第243話 魔物狩り勝負
「よし!お前たち時計は持っているな?今から一時間後にここに集合!それまでの間に何匹魔物を倒したかで勝負だ!」
アリの号令で勝負は始まった。
アリ達砂漠の狼とアーリンはオアシスの外の砂漠に勢いよく駆け出した。
対する我が美少女戦隊は相変わらずオアシスでのんびりとしていた。
「ちょっとアメリ。そんなにのんびりしていて良いの?」
不安になった私は一向に出発する気のない美少女戦隊のリーダーのアメリに聞いた。
「うん。あわてる事もないよ。イサキ。」
そう私に答えると、
「サリーさん。さっきアリさんは魔物を倒した数で勝負だとおっしゃっていましたよね?」
私達に同行している砂漠の狼の一員のサリーに質問した。
「ええそうよ。それが何か?」
「いや。再確認しただけです。」
サリーはきょとんとしていたがアメリはにやりと笑った。
「じゃあ。イサキが焦っているみたいだからそろそろやるか。まずはあそこの大きな木の下の茂みに4匹いるから、サオリとリオでやっつけて。砂漠の魔物の弱点は水よ。毒持ってるから気をつけてね。」
「「おう!」」
アメリの指さした方に向ってサオリとリオは走りだした。
私も向かおうとすると、
「イサキ。イサキはオレに付いてきて。サンドラビットが二匹いるから刀で斬って。イサキちゃん2号はまだ出さないで。」
「わかった!」
アメリの後を付いていくと木の下に穴が開いていた。
「この穴の中にサンドラビットがいるのね?」
「そう。こいつらは夜行性だから、昼の間は穴の中でお休み中よ。じゃあオレがあぶりだすから飛び出したら、斬って。」
「おう!」
返事をすると私は愛刀を抜いた。
アメリは入り口に落ち葉を集めて置いた。
「ファイアー!」
落ち葉の中に生木も交じっていたので煙がもうもうと出た。
「来るよ!」
物凄い勢いで二匹の角を生やしたウサギが飛び出した。そのうちの一匹をアメリは居合抜きで斬り払った。見事。良い腕だ。
感心している場合じゃないな。私は私に向って角を突き立てようと突進してくるウサギを真っ二つにした。
二匹のサンドラビットを持ってサリーの元に向かうとサンドスコーピオンを4匹倒したサオリとリオが既に到着していた。
「これで6匹ですね。」
「な、どうして魔物のいる所が分かるんだ。いや、驚くのはそこじゃない。この短時間で6匹の魔物を退治したのか。何なんだ。お前たちは?」
「だからただのFランク冒険者ですよ。」
アメリがしれっと言うとサリーは目を丸くしていた。
「よし!ダメ押しと行くか。あの大きな岩の影にサンドウルフの隠れ家があるよ。みんな行くよ。」
「「「「おう!」」」」
*
ちょうど一時間ほどたった頃に砂漠の狼のメンバーとアーリンの一行は帰って来た。
「どうですか?サンドウルフはいましたか?」
「おうよ。サンドウルフの巣を見つけたからな。」
アメリが聞くとアリは背中に背負った鞄を手で叩いて言った。この小さな鞄の中にサンドウルフが入っているのか。アメリのアイテムボックスも凄いけどこのマジックバッグと言う魔道具も凄いな。
「よし!じゃあ俺らから獲物を披露するぜ!」
そう言って自信満々のアリは背負ったマジックバッグを地面におろすと中から2匹のサンドウルフを取り出した。
「「「「おー!」」」」
私達は驚きの声をあげた。もちろん砂漠の狼がサンドウルフを獲ってきたことに対してじゃなくて、小さなバッグから大きな獲物を取り出したことに対してだけどね。
この感嘆の声を勘違いしたアリは得意満面で言った。
「それでアメリちゃん達はオアシスから出なかったみたいだけど、魔物は退治できたのかい?」
「おおかた、諦めてオアシスで寝てたんでしょ?」
アーシャまで被せてきた。
「アーリン。これは砂漠の狼が獲った魔物に間違いないの?」
「ええ。そうです。この人たちは半端ないです。サンドウルフ狩りのプロですよ。」
ニヤニヤと笑ったアメリはアーリンに確認した。
質問を無視された二人は当然のように怒った。
「おい!魔物を退治できたか、聞いているんだよ!」
「そうよ!じらさないで潔く負けを認めなさいよ!」
それを聞いたアメリは無言で魔物達に被せてあったシートをめくった。
「な、なにー!」
「こ、これは!」
「う、うそだろー!」
「インチキしたのに違いないわ!」
砂漠の狼の面々は口々に驚嘆の声をあげた。
「インチキしたかどうかは、サリーさんに聞いてください。」
アメリが言うと、
「どうなんだよ。サリー。」
アリがサリーに聞いた。
「これは美少女戦隊の獲物に間違いないわ。」
サリーがくやしそうに答えた。
「何だと!サンドウルフが3匹にサンドラビットが2匹、サンドスコーピオンが4匹もいるじゃないか。たった1時間でこれだけの魔物を狩ったのか?」
「ええ。ここオアシスは夜行性の魔物達のねぐらでもありますからね。今晩襲われないように退治しときました。今晩は安心して枕を高くして眠れますよ。」
「ど、どうやらとんでもない凄腕の冒険者パーティみたいだな。だが俺達にもペグーのBランク冒険者としてのプライドがあるんだ。そんな簡単に負けを認めて子分になるわけにもいかないんだよ。」
「何だと!勝負に負けたくせに!」
「そうだ!卑怯だぞ!」
アリの煮え切らない態度に私とリオが文句を言った。あ、リオの文句は通訳のサオリが本当は言ったけどね。
「何よ!やるの?」
「決闘で決めても良いのよ!」
アーシャとサリーが私とリオに言い返してきた。こいつらは出会った時から気に食わなかった。もう堪忍袋の緒が切れた。
私は目の前にいたアーシャに殴りかかろうとした。が、後ろのアメリに取り押さえられた。
「アメリ!やらせてよ!」
私は振りほどこうと暴れたがほどけなかった。
「アリさん。すみません。魔物狩りだなんて半端な勝負を提案して。冒険者はやっぱりこぶしで語り合わんといけないみたいですね。どうです?そっちの血の気の多い二人とこっちの血の気の多い二人の2対2の勝負でけりをつけませんか?」
「ああ。そうしてもらえるとありがたいぜ。こっちは既に負けてる状態だしな。」
「よし!じゃあ、こっちでルールを決めさせてもらいますよ。勝負は2対2のバトル。剣とかの武器はなし。眼とか鼻とかの大事な器官を潰すのはなし。魔法は手足が吹っ飛ぶとかちょん切れるような過激な物はなし。その他は蹴ろうが殴ろうが何でもあり。相手が参ったするか、10カウントしても立ち上がらなかったら勝ち。あと、一方的な展開になったら審判のオレが止めるからそれも勝ち。これはオレ達がいつもやっている組手のルールなんですけど、良いですね?」
「ああ。おおかた良いけど、一つだけ。アーシャとサリーの魔法なんだけど、杖を使わないと撃てないみたいなんだけど。」
「別に使っても良いですよ。こちらも魔道具を使わせてもらいますから。」
そう言ってアメリは私にウィンクした。これは式神のイサキちゃん2号の解禁と取って良いんだね。
私は美少女戦隊の下っ端のアーリンにも負けてちょっと落ち込んでいたんだ。悪いけどアーシャとサリーには憂さを晴らさせてもらうよ。
私は懐から式神を一枚取り出して呪文を唱え始めた。
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