第236話 アーリンVSエイハブ
みなさんお久しぶりです。私は美少女戦隊一の魔法の使い手アーリンです。男女と黒髪が東の大陸に渡って一か月がすぎました。私達はボスの男女と黒髪がいないからと言って鍛錬の手を抜く事はしません。むしろ二人がいないとき以上に頑張りました。なんせ朝から晩までダンジョンに潜ていますからね。それどころか時にはダンジョンの中で夜を明かす事もしました。こんなに頑張っているパーティはキンリーには他にいないでしょう。
それなのに、私は全く進歩しなくなったんですよ。魔法はある程度極めていますから、なかなか進歩できないのはわかりますが、剣術と体術は全くの素人だったのが面白いように日々進歩していたんですよ。二人と別れる前は。これは私だけじゃないんです。幽霊と犬女は剣も魔法も素人だったから私よりもわかりやすく日々進歩していました。それがボス二人と別れてから彼女らもぴたりと進歩しなくなったんですよ。脳筋と守銭奴は剣も魔法も既に極めていたから変わらないみたいですけど。
男女がいつか言っていたんですけど、男女には仲間を進歩させる能力があると。この言葉を実感させられました。男女と別れた途端に、あんな面白いように日々進歩していた私達は全く進歩しない元の無能の集まりに成り下がってしまったんです。
この事に気付いているのはたぶん私だけでしょう。みんなも男女から一度は聞かされているだろうけど、私のように聞き流していると思うんです。なんせこの二人にはもっとわかりやすく凄いチートな能力がいくつかありますからね。そっちの方にどうしても注目しますからね。
この事をみんなに教えないのかって、そんな事教えませんよ。教えたら全員イーラムに付いていくと言い出すに決まってるじゃないですか。そうしたら競争相手が増えるじゃないですか。私はそれほどお人よしじゃありませんよ。
そう言うわけで私はどうしても、もう一度男女と一緒に冒険したいなと思っていたんだ。そう思っている所に二人がイーラムから突然、傲慢女を連れて戻って来たわ。傲慢女がナンバー3は誰かとか言ったもんだから、私も僭越ながら名乗り出たわ。そうしたら当然他の人も名乗り出るよね。それで恒例のバトル大会が始まったんだけど、なんと一回戦の骨に勝てばイーラムに連れて行ってくれると約束してくれたわ。
骨は魔法の得意な私と真逆で魔法がいまいちの剣の達人だけど、なめてはいけないわ。彼も苦手の魔法を習得して魔法戦士になっているのよ。それに得意の剣も縮地を習得してますます絶好調だわ。骨は私と同じ2軍だけど、はっきり言ってリオ達1軍と実力に遜色はないわ。ほんのちょっと上位魔法を唱えらえないだけなのよ。それに対して私は魔法はエキスパートだけど、剣も体術もまだまだだわ。剣も体術も一朝一夕に習得できるほど甘くは無いってわけね。何が言いたいかって言うと、私が圧倒的に不利って言う事よ。このまま普通に戦っても十中八九私が負けるわ。だけど、先に言った理由で負けるわけにはいかないのよ。私はなんとしてもイーラムに連れて行ってもらいたいのよ。悪いけど、全力を出させてもらうわ。そう。男女と脳筋にしかまだ使っていない幻影魔法を全開で使わせてもらうわ。
まずは仕込みね。私はあえて骨を挑発したわ。これは骨を怒らせて冷静さを失わさせるのもあるけど、一番肝心な事は暗示にかける事よ。幽霊の事を言われて骨もかっかしていたわ。おかげで仕込みはバッチリよ。
次は協力者ね。犬女は同い年だし一番仲も良いの。私の言う事は大概聞いてくれるわ。犬女には審判をやるように男女に申し出るように頼んだの。そう。審判の犬女とすり替わる作戦よ。ここまでは私の幻影魔法のいつものパターンね。いつもならこれで十分だけど、今日の相手は身内の骨だからこれだけじゃ不十分よね。だって私が審判に化けるのは骨も当然知っているからね。もう一つなんか仕掛けないと。これは試合会場で仕掛けるしかないか。
*
「アメリさん。今日は私に審判をやらせてください。」
「ん?別に良いよ。エイミー。じゃあ、審判はエイミーね。」
打合せ通り犬女が審判を申し出た。男女は私達の言う事は大概なんでも聞いてくれるから、これはまず大丈夫だと思っていた。
「それで試合ですが、竹刀の戦いだと剣の達人の船長が圧倒的に有利で面白くないから今日は素手にしませんか?」
「うん。そうだね。素手のほうが面白いかも。よし!今日は剣無し、爆発系や腕や足をちょん切るような魔法も無しで行こう。勝敗は相手が降参するか、テンカウントしても起き上がらなかったら勝ちね。もちろん一方的な展開になったらこっちが止めるけど。」
