第211話 お二人さん帰還
私はアーリン。美少女戦隊一の魔法の使い手にして一番の美少女よ。今、美少女戦隊は男女、黒髪、骨の主要メンバーが抜けて大変なの。さすがにこの人数で2チームは無理なので脳筋を新リーダーとした新チーム一本にしたわ。男女がいないなら冒険者を辞めるって言ってたくせに脳筋ったら新リーダーに選ばれた途端にものすごく張り切り始めたわ。もう朝から晩までダンジョン漬けよ。男女がリーダーのチームも毎日ダンジョンに行ってたけど、さすがに丸一日潜ってるって事は無かったわ。何よりも効率を重んじる彼女は午前中だけ集中して潜って午後はフリーにするとかしてくれたわ。なのに今は一日中穴の中よ。モグラじゃないっての。
今日も朝早くから晩までダンジョンに潜っていたので魔力も体力も尽きてへとへとよ。お風呂に入ってご飯を食べたら、お酒の力もあってもう起きてられないわ。食堂兼居間のソファアに座って一人で本を読んでたんだけど、いつの間にか居眠りしてたわ。
気持ちよく寝てたんだけど、異変に気が付いて起きてしまうのは冒険者のさがね。私が目を開けるといつの間に帰ったのか男女、黒髪、軽薄男の三人が居間にいたわ。
「ごめん。ごめん。起きた?でも寝るならベッドで寝たほうが疲れが取れるよ。」
「・・・アメリ?」
私はいっぺんで目が覚めた。
「あ、アメリさん達、もうシードラゴンを退治してきたんですか?」
「まだよ。ちょっと下準備のために帰って来たんだ。」
そう言うなり3人は他のメンバーに挨拶する事もなく夜の町へと出かけて行った。
翌朝、男女と黒髪は誰よりも早く起きて朝食の準備をしていた。
「おはよう。アーリン。早いね。」
「おはようございます。今朝は朝食の当番ですから。」
「ああ。オレとサオリでもう作ったよ。」
やった。ラッキー。今日はのんびりできる。アメリ様様だ。
「おはよ。」
私が黒髪の淹れてくれたお茶を飲んでいると、脳筋が眠そうに目をこすりながら入って来た。
「おはようございます。リオさん。」
「あれ。アーリン。もうご飯作ったの?」
「いや。今朝はお二人さんが作ってくれました。」
そう言って私は厨房を指さした。
「あれ!アメリとサオリ。帰って来てたんだ。」
「おはよう。リオ。下準備でちょっとだけ帰って来たよ。」
「おはよう。リオ。みんなが集まるまでお茶でも飲んでて。」
「ありがとう。サオリ。」
黒髪からお茶を受け取ると脳筋は私の横に座った。
犬娘、守銭奴、幽霊の順で三々五々部屋に入って来た。
みんなが席に着いた所でさすがに当番でもない二人に朝食の準備をやらせるのはまずいと気づいた私はせめて配膳でもと思い手伝う事にした。
「アメリさん。手伝わせてください。私、当番ですから。」
「お、そうかい。じゃあ、料理をみんなに配ってくれるかい。」
「はい。」
皿にはサラダ、目玉焼きにハムと言ったこの世界でも食べられるオーソドックスな物が乗っていた。残念ながら男女お得意の異世界料理ではないみたいだ。と言っても朝からこれだけの物を食べられるのは十分に贅沢な話であるが。
次に出た深皿にはスープが入っていた。今日は肉とイモのスープか私はこれが好きだな。黒髪と二人でせっせとみんなのテーブルに運んだ。
最期にパンが出てきたけど、男女の出すパンは昨日まで私達が食べてたものと違って出来立てのホカホカだ。パンは大皿に山盛りにされていて各自取って食べるスタイルだ。
私達3人が席に着いた所で食事の開始となった。ご飯を食べながら会議をするのが私達美少女戦隊のスタイルだ。新リーダーの脳筋が口を開く。
「えー。今日は昨日と同じくダンジョンに行こうと思うけど、その前にアメリとサオリ。なんか言う事があるんじゃない?」
「ああ、そうだね。昨日シードラゴンとメガロシャークに相まみえたんだけど。」
男女が昨日までの出来事を語り始めた。私達があれほど手こずったと言うか、倒しきれなかったメガロシャークを倒したなんてさすがはドリームチームのライジングサンだ。でもそのライジングサンでも全く敵わないなんて、やっぱりシードラゴンって強いんだ。それで男女お得意の作戦実行の準備のために帰って来たんだ。
「そう言うわけでしばらくはオレとサオリは家にいるんでよろしく。」
二人が家にいるなら私達としても心強いわね。あれ、誰か忘れてるような。
「船長はどうしたの?」
そうそうリオの言う通り骨がいないじゃない。
「ああ。船長は船に残って船の修理さ。」
