第252話 イサキちゃん2号の憂鬱
*アメリサイト(イサキちゃん2号視点)
私はイサキちゃん2号。イサキの作り出した式神よ。式神と言ってもイサキの場合は自分の分身を作れるのよ。私はイサキの作り出したイサキの分身なの。分身と言っても私には私の人格がちゃんとあるのよ。こう見えて。私は自分で考えて自分で行動できるんだから。私は本体のイサキの多重人格の一つが肉体をもらって具現化した物よ。簡単に言うと。イサキは最大3体のイサキちゃん軍団を出せるから、4人分の人格を持った多重人格の人格障害者って事なのよ。これってやばいよね。冒険者としての地位を確保していなかったら精神を病んでるやばい人じゃないの。つくづく冒険者はイサキの天職だと思うわ。
そして式神である私の体は使い捨てのように何度も燃やされてるけど、何度燃やされようと2号である私の人格は消えないの。本体のイサキが生きてる限りはね。だからアメリに燃やされたのも、雷で黒焦げにされたのも覚えてるよ。だからと言って、アメリに返すつもりはないよ。もともと私は本体のイサキに使い捨てにされるために存在してるようなもんだし、第一私には痛いとか熱いとかの感覚は無いからね。だから恨みは全くないの。
それで何が言いたいかって言うと私はアメリが強いのをちゃんと覚えてるって事よ。本体のイサキがそうであるように、分身の私も自分より強い相手は尊敬しているのよ。私はアメリを尊敬しているって事ね。そんな尊敬するアメリが今、ぼーっとしているのよね。
私は本体のイサキと違って繊細でちゃんと空気が読めるのよ。相棒が火に極端に弱い私なもんだから、不安なんだよね。きっと。
「あのー?私じゃ不安でしょうけど、よろしくお願いします。」
尊敬するアメリの足を引っ張るのは申し訳ないけど、なんとかよろしくお願いしたい。
「いや。そんな事ないよ。頑張ろう。」
アメリが明るく否定してくれた。アメリ良い奴。アメリのためにも頑張ろうと思ったわ。
私とアメリは元気よく階段を駆け下りた。
「もう!お前らは人の話を最後まで聞かないで!」
ショップに寄らずに歩いてボス部屋に私達は到着したんだけど、アメリはなにやら独り言を言っていた。
「え!何?言いたいことがあるなら言いなよ。」
「いや。チーム替えしようと思ってたんだけどもう遅いみたいね。」
サオリが聞くとアメリは、リオとアーリンがすでにいないのを確認して言った。
チーム替え?やっぱり私じゃ不安なのか。火に弱いという弱点があるから無理も無いか。
「2号じゃ役不足って言いたいんだね?3号も付けようか?」
「いや。イサキの魔力の事もあるし、砂漠の狼の目もあるからそれはやめとこう。」
イサキが心配して聞いてくれたけど、私がふがいないばっかりにアメリは私と組むのが嫌なんだね。
「すみません。私が弱いばっかりに。」
私は泣いて謝った。
「あ、泣かした。アメリ。あんた。ボスなんだから仲間を不安にさせたらダメでしょ。もしそんなに嫌ならわたしが代わってやるけど?どう?2号ちゃん。わたしと組む?」
「サオリ。」
サオリがこんな不甲斐ない私と組んでくれると言ってくれた。サオリ良い奴。惚れてまうやんけ。
「いや。いや。2号ちゃんはオレのものだ。オレが全力で守る。」
サオリに対する対抗心からかアメリも私と一緒に戦う覚悟ができたみたいね。でも私はアメリの物じゃないけどね。
待つ事小一時間、アーリンとリオが奥から出てきた。どうやら裏口があるみたいだな。表の入り口はまだシャッターが下りていた。
「どうだった?アーリン。」
サオリがアーリンに声をかけた。
「うん。ボス一人に雑魚が6人でした。ボスはちょっと手強いみたいですけど結局リオさんが一人で倒しましたよ。あ、そうそうボスは炎を吹きますから気をつけてください。」
