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第242話 砂漠の狼

 


 私はイサキ。こう見えてもジパンではナンバーワンの冒険者よ。自称だけど(笑)。でもジパンで一番強いからと言ってふんぞり返っていたら井の中の蛙よ。それで強敵ともを求めて大陸に渡ったの。女神様の巡り合わせか、私よりも強い冒険者にすぐ会えたわ。アメリとサオリよ。それでそのパーティである美少女戦隊に入れてもらったんだけど、美少女戦隊の他のメンバーも半端なかったわ。ナンバー3のリオでもその魔法に私はビビって戦意喪失したほどよ。だけど下っ端のアーリン相手なら勝てる気がしたのよ。だって魔法無しの組手と言えど簡単に私が勝ってしまうんだもん。それで魔法有の試合を申し込んだの。アーリンの幻術を見てみたいのもあったんだけどね。


 試合の方はアーリンはなぜか幻術を出してこなかったので、最初は私が圧倒していたわ。イサキ軍団を出すまでもなかったわ。でもさ。たった一発の雷魔法でひっくり返されてしまったの。


 どうやら私は雷に弱いらしいのよ。私の属性は水だからね。魔法も水系統が得意なんだけど。これのせいで雷に弱いんだって。水の属性の魔物には雷を撃つのが基本よ、とアメリが言っていたわ。相変わらず失礼なやつよね。人の事を魔物扱いしやがって、でも攻略のヒントがここにあったわ。属性なんか無くせば良いのよ。アーリンもアメリも属性なんかないわ。火の魔法でも水の魔法でもなんでも撃てるのよ。


 そう言うわけで私はアメリに魔法を習っているんだけど、アメリ先生ったら魔法をちっとも教えてくれなくて王国語の挨拶しか教えてくれないの。おかげでおはようとかこんにちは、は覚えたけど、やっぱりあの火の玉とか出すやつも覚えたいよね。


「アメリ。みんなと仲良くなるのに王国語は必要だと思うけど、私は魔法も覚えたいんだけど。」


「うん。戦闘中に言葉が通じないじゃ話にならんだろ。だからイサキには真っ先に王国語を覚えてもらわないと。逆にリオとアーリンにはイーラム語を覚えさせているよ。それにオレの教える魔法は王国語が分からないと撃てないからね。」


 まあ、アメリの言う事もごもっともだわ。一番下っ端の私は従うしかないわ。私は王国語の書き取りもしたわ。リオとアーリンはサオリにイーラム語を習っていたけど、黒板にサオリが文字を書いていたわ。驚くことにみんな読み書きができるんだ。ジパンでも読み書きのできる人は中々いないのに、この人たちはみんなできるんだ。世間一般的に野蛮と言われている冒険者なのに教養もあるんだ。


 でもやっぱり座学は苦手みたいね。特にリオは。あくびなんかするもんだからサオリ先生におこられていたわ。


「よし!今日の勉強はここまでにしよう!みんな、もうひと泳ぎしてから帰ろう!」


「やったー!」


 アメリの終了の言葉と同時にリオがダッシュで泉に飛び込んだわ。飛び込んだと言っても泳げないから浅場にいるだけだけどね。


「アメリさん。私にも水泳を教えてください。」


 アーリンがアメリに教えを乞うていたけど、そう言えば水が苦手そうだったよね。それで私に溺れさせられそうになったから、すかさず弱点を克服するってわけね。偉いわ。


「わかった。じゃあこっちに来て。リオも。」


 3人が水泳教室を開いている間、私とサオリは泉の中を自由に泳いでいたわ。泉の水はちょっと冷たいけど、すっごい透明できれいだったわ。最高に気持ちよかった。


「うん?人が来るよ。みんな、服を着て。」


 人間レーダーのアメリが人の接近を知らせたけど、私には芥子粒にしか見えないわ。私達は泉から上がると体を拭いて服を着た。一応防具もまとったわ。魔物も怖いけど、人間はそれ以上に怖い時があるからね。