「え!船の破損が酷いの?」
「うん。メガロシャークの水魔法弾を受けたからね。」
「メガロシャークってでっかいだけじゃないんだ。」
「そうだよ。魔法も使えるんだよ。」
また男女の冒険談が始まった。男女が語りだすと話は面白いんだが少々長いのが玉に瑕だ。
「メガロシャークが強いのは良くわかったけど、それで今日は何するの?」
リオが焦れて男女の語りを質問で遮った。
「まだまだ語り足りないけど、まあいいや。オレはタロウさんと武器屋に行くよ。」
「あれ?わたしは何したら良いんだろ?」
サオリの予定はないようだ。
「家でのんびりしてたら良いんじゃない。リオ達をダンジョンに送らんといかんし、オレもリーム村に送ってもらいたいし。」
「まったく。人の事をタクシー扱いにして・・・・」
サオリがブツブツ言っているけど、やった。これで今日はダンジョンまで歩いて行かないですむ。キンリー郊外のダンジョンと言えど歩いて行けば30分はかかる。今日はその分だけでも楽ができる。
***
今日は美少女戦隊の公休日だ。今日一日何をしようと自由だ。だけど、朝ごはんの当番は別だ。これは仕事じゃなくて共同生活の決め事だからだ。私は誰よりも早く起き出して朝ごはんの準備をする。はずだった。と言うのも男女と黒髪がもう起きていたからだ。
「おはよう。アーリン。」
「おはようございます。アメリさん。サオリさん。今日も早いですね。」
「うん。ここ最近、体を動かしてないから。体がなまってるからね。サオリと二人でそこらを走ってこようと思ってさ。」
「え?走ってくるんですか?」
男女と黒髪のいた世界では休日に体を鍛えるために走ったりするそうであるが、もちろんこっちでは用も無いのに走ったりする物好きはいない。
「うん。朝ごはんの時間までには戻って来るよ。」
そう言って二人は夜のしじまも明けきらぬ街へと出かけて行った。
物好き二人はほっといて朝ごはんの支度だ。パンは男女に出してもらえるが、スープとサラダぐらいは自分で作らなければならない。男女には負けるかもしれないけど、私だってこう見えて料理は得意なんだ。
朝ごはんの支度が終わった頃には宣言どおり二人は帰って来た。朝ごはんも済み、食器の片付けが終わったところで晴れて自由の身だ。今日は犬女と街に出かけるんだ。子犬はお留守番だ。おしゃれして行かなくっちゃ。
「ねえ。アーリンは今日何するの?」
部屋に戻って着替えてこようと思ってたら黒髪に声をかけられた。
「エイミーと街に出かけようと思ってるんですけど。」
「街か。良いわね。わたしも一緒に行って良い?」
「もちろん良いですけど。サオリさんはシードラゴン戦に備えなくて良いんですか?」
「戦いの準備ね?アメリとタロウで進めてるからわたしは何もする事ないの。家でぶらぶらするのもいいかげんあきたわ。」
***
「お待たせー。」
そう言って黒髪が最後に食堂に入って来た。黒髪は本当におしゃれのセンスが良い。なんでも元いた世界のファッションを参考にしているらしいけど、この世界のファッションとは一線を画している。悪く言えば奇抜なんだけど、それが黒髪にぴったり似合っているので誰も変だとは思わないだろう。私はいつも勉強させてもらっている。同じ異世界人でも男女とは大違いである。男女の格好は私から見てもダサい。
「あれ!みんな揃ってオシャレしてどこに行くの?」
げっ!まずいのに見つかった。
「街に行くの。」
犬女が正直に答えた。
「あ。ずるい。私も連れて行きなさいよ。」
当然そう言うよね。
「ええ。良いですよ。その代わり準備は早くお願いしますよ。リオさん。」
私はひきつって答えた。だって女の子って準備に時間がかかるからこれからまた何分も待たせられるじゃん。
「オッケー。」
そう言うと脳筋は自室に戻って行った。
「お待ちー。」
あっと言う間に脳筋が戻って来た。
「「「早!」」」
私達3人ははもってしまった。
「うん。財布を取って来ただけだから。早いでしょう?」
「早いでしょじゃないわ。何よ。その恰好。これから行くのはダンジョンじゃないのよ。」
黒髪の言う通りだ。脳筋の格好はいつも防具の下に着ているラフな格好のままじゃないか。薄汚れた長袖のシャツにズボン。そのうえ帽子までかぶって来たからそこらにいる町の若いあんちゃんにしか見えない。
「アーリン。今日行く店のあてとかある?」
あてとか言われても犬女と服屋をぶらぶらしようと思ってただけだし。
