第218話 シードラゴン戦 エピソード
私はアーリン。美少女戦隊一の魔法の使い手にして一番の美少女よ。私の自己紹介はまあ置いといて、ライジングサンのみんながついに帰って来たわ。帰って来たって事はあのシードラゴンをやっつけたって事よ。ビックリだわ。ドラゴンって人間でも退治できるんだ。こういっちゃなんだけど、ドラゴンは超厄災級で人智の及ばない所にいる孤高の魔物で遭遇したら人類は逃げるしか術はないと世の中では言われていたのに。男女達も痛い目にあって這う這うの体で逃げ戻って来ると思っていたわ。だから冒険者ギルドで男女がアイテムボックスからシードラゴンを出して、この目で見るまで信じられなかったわ。それは私だけでなくて冒険者ギルドの職員達も一緒みたいで、職員達も大騒ぎしていたわ。いや、大騒ぎしていたのは職員達だけではないわ。職員達の大騒ぎを目ざとく聞きつけて集まった冒険者どももよ。
シードラゴンを見て、まず度肝を抜かれたのはその大きさね。冒険者ギルドの倉庫にも入りきらないんじゃないかと思うほど大きかったわ。こんな大きな物をどうやってやっつけたかと言う疑問はすぐに解けたわ。シードラゴンには長い頸の先にあるはずの頭がなかったの。どうやって頭を破壊したのか男女に聞いたら、ここ(冒険者ギルド)では言えないと言っていたわ。ドラゴンには魔法も剣も効かないのは冒険者ならみんな知っている常識よ。秘密にしているって事は男女が何かやったわね。いつもの卑怯技かしら、それとも伝家の宝刀のあの技を出したのかしら。いずれにしても今夜の祝勝会が楽しみだわ。男女が面白おかしく語ってくれるに違いない。
次にビックリしたのはその美しさね。龍鱗がキラキラと虹色に光り、神々しい美しさがあったわ。ドラゴン族を神と崇める宗教団体もあるけど、その気持ちも分からないではないわ。大きくて強くて美しいその圧倒的な存在感。もう神と言ってもいいくらいね。その神を殺したなんて男女達もいよいよ人類の枠からはみ出た存在になってきたわね。
その圧倒的に大きくて美しい存在のシードラゴンだけど、冒険者ギルドではあまりの圧倒的な量と価値で買いきれないと言う事になったの。そしたら男女がすかさずアイテムボックスにしまって見せたもんだから、その場にいた冒険者ギルドの職員達も冒険者達もみんなあっけに取られて固まってしまったわ。(男女は悩んだ末にアイテムボックスの秘密を公にしたらしい。)協議の結果、冒険者ギルドはその都度、必要な分を男女から買い取ると言う事になったけど、魔法も剣もはじく強固で美しい龍鱗、極上の旨さであると言われる肉、鉄をも貫く牙に爪、どこをとっても貴重で高価値なもので捨てる所も無いわ。その総額は計算できないけど、軽く王国の総財産と同じぐらいはあるそうよ。つまりは男女達は一夜にして王国一の金持ちになったって言う事ね。まだ一円も手にしてないけど。
お金はもらえなかったけど、莫大な冒険者ポイントはもらえるはずねと思っていたら、リーダーの軽薄男が辞退したわ。なんでも自分らは臨時のパーティで正式なパーティじゃないからいらないって。男女もうなずいていたけど、ばかよ。バカすぎるわ。私達美少女戦隊が全員A級に昇格できるチャンスだったのに。でも男女と黒髪のS級昇格は間違いなさそうね。現役S級冒険者の軽薄男が冒険者ギルド長に強く推していたから。そう思っていたら男女がそれも辞退したわ。美少女戦隊全員でS級になるって、カッコつけ過ぎよ。でも私はなんだかうれしくて泣いちゃったわ。
騒然とする冒険者ギルドを軽薄男、男女、黒髪、私の4人は悠々と引き上げたけど、何もしていないけどなんか私まで偉くなった気分だわ。えっへん。