 芥子粒もだんだん大きくなって、私にもその全容が分かるようになったわ。どうやら男三人、女二人の冒険者のパーティみたいね。


 冒険者達はこちらに向かって走って来たわ。無理も無いわね。今まで飲みたい水も我慢していたんでしょうね。私達には目もくれずに泉に飛び込んだわ。


「ぷはー!生き返る!」


「冷たーい!」


「美味―い!」


「気持ちいい!」


「最高!」


 思い思いに泉を楽しむとそのうちの一人が私達に近づいてきたわ。


「こんにちは。」


「こんにちは。おや?君たちは女性だけなんだね。」


 アメリが代表で挨拶するとその男はそう言って私達をじろじろと見てきた。これは私達を値踏みしているわね。


「そうですが。何か?」


 私が失礼な奴だと思って聞くと、


「いや。こんなところで珍しいなと思っただけで他意はないよ。気に障ったらごめんね。」


 その若い男は意外と腰が低かった。


「それで何ですか?」


 サオリまで焦れて聞いた。


「いやいや。そう警戒しないでくれよ。俺達は冒険者で、やっと今オアシスまでたどり着いたんだよ。それで今日はここでテントを張って野営をしようと思ってさ。それで先着の君たちに挨拶しとこうと思ってね。君達も冒険者なんだろう?」


「ええ。そうです。こんな砂漠のど真ん中で久しぶりに人に会ったもんだから、ちょっと警戒してしまいました。ごめんなさい。オレ達は美少女戦隊と申しまして、王国から来たパーティです。良かったらイーラムの事やダンジョンの事を教えてもらえないですか?」


 人当たりの良いアメリがベールをめくって笑顔で聞いた。


「おお。こんなかわいい子が。いや。驚くのはそこじゃないな。王国人で女性だけなんだ。面白い。おーい!みんな!」


 その若い男が呼ぶと泉に浸かっていた冒険者達はなんだ、なんだと集まって来た。


「どうした?アリ。」


「ああ。この人たちはなんと王国人の冒険者なんだぜ。しかも全員若くてかわいい女の子なんだぜ。」


 アリと呼ばれた男が言った。


「そいつはすげえ。」


「仲良くなりたいわ。」


「かわいい。」


 集まった冒険者達は口々に好きな事を言っていた。


「ごめん。ごめん。君たちがかわいい女の子なのが珍しいんだよ。この国じゃ女の人がこういう仕事をするのが珍しいからね。あ、この二人もよく珍しがられているよ。」


 そう言ってアリは二人の女の人を指さした。


 魔導士風の若い女の人がベールをめくってアーシャと名のった。僧侶風の若い女の人はサリーと名のった。二人とも私らと同じくらいの歳か。


「アリさんにアーシャさんにサリーさんですね。オレはアメリと申します。よろしくお願いします。」


 いつの間にか出したキンキンに冷えたエールを配りながらアメリが言った。まったくこの女は抜け目がない。泉の水を飲んだと言え、のどの渇きはまだ完全には治まってはいないはずだ。こんなところで飲む冷えたエールは最高だ。問題はどこから出したかアリ達が警戒しないかと言う事だが、それは余計な心配だった。残り二人の男達も喜んで受け取った。


 戦士風の若い男二人はアッサムとハーリドと名のった。戦士3人、魔導士一人、回復士一人のパーティか。なかなかバランスの取れたパーティじゃないか。うちらは陰陽師の私以外はみんな魔法剣士の超偏ったパーティだもんね。


 アメリはついでに私達にもエールの瓶とコップを渡すと、自己紹介をさせた。


「ふー。よく冷えてて美味い。これは王国特産のエールって酒だろ?前に一度だけ飲んだことがあるんだ。こんな重くてかさばるものを運んで来ただなんてマジックバッグ持ちの人がいるのかい?」


「ええ。オレがそうです。」


 そう言ってアメリがアリの問いにごまかして答えたが、アメリのアイテムボックスみたいな便利な魔道具がこの国にはあるんだ。


「俺達は砂漠の狼と言うパーティを組んでいるんだ。これでもBランクの冒険者なんだぜ。」


「Bランクって凄いですね。オレ達なんてお情けでならせてもらったFランクですよ。」


「え!Fランク?Fランクの冒険者パーティが単独でここまで来たんかい?サンドウルフに襲われなかったかい?」


「ペグーの町を出た早々に襲われましたが。」


「無事に今ここに来ているって事は撃破したのか。サンドウルフは徒党を組んで人を襲う、この界隈で一番厄介な魔物だぜ。Cランクのパーティでも単独なら、間違いなく全滅だぜ。俺達は通り名が砂漠の狼になるくらいサンドウルフをたくさん退治してきたからよくわかるぜ。お前さん達はいったい何者なんだ?」


