第256話 王国組参戦
セナ達の宿も冒険者ギルドの登録も決まり、イーラムの活動拠点はこれで問題なくなった。それで今朝はいよいよダンジョンに挑戦だ。時差ぼけで寝不足のみんなを無理やり起こして、サオリのワープで例の地下鉄入り口に来た。
「うわー!見渡す限りの砂、砂、砂の海だね。きれい。ロマンチック!」
今日は月明りで夜の砂漠も妖しくきれいに輝いていた。それを見て感動したセナがうっとりと声をあげたのだった。
「ねえ。アメリ。砂漠を見てロマンチックなんて言ってるよ。セナ達にも地獄の行進をやらせたほうが良いんじゃない?」
地獄を経験したオレ達にとって、とてもじゃないがロマンチックなものじゃない、砂漠は。リオの言う事ももっともだ。
「うん。罰ゲームも兼ねてペグーの町からここまで歩かせても良かったんだけど。そしたら誰かが案内せんといかんでしょ。リオ。やる?」
「じょ、冗談じゃないわ。私はごめんだよ。」
さすがの脳筋さんでも地獄の砂漠は堪えたらしい。
「心配せんでもイーラムにいる限りは砂漠からは逃げられないよ。いずれセナ達もロマンチックなんて裕著な事を言っていられなくなるよ。」
「そうね。その時のセナの顔が楽しみだわw」
「なによー。きれいな物をきれいと言って何が悪いのよ。」
オレとリオが笑っているとセナが少し拗ねていた。
*
「ここが初めての王国組のみんなに説明するけど、ここは巨大なショッピングセンターがダンジョン化したものだ。」
「ショッピングセンターって何ですか?アメリさん。」
「ショッピングセンターって言うのは小さなお店が一か所にたくさん集まった物だよ。エイミー。」
「じゃあ、市場みたいなもんですね。」
「うん。まあそんなところ。」
「市場がなんでダンジョン?」
「うん。それは実際にお店に入ればわかるよ。セナ。店員さんが魔物なんだよ。」
「店員が魔物?」
「ああ、レイスにファントムにゴーストかな。」
「幽霊ばっかりじゃない。じゃあ、魔法剣で斬れば良いのね。」
「さすがセナ。察しが良い。その通り。通常攻撃は効かないから気をつけて。」
「あのう。」
エイハブがおずおずと手を上げた。
「はい。船長。どうぞ。」
「できれば同族との戦闘は避けたいんですが。」
「ああ。それは大丈夫。お金さえ出せば、普通にショッピングもできるよ。」
そう言ってオレはイーラム通貨をエイハブに渡した。
「おすすめは刀だね。切れ味抜群のジパン刀も売ってるよ。」
そう言ってオレはエイハブにジパン刀を見せびらかした。
「こ、これはわしも欲しい。絶対買うぞ。」
元日本人のオレ達にとって武器と言ったら、やっぱり刀だよね。刀には魂が宿っているんだよ。
「あー。あと、お店に入れるのは二人までだから、セナとエイミー、船長とマームで組んで。」
「つまりは2対2の戦闘ってわけね。」
「いや、セナさんあくまでもショッピングが目的ですから。」
「そんな事言うなら私達にもお金ちょうだいよ。アメリ。」
「いや。お金は戦闘後にドロップするから。セナとエイミーはまずお金を稼いで。」
「なんだよ。やっぱりバトルじゃないのw」
「そうよ。ここはバトルもショッピングも両方できるお得なダンジョンなんだよ。王国にはこんないい所なかっただろ?王国組のみなさん!」
「「「「おう!」」」」
「最下層の奥の大きな部屋がボス部屋だからそこの前で落ち合おう。ショッピングするかバトルするかは自由だ。ちなみに通路は魔物が出ない安全地帯だから、直接ボス部屋に乗り込むのもありだぜ。じゃあ、みんな。ショッピングを楽しもう!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
みんなはそれぞれお目当てのショップを目指して階段を下りて行った。おっとオレ達も急ごうぜ。2号ちゃん。
「それで今日はどういう作戦で行くんですか?」
階段を下りながらイサキちゃん2号が聞いてきた。
「うん。オレも2号も刀を手に入れているから買い物は必要ないなあ。」
「じゃあ、直接ボス部屋に行きます?」
「それだと時間を持て余す事になると思う。」
「じゃあ、バトルですね。」
「そう。バトル。」
階段を下りると空いている店へとオレ達は入って行った。
*
5軒の店でバトルを終えてボス部屋の前に来ると、オレと2号が最後らしくみんな待っていた。
「どうだった?セナ。エイミー。」
オレは目の前に座っていた二人に聞いた。
「うん。私もエイミーもイーラム語が分からないから、まごまごしてたらいきなり斬りつけられたから反撃してやったよ。後はずっとバトルね。はい。これ戦利品。」
オレに剣と鎧とお金を渡してセナが答えた。
「船長の買った刀に比べてしょぼい剣なんですけど。」
「ああ。お金を出さないと良い物は手に入らないみたいよ。」
オレはエイミーに答えた。
「アメリさん。良い買い物をしましたよ。」
そう言ってエイハブはニコニコ顔でオレに刀を見せてきた。
「本当だ。これは良い刀だね。でもボス部屋のドロップ品はもっと良いよ。」
そう言ってオレは腰の刀を抜いて見せた。
「確かにこっちの方が良い刀ですな。」
エイハブがちょっと悔しがっていた。
「船長も欲しかったらボスを倒す事だね。」
「え!ボスもレイスなんでしょ?」
「ああ。そうだよ。これは古代遺跡だからこれからもいっぱい出てくると思うよ。だから戦闘を避けるのは無理だね。悪いけどこれからは二人にも戦ってもらうよ。」
「え!そうですか。」
オレの話を聞いてエイハブがしょんぼりしている。
「大丈夫だってボスも雑魚もすぐに復活するから。殺し合いじゃなくて試合だと思えば。」
「そ、そうですよね。」
「よし!じゃあ、船長とマームからボス部屋に挑んでもらおうか。」
「え!ボス部屋も二人で、ですか?ボス部屋には何人いるんですか?」
「うん。ボスを入れて7人だよ。」
「7人ってわしとマームで大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫。イーラム組はみんな二人組でクリアしてるよ。船長達も二人でクリアしてくれ。あ、火炎放射を使って来るのが一人いるから気をつけて。」
「わ、わかりました。」
エイハブはなにやらブツブツ言いながらマームとボス部屋に入って行った。
おおかたマームと二人では不安なんだろう。しかしオレは王国組を甘やかすつもりはない。まあ、エイハブもマームも死なないから大丈夫だろう。
*
セナとエイミー組がクリアしたところで今日の戦闘はお仕舞にした。さすがにオレ達だけでボス部屋を長時間独占するのは他の冒険者のみなさんに申し訳ないからね。幸い王国組は誰も大けがせずクリアしたみたいだ。
「よし!船長もマームもセナもエイミーもみんなよくやった。やる気がしないとか言いながら良く頑張ったじゃないか。今日はここまでにして、ご褒美にうまいイーラム料理を食いに行こうぜ。」
「やった!」
なぜかイーラム組のリオが大喜びだ。まあ、リオは旨い飯が食えればいつでも大喜びだけど。
そう言うわけで、今晩は王国組の懇親会も兼ねて、いつもの高級料理店に行った。さあ飲むぞ。食うぞ。
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