気になる分け前だけど、これから買い取ってもらうシードラゴンの部品は公平に4頭分するそうよ。つまりは億万長者にいっぺんで4人もなったってわけね。それだけお金があるんだったら、もう死ぬような危険な仕事をする必要ないじゃんて私なんかは思うんだけど、4人とも変わらずに冒険者を続けるそうな。まあ、国を買うとか言っている大ぼら吹きに戦闘狂とその従魔だからわからないでもないけど。あまり戦闘に熱心でない黒髪はどうしてだろう。
「もう一生遊んで暮らせるほど稼ぎましたよね。なのになんで危険な冒険者を続けるんですか?戦闘狂のアメリさんと船長ならわかりますが、サオリさんまで。」
私は隣を歩いている黒髪に聞いてみた。
「うーん。そうね。なんでだろう?あ、わかった。一つは借りを返すためね。シードラゴン戦でのわたしはまったくの役立たずだったからもっと強くなってみんなの役に立ちたいの。あと、なんだかんだでわたしもやっぱり冒険者の仕事が好きなんだわ。」
と答えて黒髪は明るく笑った。結局黒髪も戦闘狂なんかい。でもエースの黒髪が役に立たないのにどうやってシードラゴンを倒したんだろ?
「え?サオリさんが役立たずってじゃあどうやってシードラゴンを倒したんですか?」
「わたしは食われそうになってワープしちゃったから知らないのよ。教えてアメリ。」
黒髪は男女に下駄を預けた。
「ああ。シードラゴンの敗因はオレを本気で怒らせてしまった事さ。」
そう言って男女は語りだした。黒髪が食われてしまったと思って破れかぶれで自分もわざと食われてエネルギー破を口の中で発射した事を言った。シードラゴンの頭がなかったわけがこれでわかった。それにしてもいざと言う時の男女の強さよ。私は今まで黒髪こそが美少女戦隊最強だと思ってたけど、最強はやっぱりリーダーの男女だったのね。
「でもそんな凄い武器があるんなら最初から出せばサオリさんも危ない目に合う事も無かったんじゃないですか?」
私が問うと、
「ああ。エネルギー破は不安定な足場の海上だと外した事があるからね。それに一発しか撃てないからほんとに本当の最終局面でしか撃たないんだ。やはり必殺技は最後に出すもんだよ。」
そう言って男女は偉そうに胸を張った。男女が凄いのは素直に認めるけど偉そうな態度がなんか小憎らしい。
「今回の事で誰が最強か良くわかったよ。」
そう言って王国最強と言われた軽薄男まで男女を持ち上げるもんだからますます調子に乗り出した。
「やっぱり。オレが最強か。」
からからと笑って上機嫌であった。
しばらく笑った後、急に真面目な顔をして言った。
「よし!最強ごっこはもうおしまい。タロウさん。どうやってシードラゴンを倒したのかまだ誰にも言ってませんよね?」
「ああ。そうだけど。」
「だったらオレがエネルギー破で倒したのは秘密にしてもらえませんか。」
「ああ。良いけど。じゃあ、聞かれたらどう答えたら良いんだい?」
「タロウさんの魔法で倒した事にできませんか?」
「いや。それはできないよ。人の手柄をとるような卑怯な真似は俺にはできんよ。」
「じゃあ。オレが魔法で倒したことにしても良いですけど、エネルギー破の事は秘密にお願いします。」
「ああ、それなら別に良いけど。アメリは秘密主義者だな。俺だったら喜んでみんなにふれて回るけどな。」
「タロウさんはみんなが知る王国一のS級冒険者ですから自分の力をアピールするのは意味がありますよ。それに対してオレは田舎者でしかも年端も行かないこんなかよわい乙女なんですよ。まったく強くは見えないでしょ。勝てそうだと思うでしょ。弱そうなオレを倒して名をあげようとするやつが絶対出てくると思うんですよ。だから極力目立ちたくないんですよ。」
