第257話 魔物狩り勝負
今朝は線路?を歩いて次の駅?に行く事にした。そしてチーム分けはオレ、エイハブ、マームのティマートリオ、サオリ、セナ、アーリンの魔法トリオ、リオ、イサキ、エイミーの新脳筋トリオの三つに分けた。三人ずつにしたのはまだ弱い魔物しか出ないから1チーム五人もいらないからと判断したからだ。式神のイサキちゃん2号は今回はお休みと言う事だ。ちなみにイサキは戦闘に関する王国語は理解しているので、新脳筋トリオは戦闘時は王国語で、いつもは片言のイーラム語で会話している。そしてマームとエイミーは他の人に比べてどうしても戦闘能力が劣るから、オレとリオで面倒を見ると言う事だ。
「このホームの下の通路は次のホームまで一本道のトンネルだ。道に迷う事がないから安心してくれ。このダンジョンは魔物もすぐに復活するから3チームに分けても暇を持て余す事もないぜ。」
「初めてのダンジョンなのに何でそんなことわかるの?」
オレの解説にリオが質問してきた。もっともな話だ。
「ああ、この通路は地下鉄と言って大昔、大きな馬車がここを走っていたんだよ。何でそんな事がわかるかって?オレとサオリのいた国にも同じものがあったからだよ。おそらく次のホームもこのホームと似たような感じじゃないかと思う。」
「3人のチームって事はあるチームがバトルを始めたら、他のチームはそれを置いて前に進めって事ですね?」
「うん。アーリンの言う通りだ。オレ達はそれぞれ知り合いのチームって感じで、助けを求められたら助けるけど、基本的に他のチームには干渉しないって事さ。」
「じゃあ、せっかくだから競争しない?どのチームが一番先に次のホームに着くか。」
サオリ。それは面白いけど、それじゃあ戦闘から逃げ回ってるチームが勝っちゃうじゃないか。
「うん。勝負しよう。ただし魔物を倒した数でね。じゃないと逃げ回ってるチームが勝っちゃうじゃない。」
「それもそうね。でもどうやって数えるの?」
「自己申告で良いんじゃない。勝ったチームにはボーナスを出そう。みんなどうかな?」
「勝負ね。受けて立つわ。」(リオ)
「ボーナスが出るなら頑張るしかないじゃない。」(セナ)
「買いたい服があったのよね。」(アーリン)
「わしも船のパーツが欲しかったんじゃ。」(エイハブ)
ボーナスを出すと言った事でみんな俄然やる気になったみたいだ。
「よし!倒した魔物の数で勝負するけど、ドロップ品は必ず回収してくれ。持ちきれなくなったらオレに声をかけてくれ。あと、やばい時はお互いに協力し合ってくれ。」
「よし!イサキ!エイミー!行くよ!」
真っ先に飛び出したのは例によってリオのチームだ。
「わたしらも行くよ!」
サオリ達もあわててリオ達を追った。
「ねえ、アメリ!私達も行かなくて良いの?」
リオ達を追って、あわてて走っていくサオリ達を見てあせったマームが聞いてきた。
「慌てる乞食は貰いが少ないってね。オレと船長の国の諺だ。まあ、のんびり行こう。魔物は復活するからいなくなったりしないよ。ところでマームと船長はサンダーソードってできる?」
「セナさんから教えてもらったからわしもマームもちょっとだけできますが。とてもじゃないけど実戦で使えるレベルじゃないですよ。」
「そうよ。ちょっとだけよ。」
「さすがはセナ、後進も育ててるじゃん。よし!今日は魔力が尽きるまでサンダーソードで魔物を倒そう。魔力量は使った魔法の回数に比例するから魔力に余裕がある限りどんどん使って行こう。それでとりあえず船長からちょっとやってみて。」
「だから実戦で使える代物じゃないですよ。魔物を倒すのは無理ですよ。サンダーソード!」
エイハブの刀は強い光で一瞬光ったがそれだけだった。
「よし。わかった。次、マーム。」
「もう。こんな事をしている場合じゃないと思うけど、仕方ないわね。サンダーソード!」
マームの剣も一瞬光っただけだった。
