第239話 アーリン無双
「どうやらサンドウルフの群れみたいね。」
「それって強いの?」
「うん。一匹一匹はたいした事ないけど。魔物の強さって個の強さじゃないでしょ。リオ。集団の強さでしょ。ちょっと強敵よ。みんな気をつけて。」
「「「「おう!」」」」
「よし!アーリン!呪文を唱えているね?」
私は男女の問いに手を上げて答えた。
「他のみんなはアーリンの魔法が発動と同時に突っ込んで!」
「「「おう!」」」
サンドウルフ達はいきなり襲っては来ず、遠巻きにこちらの出方を伺っているようだった。おかげでたっぷりと呪文を唱える時間が出来た。
「今から魔法を撃ちますからみんな目をつむって!超サンダガ!」
巨大な雷がサンドウルフの群れの真っただ中に落ちた。脳筋の技のパクリであるが私にもできた。爆心地にいた何匹かは即死したが、他は死んではいなかった。しかしそれでいい。ほとんどのサンドウルフは脳筋の超サンダガを受けた私達みたいに気絶しているからだ。さらには気絶も免れた、爆心地から遠く離れた者も暗闇の中での突然の稲光に目をやられていた。
「よし!行くぞ!」
男女の掛け声で私達は剣を抜いて走り出した。サンドウルフは30匹を超える大集団だった。しかしその巨大な群れも私の魔法で完全に無力化されていた。無抵抗の者を斬るのは心苦しいが、やらなきゃこっちがやられるんだから仕方ない。まったく因果な商売だわ。私達は斬って、斬って、斬りまくったわ。
「よし!これで最後だな。」
脳筋が最後の一匹にとどめを刺して戦闘は終わった。男女にいたっては途中で戦闘を止め、せっせとアイテムボックスにサンドウルフの死体を回収していた。
「凄い!アーリンもリオの超稲妻を撃てるのね。私にもいつか教えてください。」
そう言って傲慢娘が頭を下げてきた。
私は傲慢娘の頭を上げさせると、手を差し伸べてがっちりと握手した。傲慢娘は案外良い奴かもしれない。
「私の技を勝手にパクりやがって!でも、パクられるほどに私も魔法の達人になったってわけね。良いよ。どんどんパクってね。」
そう言って脳筋はハイタッチをしてきた。
「よし!アーリン。良くやった。暗闇で、眩しい光を浴びせて目をくらませるのは基本だけど、咄嗟の判断で良くサンダガを選んだ。おかげでオレ達は安全に敵を全滅できたぜ。」
そう言って男女もハイタッチをしてきた。
「ナイス魔法!」
そう言って黒髪もハイタッチしてきてくれた。
私の後ろを付けられている事に気付かない失態は、どうやらこれで挽回できたみたいだね。
「サンドウルフは旅のキャラバン隊を襲う厄介な魔物だから、当然討伐依頼も出ているから結構良いお金になると思うよ。普通だったらこれで一仕事終えたって事で、冒険者ギルドに帰るんだけど、今日はダンジョンに行くのが目的だから、もうひと頑張りするよ!」
「「「「おう!」」」」
再び男女と脳筋を先頭に私達は歩き出した。
砂漠って最初は平たんな物だと思っていたけど、けっこうでこぼこな物だった。道は小高い丘を登ったり下りたりしていた。それで私達は大きな穴に踏み込んでいるのに気づかなかった。いや、この人は気づいていた。
「ねえ。アメリ。アリ地獄って知ってる?」
「うん。知っているよ。サオリ。突然どうしたの?」
「アメリ!リオ!止まって!みんな!ゆっくりと後ろにさがって!」
「しまった。今鑑定したよ。メガロアントライオンが穴の底に潜んでいるよ。」
私達は砂の山を超え、砂の斜面を降りていたが、まさか下った底に魔物が待ち構えていようとは夢にも思っていなかった。全体を良く見渡せば気づいたかもしれないが、今は真夜中で視界が悪いのである。そう言えば道は山を迂回するようについていた気がするが、脳筋二人はかまわずに直進したんだわ。
私達は穴の底にずり落ちないように慎重に後ずさりしたが、私達が気づいたように穴の主も私達に気付いたようだ。突然砂の塊が穴の底から飛んで来た。
「うわ!何?」
一番前にいた脳筋が避けながら悲鳴をあげた。
「どうやらオレ達を穴の底に落としたいみたいだな。」
「落ちたらどうなるの?」
「メガロアントライオンの餌だな。リオ。」
