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第222話 王都出航

 



 出航までの間、オレとサオリは毎日カーボの元に通いイーラム語とイーラム国の事を習った。日常会話程度は話せるようになった頃には出航も間近になった。出航も間近になると今度は船への荷物の積み込みで毎日朝から晩まで働いた。見た目か弱いオレ達二人はまともに荷物を運べるのかと心配されたが、冒険者としてレベルを上げたオレ達二人にとってはこんなものは楽勝だった。


 荷物の積み込みも終わり今日はいよいよ出航の日だ。リオ達美少女戦隊の面々も今日はダンジョン行を止めて見送りに来てくれた。ちなみに財産を分配してみんな大金持ちになったのに誰も美少女戦隊を抜けなかった。みんな戦闘狂?


「アメリー。お元気でねー。」


 リオはもう泣いていた。リオ。良い奴。オレはリオを抱きしめた。


「アメリさん。私達はあなたとサオリさんの事を忘れません。」


「ちょっとアーリン。オレとサオリはまだ死んでないよ。」


 笑いながらオレはアーリンと握手した。


「ワシはまだ諦めてませんぞ。」


「うん。きっと許可が下りるよ。」


 エイハブはイーラムへの船での渡航の許可を願い出ていたが、個人での渡航と違いなかなか簡単には許可が下りなかった。元が海賊なので無許可での渡航を企てそうだったがオレがきつく禁じた。


「アメリお姉ちゃん。無事に帰って来てね。」


「セナ。」


 セナはあれ以来オレの事を姉と慕ってくれていた。オレはセナの頭を撫でた。


 埠頭には乗組員の家族たちが集まってそれぞれに別れを惜しんでいた。


 ゴーン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!


 出航の合図のドラが鳴った。


「みんな。時間だ。元気でねー!」


 名残惜しいが別れの挨拶はここまでだ。オレとサオリは後ろ髪惹かれる思いで船へと乗り込んだ。


 船に乗り込んだオレ達はいったん甲板に集められ点呼の後、解散となった。船を漕いだり操ったりする水夫の他は甲板に残り最後の別れをした。船は徐々に陸を離れて行った。港を出るまでみんなは埠頭で見送ってくれた。港を出ると船は帆を張った。この季節に吹く西から東へと吹く季節風に乗って船は快調に走り出した。この世界の季節風は春は西から東へ、秋は東から西へと吹き、この季節風に乗って交易船は大陸間を行き来しているのである。まったく良くできたもんである。この季節風のおかげで人力と風力しか動力のない交易船でもはるか遠い東の大陸エイジアに簡単に行けるってわけだ。


 無風状態やめったにない逆風状態の時に櫓を漕ぐのを手伝う以外は基本的にオレとサオリの船での仕事はなかった。それでカーボ以外にもイーラムに帰るイーラム人の商人達にもイーラム語を習った。船の旅は本当に何もすることがないのだ。みんな暇を持て余しているからイーラム人の商人達も暇つぶしも兼ねて喜んでイーラム語の先生を引き受けてくれたと言うわけだ。外国語を習うには現地のネィティブに習うのが最善の策だ。若いオレとサオリはあっという間にイーラム語をマスターした。ついでにイーラム商人達と仲良くなった。イーラム人は日本人と同じ黒目黒髪であるが、目鼻立ちのはっきりした王国人のように濃い顔をしていた。ついでに言えば浅黒い顔でサオリのような日本人顔とは一目で違うとわかった。



 *



 船は東へと吹く季節風に乗って順調に歩を進めていた。そして今日は王国の東の果てジップの町に船は補給のために泊る。ジップの町を出れば王国とも西の大陸ユーロともいよいよお別れだ。別れを惜しんでと言うわけでもないが、明日の朝まで丸一日船はジップの港に泊まっている。オレ達船の乗員は明日の朝までフリーと言うわけだ。久しぶりの陸地だ。みんな喜び勇んでジップの繁華街へと繰り出した。オレとサオリはカーボに案内してもらってジップの町を探索した。ジップの町は東の大陸との玄関口であり異国情緒のあふれた町であった。黒目黒髪のエイジア大陸人と思われる人々もちらほらと見かけた。


「それでアメリとサオリ。君達は冒険者ギルドの次にどこに行きたいんだい?」


「そうですね。市場に行きたいですね。」


「え!市場?服屋や宝石屋じゃなくて市場?」


「まあそう言うお店は王都の方が良いお店がありますからね。」


 流行の最先端の服や宝石を王都で買えたんだ。いまさら田舎のお店に興味はない。それよりもジップの町ならではの特産品を買いたいと言うわけだ。


 オレとサオリは市場でカーボと別れた。


「カーボさん。うれしそうにどこ行ったのかしら?」


「バカだな。サオリ。若い男が久しぶりに町に来たんだぜ。行く所は一つだろう。」


「え?」


「おねぇさんのいるエッチな所に決まってるだろう?」


「もう。いやね。男って。」


「そう。男っていやなんだよ(笑)」


 魂が半分若い男のオレは若い男の考えていることも手に取るようにわかるって事さ。体は若い娘であるオレはもちろんそんな所に一ミリも興味ないけどな。本当だよ。まぁ。純情潔癖なサオリと違って若い男の行動に対してある程度の理解を示しているってわけだ。


