第213話 作戦再開
「いよう。船長。船は直ったかい?」
「あっ。タロウさんにみんな。船はバッチリ修理しましたよ。いつでも戦闘再開できますよ。」
船の甲板にワープしたオレ達だが、タロウが声をかけるとエイハブが明るく返した。
「船長に教えてもらった火薬の研究者に会って大砲の弾を特別に分けてもらったよ。」
そう言ってオレはエイハブに弾を渡した。
「おお、これさえあればわしの船も無敵ですよ。」
「しかしこの世界の学者との共同開発と言え、良くこんな物を作れたものだ。」
「わしも一応異世界転移者ですからの。黒船の大砲の事は良く知ってましたからね。」
黒船っていったいいつの時代の話やねん。さすがは明治男だ。でも単純な弾薬を作るにはそれくらいの知識で良いのかもしれないな。いろんな事を知り過ぎているオレ達じゃその知識がかえって邪魔をしてこんな物を作れはしなかったかもしれない。
「それでこれは武器屋に特別に頼み込んで作ってもらったんだけど。船の甲板に付けても良いかな?」
例によってオレはアイテムボックスから取り出してエイハブに聞いた。
「アメリさんこそ、良くこんな物を作れましたな。」
「いや。作ったのは武器屋さんだけど。」
「わかりました。わしが明日の朝までに付けておきましょう。」
「良かった。頼むよ。」
オレ達は秘密兵器?をエイハブに託すと一艘の小舟で沖に繰り出した。もちろんシードラゴンのテリトリーを避けてサオリのワープで来た海域である。沖で何をするかと言うとそれは釣りに決まっている。
「また釣り?」
「うるさいよ。サオリ。これは遊んでいるんじゃなくて大事な作戦の一つなんだから。今日はサオリにもやってもらうよ。」
そう言ってオレはサオリに竿を一本渡した。
「良いけど。いったい何を釣れば良いの?」
「まあ、何でも良いけど大きな物を釣ってくれ。もちろんマグルとかの旨い魚ならなお良いよ。オレ達が食えるからね。」
「よし!わたしが一番の大物を釣り上げて見せる。」
サオリが張り切っていた。ちょっと元気のなかったサオリだがアーリンの幻影魔法のおかげか元気を取り戻した。アーリンには感謝だな。あとでスイーツでもおごってやるか。
「お、サオリちゃんも元気出たね。お兄さんちょっと心配してたんだ。女の子は笑顔が一番だしね。」
タロウが呑気な事を言ってるけど、あんな化け物とこれから戦うと思うと呑気に笑ってられないぜ。オレもアーリンに幻影魔法をかけてもらえば良かったかな。
「ええ。女の子同士で遊びに行ったら不思議と元気が出ました。」
それアーリンのおかげだけど、余計な事は言わないでおこう。
「サオリちゃん。餌はつけれるかい?仕掛けは一回底に着けてから一メートルほど上げた方が良いよ。底には岩が多いから引っかからないように気をつけて。」
「は、はい。」
タロウがサオリに付きっ切りで釣りを教えていた。まったくこのチャラ男は、女の子にはまめなんだから。ここにもかわいい女の子が一人いるのを忘れないで欲しいんだけどな。
タロウの付きっ切りの指導もあってかサオリがバンバン釣ってあっという間に生け簀がいっぱいになった。
「よし。これだけ釣れば十分だろう。アメリ。アイテムボックスに入れてくれ。」
タロウは簡単に言ってくれるがオレのアイテムボックスには生きた物は入れられないんだ。
「残念ながら魚を生かしたまま入れられないんですよ。あっ。でも新鮮な野菜は入れられるか。わかりました。サンダー!」
オレは威力を最小限に絞ったサンダーを生け簀に向って撃った。生け簀の魚達は腹を上にして浮かび上がった。その魚を残らずアイテムボックスに収納した。
「ああ、殺したら餌として使えないんじゃないのか?」
タロウが心配するのも無理はない。死んでないと収納できないと言ったんだから。
「大丈夫ですよ。気絶してるだけですから。」
考えてみるとアイテムボックスの中の新鮮な野菜は死んでいるわけではない。それなのに野菜は死んでなくても収納できる。なら生きている魚も野菜のようにすれば収納できるんじゃないか。魚を野菜のように動かずに生きただけの状態にするにはサンダーで気絶させるしかないだろう。ダメ元でやってみたらうまくいったと言うわけである。
「でも、アイテムボックスの中は水があるわけじゃないんだろ?息ができなくて死んじゃうんじゃないのか?」
「そのための仮死状態ですよ。息をしなくてもしばらくは死なないように。それにアイテムボックスの中は時が止まってますから、いつまでも生きてますよ。生きてるかどうか今一匹取り出して実験してみます?」
「いや。いい。アメリのチート能力の凄さは良くわかったよ。この能力がコピーできなかったのは非常に残念だ。」
良く言うよ。オレの『鑑定』もサオリの『無詠唱』も難なくコピーしたくせに、これ以上のチート能力を求めるなんてどんな欲張りさんだ。
「タロウさんには『コピー』があるじゃないですか。最強のチート能力が。」
「うん。この能力でどんな能力でも簡単にコピーできるからこそ、コピーできない能力持ちの二人がうらやましいんだ。」
「えー。欲張り過ぎじゃないですか?」
「そりゃあ。欲張るさ。なんせ俺は地上最強を目指してるからね。」
「出ましたね地上最強宣言。そのためにもシードラゴンを倒しましょう。奴は海上最強ですけど。」
「おう。頑張ろうぜ。」
そう言うわけで釣りを終えたオレ達はリーベ村に帰り決戦の前の一晩をすごした。
***
翌朝、夜も明けきらぬうちからオレ達3人は船に向かった。
「おーっす。船長。」
「おはようございます。アメリさん。タロウさん。サオリさん。」
「「おはよう。」」
船に泊まり込んで作業していたエイハブも既に起きていた。
「船長。準備はできたかい?」
「はい。タロウさん。バッチリですよ。」
「よし!シードラゴン討伐作戦再開だ!」
「「「おう!」」」
オレ達の気合に応じるように船は誰も漕がないのに静かに走り出した。
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