表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/373

第214話 わらしべ長者

 



 シードラゴンのテリトリーは超一級の漁場だ。そこでオレ達はまた釣りを始めた。まずは餌の準備だ。アイテムボックスから船の上に出した生け簀に水魔法で新鮮な海水を満たした。海水は船の周りどこにでもあるので簡単な魔法だ。肝心の餌であるが、アイテムボックスから取り出した仮死状態のマグルは生け簀の海水に浸したら徐々に元気を取り戻した。良かった。思った通りアイテムボックスの中に入れても死ななかった。


 完全に元気を取り戻す前に武器屋で作ってもらった特注の巨大な釣り針をマグルの体に縛りつけた。動きの弱ってる今じゃないとそんな面倒な事は出来ない。マグルは非常にパワフルな魚だからだ。マグルを海に戻してやると、完全に元気を取り戻したのか勢いよく海の中に消えて行った。


 そう。オレの考えた作戦とはシードラゴンを釣る事である。しかしあの巨体を釣り上げるなんて不可能だと言う事はオレにもわかる。だったらなんで釣りと思われるだろう。肝心な事はあの鉄壁の鱗に覆われたシードラゴンに釣り針を刺す事である。釣り針の先に付いている釣り糸はもちろんオレ様特製の超電導のロープである。メタルボールの体液をたっぷりとしみ込ませたあのロープである。そのロープに電気を流せば、あの鉄壁の防御力を誇るシードラゴンに電撃魔法を釣り針から撃ち込めるんだ。シードラゴンに魔法が効かないのは全身を覆う鱗が魔法を受け付けないからだ。だったら鱗のない所から魔法を直接体内に流し込めばさすがのシードラゴンもたまったもんでないであろう。最初銛を刺す事も考えたが、あの硬い鱗を貫ける銛なんてこの世には存在しない。鱗の無い口に釣り針を刺すのがやっぱり一番だ。


「よし!後はかかるのを昼寝でもして待つだけだ。」


 タロウの指示でオレ達は思い思いにすごす事にした。ちなみに今は早朝だから正確には昼寝でなくて朝寝だが。いつ釣れるかわからないのに、戦闘に備えてずっと気を張り続けていたら神経がまいってしまう。


「それでまたあんた達は釣りをするの?」


 船首でしているマグルの泳がせ釣りとは別に、船尾で別の釣りの準備を始めたオレとタロウを見てサオリがあきれて言った。


「うん。海の底まではさすがのオレとタロウさんでも鑑定しきらんからね。海の中の事は魚に聞くのが一番だよ。」


「この前もそうだったけど、魔物が近づいて来ると魚は急にぱったりと釣れなくなるから、魔物探知装置として釣りは最適なんだよ。」


「はい。はい。お二人のおっしゃる通りですわ。釣りをしないわたしは船室で休ませてもらうわ。」


 オレとタロウのどや顔の説明を聞いて、ますますあきれたサオリは船室に引っ込んでしまった。


 今日もよく釣れた。あんなでっかい魔物達がうようよといるのに食べつくされないなんて、なんて豊かな漁場なんだろう。これはやっぱり魔物達を退治して魔物からこの漁場を取り戻さないといけないだろう。


 やがて今まであんなに釣れていたのにぴたりとあたりが止まった。


「いよいよ。魔物達の食事タイムになったみたいですね。」


「うん。釣り竿を片付けてアメリ。俺はサオリと船長を呼んでくるから。」


「わかりました。」


 オレは糸を巻き取って釣り竿2本をアイテムボックスにしまった。


「いよいよね。」


 サオリとエイハブがあくびをしながら船室から出てきた。


 決戦を前にしてのんびり寝てたのか、あの繊細で臆病なサオリもずいぶんと豪胆になったもんだ。何かをしていないと不安で、釣りをすることによって恐怖をまぎらわしていたオレ達とは大きな違いだ。幻影魔法ってやっぱりいいな。オレもアーリンに頼んでかけてもらおうかな。


