第240話 オアシス最高
「覚悟はしていたけど、やっぱり暑いわね。」
先頭の脳筋が顔の汗をぬぐいながら言った。
「うん。日差しが半端なく強いよな。そこでこれだ!パッパラパッパパーン!」
男女が棒状の物をみんなに配りだした。
「凄―い。日傘じゃないの。」
「うん。オレと竹細工職人の苦労の末の力作だよ。サオリ。なんせこの世界には傘なんかないからね。」
それは竹の棒に布を張りつけた物で、広げるときのこのように広がった。
「日傘って言うんですか。これは良いですね。日陰を自分で作れる。快適です。」
傘って言う物を初めて見たが、これは便利だ。私は男女を褒めた。片手がふさがると言う欠点もあるが、人間倉庫の男女のおかげで元々手ぶらだ。問題ない。
しかし日傘をさしていても暑い物は暑い。私達の王国は夏でもそれほど暑くならない。どちらかと言うと涼しいくらいだ。王国は快適な気候の国なのだ。何が言いたいかと言うと、私達王国人は暑さに弱いのだ。
脳筋と私はすぐにばててしまった。
「ほら。リオとアーリン。もう少しだから頑張って。」
そう言って男女はキンキンに冷えた濡れタオルをくれた。
「首に巻くと涼しくなるよ。」
言われた通り首に巻くとタオルの冷たさが心地よいがあっという間に乾いてしまった。
そのたびに男女は新しいタオルと交換してくれた。
男女の心遣いもあり、私達は地獄の行進をなんとか耐えられた。
*
「ねえ。見て。木がいっぱい生えているよ。」
先頭の脳筋が前方を指さして言った。
「え!蜃気楼じゃないでしょうね?」
「いや。本物の木だよ。オアシスだ。水場もあるよ。」
幻だと疑った黒髪に男女は鑑定をして答えた。
その答えを聞くと脳筋は走り始めた。別に水に困っているわけじゃないのに水場と聞くと走り出さざるを得なかった。なんか涼しい場所を想像したからだ。もちろん私達も脳筋の後を追った。
そのオアシスは中央に大きな泉があり豊富な水がコンコンと湧き出していた。
「なにこれ!きれい!」
さっそく脳筋が水に飛び込もうとした。
「待って!リオ!」
男女が脳筋の背負ったリュックを引っ張った。
「な、何よ?」
突然足を止められた脳筋が不機嫌に聞いた。
「ダンジョンアリゲーターが水の中に潜んでいるわ。」
「ダンジョンアリゲーターって、あの王都のダンジョンにいた奴?」
「うん。そうだよ。リオ。おそらくこの泉はダンジョンと繋がっているんだろうね。ダンジョンから出てきたそいつらがリオみたいに不用意に泉に近づく物を食わんとして潜んでいるんだろうね。」
「じゃあ。どうするの?」
「やるっきゃないでしょ。リオ!超サンダガを泉に撃って!」
「オッケー!」
男女の指示を受けて脳筋が長い呪文を唱え始めた。
「超サンダガ!」
凄い威力の稲妻が泉に落ちた。ダンジョンアリゲーターが10匹も腹を上にして浮かび上がった。こいつらに気付かず不用意に泉の中に入っていたらいくら私達でも無事には済まなかっただろう。浮かび上がったのはダンジョンアリゲーターだけではなかった。泉にいた無数の魚達も浮かび上がっていた。
私達は着ていた服を脱ぎ捨てると泉に飛び込んだ。ダンジョンアリゲーターと魚の回収のためである。
「気持ちいいー!」
黒髪と傲慢娘が泳ぎはじめた。私と脳筋は泳げないので浅い所で水に浸かっていた。それでも泉の冷たい水は気持ちよかった。
「それ!」
脳筋がお約束のように私に水をかけてきた。
「キャッ!」
思わずかわいい声をあげてしまった。
もちろん私も水をかけ返した。
「キャッ!」
脳筋もかわいい声で答えた。
「お前らー!人が一生懸命に働いているのにきゃっきゃっと楽しそうに!」
そう言って男女まで水かけっこに参加してきた。
*
「泉で泳いでいたら、砂漠を歩くのがもう嫌になっちゃったよね。よって今日の冒険はここまでにしよう。」
「「「「やったー!」」」」
男女の提案に私達はハモッて喜んだ。
「よし!じゃあ昼飯にしようか。サオリはオレを手伝って。他のみんなは木に生っている果物を取ってきて。」
「「「「おう!」」」」