よし!骨の剣を封じられた。剣対剣だと私に勝ち目は無かったわ。ナイスエイミー。あとでケーキを奢ってやるよ。なによりもエンターテーメントを重要視する男女の心理を上手くついたわ。男女は面白い試合を見たがってるからね。それに私自身が言い出せば脳筋辺りから腰抜けと罵倒されて反対される所だったからね。私以外の人が言わないとだめだったのよ。
「じゃあ。僭越ながら私、エイミーが今日は審判をやらせてもらいます。ルールはアメリさんの言った通りです。二人は仲間ですが、今日はひょんなことから雌雄を決することになりましたが、遺恨が残らないように正々堂々と戦うように・・・・」
「能書きは良いから早く始めてくれ!」
犬女の審判としての挨拶を骨が遮った。冷静沈着を売りにしている骨が珍しく興奮しているな。幽霊の事を言われて相当頭にきているな。よし。よし。
「じゃあ。まずはお互いに礼。それでは・・・・」
礼をした後に骨は一歩さがった。口が動いていない所から見て魔法は無いな。おおかた私の顔でもぶん殴りに来るつもりだろ。
「始め!」
「突きー!」
やはり。開始と同時に縮地で詰めて右ストレートを顔面に打ってきやがった。前までの私ならこの右ストレート一発で終わっていたかもしれないけど、私だって日々進化しているのよ。いくら凄い体術だって動きが読めれば、よけるのは簡単よ。右ストレートをすかした私はカウンターの右ストレートを逆に打ってやった。
「「「「「「なにー!」」」」」」
番狂わせの、試合開始と同時のノックダウンにみんなが驚嘆の声をあげた。失礼しちゃうわね。私だってやる時はやるのよ。おっと犬娘がカウントを始める前に追撃の魔法よ。
「ファイガ!」
くそ!惜しい!死んだふりしていた骨があわてて炎を避けやがったわ。今のはファイガボールにしてぶっつけるべきだったわ。
「どう?私のパンチもちょっとは効くでしょ?」
「ええ。おかげで目が覚めましたよ。じゃあ。お返し!ファイアーボール!」
「ファイアーボール!」
二つのファイアーボールはぶつかり合って消えた。
「「そして突きー!」」
男女の必殺技の火の玉突きがぶつかり合ったけど、今度は私がカウンターパンチを喰らったわ。しまった。調子に乗ってまともに殴り合ってしまったわ。まともに殴り合えばパンチを喰らうのはやっぱり私ね。
でも骨には寝技が無いし、士を気取っているから倒れている相手には攻撃してこないのは知っているわ。追撃を受ける事はなさそうね。
「ワン!」
犬女のカウントが始まったわ。まずは体のチェックね。殴られた頬がめちゃめちゃ痛いけど。骨にも歯にも異常は無いわ。派手にぶっ飛ばされたように見えるけど、実は自分で飛んで威力を逃がしたから見た目ほどダメージは受けていないのよね。
「ツー!」
正統法でぶっつかっても勝てるかと一瞬思ったけど、やっぱり無理ね。
「スリー!」
骨は私より格上だと改めて認めるわ。
「フォー!」
格上の相手に相手の土俵で戦ってどうするのよ。
「ファイブ!」
私には私の戦い方があるわ。
「シックス!」
私は魔法剣士である前に幻影魔導士なのよ。
「セブン!」
おっと立たないと。
「アーリンまだやれる?」
カウントセブンで立った私の顔色を窺って犬女が聞いてきた。私は無言でうなずいた。なぜなら呪文を唱えていたからだ。あと、目で犬女に合図を送った。
「どう?もう降参しますか?そうしてもらえるとありがたいんですけど。さすがにかわいい女の子を殴るのは気が引けますからのう。」
「ありがとう。船長はやっぱり紳士だわ。倒れている相手を攻撃しないし、私なんかの事まで気遣ってくれて。おかげで長い呪文を唱える事が出来たわ。マヌーサ!」
「な!し、しまった!ってあれ?何も変わっておらんじゃないか?ファイアーボール!」
「そして突きー!」
骨の火の玉突きが私に再び決まった、かのように見えた。しかしそのパンチは空を切った。
「「「「「「「「なにー!」」」」」」」」」」」
またみんながハモッた。この幻影魔法は集団に効くからこの場の全員が私の姿を見失ったってわけだ。もっとも鑑定持ちの男女と狼犬にはバレてるかもしれないけど。
「ファイアー!」
まずは初級の火魔法で小手調べね。やっぱり魔法が当たる瞬間に縮地でかわされるわね。まあ、これは想定内よ。範囲魔法は発動まで時間がかかるからね。かと言ってファイアーボールなどの発射系の魔法は私の位置がばれるから使えないのよね。
「アースウオール!」
やっぱりこれよね。土の壁で後ろへの退路を断ってやったわ。
「ファイアー!」
これもよけられたんだけど、正面にいるギャラリーの真ん前以外は炎と土の壁で囲んでやったわ。
