第229話 黒ウミヘビ来襲
リオをキンリーまで送ると名残惜しかったがオレ達はすぐにカウイ島に戻った。キンリーはまだ昼間だが時差の関係でカウイ島はもう真夜中だからね。早く宿に戻って寝ないと、夜更かしは美容の大敵だぜ。
宿は波の音しか聞こえない南国情緒たっぷりで静かで良い宿だった。宿の食堂では船の乗員達がまだ寝ずに酒盛りをしていたが、メガロクラブとの一戦で疲れきっていたオレとサオリは参加せずにすぐに寝たよ。
翌朝オレは波の音で目を覚ました。サオリは既に起きて身支度をしていた。
「おはようアメリ。体はもう良いの?」
「おはようサオリ。一晩寝たおかげで絶好調だよ。今ならメガロクラブも瞬殺できるよ。」
「どうやら無事みたいね。メガロクラブは置いといてそろそろ食事の時間みたいだからアメリも起きたほうが良いよ。」
「オッケー。すぐに準備するから待ってて。」
オレはベッドから起き上がると顔を洗いに洗面所の方に向かった。
食事はパンとスープとサラダの簡素な物だったがこれからの船上生活を考えると新鮮な野菜はありがたかった。もちろんオレのアイテムボックスには新鮮な野菜もどっさりと入ってるんだけど、他の乗組員の目もあるから大ぴらには食えないからね。食える時にしっかりと食っておかないと。
宿を引き払って船に乗った。簡単な点呼の後、船は定刻通りに出航した。これでしばらくは陸とはお別れである。またあの退屈な生活が始まるかと思うと辟易する。こんなことなら魔物でも良いから襲ってきてくれよと不穏な事をつい考えてしまう。そんな事を考えていたから罰が当たったか、船がいよいよ外洋に出ようかと言う時に本当に魔物に襲われてしまった。
最初に気付いたのは船を操る船長だった。海上に漂う黒い物に船長は最初クジラだと思い衝突を避けるために大きく右に舵を切った。なんとか衝突は避けれたがあろうことかその黒い物が船を追いかけてきたのであった。
船長はすぐに総員に戦闘開始の合図をした。交易船の船員は船を動かすのみならずいざと言う時の戦闘員でもあった。もちろん乗客のオレ達にも参戦の義務があった。
オレとサオリも他の乗客と一緒に船室から甲板に出た。甲板では船員達が船を追って来る黒い頭に銛を投げていた。
「な、何?もしかしてまたシードラゴン?」
「違う。龍じゃない。海ヘビだ。ブラックサーペントだ。」
サオリが間違うのも無理はない。巨大な頭と胴体はオレ達が死ぬ思いで倒したシードラゴンの頭と頸にそっくりだった。しかもオレの大嫌いなヘビの魔物だ。うねうねしながら泳いでくるー。オレは戦う前からすでに戦意喪失していた。
「アメリ。どうしたの?顔色悪いよ。」
「オ、オレヘビが苦手なんだ。サオリも知ってるだろう?」
「え!そうだっけ?でも苦手とか言ってる場合じゃないよ。」
「そ、そうだね。」
オレ達は戦闘中の船員達に加わった。まずは味方の戦闘力の把握だ。オレは素早く全員を鑑定した。ほとんどの者がLV20以下の船乗りであるが一人だけLV30の魔法使いがいた。
「アメリ。どうするの?」
「うん。あの魔法使いの男がリーダーみたいだから、とりあえず指示に従おう。」
「オッケー!」
魔法使いの男はクライと言い船専属の護衛傭員、要するに用心棒であった。船から海面まで距離があるために剣や斧では届かない。そのため槍や銛などの射程の長い武器、遠距離攻撃のできる魔法使いが有効と言う事か、それで用心棒も剣士でなくて魔法使いなのか。オレはサオリに長槍を渡すと自分も一本持った。
ブラックサーペントはシードラゴンとかに比べればそこまで大きい魔物ではない。そのため船その物を攻撃する事はなく、船の上のオレ達人間をなんとか食わんとして船によじ登ろうとしていた。船員達はそんなブラックサーペントを船に登らせまいとして攻撃していた。
「絶対に船に登らせるなよ!槍を持ってる者は前に出て突け!」
「「おう!」」
クライの指示でオレとサオリは前に出てブラックサーペントを攻撃した。ブラックサーペントはウミヘビの魔物だけあってHPが多くてなおかつタフである。オレとサオリは必死に攻撃したが致命傷には程遠かった。
「サオリ!目を狙え!」
「おう!」
致命傷を奪えないと判断したオレはブラックサーペントの視界を奪う事にした。しかしこっちも必死なら向こうも必死なんである。簡単には目を突かしてはくれない。
「なら、これだ!」
オレは船に積んであった銛を一本つかむとブラックサーペントに投げつけた。銛はオレの最も得意とする武器なんだ。オレの投げた銛は見事にブラックサーペントの目に突き刺さった。