え!ボスは炎を吹くんだ。これはダメじゃないの。
私がうなだれていると、
「大丈夫!オレが守るから、2号を燃やさせたりしないよ。」
そう言ってアメリが私の手を握ってくれた。
そうこうしている内にシャッターが上がり始めた。いよいよ私の本体のイサキ達の出番だ。イサキの気合が分身である私にもびしびし伝わって来る。
「頑張って!サオリさん!イサキさん!」
アーリンが声援を送ってくれた。
イサキとサオリは無言で手をあげて答えた。イサキ達が静かに部屋に入ると例によってシャッターが下り始めた。
*
さらに待つ事小一時間、イサキとサオリが奥から出てきた。
「どうだった?イサキ。」
「ああ、楽勝だったよ。ちょっとだけ火が熱かったけど。」
アメリに聞かれたのでイサキが答えたけど、イサキが強がりを言っているのは私にはわかる。イサキのちょっとだけ熱いはすごく熱いって事だ。イサキも尊敬するアメリの前でカッコ悪い事言えないからね。これはやっぱり大ピンチじゃないの。
そうこうしているとシャッターが上がり始めた。
「2号!アメリの足を引っ張るなよ!アメリも頑張れよ!」
イサキが私達に声をかけてくれたけど、緊張している私達は無言で手を上げて答えるのが精いっぱいだった。ヘタレの私はともかくアメリ程の実力者でも緊張するんだ。なんかアメリに親しみを覚えたな。アメリも本当はか弱い14歳の少女なんだもんね。
私達が静かに部屋に入ると例によってシャッターが下り始めた。
ここはショッピングなしでいきなり戦闘ってわけね。ボス部屋は事務所みたいね。机がいくつも並んでいて事務員みたいのが何人か仕事しているわ。
「ま、また、お前らも二人か!俺達は二人で十分なんだ!」
奥のボスらしき事務員がなんか落ち込んでるわ。
「よし!ボスはオレに任せてくれ!2号は雑魚を頼む!」
そう言ってアメリは奥に座るボス目掛けてすっ飛んで行ったわ。
「おう!集中豪雨!」
私はボス部屋全域にわたって大雨を降らせた。刀で斬れない幽霊の魔物も魔法を絡ませた攻撃なら斬れるからね。
私は刀を抜くと手前に座っていた事務員を袈裟斬りにした。仲間をいきなりやられて残りの事務員達はあわてて立ち上がった。あわてて立ち上がるのは良いけど、立ち上がったらすぐに攻撃しないとだめだよ。私は棒立ちの事務員をさらに一人斬った。
これで残りの雑魚は4人ね。一人がやっと斬りかかって来たわ。斬りかかって来るのは良いけど、一対一の斬り合いなら私はお前らなんかには絶対に負けないわ。侍の国ジパンの冒険者をなめるんじゃないよ。私はそいつの剣をかわすと、返す刀で胴体を真っ二つにしてやったわ。
魔物も考えるみたいね。一対一じゃ敵わないとなると今度は3人一斉に斬りかかってきたわ。さすがの私も3人同時に斬りかかれると敵わないわ。
「水鉄砲!」
でも私には魔法もあるのよね。私は真ん中の奴を撃ち抜いてやったわ。これであと二人になったわ。
もう勝ったわ。へなちょこ剣士二人なら楽勝よ。そう思ってたら、そのうちの一人の口が光始めたわ。
え!魔法?魔法使いはボスじゃないの?聞いてないよ。
もう間に合わないわ。まあ私は元々式神だから使い捨ての戦士だけど。申し訳ないのは雑魚を殲滅する約束を守れなかった事ね。
「火炎放射!」
やっぱり来たわ。アメリ。ごめん。私は思わず目をつむった。
あ、あれ?私の体が燃えてない。
な、なんとアメリが私の盾になって炎から守ってくれてるじゃないの。
「ば、ばかな!アメリ!なにしてるの!」
「オレが守るって約束しただろ!」
「集中豪雨!」
私はあわてて炎を鎮火させた。