「サンダー!」
雷はさすがの骨も避ける事は出来ないみたいね。花の乙女の大事な顔を殴った仕返しはさせてもらうわよ。それにあなた達魔物の弱点は雷魔法だと言うのも男女から聞いているのよ。もっとも初級魔法で倒せるほど甘くないのも分かっているけど。
棒立ちになっているせっかくのチャンスに追撃の攻撃を出せないのは痛いけど、私の隠れている位置がばれるよりはましだわ。それに上級魔法の長い呪文を唱える時間が十分に稼げたわ。
「サンダガ!」
さすがの骨も弱点の雷魔法を連続で受けたら、たまったもんじゃないみたいね。ついにダウンしたわ。
「ワン!」
「ツー!」
犬女のカウントが始まったわ。
残念ながらカウントエイトで立ち上がったわ。
「船長大丈夫?まだやれる?」
「アーリンさん。わしはあんたの戦いを一度見ているんですよ。あんた。リオさんとの試合の時みたいに審判のエイミーと入れ替わりましたね。」
「いや。違う。私はエイミー本人よ。」
「嘘つけ!エイミーならそこでロボとじゃれ合ってるじゃないか!」
なんともう一人の犬女がギャラリーの中にいた。
「だから違う!」
「問答無用!」
かわいそうに審判の方の犬女は骨の渾身の右ストレートを受けて吹っ飛んだ。
ギャラリーの中にいた狼犬が凄い勢いで骨に飛びかかった。あわてて脳筋と男女が狼犬を引き離した。
「ロボ!大丈夫だから落ち着いて!サオリ!エイミーにヒール!」
「オッケー!アメリ!」
幸いにして犬女も骨もケガはなかったが、試合は思わぬ乱入者のせいで中止になった。
「じゃあ、どういう事か説明してもらおうか。船長。」
審判の犬女を殴った罪で骨は男女の前で土下座させられていた。
「はい。アーリンが前にリオさんとの試合で審判のわしに化けてたのを思い出したんです。」
「それはオレも覚えているけど、だからと言って今度も化けてるとは限らないでしょ?」
「いや。わしはアーリンがエイミーと目配せをしているのを見たんです。だからつい、エイミーもグルかと。」
「だけど、それだけじゃ証拠として薄いわね。」
「それに審判のエイミーがロボとじゃれ合ってるのを見たんですよ。それで幻影が解けたのかと。」
「どうやら、そっちが本物のアーリンだったみたいね。船長。あんた。アーリンにしてやられたんだわ。アーリンが審判に化けるのはオレとの試合の時もそうだったから、みんな知ってるよね。だから今回もそうじゃないかとみんなに思い込ませた。実際に審判に化けたんだけど、あえてオレ達の中に隠れたんだ。そして姿を堂々と見せる事によって偽物を本物と信じ込ませたんだ。素晴らしい。でもオレの目にはアーリンがエイミーに化けてるようには見えなかったんだけど。アーリン説明して。」
「はい。私は幻影魔法を二つかけておいたんです。」
「二つ?」
「はい。一つはみなさんもかかったと思うマヌーサです。」
「ああ。アーリンが忽然と消えるやつね。」
「ええ。それです。もう一つは私の近くにいる人間つまり審判を私と思い込む幻術です。そして私は別にエイミーには化けてはいませんよ。そんなひまなかったし、ただ私とエイミーは身長も髪の毛の色も似ていますから、服装も同じにしていたし、わざとロボとくっついていたから、遠目にちらっと見た船長が勝手に私を本物のエイミーと勘違いした訳ですよ。いくら訓練している私達だって、戦闘中にちらっと見えた景色を完全には把握できませんよね。それで近くにいるのが私だと確信して、疑いなく本物のエイミーの方を攻撃したってわけですよ。」
「素晴らしい。ところでいつ、その審判を自分だと思わせる幻術をかけたんだい?」
「アメリさん。あなた、自分で言ってたじゃないですか。まずは第一に私が審判に化けると思わせた事、あと、もう一つは食堂で船長を挑発した時ですよ。船長はマームさんの事を言われてかっかしていたから私の暗示にかかりやすくなったんですよ。その時にちょっとかけさせてもらいました。」
「よし!審判のエイミーがのびているからオレが代わりに言おう。船長は審判への暴行によって失格!よって、勝者アーリン!みんな、拍手!」
男女が私の右手を上げて勝利を讃えてくれた。みんなは拍手をしてくれた。
やったわ。これでイーラムに行けるのね。
「あのう。私、イーラムに行けるんですよね?」
念のために聞いてみた。
「もちろん。東の大陸エイジアにようこそ!」
そう言って男女は右手を差し出した。私は男女とがっちり握手をした。
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