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第224話 前衛アート2

 


 冒険者の朝は早い。まだ日も登りきらぬうちからダンジョンに出かける者も珍しくはない。その冒険者達を統べる冒険者ギルドの職員達の朝も当然早い。その日、早番だったエリーザはまだ夜も明けきらぬうちから冒険者ギルドへの道を急いでいた。エリーザの仕事は冒険者ギルドの受付である。急いでいたのはエリーザの到着前から気の早い冒険者達が少しでも良い依頼を取ろうと冒険者ギルドの前に並んでたりすることもあるからである。


 幸いな事に今朝は夜明け前から並んでいるようなバカな冒険者はいなかった。しかし代わりに大きな檻が冒険者ギルドの前に置かれていた。しかも暗くて良くわからないが人間らしき者が3人囚われているようだ。


「どうしたんですか?」


 エリーザの問いに答える者はいなかった。どうやら気を失っているようだった。エリーザは事態が良く呑み込めなかったが、とりあえずは宿直の職員のトマスに報告しようと思い冒険者ギルドの敷地の奥にある宿直室に向かった。


「トマスさん!トマスさん!大変です!」


 宿直室に入る前からエリーザは騒ぎ立てた。


「なんだ。朝からうるさいな。こっちも大変なんだよ。」


 眠たい目をこすりながら出てきたトマスの背後には3人の半裸の少女達が眠っていた。


「えーっ!お楽しみ中だったんですかー?そう言う事は家に帰ってからやってくださいよー。」


「違う!誤解だ!この子達は人さらいから保護した子だ。女の子二人の冒険者が奪還してきたんだ。それよりも何が大変なんだ?」


「あ。失礼しました。てっきりそう言う事をしてるのかと。ところで冒険者ギルドの前にいつの間にか大きな檻が置いてあるんですよ。」


「檻?」


「そう。檻。しかも3人の人が入ってるんですよ。」


「なんだってそんな物が?」


「わかりませんよ。とにかく来てくださいよ。」


「わかった。わかった。じゃあ見てこようか。女の子達を頼む。」


 そう言ってトマスが半信半疑で冒険者ギルドの玄関口まで行くと、なるほど確かに大きな檻が建物の前に置かれていた。


「おい!お前たち!大丈夫か?」


 トマスが中の男達に声をかけたがやはり返事はなかった。


 どうしたものかと思案していたトマスは1枚の紙片が檻に張られているのを発見した。


 ―この3人は美少女誘拐事件の犯人です。   アメリ&サオリ    ―


「アメリにサオリって言ったら女の子達を保護してきた二人じゃねえか。あの二人はどこに行ったんだ?」



 そう独り言を言いながらトマスは檻を調べ始めた。檻にはがっちりと鍵がかけられていた。扉をゆすったが開きそうにも無いので諦めて宿直室に戻った。


「どうでした?あったでしょ?」


「ああ。あったよ。どうやらこの子達を助けた冒険者達が置いて行ったみたいだな。」


「ええ!あんな大きな物をどうやって?中の人は?」


「わからんよ。中の人は犯人みたいだな。まあ扉には鍵がかかってたし逃げ出す心配もないだろう。とりあえず、これは置いといて開店準備だ。」


「は、はい!」


 そう言うと二人は寝ている三人の娘を起こしてあわただしく冒険者ギルドの本館の方へと急いだ。


 三人目の目撃者であるエスターが冒険者ギルドに到着したころにはもう辺りもうっすらと明るくなっていた。エスターはエリーザと同じく冒険者ギルドの受付の若い女の子である。早く来たのはやはりエリーザと同じく開店準備のためである。


「糞冒険者のテリーったら、この私に向って準備が遅いとか言うのよね。エリーザならもっと早くから受付してくれるとか。じゃあエリーザに頼みなさいよってんだよ。」


 独り言をブツブツ言いながら冒険者ギルドの前に着いた。大分ストレスが溜まっているようだった。


「え!なにこれ?ええー!新しい見世物?」


 そこには体中にボデーペインティングをした男達がいた。もちろんあそこは丸出しである。それどころか花を局部に挿している者までいた。


 その素晴らしいアートを十分に堪能してからエスターは中の男達に声をかけた。


「えっとー。大丈夫ですか?生きてますかー?」


 もちろん返事はなかった。


 しばらくサオリ作のアートを楽しんだ後、エスターは冒険者ギルドに入った。中ではトマスとエリーザが忙しそうに開店準備に取り掛かっていた。


「おはようございます。トマスさん。エリーザちゃん。」


「おう。おはよう。」


「おはようございます。エスターさん。」


 カウンターの中に私物の鞄を置くとエスターも開店の準備に取り掛かった。


「ねえねえ。エリーザ。前に置いてあるの。あれ何?」


「ああ。あれは冒険者が置いて行ったみたいですよ。」


「冒険者?最近の冒険者って芸術家の真似事もするの?」


「芸術?」


「うん。芸術。3人の男が全裸でパフォーマンスしているんだけど。」


「全裸?」


「うん。すっぽんポンポン。」


「えー!私が見た時は真っ暗で気づかなかったわ。」


「見に行く?」


「もちろん。」


 二人は仕事を中断して外に出た。トマスが呆れて呼びに来るまで二人はサオリ作の芸術をじっくりと堪能した。


 その後の首実検で誘拐犯に間違いないと分かった男達3人はそのまま放置された。男達3人が目を覚ましたのは日も高くなり、大通りの人の往来も激しくなった頃であった。元来娯楽の少ない世の中である。この男達の全裸パフォーマンスは往来を行きかう人々の足を止め、檻を取り囲む人垣を作っていた。


「な、なんだこれは!」


 あわてて前を隠すとあそこに飾ってあったお花が飛んだ。それを見た人々がどっと笑った。


 冒険者ギルドの中では朝の依頼ラッシュが終わり、手がすいたエスターとエリーザが一息入れていた。


「アメリとサオリって昨日エリーザが手続きした冒険者でしょ?」


「はい。イーラムに行く途中で寄っただけって言ってましたけど。今日の朝にはジップを発ってイーラムに行くって言ってましたけど。」


「じゃあ。今頃は船の中ね。」


「そうですね。」


「じゃあ。こっちに寄ったついでにたった一晩でA級の依頼である人さらい団の壊滅と女の子の救出をやってのけたの?」


「そう言う事ですね。」


「そして報酬も受け取らないで今は海の上?」


「そうですね。」


「何なの?いったい。」


「何でしょうね。」


 二人がため息をついている頃アメリとサオリは船の中で高いびきをかいていた。




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