泉の周りの木は果実を付けた果樹が多かった。バナナの実は簡単に大量に採れた。ココナッツの実は高い所に生っていたが、傲慢娘が空を飛んで摘んできた。
「ありがとう。今日はせっかくだからこいつらを食べよう。」
そう言って男女は私達の集めた果物を一旦アイテムボックスに回収した。
しばらくして黒髪が木陰で休んでいた私達を呼びに来た。
男女の出したテーブルの上にはすでに出来上がった料理が並んでいた。
「お。みんな来たな。今日はみんなが取ってくれた果物を使った料理だよ。」
「うん。良い匂い。うまそー。」
「リオ。いただきますをしてからね。じゃあ、みんな。いただきます。」
「「「「いただきます。」」」」
今日の料理はパンと卵焼きにサラダとスープね。私はまずスープを一口飲んでみた。うん。うまい。いつものお肉をたっぷり使ったスープね。安定のうまさだわ。
次にサラダを食べた。あ、いつものシャキシャキ美味しい野菜の中に甘くて爽やかなアクセントがあるわ。これはきっとココナツの実を入れたんだわ。
いよいよメインの卵焼きね。男女にしてはオーソドックスで簡素な料理ね。そう思って食べると、今日の卵焼きは一味違うわ。中に甘くてモチモチした果物が入っているの。ちょっとしょっぱいソースと良く合うわ。これはバナナの実ね。
「アメリさん。今採った果物をいつもの料理に混ぜ入れたんですね?」
私はうれしくて男女に話しかけた。
「うん。そうだよ。お口に召さなかった?」
「いや。逆です。甘くてとても美味しいです。」
「うん。いつもの料理でも美味しいけど、今日はさらに美味しいよ。」
「ありがとう。アーリン。リオ。今日の飲み物はこれだよ。」
そう言って男女はコップに入ったジュースを配り始めた。
「なにこれ!美味しい。」
リオが美味しいと言ったがもちろん私も美味しいと思った。
「それはこれの中身のジュースだよ。」
そう言って男女はココナッツの実を出した。あの硬い実の中にこんな美味しいジュースが入っているなんて私は感動したわ。
「いっぱい作ったから、どんどんおかわりしてよ。」
「アメリ。卵焼きとスープのおかわりね。」
「え!リオ。もう食ったの?」
「だって美味しいんだもん。」
「あの。私も。」
「え!アーリンも。」
「ええ。食べ盛りですから。」
私は婆ちゃんと二人暮らしの貧乏人だったのよ。いつも硬いパンとイモしか入ってないようなスープを食べて育ったのよ。こんな美味しい物が出たら腹いっぱい食うに決まっているじゃないの。同じく貧乏人の出の脳筋と競い合うように食べたわ。
食後は一眠りした後に、いつもの修行をしたわ。私は傲慢娘と組手をしたわ。男女がわざわざスカウトしただけあるわ。魔法を使わない組手だと全く敵わなかったわ。
「ねえ。アーリン。あんた。魔法が得意なんでしょ?どう?私と魔法有でやらない?」
イサキー!こいつは。どうやら序列をはっきりさせないと気が済まないみたいだ。良いだろう。魔法有なら私も負けないわよ。
「おもしろい。オレもどっちが強いか見てみたいよ。」
通訳の男女までノリノリだ。
「わかりました。勝負を受けるとイサキさんに伝えてください。アメリさん。」
「よし!そうこなくっちゃ!みんな!今からアーリン対イサキのナンバー4決定戦を始めるよ!」
イベント大好きっこの男女が呼び掛けると組手をしていた黒髪と脳筋が集まって来た。
「アーリン!あんまりイサキをなめないほうが良いよ。イサキはアメリと互角の勝負をしているからね。」
なんですと黒髪さん。聞いてないよ。だって脳筋の魔法にビビって棄権してたじゃないの。ビビりじゃないの?そんなに強いだなんて聞いてないよ。
ええい!もう腹は決めたわ。傲慢娘は男女と同レベルの実力者だと認めるわ。男女と対戦した時のように本気を出させてもらうわよ。すっかりヘタレキャラとして定着してしまった私だけど、かっては男女や脳筋と互角の勝負をしたのよ。負けたけど。
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