「え!だからただのFランク冒険者ですよ。」


「普通はFランクの冒険者はこんな危険な遺跡のダンジョンまで単独パーティで来ないつーの。ペグーの町に隣接するダンジョンに行くつーの。」


「「え!」」


 今、アリがとんでもない事言ったよね。ペグーの町にもダンジョンがあったんだ。


「アメリ!どういう事?」


「いや。せっかくイーラムまで来たんだから、砂漠を少し楽しもうと思って・・・・」


 サオリが問い詰めたが、この脳筋は近くにダンジョンがあるのを知っていて、あえて遠くの危険なダンジョンまで来たんだ。


「すみません。うちのリーダーがポンコツなもんで、いきなり危険地帯まで来てしまったみたいです。」


「いや。君らの自由だけど。」


 サオリが謝るとアリはあきれていた。


「この子達はイーラムをなめているのよ。イーラムもイーラムの魔物もたいした事ないとね。」


 魔導士のアーシャが言い放った言葉に私はむかついた。


「なめてたら、どうだって言うんですか?」


「簡単に死ぬわよ。」


 私の問いにアーシャでなくて回復士のサリーが答えた。


「まだ死んでませんけどね。」


「死んでからじゃ遅いのよ。」


 私がアーシャとにらみ合っていると。


「ごめんなさい。確かにちょっとだけなめていました。謝りますからご指導よろしくお願いします。ほら、イサキも頭下げて。」


 アメリが私の頭を無理やり下げさせて謝らせた。


「いや。いや。謝る必要はないよ。冒険者の行動は何をしようと自由だからね。俺達がとやかく言う事じゃないよ。とりあえず俺は君たちに興味を持ったよ。古代遺跡のダンジョンに行くんだろ?良かったら一緒に行かないかい?」


「ええ。いい・・・・」


「ちょっと待った!アリさん。すみません。同行するかどうか。ちょっと話し合いで決めさせてもらえないですか?」


 簡単に同行を承諾しようとしたアメリの言葉をサオリが遮った。


「ああ。良いよ。でも、そういうところだけは慎重なんだね。」


 アリ達は笑っていた。


「ちょっとアメリ。同行するって事は今日はオアシスに泊まるって事よ。それでも良いの?」


「うん。別に良いんじゃね。」


 二人は王国語で話し始めた。


「ペグーの宿のふかふかのベッドで寝られないんだよ。」


「それはちょっとだけ困ったけど、こういう所で野営するのも冒険者らしくてたまには良いんじゃね。」


「キャンプじゃないんだから、砂漠の狼だってわたしは全面的に信じてはいないよ。寝込みを襲われたらどうするの?」


「うーん。オレとサオリで言い合ってもらちが開かないや。リオはどう?」


「私?私は野営に反対はしないよ。アメリと一緒でむしろしたいよ。」


「聞く相手が悪かったわ。リオはアメリと同類だからね。アーリンはどうなの?」


「私はこの国に来てからろくに眠れてないので宿に帰りたいです。」


「よし!これで2対2ね。イサキはどうなの?」


 サオリがイーラム語で簡単に話の内容を説明した後、私に聞いてきた。


「私はもちろん野営に賛成だよ。野営しながら移動するのが冒険者ってもんだよ。」


「どうやら決まりだね。」


「くそー!この脳筋猿どもめ!サンドウルフにでも襲われればいいんだわ!」


 サオリが悪態をついて悔しがっていたけど、その顔は笑っていたのを私は見逃さなかった。サオリも実はキャンプしたかったんじゃないの。


「お待たせしました。そう言うわけで砂漠の狼さんと同行することに決まりました。」


「なんか反対している人もいるんじゃない?良いの?」


 王国語は分からないはずだが、空気を読んだアリがアメリに聞いた。


「ああ、こいつらはビビってお家に帰りたいと言っているだけですよ。」


「それが良いわ。チキンはお家にお帰り。」


「私達の足手まといになるから帰った。帰った。」


 アメリの謙遜して言った言葉を受けて、アーシャとサリーが二人して挑発してきた。


「何だと!」


 ここまでバカにされたらいくら大人しい私でも黙ってはいられない。私は思わず立ち上がって懐から式神を出したが、アメリにその手を制された。ちなみに喧嘩ぱやいので有名なリオさんはサオリの通訳を通して話を聞いているのでワンテンポ反応が遅れて激高して立ち上がった。