「グギャー!」
悲鳴をあげたブラックサーペントはいったん海に逃れて体制を整えようとした。
「おっと!銛にはロープが付いてるんだぜ!逃がすかよ!サオリ!手伝って!」
「おう!」
オレとサオリのみならず周りの船員達もロープを引っ張ってくれた。
「よし!よくやった!魔法でとどめを刺すからそのまま魔物が逃げないようにしててくれ!」
そう言ってクライが呪文を唱えながら前に出てきた。
「サンダー!」
オレの銛で大分弱ってはいたが海の魔物はやはりサンダー系の魔法に弱い。クライの魔法一発で絶命した。
「やった!やった!」
「すっげー!」
「さすがはクライさん。」
「クライさんがいればこの船も安心だ!」
船員達は口々に魔法使いのクライを誉めたたえた。
「いやいや。そこのお嬢ちゃんの投げた銛がうまく良い所に刺さったおかげだぜ。」
クライ、良い奴。謙虚な奴。仲間を褒める事を忘れてないじゃないか。
「いやいや。マグレですよ。やっぱりクライさんの魔法が凄いからですよ。」
もちろんオレもクライを褒めるのを忘れてはいないぜ。
「まあ。魔法を撃って魔物を倒すのは俺の仕事だからな。よし!それじゃあ。その黒ヘビを引き上げようぜ。」
クライも加わってみんなでロープを引っ張ってブラックサーペントの死体を甲板に引き上げた。こうして改めてみるとやっぱりヘビだ。体長7~8メートルのアナコンダみたいなもんか。アナコンダは見たことないけど。
「この黒ヘビはいったいどうするんですか?」
「もちろん食うのさ。今夜はごちそうだぜ。」
クライに恐る恐る聞いたけど、やっぱり食うんかい。
「よし!みんな!さっそく黒ヘビの解体と行こうぜ!」
クライの号令で船員達による黒ヘビの解体ショーが始まった。大きな斧を持つ者が首を落として血抜きをした。そして皮を剥ぐ者、肉を切る者、その肉を薄切りにしてさっそく干し肉にする者、船員達は見事なチームワークであっという間に大蛇を解体していった。ちなみに牙には毒があるがその牙も牙の毒袋も大事な売り物になると言う事だった。
「黒ヘビは食べても旨いし、牙や皮も良い金になるしで本当に美味しい魔物だぜ。」
クライが上機嫌で言った。保存の効かない肉は食って、牙や皮の保存の効く物は航海の後で売って、そのお金は船員達で山分けするそうだ。
解体ショーの真っ最中の時であった。突然一羽の巨大な鷲が上空から襲って来た。鷲はブラックサーペントを解体中の船員達を蹴散らすと肉の塊をゆっくりとむさぼり始めた。
「やばい!ビッグイーグルだ!みんな!船室に避難しろ!」
クライの警告で甲板にいた船員達は我さきにと船室になだれ込んだ。
「くそー!今夜のごちそうが・・・・」
「俺達の分け前が減るぜ。」
船員達は口々に悔しがっていた。
「そんなにうまいんなら、オレ達が追っ払いましょうか?」
「え!お前さんあの大鷲が怖くないんか?」
無謀な事を言う奴めと船員Aがあきれて言った。
「そうだぞ。お前さん方がいくら腕に自信があっても相手が悪すぎるぞ。素早すぎて魔法も当たらんし、剣で攻撃しようと思っても空に逃げられるしで到底敵うもんじゃないぞ。」
用心棒のクライまで止めとけと言ってきた。
「でもあんなのに目をつけられたら甲板でおちおち昼寝もできないですよね。」
「まあ。しかたないさ。そのうちどっかに行くだろ。」
「えー。じゃあ。それまでずっと船室暮らしですか。オレは耐えられないですね。」
そう言ってオレはサオリと船室を飛び出した。
「ちょ!バカ!戻れ!戻るんだ!」
俺はちゃんと警告したからなとでも言いたげにクライは船室から出ることなく大声でオレ達に声をかけた。
「ちょっと。戻れって、言ってるけど大丈夫なの?」
サオリが心配して聞いてきた。
「まあ。メガロクラブよりは弱いでしょ。」
「えー!勝算も無いのにカッコつけてるの。この脳筋野郎!」
サオリがあきれて言った。
脳筋はリオだっちゅうの。しかしこれはちょっと厄介な相手かもしれない。HPの多さから魔法一発ってわけには行かないし、魔法を一回でも見せたら警戒して二度と魔法の射程には入ってこないだろうし、飛び回られたらその魔法も当てるのは難しいだろう。
「サオリ!魔法はオレが合図するまで撃たないで!」
「なんか作戦を考えたのね!わかった!」
オレ達はブラックサーペントを夢中で貪り食うビッグイーグルの背後に気付かれないように回った。お食事中悪いんだけどオレ達と遊んでもらうとするか。
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