「見たでしょ。私達のサンダーソードは使い物にならないポンコツでしょ。」
「うん。大体わかった。剣や刀に継続的に魔力を流し続けるのは難しいからね。初心者にはハードルが高いよね。」
「そうでしょう。私達にはまだ無理よ。」
「でも火の玉突きはできるんでしょ?」
「うん。私の必殺技よ。それを使わせてよ。」
ちょっとオレの必殺技なんだけどマームさん。
「よし。わかった。オレが初心者向けサンダーソードを教えてやるよ。オレのやるのを真似してみて。」
「え!やった!早く見せて!」
「だから、慌てる乞食は貰いが少ないって。マームw。でも、そろそろ良いだろう。オレ達も行くぞ!」
「「おう!」」
暗闇のトンネルを魔導ランプの光を頼りに歩いた。他のみんなの姿はすでに見えなかった。
「もうみんな行っちゃったんじゃないの。アメリがゆっくりしてるから。」
「ああ。行っちゃったみたいね。魔物を倒しながら。」
「じゃあ、魔物なんていないんじゃないの?」
「大丈夫だよ。マーム。ここのダンジョンは魔物がすぐに復活するって言っただろ。そこにサンドスコーピオンがいるよ。」
「え!私には何も見えないわ。」
「うん。砂の中に隠れてるからね。じゃあ、今から初心者向けのサンダーソードをやるから。」
そう言ってオレは砂の中に潜んでいるサンドスコーピオンにじりじりと近づいた。暗闇のしかも砂の中に潜むとは厄介な魔物だ。知らずに近づいたら尾の毒針を刺されるところだ。リオチームはリオにロボと索敵に優れた一人と一匹がいるから心配ないが、サオリチームはちょっとだけ心配だ。でもまあ、サオリなら気づくだろう。心配ないか。
オレは刀を振りかぶって足を止めた。オレの攻撃がギリギリ届く間合いだ。サンドスコーピオンの間合いは知らないが、飛びかかって来ない所を見るとまだ間合いに入ってないんだろう。
オレは踏み込むと同時に刀を振り下ろした。
「サンダー!」
砂ごとサンドスコーピオンを斬る瞬間に刀に電流を流した。
砂ごと真っ二つになったサンドスコーピオンは光の粒子になって消えた。
「どうだい?今のがサンダー斬りだ。斬る瞬間だけサンダーを流せば良いからそんなに難しくはないだろ?」
「すごーい。これなら私でもサンダーソードができるわ。」
「わしにもできそうですわ。」
「サンダー斬りをやりながらなるべく長くサンダーを流すようにすると長時間のサンダーソードもできるようになるよ。あと、二人とも魔力をいっぺんに出し過ぎだよ。剣に流すのはもっと少ない魔力で良いんだよ。少しずつ長く出すつもりでやれば良いよ。」
オレは二人にコツを教えると刀を腰の鞘に納めた。
「さすがはアメリね。説明が分かりやすいわ。次は私にやらせて。」
「うん。そうだね。魔力にも限りがあるし、一戦闘に一人だけサンダー斬りを使おう。じゃあ、まずはマームがやってみて。オレと船長は刀で斬るから。」
「わかった。頑張る。」
しばらく歩くと今度はサンドラビットが2匹出た。出たと言っても暗闇に身を潜めているんだが。
「ストップ!今度はサンドラビットが2匹よ。ホーンラビットと一緒で角が厄介な魔物よ。じゃあマームはサンダー斬りで船長は普通に刀で斬って。」
「「おう!」」
今度はマームでもわかるだろう。なぜなら魔導ライトの光を受けてその目が青白く光っているから。
その青白い光を目指してマームとエイハブが走り出した。魔道ランプを地面に置くとオレも二人の後を追って走り出した。
さすがはエイハブだ。あっという間にサンドラビットを斬り伏せた。
あと残るはマームと対峙している1匹だけだ。マームは無暗に斬りつけはせずにタイミングを計っているようだ。じりじりとサンドラビットとの距離を縮めていた。
ついには我慢できなくなったサンドラビットがその角をマームに突き刺そうとして大ジャンプした。
「サンダー!」
