第230話 VS大鷲
食事に夢中のビッグイーグルはオレとサオリの背後からの接近に気付いていない。いや、気づいてるのかもしれないけど取るに足らない存在として無視しているのかもしれない。それもそのはずだ。ビッグイーグルは翼を広げると3メートルはあるかと言う大鷲だ。人間なんてただの餌としてしか見てないんだろう。
いきなり斬りかかっても良いがHPの高さから見て一刀両断ってなわけには行かないだろう。それならこうだ。オレは瓶いっぱいの油をビッグイーグルにぶちまけてやった。
「クケー!」
突然の油攻めに驚いたビッグイーグルは食事を中断して大空に飛び立った。そして大空を旋回すると食事の邪魔をした張本人であるオレの前に急降下して降り立つと、その鋭い足の爪でつかみ掛かって来た。オレは左手に構えた盾でその爪を防ぐと同時に右手に持った剣で斬りつけた。しかし思ったよりもその足は硬かったので足を斬り落とすまではいかなかったが、ビッグイーグルにオレをつかむのをあきらめさせるに十分だった。つかむのをあきらめたビッグイーグルは再び大空に舞い上がった。
今度は狙いをサオリに絞ったビッグイーグルは足の爪を突き刺さんとばかりに急降下してきた。サオリは縮地で爪攻撃をかわすと振り向きざまに斬りつけたがビッグイーグルは通り過ぎた後だった。
空からの攻撃は思った以上に厄介だった。足の爪でつかむか引っ掻くしか攻撃パターンのないビッグイーグルだがこれが上空からだと見にくい上に避けずらい。鷲に襲われたネズミみたいなものである。ネズミなら逃げ回るだけだが、ネズミと違ってオレには剣と言う武器もあれば考える頭もある。黙ってやられはしないぞ。しかしここは甲板の上だ。身を隠すところも無い。逃げ回っていただけではいつかやられてしまう。
「サオリ!必ず勝機はあるから今は逃げに徹して!」
「オ、オッケー!」
その後も何度も何度もビッグイーグルは空から襲って来たが、そのワンパターンの攻撃はオレとサオリに見切られてしまってもはやかする事もなかった。
逃げ回るオレ達を捕まえる事も傷つける事もできないビッグイーグルはとりあえず一旦地上に降りて翼を休めて次の手を考える事にした。甲板の上に降りればうるさいネズミどもが襲ってくるかもしれないのでネズミどもが絶対に手が出せない所に降り立った。木の上に降り立つのは鳥の習性である。大きな鳥の魔物であるビッグイーグルも船で唯一大木のようにそそり立つマストの上に降り立った。
「サンダガビーム!」
この何もない海上で唯一鳥類が安心して降り立てる所、マストに絶対降りると思ってオレは呪文を唱えつつずっと狙いを定めてきた。飛んでいる鳥を撃つのは難しいが木にとまっている鳥を撃ち損じるハンターはいない。オレのサンダガビームはもちろん当たった。当たってもビッグイーグルのHPの多さから必殺にならないのも知っている。だが何秒かは意識を刈り取れる。
「サオリ!気絶している今がチャンスだ!燃やしてくれ!」
「ファイガ!」
オレの指示であわてて無詠唱でサオリは魔法を撃った。普通なら動き回る鳥にじっくりと燃やす範囲魔法のファイガは絶対と言って良いほど当たらないが、何秒か気絶している今なら遠く離れたマストの上であろうとサオリは外さない。
身を焼かれる激痛に目を覚ましたビッグイーグルは慌てて飛び立とうとした。しかし燃えているのは先程オレに油をぶち撒かれた羽である。必死で羽ばたくが失速して甲板の上に堕ちてきた。甲板の上に堕ちてきたビッグイーグルは水浴びでもするかのように羽を甲板にこすりつけてその火を消した。
「ほーう。そんな火の消し方があるのか。やるじゃない。」
「アメリ!なにのんびりと感心してるのよ!とどめを刺すよ!」
そう言ってサオリは追撃のために走り出した。オレもあわてて後を追った。
ところが自身の火を消したビッグイーグルは素早く起き上がるとジャンプしてその鋭い爪をかざしてキックしてきた。ビッグイーグルはもはや死に体だと思っていたサオリはよもやのカウンター攻撃を受けてしまった。サオリはオレの前まで蹴り飛ばされてきた。
「サオリー!ハイヒール!」
あわてたオレは回復魔法でサオリを癒した。
「だ、大丈夫!爪は盾で防いだから!」
そう言ってサオリはすぐに起き上がったが少なからずダメージは受けているのは間違いない。
「サオリ!さがって後ろから魔法攻撃!前はオレに任せろ!」
「お、おう!」
