第219話 アメリちゃん元気出して
シードラゴン戦が終わった後、張り切る黒髪と骨に比べ男女はどこか腑抜けていた。脳筋の話によるとさすがにダンジョンではボーとはしていないがどこか元気が無いと言う事だった。シードラゴンと言う巨大な壁を乗り越えて燃え尽きてしまったんだろうか。気持ちはわからないでもないが男女には私達美少女戦隊のボスと言う責務がある。しっかりしてもらわないと困るのだ。
私は男女に元気出してもらうための気分転換に市場での買い物に連れ出した。買い出しのメンバーは他には黒髪と脳筋である。ここキンリーの市民市場は業者向けの市場でなくて市民向けの市場である。つまり安くて新鮮な食材を売る大小様々なお店が一か所に集中しているのである。少しでも安くて新鮮な食材を求める市民達でごった返していた。
「うわー!なんだこりゃ。まるで祭りだね。」
思った通りだ。お祭り女の男女は市場の賑わいを見ていっぺんに元気を取り戻していた。
「ええ。サークルアイの朝市と似てますけど全然規模が違いますね。」
「サークルアイのせこい朝市と比べられたらキンリーの市民市場が怒るよ。」
私が素直な感想を述べると脳筋がサークルアイをコケにするような事を言いやがった。ふんだ。サークルアイの朝市は規模は小さいけど、お店の人との人情あふれるやりとりが楽しいのよ。都会の市場にはない良さがあるんだから。
「ふんだ。セシルの山猿が何を言ってるんですか。セシルにはこういう市場も無いじゃないですか。」
「あ、アーリン。今、山猿って言ったね。あんた、私もアメリもサオリも敵に回したよ。」
「そうよ。セシルはね。サークルアイみたいなド田舎と違って都会なんだからサークルアイの海坊主に山猿言われされる筋合いは無いよ。」
脳筋だけでなくて男女まで私に敵対してきた。
「山猿は言い過ぎましたけど、サークルアイの朝市は私達サークルアイ市民の誇りですからバカにされたら黙ってられないんですよ。」
「まあまあ、異世界人のわたしに言わせたらどっちもド田舎よ。田舎者同士でケンカしないの。アーリンが言いたいのはサークルアイの朝市にはサークルアイの朝市の良さがあるって事よね。お店のおばさんとのやり取りとか。」
さすが私のリスペクトする黒髪だ。
「さすがはサオリさん。私の言いたいのはそう言う事ですよ。市場の良さは規模の大きさでないんですよ。そして朝市はサークルアイ市民の誇りなんですよ。それなのにせこいとかバカにされたらいくら大人しい私でも先輩相手でも黙ってられないって事ですよ。」
「あー。私が悪かったって事ね。ごめんなさい。」
そう言って脳筋は私にぺこりと頭を下げた。
「まあ。わかれば良いんですよ。私こそ先輩相手に生意気な口をきいてすみませんでした。」
私の方は先輩である脳筋に最敬礼をした。
「よし!仲直りして買い物を楽しもう。」
男女が場をまとめたがあなたも私の事を海坊主とか言ってバカにしてたくせに。まあ、でも男女が元気出してくれたから良いか。
キンリーの市民市場は、さすがは王都の市場である。海の幸山の幸が豊富にあるのみならず、王国じゅうから集まった珍しい物でいっぱいだった。男女は相変わらずの爆買いをしていた。なんせ金は持ってるは、アイテムボックスと言う名の倉庫をもってるは、であるからである。端から端まで全部いっぺんで買い占めるからお店の人が目を丸くしていた。
「お嬢ちゃん。良い買いっぷりだね。うちの店も覗いてってよ。」
男女の見事な買いっぷりに向かいの輸入雑貨のお店の店主が声をかけてきた。さすがは王都キンリーである。王国のみならずに他国の物まで手に入るのか。私が感心してお店の商品を眺めていると男女が突然大声をあげた。
「こ、これって?」
「もしかしてお米?」
黒髪まで素っ頓狂な声を発した。
「お、おじさん。この白い穀物について詳しく教えてください。」
白い実が入った袋を指さして男女が店主に問うた。
「ああ。これか?これはラウスって言ってはるか東方の国の主食だ。鍋で炊いて食うとうまいぞ。」
店主が答えると、
「間違いない。お米だ。おじさん。いくら?」
男女が興奮して値段を聞いた。
「ああ。これは貴重品だから高いよ。この小袋一杯で銀貨2枚だ。」
と片手でラウスの入った袋をつまんで店主は答えた。
た、高い。小麦粉ならその十分の一以下の値段なのによっぽどの貴重品なんだなと私が思っていると、
「全部ください。」
「へ?」
男女が変な事を言うもんだから店主が変な声をあげた。無理もない。小袋が何個あるかわからないけど、全部だととんでもない金額になるのは明白だ。
「全部ってこれ全部?」
店主が袋の山を指差して聞くと、
「そうじゃなくてお店にある全部。」
さらにとんでもない事を言った。
「ええー!いったいいくらになると思ってるんだ?それに大体どうやって運ぶんだよ?」
店主は商売を忘れて客である男女を問い詰めた。
そうよ。いったいいくらかかると思ってんのよ。いくらお金があると言ってもそのお金は私達美少女戦全員のお金でもあるのよ。無駄遣いは止めさせないと。でも男女は私なんかの言う事は聞かないわ。そうだ。黒髪よ。黒髪には頭があがらないわ。男女は。
「サオリさん。」
私は黒髪に助けを求めた。
「そうね。確かに運ぶ問題があるわね。おじさん。お店をそこの若い衆に任せてわたし達のお家まで運んでよ。」
黒髪までとんでもない事を言いだした。もうどうとでもなれだわ。
結局は男女の見せた金貨の山を見た店主が冷やかしで無い事を悟ると、私達をキンリーの町の本店まで案内してお店の倉庫にあるラウスをほとんど全部荷馬車で運んでくれた。
「このラウスは日持ちするけど、気をつけないとすぐに虫がたつからこの容器から必要な分だけ出して食べると良いぜ。」
ニコニコ顔の店主は値段どころかラウスを入れる巨大な業務用の容器までサービスして帰って行った。もちろん男女がすぐにアイテムボックスにしまったから品質が悪化する心配は無いんだけど。
荷馬車が家に来たもんだから当然この人の目にも留まった。
「アメリー。あんた。今度はいったい何を買ったのよ?」
玄関に出てきた守銭奴が聞いた。
「それはこれさ。ラウスって言うんだ。うまいぞ。」
男女はラウスの粒を守銭奴に見せて答えた。
「ラウス?それでいくらかかったの?」
当然値段を聞くよね。値段を聞いた守銭奴は当然怒るよね。いいぞもっと怒れ。私の代わりに怒ってくれ。そう思っていると、
「何よ。そんなはした金。どうでも良いじゃん。これから毎日ご飯が食べられるんだよ。」
また黒髪がとんでもない事を言いだした。はした金っていったい。金貨と小金貨を何枚も使っておいてはした金はないぞ。それにご飯ってすでに毎日食べているじゃん。
「え!サオリがそう言うならしかたないけど。」
しかし守銭奴も黒髪には頭があがらないみたいだ。渋々引き下がった。
「まあ。高いか安いかはオレの今晩の料理を食ってから判断してくれ。」
やった今夜は男女が料理を作ってくれるのね。今日の当番の私は料理しなくていいからダブルでラッキーだわ。元気のなかった男女もやる気出てきたみたいだし、思い切って買い出しに付き合わせて良かったわ。ナイス私。ナイスアーリン。今夜が楽しみだわ。
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