第234話 登録完了
イーラムの冒険者ギルドも他を圧する立派な建物だった。この国でも冒険者は重用されているんだろう。良い傾向だ。問題はオレ達外国人が冒険者登録できるかだが。
などと少しビビりながら建物の前で考えているとイサキがどんどんと建物の中に入って行った。あわててオレとサオリは後を追って中に入った。
「ちょっとイサキ!ここの冒険者ギルドに来た事あるの?」
「いや。今日初めてだよ。冒険者ギルドなんてどこの国でも一緒でしょ。もしかしてビビっているの?」
「いや、ビビっているんじゃなくて、オレ達外国人だから登録できるかなぁと心配しているんだけど。」
「大丈夫だって。冒険者の素性を問わないのが冒険者ギルドの美点の一つなんだから、この国の冒険者ギルドも当然大丈夫よ。」
言われて見れば確かにそうかもしれない。でなかったら、どこの馬の骨ともわからないエイハブやマームは冒険者になんかなれなかっただろう。下手すればサオリだって難しかったはずだ。
「あ、あそこが空いてるよ。」
イサキを先頭にオレ達はその空いたカウンターに着いた。
「あのう。すみません。私達3人は冒険者登録をしたいんですけど。」
「はい。ではこちらの用紙に必要事項を記入してください。」
イサキが声をかけるとカウンターに座っていた受付の女性が紙を渡してきた。
「オレ達3人は外国人なんですけど、大丈夫でしょうか?」
「はい。問題はないです。冒険者ギルドは冒険者の素性は問いませんから。あ、文字はわかりますか?わからないならならこちらで代書しますが。」
「あ、大丈夫です。」
イサキの言う通り外国人でもオッケーだった。しかも住民票みたいなものもいらない。ゆるい。ゆるすぎる。日本だったらオレ達3人は出入国法違反で即刻逮捕の上に祖国に強制送還だな(笑)。
王国の冒険者ギルドと同じように冒険者プレートを作り、冒険者ランクにランクインしてオレ達の登録は完了した。
「これであなた達3人の登録は完了しました。あなた達はこれでFランク冒険者に登録されました。冒険者のランクはSからFまでありまして・・・・」
「ちょっと待って。要するに最低ランクって事だろう。私はこう見えてもジパンじゃ数少ない超特級ランクの冒険者だったんだよ。それが最低ランクだなんてないんじゃない?こちらのお二人さんだって王国じゃ名の知れた冒険者なんだよ。今更薬草集めや町の何でも屋みたいな事はやってられないよ。」
受付のお姉さんの説明を遮ってイサキが文句をつけ始めた。最低ランクのFだとダンジョンにも潜れないので、イサキの言う事も分かるが、
「ちょっと、イサキ。」
「良いのよ。アメリ。言いたいことは最初にちゃんと言っとかないと。あんたも今更薬草集めなんかしたくないでしょ。」
「ま、まあ、そうだけど。」
「言いたいことはわかりますけど、ここはジパンでも王国でもないですからね。イーラムにはイーラムのルールがありますから。どんなにごねられてもF級から始めてもらいます。」
お姉さんも負けていない。
「あんたに言っても無駄みたいね。冒険者ギルドで一番偉い人、ギルド長を出してよ。」
出た。クレーマーの常套句、責任者を呼べが出たよ。
「ギルド長?ギルド長なら目の前にいますが。」
「目の前?目の前って、掃除のおじさんしかいないじゃない。」
イサキの言う通り、オレ達の近くにいるのは清掃作業をしているおじさんだけだった。
「ギルド長!代わってくださいよ!」
「はいよ。威勢のいいお姉ちゃん達だな。」
掃除のおじさんが返事をしてカウンターの中に入って来た。ここは掃除のおじさんがギルド長なんか?いや、ここのギルド長は掃除までするんかい。掃除のおじさんぐらい雇えよ。
「なんでギルド長が掃除をしているかって。これは私の趣味なんですよ。こうやって掃除をしていると冒険者ギルドの建物もきれいになるし、冒険者ギルドに来るゴミも排除できますしね。」
「な、私がゴミだと言うんかい!」
「いやいや失言でした。すみません。例えばの話ですよ。お気を悪くなされないように。こうやって掃除をしていると冒険者の生の声と言うか本音を直接聞けますからね。あなた達3人は話しぶりからして、本当に実力者みたいだし、悪い人でもなさそうですね。
よし!特例だ。ギルド長権限で特別にD級にしよう。
ただし、何でも良いからその実力の片鱗を見せてくださいよ。」
「よし!わかった!」
そう言ってイサキは懐から式神を取り出そうとした。
「待って!イサキ!取っておきの技はそんな簡単に聴衆にさらしたらダメだよ!」
そう言ってオレはイサキを制した。
「ギルド長、あなたも相当腕が立つ方だとお見受けします。王国では達人は握手しただけで相手の力量がわかると言います。それにこれから末永くお世話になる事ですし、一つオレいや私と握手してもらえないですか。」
「お、王国流の挨拶だね。君みたいなかわいい子と手を繋げるんだもの、もちろん良いよ。」
そう言ってギルド長はオレに手を差し出した。
ニコニコ笑っていたギルド長の顔がオレと握手した途端にひきつってきた。それどころか脂汗を流し始めた。
「ギルド長!どうしたんですか?」
オレは白々しく聞いた。
「わ、わかった!君たちの実力は!」
そう言ってギルド長はオレからあわてて手を離した。
「じゃあ。合格ですか?」
「もちろん合格だ。これからもよろしく頼むよ。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「「お願いします。」」
