第246話 朝はご飯に味噌汁
翌朝というかまだ夜も明けきらぬ深夜にオレはアーリンに起こされた。見張り番の交代である。砂漠の狼が見張り番をすると言ってはくれていたが、オレ達はまだ全面的に砂漠の狼を信じてはいないからね。寝込みを襲われたらさすがのオレ達でも簡単にやられるだろう。砂漠の狼側はアリが起きていた。
「おはようございます。」
「やあ。おはよう。よく眠れたかい?」
「ええ。ばっちりです。」
オレはアリと挨拶をかわすと、焚火の前に座っているアリの横に座った。
夜空には満天の星がきらめきとてもきれいだった。
「星がきれいですね。」
「ああ。きれいだね。きれいな星が見られるのは見張り番の二つしかない楽しみの内の一つだね。」
「え!あと一つは何ですか?」
「それは君のようなきれいな子と二人っきりになれる事さ。」
「えー!何言ってんですかー。上手い事言って。アーリンにも言ってたんでしょ?」
こいつは口がうまいな。女の敵か?いや男の敵か。
「いや。アーリンには言ってないよ。アメリにだけだよ。」
「えー。うれしい。」
「うん。アーリンにはイーラム語が通じないからね(笑)」
「なんだよ、もう。喜んで損した(笑)」
「ごめん。ごめん。でもアメリと二人っきりになれてうれしいのは本当だよ。
それで話は変わるけど、君らはいったい何者なんだ?」
「え!ただのFランク冒険者ですけど。」
「それはイーラムでの仮の姿だろ?俺らはBランクと言えど、近々Aランク昇格間違いなしと言われている今売り出し中のパーティなんだぜ。こう見えて。それなのにうちのエースのアーシャとサリーの二人を簡単に倒すなんて。しかもこっちは魔道具の杖を装備しているのに丸腰で。さぞかし有名なパーティなんだろ?王国では。」
「そうですねぇ。王国の美少女戦隊本体は一応Aランクですけど、オレ達イーラム出張組は何の実績もないですからやっぱりただのFランク冒険者ですよ。」
「やっぱりAランクか。王国のAランクはパネェな。」
「あの、話聞いてました?オレ達はFランク。」
「おい。俺らにだってプライドってもんがあるんだぜ。Fランクに負けたとなるとメンツが立たないぜ。ここは王国のAランクに負けたって事にしてくれよ。」
「うーん。まあ、どっちでもいいですけどね。」
「それでAランクの高名なパーティがなんでこんな異国の地に来たんだ?」
「高名じゃないですけど、まあ見聞を広めるのと強くなるためですよ。」
「あんなに強いのにまだ強くなりたいのか?」
「ええ。オレ達はまだまだ王国ナンバーワンじゃないですし、それにスカイドラゴンを倒すためにはもっともっと強くならないと。」
「スカイドラゴンって空龍の事か?もしかして海龍を倒したパーティがいると風のうわさで聞いたけどお前たちなのか?」
「正確には美少女戦隊じゃないけどその時のメンバーにオレとサオリもいました。」
「美少女戦隊でないけどって、どういう事?」
オレはタロウの集めたメンバーの事を詳しく説明した。
「ふーん。海龍を倒すためだけに新しいパーティを組んだんだ。で、どうやって倒したんだ?」
オレはシードラゴン戦の事を話した。もちろんオレの技で倒したのは伏せて置いた。
「やっぱり高名じゃないか。まあ、Bランクの俺達じゃ最初から敵わなかったって事か。」
「そんな事ないですよ。アーシャさんとサリーさんの魔法は王国のAランクの魔法に匹敵しますよ。砂漠の狼もなかなかの実力者ですよ。」
「ああ、あれはアーシャとサリーが凄いんじゃなくてあの2本の杖が凄いんだ。あの2本の杖を手に入れたおかげで俺達の快進撃が始まったのに、上には上がいたな。」
「え!2本の杖が凄い?詳しく教えてください。」
アリが語った所によると、2本の杖は両方とも今から行く遺跡のダンジョンで発掘された古代の魔道具で、ふるだけで魔法を撃てると言う便利な道具だった。
「発掘と言う事は宝箱から出たんじゃないんですね?」
