第231話 ついにイーラム到着
水平線の果てについに陸地が見えた。オレ達は舵を取る船長の知らせで全員船室から出てきて、その小さな点のような景色を見て歓声をあげた。思えば長かった。一か月近くもこの狭い船の中に閉じ込められていたんだ。そして見える景色と言えば、どこを見渡しても360度海、また海。もうおかしくなりそうだったよ。それがついに終わるんだ。オレ達はついに東の大陸、エイジアに到達したんだ。
小さな点がどんどん大きくなり、やがては目に入る景色の大部分を占めるようになってきた。
「なんか見渡す限り木一本生えてませんね。」
「ああ。イーラムはほとんど砂漠の国だからな。」
オレはエイジア大陸の一部分だと思うが、船から見えるその異様な景色に違和感を覚え、となりで景色を眺めていたカーボに聞いてみた。
「砂漠?砂漠って事は雨が全然降らないんですよね?そんな所に人が住んでるんですか?」
「ああ。砂漠でもオアシスや大河のほとりは水が豊富にあるからそう言う所に村や町があるんだよ。」
カーボの言う通り、エイジア大陸西の玄関口、ペグーの町は大河の河口で発展した町であった。船はある港に入って行ったが、その港は海でなく河の中にあると言う事だったが、海のように大きな河で海だろうが河だろうがオレにとってはどうでも良い事だった。
港に入ると小舟が横付けしてきて検査官が数人乗り込んできた。積み荷のチェックと関税の徴収のためである。積み荷の検査が終わるといよいよ陸付けである。
船は無事長旅を終えイーラムの西の玄関ペグーの町に到着したわけだが、これからがオレとサオリは忙しくなるのであった。船室の荷物をペグー港の波止場に降ろさなければならない。毎日朝から晩まで荷下ろし作業をした。荷下ろし作業が終了したころにはさすがのオレ達もへろへろだったよ。
港の税関を通っていよいよオレとサオリは解放された。三か月後の帰りの船の時間まではオレ達は自由だ。カーボ達商人はまだ手続き等で忙しいとの事で、ペグーの町の簡単な地図を描いてもらいオレ達だけで探索することにした。イーラム語を習っといて良かった。
「まったく知らない外国に来ちゃったけど、これからどうする?アメリ。」
「うん。カーボさんの話によるとこの国にも冒険者ギルドがあるみたいだから、まずはこの地図を見ながら行ってみようか。」
「そうだね。外国人のわたし達が登録できるかどうかわからないけど住む所ぐらいは斡旋してくれるよね?」
「うん。困った時の冒険者ギルドだ(笑)」
オレ達は町並みを見物しながら歩いた。王国の木でできている家と違ってこちらの家はレンガを組み合わせてできていた。家一つ見てもここが遠い異国であると実感できた。そして住んでいる人々であるがサオリと同じ黒目黒髪であるが、サオリと違って濃い顔で肌の色も浅黒かった。オレ達がイーラム人が珍しいようにイーラム人にとっても異邦人のオレ達が珍しかった。どこへ行ってもじろじろ見られるので、お店で買った黒い布で現地の女の人のように顔を隠す事にした。この布は便利だった。これをかぶっていればオレ達が外国人だとばれないし日焼け止めにもなった。ついでに洋服屋で現地の服を買い、現地の人と同じ格好をした。これで完璧だ。どっからどう見てもペグーの町娘だ。
オレ達は人波に紛れてペグーの町を観光しながら歩いた。
「ねぇ、アメリ。こないだ戦ったけど、鳥の魔物ってやばいよね?」
「うん。空に逃げられたら手も足も出んよね。」
「アメリの卑怯技で翼を封じられたから勝てたけど、でなかったらやられるか逃げられるかのどっちかだったよね。わたし達も空が飛べたら良いよね。」
「卑怯技でなくて頭脳作戦ね。で、なんでいきなりそんな事を言うんだい?」
「ほら、あそこ。」
「え?」
サオリの指す方向を見ると、なんと人が空を飛んでいた。
「な!なにー!サオリ!追うぞ!」
「え!ちょっと!」
走り出したオレをサオリはあわてて追いかけてきた。
その人は街の上をゆっくりと飛んでいたが、空の上は道に関係なく進める。対してオレとサオリは道なりにしか進めない。だから見失わないように必死で走って後を追いかけた。いくつもの通りを超えた所でその人は地上に降り立った。
「なんなの?あなた達は?私に何か用?」
「す、すみません。わ、わたし達は、怪しい者じゃありません。はぁ。はぁ。はぁ。」
「オ、オレ達は初めて空を飛ぶ人を見たもんで。はぁ。はぁ。はぁ。」
「うん?なんか言葉が変ね。もしかして外人さん?」
「は、はい。オレ達は船で王国から来ました。はぁ。はぁ。」
オレは顔にかかったベールをずらして答えた。
「え!ストーカーかと思ったらかわいい女の子じゃないの。それでそのかわいい外人さんの女の子達が私に何の用?」
「た、単刀直入に言いますとその空を飛ぶ魔法を教えてください。はぁ。はぁ。」
「あちゃー。歩くのが面倒くさいもんだからつい空飛んじゃったら、もっと面倒くさいのが付いてきたもんだ。教えるって言ってもねぇ。私もこの国の人間じゃないんだよ。」
そう言ってその人もベールを取った。そこにはサオリと同じいや同じ系統の顔があった。そこには黒目黒髪の和風美人さんがいたんだ。