オレが頭を下げるとイサキとサオリもあわてて頭を下げた。
「アメリ、さっきは何したの?」
冒険者ギルド内のラウンジでエールを飲みながらイサキが聞いてきた。
「うん?握手しただけだよ。達人は達人を知るってね。」
「何カッコつけてるのよ。電気を流したんでしょ。どうせ。」
サオリがオレの代わりに答えた。
「バレたー?でもさすがはギルド長だわ。誰かと違って気絶しなかったわ。」
「ふん。悪かったわね。私が弱くて。でも私でさえ気絶したのに耐えられるってギルド長って相当な実力者って事ね。」
「まあ。イサキの時と違って随分と手加減はしたからね。でもギルド長だってLV40近くあるよ。この場で一番の実力者だわ。」
「ふーん。やっぱり一番強い人がギルド長になるんだね。」
「うん。ギルド関係者は冒険者あがりが多いからね。それよりもD級にしてもらえて良かったよ。これで明日からダンジョンに潜れるよ。」
「そうよ。私に感謝しなさいよ。」
「はい。感謝します。イサキさん。ありがとうございます。」
「よし。よし。ところであんた達どこに泊まってるの?」
「うん。オレ達は今朝まで荷下ろししている船に泊まってたんだ。」
「え?じゃあ本当にペグーの町に来たばっかりなんだ。それで来た早々に私を追っかけてきたんだ。あんたら、バカ?」
「バカと言うかアメリは脳みそまで筋肉までできてるからね。思いついたら即実行するのよ。わたしはそんな脳筋に巻き込まれただけよ。」
「来た早々にイサキに出会えたのは女神様の引き合わせだと思うんだよね。なんせオレには女神様の加護があるからね。」
「女神様の引き合わせでサオリにも出会ったんだよね。でもサオリって王国人なのにジパン人の私とよく似た顔してるじゃない。どうして?」
「それはね・・・・」
サオリは自分が異世界から来たことを丁寧に説明した。以外にもイサキはビックリする事無く話を理解して聞いていた。
「やっぱり、サオリって勇者様じゃないの。」
「だから違うって。」
「私達のジパンって国は約100年前に勇者様が建てた国なんだけど、その勇者様が異世界から来たのは子供でも知ってるよ。ジパンでは。」
「え!やっぱりそうなんだ。それでお米や味噌醤油があるんだね。ジパンて国の名前もそうだし。」
オレは前からうすうすそう思っていた。王国だけでも何人も転生者がいるんだ、当然外国にもいるだろうと。
「このアメリだってねぇ。こんなかわいい顔してるけど中身は異世界の男なんだよ。」
「え!」
「だから魂の半分だけだって。」
サオリのせいでオレは自分の境遇を告白する羽目になった。サオリの異世界転移には驚かなかったイサキだがオレの異世界転生にはビックリしていた。
「じゃあ。アメリって男なの?女なの?」
「え!見ての通りのかわいい女の子だよ。元々人間の女だって半分は男なんだよ。生物学的に。」
「え!そうなの?」
「そうだよ。男と女の違い何てそんなにないんだよ。」
「アメリの詭弁に騙されてはダメよ。かわいい顔しててもこいつの中身はスケベな変態男なんだから。」
「えー!恐い(笑)」
「ち、違う!」
サオリのせいでイサキに距離を置かれてしまった。せっかく仲良くしようと思っていたのに。
「なんか衝撃の告白のせいで私の告白しようとしていたことなんかかすんじゃうな。」
「え!何?」
「うん。さっきジパンは勇者が建てた国だって言ったよね。実は私その勇者の子孫なんだ。」
「「えー!」」
オレとサオリは二人してビックリした。
「じゃあ。イサキは王女様なの?」
「いや。違うよ。ただの市民よ。ジパンには王様はいないんだよ。」
「じゃあ、ジパンで一番偉い人は誰?」
「一番偉いかどうかは知らないけど、総理大臣って言うのがいるね。選挙で選ばれた。」
ジパンの勇者様は議会制民主主義の国を作ったんだ。ハーレムを作ろうとしているどっかのアホ勇者と違って本当に偉いな。
「じゃあ、イサキのその技は勇者様の直伝って事ね。」
「式神の事ね。これはおじいちゃんに習ったんだけど。おじいちゃんはそのおじいちゃんの勇者様から習ったって言ってたわね。」
「やっぱりね。その初代の勇者様は陰陽師だったんじゃないの?」
「良くわかったね。その通りよ。」
「うん。オレも半分は日本人だからね。陰陽師については良く知ってるよ。安倍晴明の子孫で式神を使って魔物を退治する人でしょ。」
「まあ。大体はそんなところね。初代は日本にいた時から元々陰陽師だったから、この世界に良くいる魔法使いにはならなかったみたいね。」
「そのご先祖様のように強くなりたいんだね?イサキは。」
「うん。まあね。」
「よし!オレ達と一緒に強くなろう!」
「お、おう!」
「盛り上がってる所、悪いんだけどさ。さっきも言ったようにわたし達、船から降りたばっかりで今夜の寝る所を早急に探さないといけないんだけど。」
「じゃあ。私の泊ってる宿に来なよ。外国人向けの宿だからきれいだし、お値段も手ごろだよ。」
「お風呂は付いてる?」
「もちろんだよ。」
「じゃあ。そこに決めようか。サオリ。」
「うん。まあ、見てからね。」
イサキの案内で行った宿はきれいだし、値段も手ごろだった。オレとサオリはそこを定宿にすることに決めた。
ここがオレ達のこれからの拠点になるんだ。イーラム国でのオレ達の冒険はここから始まるんだ。よーし!頑張るぞ!
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