第210話 風呂上がりの会議
村に帰ったオレ達は真っ先に風呂に入った。潔癖症に近いほどきれい好きである元日本人のオレ達が血まみれ汚物まみれ塩まみれで平気なわけがない。頭の先から足の先まで石鹸で徹底的に洗って初めて人心地ついた。
風呂の後は反省会である。司会はオレ達ライジングサンのリーダーであるタロウが務めた。ちなみにエイハブは船に残って船の修理をしていた。
「今日の戦闘はシードラゴンが出てくるまでは満点だったよね。メガロシャークをサンダガで気絶させてアメリが銛をぶっ刺して銛に付いたロープに電気を流してまた気絶させて、大砲で撃って血を流させてマッドシャークに襲わせて。」
エールのグラスを一気に飲み干しながらタロウが言った。
「ええ。確かに満点でしたね。策士アメリらしい卑怯な、いや素晴らしい作戦でしたね。それでわたし達は魔力が尽きたから逃げたわけですけど、もし魔力がまだ残ってたらシードラゴンに勝てましたかね?」
うーん。とうなってからサオリの問いにタロウが答えた。
「たぶん勝てなかっただろうな。オレ達のサンダガは効かないし、銛を刺して銛から電気を流すアメリの作戦も肝心の銛が刺さってはくれないだろうし。」
たぶん勝てないって、こいつは何を冷静に分析しているんだ。それを何とかする作戦は無いのか。タロウは強すぎるのが弱点なんだろうな。今まで何の苦労もなく敵を倒してきたから工夫をして敵を倒すと言う事が苦手みたいだ。今回も最高の戦力を集めたからそれで何とかなると思っていたんだろう。
「それで、なんか作戦はあったんですか?」
試しにオレは聞いてみた。
「いや。特には。アメリとサオリがいればなんとかなると思ってたから。」
やっぱりか。こいつはリオ以上の脳筋野郎じゃないか。
「作戦立てましょうよ。今までタロウさんが倒してきた魔物と違ってシードラゴンはタロウさんよりも確実に強いですから。」
「は、はい。」
オレがあきれて言うとタロウが消え入りそうな小さな声で答えた。
「硬い鱗が魔法も物理攻撃もはじくんですよね。なにか弱点はないんですか?」
「顎の下の頸の部分が逆鱗と言って弱点だと前の世界ではあったよね。」
オレの問いにタロウが答えたけど、それはオレも知っている。
「逆鱗に触れるってやつですね。」
「うん。そうだけどこれがこの世界の龍にも通用するかは。なんせ。まだ誰も龍を倒した人間はおらんからね。この世界では。」
そうだったのか。龍ってやつはやっぱりそんなに強いんだ。前人未踏ってやつか。でもそんな強い龍を倒すと誓って来たんだオレ達は。なんとかしなくっちゃ。
「まあ、でも。効くか効かないかはともかく狙ってみる価値はありそうですね。でも、問題はあの長い頸の顎の下と言うピンポイントをどうやって狙うかと言う所ですね。」
「うーん。そうだよな。シードラゴンだってバカじゃないんだから、弱点を簡単にさらしたりはしないだろうな。」
「と言う事はまたわたしのワープで白兵戦ですか?」
「いや。それは最終手段としよう。ていうか、シードラゴンの上にワープしても頸が長すぎて顎の下を攻撃するのは難儀だと思うよ。」
サオリの問いにオレは答えたが、そもそもシードラゴンは長い頸だけを海面に出している事がほとんどだからワープしようにも海の上にワープするしかないじゃないか。
「うーん。やっぱり人間が海の王者に挑むのは無理なのかな。他のドラゴンと違い村や町を襲う事もないしそっとしておけば良いのかな。触らぬ神に祟りなしか。龍は神みたいなもんだしな。」
タロウがなんか弱気になってきたな、ここはオレが活を入れてやらないと。
「村や町は襲わなくても船は襲うし漁場を荒らす厄災ですよ。決して神なんかじゃないですよ。さっき見てきたけど、良く言われてるように神の領域を犯したから襲って来るんじゃなくて、他の魔物と同じように餌としてオレ達を襲って来てるんですよ。」
「そ、そうか。ちょっと弱気になってたな。どうも俺は作戦とか考えるのが苦手でね。打つ手なしかと思ってしまったよ。」
「大丈夫ですよ。こんな時のためにアメリがいるんですから。」
「おい。おい。サオリさん。人を○○えもんみたいに言わないでよ。でも、作戦はあるけどね。」
「なんだよ。アメリ。あるんならさっさと言えよ。もったいぶらずに。」
タロウ。こいつは・・・。それを考えるのがリーダーたるおまえの役目だろうが。まあ、良いや。聞いて驚くなよ。オレ様の完璧な作戦を。オレはシードラゴン討伐の作戦を二人に話した。
「うん。さすがアメリ。これならいけるかも。」
「サオリの言う通りだ。さすがはアメリだ。よし!善は急げだ!キンリーに戻って準備するぞ!」
「「ええ!」」
「今からですか?」
オレは思わず聞いた。と言うのも日が落ちて外は真っ暗になっていたからだ。
「そう。今からだ。サオリのワープでキンリーの街までひとっ飛びだろ。それに準備に時間もかかりそうだしな。少しでも早い方が良いだろう。」
「じゃあ。村長さんとかにうまく言ってくださいよ。また死んだとか思われるのは嫌ですよ。」
「わかったよ。アメリ。しばらく準備で村を離れると村長に告げてくる。それで船長はどうするんだい?アメリ。」
「ああ。船長は船の修理とかでしばらくは船から離れられないそうですよ。」
「わかった。俺が村長に告げてくるから、アメリは船にいる船長に告げてきてくれ。」
「わかりました。」
こうしてオレ達3人は夜のうちにリーム村を離れキンリーへと戻った。決して夜逃げした訳じゃないからね。戦略的撤退ってやつだ。
***********************