 そんな事よりも市場だ。西の大陸と東の大陸の玄関口であるジップの市場はどっちの大陸の珍しい物も売っていた。


「あ、サオリ。醤油が売ってる。あ、味噌もあるよ。しかも安い。」


 東の大陸の特産品が大量に店舗に並んでいてキンリーで買うよりも大分お値打ちなのにオレが興奮していると。


「バカね。アメリ。これから東の大陸に渡ろうって言うのに、東の大陸の物を買ってどうするのよ。」


「あ。そうか。東の大陸に行けばもっと安いのか。ここは西の大陸。いや、ジップの町の特産品を買わないといけないって事か。」


 オレはサオリに引っ張られて東の大陸の商品を売っている店を出た。


 ジップの町と言えば海産物だ。ここジップの町は王都やオレ達の育ったセシルに比べ冷涼な気候で海産物も北方系の物が大量に獲れる。この世界でも海産物は北方系の物の方がだんぜん旨い。セシルでは珍しかったコンブも大量に売っている。魚やカニも選び放題だ。オレは手当たり次第買い集め、人気の無い裏通りでアイテムボックスに詰めた。これはオレ達自身で食うぶんだからそんなには買っていない。大量に買うのは西の大陸ユーロで獲れて東の大陸で獲れない物だ。要するにイーラム人の商人達やカーボがイーラムに輸出しようとしている商品だ。その中でもオレは砂糖に目をつけた。砂糖と言えば暑い地方の特産品に思えるかもしれないが、冷涼な地域でも砂糖大根から砂糖は作られている。そしてここジップは砂糖大根の一大生産地なのはカーボに確認済みだ。


 オレは砂糖や塩などの調味料を主に扱う店の店主に砂糖問屋を教えてもらった。東の大陸の特産品で超高級品の胡椒を惜しげもなく多額のお金を払って買ったオレに店主はニコニコ顔で教えるどころか店の若い衆を案内につけてくれた。


 市場の若い衆の案内で砂糖問屋に着いたオレは砂糖をこれでもかと買い占めた。店の店主は砂糖を買い占める二人の若い娘にビックリしていたが、本当にビックリしたのはその買い占められた砂糖の袋の山が魔法アイテムボックスで忽然と消えてしまったのを見た時だった。どこかに運んでからアイテムボックスにしまおうかとも思ったがそこに運ぶ手間を考えたら面倒くさくなって止めた。もちろん店主には口止めしておいたが噂が広がっても差し支えない。どうせ一日しか滞在しないからだ。


 市場に戻ったオレ達は、良い匂いがしたので買ったイカ焼きと貝焼きをほおばりながら市場をひやかして回った。ジップ名物の飴やキャンディーももちろん大量購入したぜ。


 今夜泊る宿を取った後はお酒と食事のために夜の町へと繰り出した。宿で客層の良さそうなお店を聞いてきたので若い娘二人のオレ達だが、いつものお約束通りに絡まれる事はなかった。


 しかし絡まれる代わりに後を付けられた。


「サオリ。後ろ気づいてるか?」


「うん。レストランから出た後からずっと二人付けて来てるね。どうする?やっちゃう?」


「うーん。何者か分からないのにやっちゃうのはまずいでしょ。とりあえずは相手の出方をうかがおう。」


「オッケー。」


 今日のオレ達は剣も防具も身に着けてないが、もちろん丸腰でもそのへんの夜盗に後れを取る事はないだろう。ただ一つ気がかりなのはオレとサオリは久しぶりの陸地にうれしくて羽目を外し過ぎて飲み過ぎたって事だ。冷静に会話しているように見えるが実は足元がおぼついていないのだ。


 見知らぬ土地と言う事もあり、後ろの二人に追い立てられるような形で人気の無い暗い路地裏に入り込んでしまった。路地裏に入ると案の定二人の男は小走りに走ってオレ達二人の前に出て、行く手を阻んだ。


「な、何ですか?」


 オレが問うと、覆面をした二人組は無言でロープを取り出した。


「サオリ。どうやら物取りじゃなくて人さらいみたいね。」


「人さらいって、何呑気に解説してるのよ。やるよ!アメリ!」


 オレ達二人が相手にわからないように日本語で話していると、覆面二人組はじりじりと距離を詰めてきた。


「ちょっと待って!サオリ!手を出したらだめ!」


「え?」


 サオリがあっけにとられているうちにオレ達二人はあっという間に縛り上げられてしまった。いくら無抵抗とは言え、この手際の良さ。この二人はプロだな。


「アメリ!縛られちゃったじゃないの!どうするのよ!」


「冒険者ギルドに人さらい団の壊滅ってクエストが出てじゃない。ついでだからこいつらの組織ごとぶっ潰してやろうぜ。」


「えー!バカじゃないの!明日の朝には出航なのよ!う・・・・・」


 サオリが騒ぐのでオレ達二人はさるぐつわをかまされてしまった。


「静かにしろ!と言っても外国人みたいだからわからないかもしれないけど、痛い目にあいたくなかったら言う事を聞け!」


 そう言ってサオリをつかんでいる男がナイフを取り出した。サオリとオレは無言でうなずいた。


「よし!効き訳が良いじゃねえか。しばらく大人しくしてくれよ。」


 そう言うと男達はオレ達に袋をかぶせやがった。


 あれ!これってやばくない?人さらいって決めつけてるけど、殺し屋だったらもう殺されてるんじゃないの?いやまだ殺されていないから殺し屋じゃないみたいだけど。


 オレ達二人はしばらく歩かされた後で何かの中に押し込まれた。その何かが動き出したので馬車の中だとわかった。馬車で移動って事はアジトに向ってるって事だな。ナイフでいきなりブスリが無くて良かったぜ。って、ふん縛られて目隠しまでされて良いも何も無いけどね。さてどうなる事やら。




 *********************















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