第221話 東の大陸に行くぞ
米や酒を買った事でどうしても東の大陸に行きたくなったオレは、輸入雑貨屋の店主からある商人を紹介してもらった。その商人は東の大陸エイジアとキンリーを結ぶ定期船で物を輸出入する事で利益を得ていた。その若い商人カーボは出航の日までしばらくあり、毎日暇を持て余していたからか若い女性であるオレとサオリに喜んで会ってくれた。
「こんにちは。カーボさん。アメリとサオリと申します。今日はお忙しいのにお時間作っていただいてありがとうございます。」
オレとサオリは待ち合わせの店でお茶を飲んでくつろいでいた男に挨拶した。
「あ、こんにちは。カーボです。出航の日までしばらくあって暇だから君達みたいな美人のお誘いなら喜んで受けるよ。君達も座って何か頼むと良いよ。」
オレとサオリはカーボと同じ席に着くとお茶を頼んだ。
「で、話って言うのはサオリさん君に関することかい?」
サオリに向ってカーボが聞いた。
「え?」
「まあそうです。東の大陸の人はみんな、ここにいるサオリみたいな顔をしているんですね?」
要領を得ないサオリに代わってオレが受け答えをした。
「いや。みんなってわけじゃないんだ。だけど、たしかに多いな。サオリさんはエイジア大陸の出なのかい?」
「わたしは孤児なもんで良くわからないんです。それでわたしと同じ顔をした人たちが住んでいると聞いたエイジアの事を詳しく聞きたいんです。」
事前の打ち合わせ通りサオリは異世界人である事を伏せてエイジアの事を聞いた。
「孤児なのか。悪い事を聞いたかな?」
「いえ、別に良いですよ。」
「わかった。じゃあエイジア大陸の事を話すよ。でも何から話せば良いかな?ああそうだ。まずは住んでる人達の事からか。」
カーボはエイジア大陸の事を語り始めた。エイジア大陸人は金髪碧眼の王国人と違ってサオリみたいな黒髪黒目の人達が多い事。パンの代わりに米を食べている事。戦士は刀と言う長剣を腰に差している事。西のイーラム、中央のカン帝国、東のジパンと3っつの大きな国がある事。サオリみたいな平べったい顔は東のジパン人の特徴である事等を話してくれた。
「ジパンかぁ。名前からして日本と関係あるのかな?」
「そうね。なんか怪しいね。ちょっと行ってみたいかな。」
オレ達がジパンと言う国名にひっかかって行ってみたいと話していると。
「うーん。そうだね。サオリちゃんはジパン人かもしれないな。でもジパンに行くにはカン帝国を抜けないといけないからなかなか厳しいぞ。」
と、カーボはエイジア大陸の政情について話し始めた。王国とも友好的で平和な他2国と違い、カン帝国は典型的な軍事国家で何かと両隣の二国と小競り合いを繰り返している危ない国であると言う事だった。
「じゃあ。ジパンはともかくエイジア大陸には渡れるんですか?」
「ああ。渡れるけど。定期船の定員にも限りがあるからな。観光目的だとまず許可は下りないな。」
オレの問いにカーボは渡航の手続きについて話始めた。カーボみたいな貿易商人が細々と行き来しているだけか。と言う事は貿易商人なら船に乗れるんだな。
「じゃあ。カーボさんみたいな貿易商人になれば渡れるって事ですか?」
「それも無理だな。俺がこの権利を得るのにどれだけ苦労したと思っているんだい。新規参入はほぼ不可能だぜ。」
うーん。やっぱり美味しい汁はそう簡単には吸わせてくれないって事か。
「じゃあ。貿易商人の使用人は?」
「使用人なら若干名大丈夫だと思うぞ。でもそんな物を募集している所あったかな?」
カーボが腕を組んで考えていた。
「よし!決めた。カーボさん。用心棒兼小間使いを2名雇いません?」
「え!君らを?冗談を言うなよ。」
オレとサオリの格好をあらためて見直してカーボは言った。
「オレ達じゃだめですか?」
「当たり前だ。行くのは海の向こうの外国だぞ。治安の良い王国とは違うんだぞ。それに道中の海では魔物も出るんだ。俺達は命がけで航海をしているんだ。お嬢さん達が観光で行くような所じゃねえんだぞ。」
カーボは声を荒げて言った。まあしかたない。オレ達はどっからどう見てもか弱い町娘だもんな。おじょうさまの気まぐれとでも思ったんだろう。それにこんな二人を用心棒としても荷物運びとしても普通は雇わんわな。なんか権威に頼るみたいで嫌なんだけど、しかたない。オレは冒険者プレートをカーボに見せた。
「これでも駄目ですか?」
「え!冒険者?しかもA級!A級冒険者でアメリにサオリ?アメリとサオリってもしかしてシードラゴンを倒したあのアメリとサオリか?」
「はい。そのアメリとサオリです。」
「こいつは驚いた。あのシードラゴン殺しのアメリとサオリか。とんだ有名人さんじゃねえか。だったらこちらからお願いしたいくらいだ。でも依頼料が高いんだろ?」