「べつにないですけど。」
私は黒髪に答えた。
「よし。今日はリオを変身させようぜ。」
「え!それ良いですね。私も前からリオさんの格好はダサ、いやボーイッシュすぎると思ってたんですよ。せっかくスタイルも良いんだから綺麗な服を着ないともったいないですよね。」
「ちょっと。アーリン。ダサくて悪かったわね。それに二人とも何勝手に決めてるのよ。私はこの格好は好きでしているのよ。」
「はい。はい。リオがかっこいいのはみんな知ってるよ。でも綺麗な服で着飾ったかわいいリオも見てみたいじゃん。」
「私も見てみたいな。」
「エイミーまで何言ってるのよ。」
「これはもう決まりよ。わたし達美少女戦隊は多数決でなんでも決めてきたでしょ。それに服はわたしが買ってあげるから。」
「わ、わかったわよ。そこまで言うなら従うわ。」
脳筋が渋々ながら従った。
脳筋が剣を腰に下げて行こうとしたのを無理やりやめさせて私達4人はキンリーの中心部、繁華街に向けて歩き出した。向かうのはもちろん服屋である。服屋で黒髪の選んだ服はさすがは黒髪の選んだものだ。脳筋のスタイルの良さを引き出しなおかつかわいいものだった。
「どう?似合う?」
「うん。バッチリ。」(サオリ)
「きれい。」(私)
「かわいいです。」(エイミー)
綺麗な服を黒髪に買ってもらい、みんなに褒められて脳筋は上機嫌であった。
もちろん私達だって自分の服を買い込んだ。きれいな服をいっぱい見るとあれもこれも欲しくなるから困っちゃう。でもあまり無駄遣いはしたくないから2着だけにした。それなのに黒髪ったら5着も6着も買っている。なおかつ犬女にまで買ってあげてる。どうしたんだ、いつも冷静沈着の黒髪さんが突然の爆買いなんかして。
そんな事よりお店を何軒も回ったらお腹もすいてきた。
「ねえ。なんか食べない?」
脳筋もそう思ってたらしくみんなに聞いた。
「うん。そうね。せっかくおめかししてるんだから、街一番のおしゃれなお店に行こうよ。」
黒髪の提案で街一番のおしゃれなお店雷獣亭に行く事にした。雷獣亭はお貴族様もお忍びで訪れられるくらい立派で格式のあるお店でもある。と言う事はお値段も当然お高いのであった。
さすがの私達でも二の足を踏むような値段の料理がいくつもメニューに書かれていた。お高い料金を払わなくても、もっとうまい男女の料理をいつも食べてる私達はそんなに高くない料理を選んで注文した。一人を除いて。
そう。黒髪である。黒髪は一番高い料理にエールまで注文した。いつもの黒髪なら昼間から酒を飲むなんてことをしないのに。さらに来たエールをがばがば飲み始めた。
さすがに私も黒髪の異変に気付いた。
「ちょっと。サオリさん。どうしたんですか?」
「え!何が?」
エールを一気に飲み干してから黒髪が答えた。
「エールの一気飲みよ。」
脳筋が答えたが、それだけじゃないだろう。爆買い。爆食い。爆飲み。今日の黒髪はおかしい。
「エールだけじゃなくて、服も料理も散財してますよ。」
「わたし。怖いのよ。シードラゴンが。今度こそ死んじゃうんじゃないかと思って不安なのよ。何かに夢中になってたら恐怖も薄れるんだろうけど。今、暇でしょ。そしたら良くない事ばっかり考えちゃって。」
そう言っていつも気丈な黒髪が泣き始めてしまった。
「サオリ。」
「「サオリさん。」」
私達3人は黒髪の名前を呼んだ。名前を呼ぶしかできなかった。シードラゴンの恐怖も知らないし、黒髪よりも弱い私達じゃ何もできないからだ。
いや。私にならできる事がある。私は幻影魔法の使い手だ。私は今まで仲間に幻影魔法を使うのをためらっていたが、仲間のためになるんなら使っても良いだろう。
「サオリさん。私の目をよく見て。あなたは最強だ。」
「「私は最強。」」
「ちょっと。アーリン。今何したのよ?」
「うん。ちょっと元気の出る魔法をサオリさんにかけてあげたのよ。」
サオリの様子に驚いたエイミーに私は答えた。
「それでリオさんまでいきってるの。」
「えっ⁉」
見れば黒髪だけじゃなくて脳筋まで鼻息荒く目をらんらんと輝かせていた。しまった。この魔法は単純な人間ほどかかりやすいんだ。黒髪だけにかけたつもりが脳筋にまでかけてしまったのか。ま。でも良いか。元々脳筋はそう言う元気いっぱいの人間だし。
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