オレは大事を取ってサオリをさがらせた。さがらせたは良いがこいつは厄介だった。大きな鳥であるビッグイーグルはオレの剣が届く範囲はその大きな足だけである。しかもこの足は非常に硬くてオレの剣が通らない。
それならこうだ。オレはビッグイーグルの蹴りを避けるとジャンプして体を斬りつけたがその豊富な羽毛に阻まれてうまく斬れなかった。それどころか着地と同時に強力な蹴りを受けてしまった。
「アメリー!」
すかさずサオリが心配して声をかけてくれたが、もちろんオレは盾で防いだから平気である。
右手を上げてサオリに無事をアピールするとオレは指示した。
「サオリ!サンダガで気絶させて!」
「ラジャ!」
答えるとサオリは呪文を唱え始めた。
オレはビッグイーグルが詠唱中のサオリに向かわないように剣で斬りつけて牽制した。
「アメリ!どいて!」
「お、おう!」
「サンダガ!」
オレが縮地で距離を取るやいなや巨大な雷がビッグイーグルを襲った。ビッグイーグルは再び気絶した。チャンスだ。オレは再び大ジャンプをした。今度は斬りつけることなく羽の上に飛び乗った。さらには前倒しで唱えておいた魔法を首に撃った。
「ファイガボール!そして突き!」
さすがのビッグイーグルも首には身を守る羽は生えてはいない。せいぜいふかふかの羽毛が生えているだけである。その羽毛も先程の大やけどで大部分を失っていた。おれの十八番である火の玉突きはビッグイーグルの急所である首に深々と突き刺さった。
オレは剣をビッグイーグルの首に突き刺したまま素早くビッグイーグルから飛び降りた。
「サオリ!オレの剣に向ってサンダガをどんどん撃って!」
「オッケー!サンダガ!サンダガ!サンダガ!サンダガ!サン・・・」
オレの剣が避雷針となってサオリのサンダガはどんどんビッグイーグルに当たった。しかもその電撃は剣を通してビッグイーグルの体内に直接流れた。これではさすがのビッグイーグルでもたまったものではない。どんどんHPを減らしてついには絶命した。
「アメリ!やったの?」
「おう!お疲れさん!」
オレとサオリはハイタッチをした。
オレがビッグイーグルに刺さった自分の剣を抜いていると、船室に隠れていた船員達がどっといっぺんに外に出てきた。
「すげえ!俺はビッグイーグルがやられるのを初めて見たぜ!」
「俺もだ!ビッグイーグルって倒せるんだ!ビッグイーグルに会ったら隠れるしかないと思っていたぜ!」
「誰だよ!クライがナンバーワンみたいな事を言ってたのは?」
「そりゃ。お前だろ!ナンバーワンはアメリとサオリのコンビだぜ!」
「違いねぇ!」
「確かに俺なんか足元にも及ばない実力者だぜ!負けました!」
ビッグイーグルが倒されてもう襲われる事なく一安心した船員達は大騒ぎだった。
大騒ぎが一段落するとクライの仕切りで今度は大鷲の解体ショーが始まった。もちろんビッグイーグルの爪もくちばしも良い金になると言う事でクライ達はほくほく顔であった。ちなみに海で獲った物は船の乗組員全員で山分けすると言うのが船のルールであった。
「いやあ。大鷲も大蛇ほどじゃないけど旨いんだよね。今夜はごちそうだぜ。」
「クライさん。その大蛇なんですけど。」
ビッグイーグルの解体作業を嬉々として行っていたクライにオレは申し訳なさそうに言った。
「え?どうしたんだい?アメリちゃん。」
「実は大鷲にかけた油が凄い匂いでして・・・・」
それを聞いたクライは血相を変えてブラックシーサーペントの元に急いだ。
「なんだこれは!酷い匂いじゃねえか!とてもじゃねえが!食えたもんじゃねえ!」
ビッグイーグルにかけた油はビッグイーグルが食べていたブラックシーサーペントにも当然のようにかかっていた。この揮発性の凄い匂いは洗ったぐらいでは落ちなく、ブラックシーサーペントの肉は廃棄処分となった。その上ペナルティとしてオレとサオリは油で汚れた甲板の掃除をさせられた。
「なんでわたし達が甲板の掃除をさせられるのよ。わたし達は大鷲を退治した英雄じゃないの。その英雄をこき使うなんて。納得いかないわ。」
「すまん。サオリ。オレが油をまいたばかりにみんなの楽しみを奪ってしまったから仕方ないよ。」
「本当に後先考えない脳筋なんだから、でもその脳筋のおかげで勝てたんだから仕方ないか。」
オレ達は文句を言いながらも甲板をきれいに掃除した。文句を言っていたが掃除自体はそんなに嫌いではなかった。なんせ船の上はすることがなくて退屈だからね。仕事をもらえるのはうれしい事なんだよ。
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