の問いかけに傲慢娘が答えたけど、それだとただの黒スライムだよね。そんなの何匹いようと魔法で一発じゃないの。男女が新必殺技を出すほどの物じゃないよね。ファントムスライムの話はどうなったの?
「へ。それだけですか?アメリさん達に詳しく聞かなかったんですか?」
「そうよ。悪い?魔物の事を知らないほうが面白いじゃないの。」
だ、駄目だ。この二人に情報を期待しても無駄だ。かく言う私も昨日は新しい魔剣を得たことで浮かれて失念してしまったわ。人の事言えないわね。情報を分析して最善の戦い方を選ぶ私のスタイルじゃないわ。私まで当たって砕けろの脳筋戦法になってしまった。これってちょっとピンチなんじゃないの。
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