「じゃあ。やる?」
「うーん。アリ地獄に入ったら、砂に埋もれそうだし、ちょっと面倒だよね。あえて危険を冒すこともないんじゃないかな。」
そう言って男女はアイテムボックスから大きな盾を二枚取り出した。
「よし!砂弾はオレとリオが防ぐから、みんなゆっくり後退。」
私達が男女と脳筋の影に隠れると同時に砂弾が容赦なく飛んで来た。
脳筋コンビが盾で防いでくれたから良い物の、直撃すれば無事では済まないだろう。私達をかすめた砂弾が後ろで砂の斜面に大穴を開けていた。
「ここまでくれば大丈夫だろう。」
男女の言う通り、大穴を出た途端に砂弾はぴたりと止んだ。
「私達はアリじゃないんだから、そんな簡単に罠にははまりませんよーだ!」
脳筋が穴の底の主に毒づいた。
「急がば回れですよ。穴を迂回して進みましょうよ。」
猪突猛進的な思考の先頭の二人に私は釘を刺した。
「うん。アーリンの言う通りだね。砂しかないと思って油断していたら意外と危険もあるね。気を引き締めて行こうか。」
「「「「おう!」」」」
私達は脳筋二人を先頭にして再び歩き出した。
「よく見たら、大小様々な穴がそこら中に空いているじゃない。」
「うん。どうやらメガロアントライオンの密集地帯に踏み込んでしまったみたいだね。リオ。」
男女の言う通りのやばい場所に踏み込んでしまったみたいだが、穴に落ちなければ問題ない。私もそう最初は思っていた。
しかし、アリ地獄って幼虫だよね、たしか。そしたら当然成虫もいるんだよね。
サンドウルフの時の失態を繰り返すまいと後ろに気を張っていた私は、かすかな羽音を聞いた。
「後ろ!何か来ます!」
「メガロアントライオンの親か。数が多いな。みんな!魔法を唱えて!」
私の警告に振り返った男女が指示を飛ばした。私の目にも空を飛ぶ無数のメガロアントライオン(成虫)が見えてきた。
「サンダービーム!」
無詠唱で撃てる黒髪のサンダービームを皮切りに私達も魔法を撃った。
幸いにしてメガロアントライオンは防御力がそれほど高くないみたいだ。サンダーが当たって簡単に絶命して地面に落ちた。簡単に落ちると言えど、いかんせん数が多すぎる。何匹かは魔法を潜り抜けて地上の私達に襲って来た。
襲って来る奴は、むしろ簡単だ。待ち構えていて斬り伏せれば良いからだ。私達はサンダービームを撃ちつつ、メガロアントライオンを斬って斬って斬りまくった。
一人当たり20匹ほどやっつけたであろうか、あれほどいたメガロアントライオンも残りはどこかに逃げていった。
「もう大丈夫みたいだ。」
そう言いながら男女はメガロアントライオンを回収し始めた。メガロアントライオンは私達と変わらない大きさの巨大な虫の魔物だ。それを100匹以上も回収できるなんて、今更ながら凄すぎる。
「よし!行こうか!」
回収を終えた男女を先頭に私達は再び歩き始めた。それから魔物に襲われることもなく順調に歩き続けた。
そしてついに夜が明けた。
「うわー!本当に見渡す限り、砂しかないね!」
「本当!木一本生えてないですね!」
私と脳筋の二人は初めて見る砂漠の景色に感動して声をあげた。
「うん。この景色に感動できるのは今だけだよ。そのうち砂を見るのも嫌になるから(笑)、じゃあここでちょっと休もうか。」
そう言って男女がテントを取り出した。普通テントと言う物は分解して持ち運び、組み立てて使う物だが、この人は組み立てたまま持ち運んでいる。よって設置時間は0秒だ。本当に便利だ事。
「じゃあ。まず、水を配るね。」
そう言って水筒を配り始めた。
「これから暑くなるから、水筒は自分で首から下げておいてくれ。それとは別に冷たいジュースがあるよ。」
そう言って大きな瓶を一本取り出した。私達は順番に回し飲みしたが、中身はなんとキンキンに冷えたオレンジジュースだった。本当に便利だ事。
さすがに傲慢娘も一々驚かなくなっていた。つらいはずの冒険もこの人のおかげで快適よね。無理してでもこの人に付いてきて正解だったわ。これからも頑張ろっと。
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