「いえ。オレとサオリのわがままで同行させてもらうわけですから相場通りで良いですよ。」
「よし!雇おうじゃねえか。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
オレ達3人はさっそく通関事務所に行って手続きをした。カーボの使用人と言う事が効いたのか、A級冒険者だと言う事が効いたのか、あっけなく渡航審査は通った。
*
「みんな。ちょっと聞いて欲しい。突然ですまないがオレとサオリは美少女戦隊を抜けたいと思っている。」
オレは晩飯を食べながらの会議でこう切り出した。
「また?得意の一時的な離脱ってやつでしょ?」
2回目ともなるとみんな驚かないのか冷静なもので、リオが代表して聞いてきた。
「それが今回は一時的な物には収まりそうもないんだ。」
オレは東の大陸に渡る事を順を追って説明した。
みんなは水を打ったように静かだった。ややあって、
「アメリ!サオリ!私らを今度こそ見捨てる気ね!」(リオ)
「私達の稼いだお金はどうなるの!」(セナ)
「毎度ですが急すぎます!」(アーリン)
「わしとマームはどうなるんじゃ!」(エイハブ)
前の時よりもみんなは大騒ぎだった。
「いきなりで本当にごめんなさい。でもオレとサオリはどうしても行きたいんだ。片道一か月に及ぶ航海を考えると美少女戦隊は抜けざるを得ないんだ。もちろん帰れば美少女戦隊には復帰したいと思ってるよ。見捨てはしないから安心して。それともしもの事があった事を考えて財産は公平に分けるよ。さすがに古参のリオとセナと新参のエイミーと同じ額にするわけには行かないからその辺は考慮するよ。船長とマームもこの際にオレと言う呪縛を逃れて自由にしたら良いよ。」
オレとサオリは土下座をしながら謝った。
「わかったよ。もうあんたらの勝手には振り回されないわ。好きにしたら良いよ。」
そう言ってリオはやさしく手を差し伸べて立たせてくれた。
「リオ。」
「その代わり、私も連れて行きなさいよ。」
「それが、もう渡航船の定員いっぱいなんだ。それにオレとサオリは事によると向こうの国に移住するかもしれないから王国人は連れて行けないよ。」
オレが申し訳なく言うと、
「やっぱり私達を見捨てる気じゃない。」
「いや。見捨てるのは王国だよ。王国を見捨てる覚悟があるのかリオは。お父さんやお母さん。弟妹を見捨てれるのか。君達王国人は王国を見捨てれないだろ。」
オレはみんなを見渡しながら言った。王国を見捨てる覚悟があるのか聞いたらみんな押し黙った。一人を除いて。
「私は見捨てれるわ。私には両親も兄妹もいないもの。私の居所はここしかないのよ。アメリ。サオリ。私はあなた達の事をお姉ちゃんだと思っているのよ。お姉ちゃんが王国を見捨てるなら私も付いていくわ。」
「セ、セナ。」
セナが泣きながら言った。一番クールだと思っていたセナの意外な言葉にオレは言葉が詰まった。
「わ、わかった。向こうの国に着いたら必ず帰って来るサオリのワープで。その時に王国を捨てる覚悟のある者はオレとサオリに付いてきてくれ。」
「ふん。私は絶対に付いていくわよ。」
リオがやる気満々で言った。
「ちょっと。リオさん。あんたお家への仕送りはどうするのよ。」
「今まで稼いだお金を分配するんでしょ。それをあげればうちの一家はもう一生遊んで暮らせるわ。私もこの国に縛られるものは無くなるって事よ。」
オレが心配して聞くとリオは心配ないと答えた。どうやらリオも連れて行かざるを得ないなぁ。
「ちょっと待ってくださいよ。セナさんにサオリさんまで抜けたら残るのは私達2軍だけじゃないですか。」
「うん。本当にすまないと思う。これを機会に辞めてもらっても仕方ないと思うよ。」
今まで黙っていたアーリンの言葉にオレは頭を下げて答えた。
「絶対に辞めませんよ。アメリさん達1軍の代わりに私達2軍がA級になるまでは死んでも辞めませんよ。そうだよね。エイミー。船長。マームさん。」
「「「おう!」」」
なんか2軍のみんなは結束を固めたみたいだった。
「わかった。誰も美少女戦隊は抜けないよ。東の大陸に渡ったら様子見に一か月に一度は帰って来るよ。」
「何言ってるんですか。どうせサオリさんのワープで一瞬なんだから一週間に一度は顔を見せに来なさいよ。」
「わかりました。新リーダーはアーリン。君に任せた。オレ達はただの平隊員として少しだけ自由に活動させてもらうよ。」
結局のところ、オレとサオリは美少女戦隊を抜ける事なく東の大陸に渡る事になった。そして東の大陸に渡ったらリオとセナも連れて歩く事になり、オレ達1軍のいなくなった美少女戦隊はアーリンが一時的に新リーダーとしてまとめる事になった。
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