「そんなやつは返り討ちにすればいいじゃん。」
「そりゃ正々堂々と戦ってくれるなら誰にも負けない自信はありますけど。例えば寝てるとき、例えば剣を持たないで一人で食事してるとき、例えばお風呂に入ってるときにいきなり襲われたらどうなります?十中八九やられますよ。」
「でももう今更遅いんじゃないか。ギルド職員も冒険者もみんな知ってるんじゃないのか。アメリが強いのは。」
「いや。まだ、タロウさんの手下としての強さしか伝わってないと思うんですよ。だからシードラゴンを倒したのは秘密にしたいと。」
「それでS級も断ったんか。わかったよ。アメリが倒したのも内緒にしといてやるよ。」
「ありがとうございます。」
アメリがぺこりと頭を下げてお礼を言った。
えー。もったいない。私なら多少のリスクは目をつぶってでも最強の栄誉の方を選ぶけどな。そう言えば脳筋がケンカで名前を売った時も男女は文句言ってたっけ。
「そんなもったいない。」
それで思わず口に出してしまった。
「アーリン。よく考えてごらん。オレ達はかわいい女の子だけのパーティなんだよ。それだけでも十分目立つのにその上龍殺しの異名まで付いてごらん。暇を持て余したキンリーの人々がほっとくと思う?」
「え!どういう事ですか?」
「オレ達を一目見ようと追っかけ回すんだよ。まるでスターの追っかけみたいにね。」
スターの追っかけって何か良くわからんが言いたいことは大体わかる。既に脳筋と男女のコンビは若い男のファンがいっぱい付いている。こいつらがさらに増えて家や冒険者ギルドで待ち伏せすると思うとさすがに迷惑だな。
「わかりました。」
私は渋々納得した。
軽薄男と別れ私達3人は我が家に帰った。リビングには脳筋と守銭奴がいた。
「アメリ。どうだった?シードラゴンは高く売れた?」
守銭奴が開口一番に聞いてきた。それに対して男女は渋い顔をして答えた。
「それがさ。シードラゴンは冒険者ギルドでは買えないって。」
「え!どういう事?」
リオが聞き直した。
「うん。なんか値段をいくらつけたらようわからんから買い取り不能だって。」
「でも全体は高すぎて売れないけど、鱗とか牙との部品は一つ一つすっごい値段で買い取ってくれるのよ。」
男女がまったく売れなかったみたいな事を言うので私は補足した。
「それってアメリ達ライジングサンは大金持ちになったって事じゃない。」
守銭奴が興奮して言った。
「うーん。まだ一つも売れてないから実感はないけどね。」
「何を言ってんの。龍鱗って魔法も剣も防ぐ防具の素材として最高の物よ。私も欲しいわよ。すぐにいっぱい売れるよ。」
守銭奴がさらに興奮して言ったが、男女は大金持ちになっても私達美少女戦隊には関係ないんだよね。
「ねえ。そうしたらアメリもサオリももう働く必要がないんじゃないの?」
脳筋が私と同じ事を聞いた。
「何度も言うようだけどオレもサオリも金のために冒険者をしてるわけじゃないから冒険者は辞めないよ。」
かっこいい。カッコよすぎる。私もいつか言ってみたいもんだ。
「じゃあ。お金いらないんだね。給料もボーナスも私にちょうだいよ。」
「いや。それはもらうよ。働いた対価だからね。」
「え!それじゃあ、やっぱりお金のために冒険者をしているんじゃないの。」
「あれ?そうだっけ?」
カッコつけていた男女だが脳筋にやり込められていた。
「と、とにかくだ。今日はオレ、サオリ、船長のシードラゴン討伐と美少女戦隊復帰を祝って町に繰り出そうぜ。もちろん費用は金持ちになったオレ達3人が持つよ。」
「「「やったー!」」」
私と脳筋と守銭奴の3人は手を取り合って喜んだ。私は急いで幽霊と犬女を呼びに行った。さあ、今日は飲むぞ!




