第22話 なつかしき食べ物
リオはボス戦で攻撃を受けて倒れてしまった。ここは帰る潮時だが、オレはあることを思いついた。
オレ達は地下二階のボスを倒して引き上げようとしたが、オレはあることを思い立った。
「あ、でも、地下三階にちょっとだけ寄って行こう。」
オレ達は地下三階でボアロードを一匹だけ倒すと、サオリのワープでダンジョンを出た。
ダンジョンを出ると、メアリー師匠の家に行く前にオレは食料品店であるものを買った。
稽古が終わると、オレは料理を作ることをメアリーに申し出た。メアリーは快く了承してくれたが。
「そんなものを大量に鍋に入れてどうするの?」
食料品店で買ってきたあるものを大量に鍋に入れるとメアリーがびっくりして聞いてきた。
「まあ、わたしにまかせて、奥様は奥で休んでてくださいな。」
メアリーを座らせて、食料品店で買ったある物を入れた鍋を加熱した。十分に熱を持ったところで、あらかじめ買っておいて、アイテムボックスに切ってしまっておいた野菜を出して、その鍋に入れた。
ジュワー。パチパチ。
おいしそうな音をたてて揚った。
そう、オレは、天ぷらに挑戦をしていた。油はオリーブオイルで代用した。この世界の人たちはサラダにかけて食べる習慣があったので、油は簡単に手に入った。ただし、物を揚げて食べる習慣は無かった。オレ達の世界の料理で、簡単に実現できる物は何だろうと考えて、天ぷらをしてみようと思ったのであった。異世界人のリオやメアリーに受けるかどうかはわからないが、オレ自身が食べたかったから挑戦したのだ。
小麦粉はパンがあるから、簡単に手が入ったし、パン粉はあらかじめ自分で作っておいた。
なつかしくて、おいしそうなにおいと音を聞いて、気づいたサオリが台所にやってきた。
「アメリ。もしかして、これは天ぷらね?」(日本語)
「そうよ。楽しみにしていて。とんかつもあるよ。」(日本語、以下アメリとサオリの会話は日本語です。)
「わ、わたしにも手伝わせて。」
「うん。いいよ。」
サオリはなつかしい料理に感激して、嬉々として手伝った。冒険者ギルドで分けてもらったマッドボアの肉を使いとんかつも作った。大皿に揚がったものから順に並べて完成した。付け合わせにサラダも添えた。アイテムボックスから焼き立てを買って入れておいたパンも出した。パンとサラダをテーブルに四皿用意して、リオとメアリーを呼んだ。
「うわー。良い匂い。おいしそう。」
リオはよだれをたらしている。美少女が台無しであった。
「何これ?見たこともない料理だわ。アメリたちの国の料理?」
メアリーはさすがに鋭い観察力であった。
「はい。そうです。天ぷらと言います。お口に合うか心配ですけど。」
オレとサオリがうまいと感じる物が、こっちの世界の人がうまいと感じる保証はない。ちょっと心配なのは、謙遜ではなくて事実であった。
「これをかけて食べてください。」
オレは自家製のタルタルソースを入れた小鉢をみんなに渡した。卵と酢で自家製マヨネーズを作り、ゆで卵を混ぜて作った苦心の作であった。
「何、これ。うんまーい。」
リオは欠食児童のように、がっついて食べていた。相変わらずの残念な美少女であった。
「肉とか野菜をオリーブ油で揚げてあるのね。油にこんな使い方があるなんて、初めて知ったわ。野菜はほくほくで何とも言えないおいしさだわ。そして、特筆すべきは、肉ね。
肉の周りについているキツネ色の物がサクサクした食感で、中の肉を包んでいるのね。
包まれた中の肉はびっくりするほど柔らかくて肉汁たっぷりで、おいしいなんてもんじゃないわ。
そしてさらに、驚くのはこのソースね。肉にかけてもおいしいけど、サラダにも合うわ。
もう、エールを飲まずにはいられないじゃないの。」
冷静な大人のメアリーは芸能人並みの食レポで大絶賛してくれた。
「おいしいけど、食べ進むと、口の中が油っぽくてしつこく感じるので、さっぱりとしたエールに合うと思います。」
オレが言うと。
「もう飲んでるよ。みんなも飲め。」
メアリがみんなにエールの入ったジョッキを配った。
「エールもいいいですけど、パンにも合います。わたし、こんなにおいしいパン生まれて初めて食べました。」
リオが涙を流しながら食べていた。
「どうせ、わたしの作ったパンはまずいわよ(笑)。アメリ、このパンもホカホカで柔らかくておいしいわね。何か秘密があるの?」
メアリーが聞いてきた。
「ええ、町一番のパン屋に頼んで、一番上等なのを焼いてもらって、できたてをわたしのアイテムボックスに入れていました。」
オレが答えると。
「できたてって、さっきから稽古で時間が経ってるのに、今出来上がったみたいにほかほかじゃない。」
「アイテムボックスの中は時間が止まってるんです。」
オレが答えると。
「もう。いちいち、あんたたちの能力には驚かないわ。きりがないから、さすが勇者さまってところね。」
メアリーに妙に納得されてしまった。
「それで、貧乏人のリオが涙流して食べてるのはわかるけど、サオリまで何で?」
メアリーにうながされてオレはサオリに聞いてみた。
「あんた。なんで泣いてるの?」
「だって。天ぷらなんて。もう、食べれないかと思ってたよ。これ、食べたら日本でお母さんが作ってくれたのを思い出しちゃった。」
泣きながらサオリが答えた。
「どうやら、懐かしい物を食べて里心がついたみたいです。」
「まあ、そうなの。でも、こんなおいしい物は王様もお貴族様も食べた事がないと思うわ。アメリの家の食堂で出せば、大ヒット間違いなしよ。」
メアリーがしんみりと答えたが、暗くなるのを避けるように話題を変えてきた。
「そんなにおいしいですか?良かった。油で揚げる習慣のない人たちに受けるか心配だったんですけど、これで自信がつきました。おじに勧めてみます。」
後にどこにもないような不思議でおいしい料理の店として、予約もとれないほど大盛況になる山猫亭の新しいメニューが一つできた瞬間であった。
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わたしは深海魚です。なろう海の最深部に潜む底辺作家という名の深海魚です。光の当たらない海底でうごめいてます。神様(読者様)が餌を与えてくださるのいつもを待ってます。神様(読者様)お手数ですが、ブックマークあるいは作品評価をお願いします。