その刹那、マームが袈裟斬りをすると同時に剣にサンダーを流した。上手い。剣撃と魔法のタイミングがドンピシャだ。これは火の玉突きと一緒で威力3倍だ。いや。カウンターにもなっているから3倍どころの話じゃないだろう。いわゆる会心の一撃ってやつだ。サンドラビットは一撃で青白い光の球になって消えた。
「今の凄い威力だったと思うの。魔物が簡単に真っ二つになったわ。これは私の第二の必殺技にするわ。」
マームが興奮を隠しきれずに言った。
「うん上手い。さすがはマーム。タイミングバッチリだったよ。タイミング良く流せるなら無理に流し続ける必要ないよ。その方が魔力の節約にもなるしね。ちなみに元々はオレの必殺技ね。」
「私はアメリの従魔だからアメリの技を使うのは問題ないでしょう。」
「まあね。」
「よし!本家の了承も得たわ。私はこの技を完全にマスターするわ。」
「うん。頑張って。」
サンダーソードをマスターするためのつなぎの技じゃなかったのかよ。でも魔力の少ないマームにはこっちの技の方が合ってるかも。サンダーソードは見た目は派手だけど、魔力を垂れ流している効率の悪い技だからな。豊富な魔力を持っていないとできないし。
「魔物の群れです!」
さらにしばらく歩くと先頭のエイハブが立ち止まった。
「今度はサンドウルフが4匹か。一人一匹倒して。最後の一匹は船長がサンダー斬りで倒して。」
「「おう!」」
先頭のエイハブが魔導ランプを地面に置くと、オレ達はサンドウルフの群れに走り出した。一人一匹のノルマはちょっと手こずったマームを除いて簡単に達成できた。サンドウルフごときはオレ達の敵じゃないって事だ。
「サンダー!」
最後の一匹をエイハブがサンダー斬り?で斬ったがサンダーを刀に流すタイミングが早過ぎた。これではただの袈裟斬りだ。
「船長にもできたじゃないの。」
真っ二つになって光の粒子になって消えたサンドウルフを見たマームが言った。
「いや。失敗ですじゃ。」
「うん。ちょっとタイミングが早過ぎたね。」
以外にもマームの方が素質はありそうだが、そんな事は言ってはいけない。
*
やっと明かりが見えてきた。地下鉄のホーム?に着いたんだ。
「遅―い!アメリ!待ちくたびれたよ!」
待ちくたびれたセナが一人で迎えに来ていた。大方リオにでもぱしらされたんだろう。
「ごめん。ごめん。二人にサンダーソードを教えていたら遅くなっちゃった。あ、サンドボアが4匹、今復活したわ。船長!マーム!これで最後だから魔力を気にせず、全部サンダー斬りでやっつけて!」
「「おう!」」
二人はサンドボアの群れに向って走り出した。サンドボアはその体表に覆われた剛毛によって剣撃どころか魔法もある程度はじく厄介な魔物だ。つまりはただ剣で斬っても、魔法をぶっつけても死なないって事だ。
「アメリ!助太刀しようか?」
「助太刀無用!二人に任せて!セナ!」
「お、おう!」
「サンダー斬り!」
まず一匹目は縮地を使えるエイハブが素早い動きで斬りつけた。上手いタイミングもばっちりだ。突然仲間を斬りつけられた残りの3匹はあわてて散ろうとしたが、次に来たマームにも攻撃を許してしまう。
「サンダー斬り!」
マームのサンダー斬りはちょっとタイミングが早かったがその分長くサンダーを放出した。つまりはサンダーソードとしては問題ない。いくら防御力の高いサンドボアでも剣撃と魔法の相乗攻撃を受けてはたまらない。一撃で光の粒子になった。
残った二匹は目の前のマームに突進をかましてきた。これはやばいかと思ったらマームが大きく横に飛んでこれを避けた。防御も上手いじゃないかマーム。
わしを忘れるなとばかりにエイハブが斬りつける。
「サンダー斬り!」
もちろんサンダー斬りでだ。
最後はマームと残った一匹のタイマンになった。
二人は距離をとったままにらみ合っていた。もちろんマームは呪文を唱えながらであるが。
「ブギー!」
雄たけびを上げてサンドボアが突進してきた。そんな直線的な動きじゃマームのサンダー斬りの餌食じゃないの。