「あ!その顔はジパンの方ですか?」
そう言ってサオリもベールを取った。
「え?あなたも?」
「いや。わたしは王国の孤児なんですけど。」
咄嗟にサオリは嘘をついた。
「ふーん。まぁいいけど、私は見ての通りのジパン人で先週この国に着いたばかりなんだ。それでさあ。生きていくためには早急にお金を稼がないといけないわけさ。それで悪いんだけどあなた達にかまってる暇がないんだよね。」
「え!お姉さんは何のお仕事をされてるんですか?」
「私?私は見ての通り冒険者よ。」
サオリの問いに冒険者と答えた。冒険者と言ってもオレとサオリは丸腰だが、言われて見ればこのジパン人の女の人は腰に刀を差していた。
オレはあわてて彼女を鑑定した。
イサキ
陰陽術剣士
LV40
HP A
MP B
スキル 魔法剣 陰陽術
凄い。メアリー師匠と同じく一般の人類のレベルをカンストしていた。いや、そんな事よりも陰陽術って何?オレは俄然目の前のお姉さん(イサキ)に興味が湧いてきた。
「申し遅れましてすみません。オレいや私はアメリと申します。そしてこいつはサオリと申します。私達二人はこれでも王国で冒険者の真似事をしてました。もし良かったら私達とパーティを組んでいただけませんか?」
「え!えっとー。私はイサキって言うんだけどさ。私も入るパーティを探してたから渡りに船なんだけど。随分と急な話だね(笑)私なんてただの初心者冒険者だよ。それでも良いの?」
「謙遜されなくても良いです。私にはあなたの実力が判ります。あなたが超一流の実力者だと言う事が。」
「空を飛んでたからそう言ってるんじゃないの?」
「いえ。違います。陰陽術って何ですか?」
「何!どうしてそれを?」
「だから。私にはわかるんですよ。」
「どうやらあなたには隠し事が通用しないみたいね。そうよ。私はこれでも祖国のジパンでは一二を争う冒険者だったの。でもある時から自分の実力が全然伸びてない事に気付いてね。もう冒険者も飽きたし、もうやめようと思っていたの。そしたら遠い西の大陸にはとんでもない実力の冒険者がいると聞いたもんでさ。そいつの実力を一目見たくてさ。それでとりあえずはイーラムまで来たって訳よ。」
とんでもない実力者ってタロウの事か?タロウの名声って東の大陸まで鳴り響いてるんだ。
「それってもしかしてタロウさんの事ですか?」
「あー。たしかそんな名前だったかな。知ってるの?」
「知ってるも何も、おんなじパーティを組んだこともありますよ。」
「え!本当?」
「本当本当」
「本当ならこちらからお願いしてでも仲間にしてもらいたいところなんだけど・・・・」
「要は実力を示せって事ですね。じゃあここはちょうど人気の無い裏通りだし、いっちょ組手でもしてみますか?」
「そりゃあ面白いけど、ルールはどうするの?まさか剣での殺し合いなんかせんよね?」
「もちろん私だってその刀で真っ二つにされたくはないですよ。それで私達が練習で良くやるんですけど。武器なし、致命傷の魔法無しでの申し合いなんかどうですか?」
「そりゃ面白そうだね。致命傷の魔法ってどんな魔法なのかわからんけど?」
「一発で致死になるエクスプロージョンとかですよ。あと手足がちょん切れる系も審判のサオリがくっつけてはくれるけどできればやめて欲しいですね。」
「要するに爆裂魔法や切断魔法はだめで火の玉魔法や炎魔法なら使っても良いのね?」
「そうです。火傷とかしてもサオリが治療してくれるので。」
「ふーん。サオリさんて治療師なんだ。じゃあ思いっきり魔法が使えるね。それでどうやったら決着がつくの?」
「はい。参ったって相手に言わせるか。気絶させるかです。」
「剣も刀も持ってない所からして魔法使い?私の刀を封じたから有利に立ったと思ってるかもしれないけど、私は刀よりも体術の方が専門よ。それでも良いの?」
「望む所です。」
「私も実はあなた達の実力はその隙の無さからわかっていたわ。王国の一流冒険者にジパンの冒険者いや私がどれだけ通用するか試してみたかったの。全力で行くからそっちも全力で来てね。」
「もちろんそのつもりです。サオリ!審判を頼む!」
「オッケー!じゃあ、わたしの始めの合図で始めてね!」
「「おう!」」
返事をしたオレとイサキはサオリを中心にして距離を取った。もちろんオレは呪文を唱えながらである。呪文を唱えているのはもちろん開始の合図と同時に魔法を撃つためさ。必殺技のファイアー突きを撃つためさ。悪いけど勝たせてもらうよ。獅子はウサギを撃つにも全力を尽くすって言うからね。LV40の相手でもLV60のオレが全力で相手させてもらうよ。
「じゃあ!二人とも準備は良いね!始め!」
「ファイアーボール!」
案の定イサキは今更なんか呪文を唱えてるけど遅い。オレのファイアーボールは見事にイサキの顔面を捉えた。
「そして突きー!」
オレは燃え盛るイサキの顔面に必殺の右ストレートをぶち込んだ。え?なんで燃えてるの?いやそれよりも空振りしちゃったんだけど。
「直突き!」
カウンターの突きをもらって吹っ飛んだのはオレの方だったー。
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