「作戦変更!2号はそのまま雨を降らせてくれ!」
「わかった!集中豪雨!」
「火炎放射!」
豪雨は敵の火炎放射を相殺できる。そのうえ水が弱点の魔物を弱らせられる。私は厄介な魔法使いを斬った。
これで残りは雑魚一匹にボスだけだ。
「どうやら今回のボスは魔法が使えないみたいだぜ!もう火は来ないから安心して!それからボスはオレの獲物だから!」
「おう!」
答えると私は雑魚を斬り伏せた。
「ウオターボール!」
アメリが特大の水鉄砲をボスに撃った。
「そして突きー!」
ボスはあっけなく光の粒子になって消えた。
「や、やりましたね。」
「うん。戦利品を拾ったら出よう。」
私達は魔石と刀を拾うと部屋を出た。
部屋の前には他の4人が待っていた。
「どうだった?アメリ。」
サオリが聞いてきた。
「うん。楽勝。」
「楽勝って!あんた顔!火傷してるじゃないの!ハイヒール!」
サオリがアメリの顔を治療した。
「乙女の大事な顔を火傷するなんてダメじゃない。美少女戦隊は顔が命なんだから。リオも火傷してたし、脳筋さんはもっと防御考えた方が良いよ。」
「それは・・・・」
私をかばって火傷したと言おうとしたらアメリに止められた。
「ごめん。気をつけるよ。」
アメリはしゅんとして謝った。
「大方、2号をかばって火傷したんでしょ。バカね。2号なんか火の盾にすりゃ良いのに。」
イサキー!あんた。私の本体じゃなきゃ。ぶん殴ってるよ。それに比べてアメリ。良い奴。私を人間扱いしてくれた初めての人だわ。私はアメリに一生付いていくわ。
「お、お前ら!今、ボス部屋から二人で出てこなかったか?」
いつの間にかアリを始めとする砂漠の狼の面々も到着していた。
「ええ、そうですけど。」
アメリが代表して答えた。
「ええー!あの炎を吐くボスと6人の雑魚をたった二人でやっつけたのか!俺達砂漠の狼が5人でも手こずってるのに!」
「そんなに強くもないでしょ。」
イサキも言ったがイサキのは強がりだ。
「やっぱり王国のA級冒険者はすげえや。」(アリ)
「さすがは私を破ったリオとイサキのパーティだわ。二人以外も強いんだ。」(アーシャ)
「この娘達はやると思ってたのよ。」(サリー)
「惚れた。」(アッサム)
「すげえ。」(ハーリド)
口々に大絶賛だった。
そうこうしている内にシャッターが上がり始めた。
「じゃあな。俺達は弱いから5人で挑ませてもらうぜ。」
「オレ達は初日ですから無理せずにもう帰ります。」
「無理せずか。お前たちが言うと皮肉に聞こえるぜ。じゃあな。気をつけてな。」
「そちらこそ気をつけて。」
アメリと挨拶をかわすと砂漠の狼はボス部屋に入って行った。
「さて帰るか。」
「サオリのワープで?」
イサキが聞いた。
「ワープは人目があるからここでは使えないよ。」
ボス部屋の周りを見渡してアメリが答えた。なるほど私達美少女戦隊と砂漠の狼以外にもぼちぼちと他のパーティがボス部屋に集まり始めていた。
「こんにちは。」
「こんにちは。お前さんらすげえんだな。」
アメリが挨拶するとそのパーティのリーダーらしき男が言った。
「すげえ。砂漠の狼が一目置くなんて。」
他の男が言った。どうやら私達と砂漠の狼のやり取りを聞いていたみたいだな。私はなんだか誇らしかった。私の実力はたいした事は無くても美少女戦隊って凄いんだ。
ダンジョンの外に出ると、砂漠に人はいなかった。
「さあ。帰るぞ。」
「アメリ。どこに?」
「うん。もちろんペグーの町よ。」
「そうよね。オアシスなんて言ったらぶん殴ってたよ。じゃあみんなわたしにつかまって。」
「ワープ!」
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