「サオリ。通訳して。Bランクの砂漠の狼とFランクの美少女戦隊とどっちが上か。勝負しようって。」


「ちぇ。しかたないなぁ。うちの武闘派が砂漠の狼さんと勝負しようと言っているんですが。」


 サオリがおずおずと言った。


「何ですってー!」


「生意気な!アリ!勝負を受けな!」


 今度は砂漠の狼のアーシャとサリーが立ち上がった。


「おいおい。勝負とは物騒だな。仲良くやっていこうぜ。」


 砂漠の狼のリーダーのアリは勝負に乗り気ではなかったが、この人は違った。


「BランクのくせにFランクに勝負を挑まれて逃げるんですか?イーラムの冒険者は腰抜けかよ?」


 勝負大好きっ子の、われらが美少女戦隊のリーダーのアメリが今度はアリを挑発した。


「何だと!俺はお前たちの事を考えて反対してやったのにそこまで言われたら黙ってはいられないぜ。良かろう。受けてやる!」


 おそらく腰抜けと言う言葉がアリの癇に障ったんだろう。大人しそうに見えたアリが激高した。


「それでこそ勇猛で名高いイーラムの高ランク冒険者ってものですよ。勝負を受けてくださってありがとうございます。」


「ありがとうを言われるほどの事でもないけどな。それで勝負の内容はどうするんだい?一対一のタイマンバトルでも5対5の集団バトルでもなんでもいいぜ。こっちは。」


「そうですねえ。今からダンジョンに行こうという時に潰し合うのもバカらしいですから、倒した魔物の数で勝負するのはどうですか?このオアシスの周りにもサンドウルフがいっぱいいるんじゃないですか?」


「サンドウルフ狩か。面白い。良いだろう。受けて立つぜ。サンドウルフ狩が専門みたいな俺達に、サンドウルフ狩りで勝負を挑むとは良い度胸しているぜ。アメリちゃんの言う通り、ここら一体はサンドウルフの巣みたいなもんだ。オアシスに集まる動物や人間を食うためにたくさんいやがるぜ。」


「じゃあ、今から一時間の間でどっちのパーティがより多くのサンドウルフを倒すかで勝負しようじゃありませんか。」


「ああ。良いぜと言いたいところだがよ。サンドウルフは夜行性の魔物なんだぜ。今は岩陰ででも寝ていてなかなか表に出て来ないぜ。」


「だからこそ今やるんじゃないですか。いつも寝込みを襲われて往生しているんでしょ?今日は逆にやつらの寝込みを襲ってやろうじゃないですか。そうすれば今晩、枕を高くして眠れますよ。」


「なるほどそう言う発想はなかったな。いつも襲って来るのを迎え撃っていただけだからな。しかし言うのは簡単だけど、この広い砂漠でサンドウルフの寝床を見つけるのは容易じゃないぜ。」


「そう言うのも含めての勝負ですよ。寝床を探すのも勝負のうちですよ。」


「わかった。そうしたら別行動になるだろうけど、どうやって倒した数をカウントするんだい?」


「そうですねえ。倒した魔物をここまで運んで来ても良いですけどこちらは。ちょっと無理がありますよね。そうだ。各パーティから一人ずつ相手パーティに派遣して、その人にカウントしてもらうのはどうですか?」


「なるほど。それでいいぜ。ルールが決まったら今度は掛け金だな。おまえ達は勝負に何を賭ける?」


「掛け金ですか?オレ達はイーラムに着いたばかりでこっちの通貨をほとんど持ってないんですけど。」


「そうか。一文無しか。なら、仕方ない。負けた方が勝った方の子分になるってのはどうだ?」


「それでいいですと言いたいですけど、子分って親分に何するんですか?」


「うん。そうだなぁ。とりあえずはペグーの町にいる間は親分の命令に従うって事だろう。」


「わかりました。理不尽な命令でない限り従いましょう。」


「よし!約束だぞ!俺達の命令にちゃんと従えよ!」


「いや。オレらが勝つ可能性もあるわけで。」


 そう言うわけで相手の砂漠の狼一行にはアーリンが同行することになり、こちらの美少女戦隊一行には回復士のサリーが同行してきた。


「アメリ!あっちはサンドウルフの専門家みたいだけど勝算はあるの?」


「うーん。まあ、普通にやったら勝算はないよね。でもこっちにはオレとイサキがいるから何とかなるでしょ。」


 私が心配して聞くと、アメリがにっこり笑って答えた。言っとくけど私は誰かに命令されるのが大っ嫌いなんだよ。イーラムに来て早々砂漠の狼なんてちんけなパーティの子分になるなんてまっぴらごめんだからね。頼むよ。アメリ。




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