「サンダー斬り!」
哀れ最後の一匹はタイミングバッチリのマームのサンダー斬りで真っ二つにされると光の粒子になって消えた。
「え!え?どうしたの?二人とも。すっごく強くなってるじゃないの。信じられない。」
魔石やドロップ品を拾っているとビックリしたセナが近づいてきた。
「まあ、私だっていつまでもヘタレ冒険者じゃないって事よ。やる時はやるのよ。」
マームは得意げだった。マームがうれしいとオレもうれしい。
「これもアメリさんのおかげですよ。」
エイハブもうれしい事言ってくれるね。
「強くなるのはほんの小さなきっかけからだからね。オレはその小さなきっかけを教えてあげただけだよ。」
もちろんオレも得意げだ。
「遅ーい!アメリ!」
新しいホームに着くとリオにもセナと同じ事を言われた。
「ごめん。ごめん。それで何匹退治した?」
「サオリ達が25匹で私達が27匹よ。」
どうだとばかりにリオは得意げだった。
「凄いね。さすがはリオだ。サオリ達に勝つとはやるじゃない。」
「当たり前じゃないの。私達脳筋チームはサオリ達青病丹の魔法チームには負けないわよ。」
あ、自分で脳筋チームって言っちゃうんだ。でもこういう魔物狩りのバトルならたしかに脳筋チームの独壇場ね。
「で、アメリ達は何匹なの?」
「うん。申し訳ない。28匹なんだ。」
「えー!うそでしょ。自己申告だからってごまかしてない?アメリはともかく他の二人はポンコツじゃない。魔法も剣も通用しないサンドボアが出たでしょ?アメリ一人でサンドボアを何匹も倒したって言うの。」
「いや。サンドボアはほとんどマームと船長が倒したよ。」
「そんなん信じられないわ。」
「いや。アメリの言う事はうそじゃないよ。マームも船長も強くなったんだよ。いっぺんに。」
セナが助け舟を出してくれた。
「じゃあ、どうやってサンドボアを倒したのよ。」
「逆に聞くけど、リオ達はどうやってサンドボアを倒したのよ。」
「私はサンダーソードで、イサキは水煙斬りとか言ってたわね。エイミーはロボとのコンビネーションで魔法を絡めて斬ってたわ。」
「みんな。魔法剣で斬ったって事よね。マームと船長もできるのよ。」
「えー!いつの間に、うそ!信じられない!」
「うそじゃないよ。リオ。私もこの目で見たもの。もちろん王国にいた時は一瞬しか電気を流せないポンコツだったよ。二人とも。」
「みんなも聞いたと思うけど、この勝負はどうやらオレ達の勝みたいね。それで勝利のボーナスだけど、船の改造に使わせてもらうわ。それならみんなにもメリットあるからね。」
「うん。良いんじゃない。わたし達は目先の勝負にこだわってたけど、アメリはマームと船長の育成にも力を入れてたんだもん。完敗だわ。」
サオリも素直に負けを認めてくれた。これで大団円かと思ってたら。
「船長とマームの二人ばっかりずるい。」
一人だけ不満を漏らしている奴がいた。
「私とロボをアメリチームに入れてください。」
エイミーである。
「わかった。エイミーとロボも必ず強くする。」
「やったー。ロボと私は強くなれるよ。」
そう言ってエイミーはロボと抱き合っていたが、エイミーとロボを強くさせるのはオレじゃなくて自分自身だからね。オレはあくまでもきっかけを与えるだけだから。
「そう言うわけで今日はここまでにしようか。一応セナ達王国組にもオアシスを見てもらいたいから、オアシスに寄ってサオリ。」
「オッケー。良いけど、そんな事したら砂漠ってロマンチックて、また言うよ。セナはw」
「なによー。サオリまで、ロマンチックな物をロマンチックて、言って何が悪いのよ。早くそのロマンチックなオアシスって所に連れて行きなさいよ。」
サオリにからかわれてセナはちょっと不機嫌だった。
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