「ああ、もちろん宝箱からもお宝は出るが、もっとすごいお宝は砂の中に眠っているのさ。」
「さすがは遺跡のダンジョンって所ですね。オレ達も魔道具を掘り当てたいですね。」
「え!お前さんら自分で魔法を撃てるから魔道具いらないじゃないか。」
「え?どういう事ですか?」
なんでもイーラムにおける魔法と言う物は魔道具を使って出す者であり、オレ達みたいに呪文を唱えて出すものじゃないと言う事だった。回復士のサリーは回復用の魔道具を杖の他に持っていると言う事だった。
所が変われば魔法も変わるって言う事か。魔道具を使って撃つイーラムに自分の属性の魔法しか撃てないジパン。魔法に関しては王国が一番進んでいるのかな。
そろそろ夜も開けてきた。見張りをアリに任せてオレは朝ご飯に取り掛かる事にした。まずはお米を炊いた。炊飯には米をといだりで大量に水がいるけど、ここはオアシス。水には不自由しないからね。米の次は魚だ。大量にストックしてある新鮮な魚を使っても良いけど、ここはあえて干し魚だ。前に海辺の村オーリーでもらった干物を昨晩のコンロでどんどん焼いた。食べ盛りが10人もいるから大変だ。同時に味噌汁も作った。具はカウイ島で獲った二枚貝だ。貝から良い出汁がでるから出汁を取る必要がないから簡単だぜ。
「え?何を作ってるんだ?」
「焼き魚と味噌汁ですけど、お口に合いませんか?」
良い匂いに釣られてオレの方にやって来たアリが聞いたのでオレは答えた。
「いや。料理の種類を聞いているんじゃなくて、朝から料理しているから驚いて聞いたんだ。お前さんいったいどれだけ食料を持っているんだ?そう言えば昨日も大量に新鮮な食材を使っていたな。」
「ま、まあ。オレのマジックバッグは性能が良いから大量に入るんですよ。そう言う事にしてもらえませんか。」
「なんか秘密がありそうだけど、これ以上は詮索はしないでおくよ。そのおいしそうなご飯が食べられないと困るからね。」
「そう。そう。美味しいご飯が食べたかったら余計な詮索はしない事ですよ(笑)」
魚は焼け次第、皿に盛るとアイテムボックスにすぐ入れた。魚は焼き立てが上手いからね。ご飯が炊ける頃を見計らってみんなを起こした。砂漠の狼はアリが起こしていた。
「うわー!良い匂い。今朝のご飯は何?」
「今朝は焼き魚と味噌汁だよ。りお。まずは顔を洗っておいで。」
オレは匂いに釣られて真っ先に起きてきたリオを洗顔に行かせた。
洗顔から帰って来たリオにご飯と味噌汁を注いでやり、焼き魚の乗った皿も渡した。今日は大人数だから取りに来た人から渡そう。
「これってご飯に味噌汁じゃないの。アメリ。あんた。なんてもん作るのよ。」
リオの食べている物を見てイサキが驚いていた。
「本場ジパンの人の口に合うかどうか分からないけど、一生懸命作ったから食べて。」
オレはイサキにもご飯と味噌汁を注いでやった。
「まさかこんな異国の果てでご飯と味噌汁が食べられるなんて。しかも貝の味噌汁は大好物なんだ。」
里心がついたのかイサキは涙ぐんでいた。
「あのう。俺達ももらえるんでしょうか?」
アリがおずおずと聞いてきた。
「もちろんよ。遠慮せずにオレの前に来て並んで順番に渡すから。」
「わかりました。」
そう言って真っ先にオレの前に並んだのは聞いたアリでなくてサリーだった。
「えっとー。フォークが良いですか?」
「心配しなくても私達は箸が使えるよ。」
驚いたことにイーラム人は箸が使えるって事だ。
みんなは切りカブに腰を降ろしたり地面に座ったりしてそれぞれ自由に食べた。うーん。やっぱり外で食う料理は格別にうまいや。この一夜干しの魚の絶妙な塩加減が良いんだよね。貝の味噌汁もうめえ。でも何と言ってもこの白米だよなあ。毎食パンだとご飯が恋しくなるんだよ。
今日は朝から良い物食ったから気合が入るぜ。がんばるぞー!
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