「ああ。いよいよだ。船長は舵を取って。サオリは錨を上げて。アメリは俺と船首に向かうぞ。」


「「「おう!」」」


 タロウの仕切りでオレ達はそれぞれの持ち場へと走った。


 その時突然船が大きく揺れた。この大きな船を揺らすパワーだ。魔物に間違いない。


「か、かかったぞ!アメリ!どうする?」


 タロウが聞いてきた。この場合のどうするは魔法を使うのか聞いているのであろう。


「秘密兵器のウィンチは軽い力でも巻き取れるようにギアをつけましたから、まずは巻けるだけ巻いてみましょうよ。」


 案の定、二人掛かりで機械を使って巻いているとは言え簡単に巻くことができる。巻くことができると言う事は超巨大なシードラゴンじゃないと言う事だ。


 やがて海面に姿を現したのはやはりマッドシャークだった。


「ちい。雑魚か。」


 タロウが舌打ちをした。雑魚と言うにはあまりにも巨大な獲物だが、オレ達の狙いは海の帝王のシードラゴンであるのだから仕方がない。


「サンダーを流して仕留めてやるか。」


「ちょっと待ってください。殺さないように手加減してください。」


 呪文を唱え始めたタロウにオレは頼んだ。


「わかった。サンダー!」


 タロウがロープに電流を流すと、マッドシャークは腹をうえにして仰向けに浮かび上がった。


「サオリ!オレをマッドシャークの腹の上に運んで!」


「え!わ、わかった。ワープ!」


 サオリは一瞬戸惑ったもののすぐにオレとワープしてくれた。腹の上に乗ったオレは口に刺さった巨大な釣り針を外すとマッドシャークの巨体に、海に潜りながら巻き付けた。腹に刺せば簡単であるが、そうすると血が流れてしまう。血が流れると他のマッドシャークが襲って来るから良くない。海に潜ったりして酷く面倒でも無傷で取り付けないといけないのだ。


「よし!準備完了だ!戻ろう!」


「らじゃ!ワープ!」


 オレ達二人は甲板に戻った。


「マグルじゃダメなのかい?」


 タロウが聞いてきた。


「ええ。マグルでも良いかもしれませんけど、マグルだと今回みたいにまたマッドシャークが釣れるかもしれませんからね。マッドシャークの餌だとマッドシャークより大きな獲物、つまりはシードラゴンしか食いついてこないですからね。」


「なるほどな。さすがはアメリだ。魔物のわらしべ長者釣りってわけか。」


 わらしべ長者か。旨い事言うな。最初の餌のマグルだって釣った小魚を餌に釣ったしな。小魚から始まってついには食物連鎖の頂点のシードラゴンにまで至るってわけか。


「だけど、シードラゴンが簡単にマッドシャークに食いついてくれるかな?」


「うーん。それはわからないけど、たぶん大丈夫だと思いますよ。前回もマッドシャークを食ってたし、それにあの巨体が災いして、マグルのようなシードラゴンから見て小さくて素早い魚を捕るのは苦手なんじゃないかと思うんですよ。だからそれほど素早く無くて食べ応えのあるマッドシャークを主食にしてるんじゃないかと思うんですよ。マッドシャークは前回の戦いで随分と数をへらしてやったから、奴はお腹すかしてますよ。簡単に食いついてくれますよ。」


 そのオレの言葉に反応するように船は大きく引っ張られて揺れ始めた。


「釣れたのか?」


「いや。たぶん餌のマッドシャークが逃げ始めたんだと思います。」


 オレのその言葉通り、船はさらに大きく揺れ続けた。一際揺れたと思ったら今度はいきなり揺れが収まった。


「逃げられたのか?」


「いや。たぶん。今度こそ。釣れたんだと思います。海の魚は海の中へ中へと逃げますが、海の生き物と言え、肺で呼吸しているシードラゴンは苦しくなると逆に海上へと逃げると思いますよ。ウィンチを巻きましょう。」


「わかった。」


 オレとタロウはウィンチのロープを巻き取ったがそれよりも早く海上に水柱が上がった。


「ついに来たぞ!みんな!呪文を唱えて!」


「「「おう!」」」


 鑑定しなくてもわかる。この巨大な頭部はシードラゴン以外の何物でもない。




 ******************************






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