第209話 海竜シードラゴン
海面を割って現れたのは大きな海竜シードラゴンだった。その姿は首が長い恐竜と言ったところで地球で言うところのネッシーにそっくりであった。ただし本物?と違う所は火を噴く凶悪な魔物であると言う所だ。その凶悪な魔物は海面から首だけを出しこちらを睨んでいた。さすがは海の帝王である。その眼力だけでこちらはすくみあがりそうになる。だが怯えている場合じゃない。今日はこいつを討伐に来たんだ。オレは自分に活を入れた。
しかしまずいなメガロシャークとマッドシャークとの死闘でオレ達にはもう戦う余力が残っていない。
「船長!静かに船をバックしてくれ!」
「おう!」
その時タロウが指示してエイハブが船をゆっくりと後退させた。
「距離を取って魔法攻撃ですか?」
呪文を唱えながらサオリが聞いた。
「いや!逃げるのさ!船長!船をUターン!全速全開で逃げてくれ!サオリとアメリは呪文の準備!」
「「「おう!」」」
大きな船とは思えない機敏な動きで船は向きを変えて走り出した。
逃げるのは不本意だがタロウの判断は正しいだろう。オレとサオリはシードラゴンの追撃に備えて船尾へと走った。
だがシードラゴンは追ってはこなかった。
「助かった。いや。シードラゴン退治に来て逃げ出して助かったはないな。でもなんで追っかけて来なかったんだ?」
もう充分に離れて安全だと思ったのかタロウがつぶやいた。
オレもそれは思った。逃げ出すにしてもシードラゴンと一戦を交えてからだと思っていた。
「そうですね。シードラゴンがなんで追っかけて来ないのか。ちょっと見てきましょうか?」
「え!アメリ。どうやって?」
「まあ。タロウさん。オレらに任せてください。そう言うわけでサオリ頼むよ。」
オレはサオリの肩をポンと叩いた。
「えー!やっぱりわたしを利用するのね。まったくわたしはタクシーじゃないんだからね。」
「まあまあ。オレとサオリはシードラゴンの事を良く知らないんだから敵を観察してくるのはアリだと思うよ。」
「わかったわよ。さっきのメガロシャークやマッドシャークのいたあたりにワープするから。でもどこに出るかはわたしにもわからないから即戦闘って事もありえるわよ。その時はアメリ。わたしを守ってよ。もうわたしは魔力がないんだからね。」
「わかった。わかった。いつでも魔法を撃てるように呪文を唱えておくよ。そう言うわけで行ってくるので船長。船をここに待機させといて。」
オレは最初の言葉をサオリに後の言葉をエイハブに言った。
「おう!」
エイハブが元気よく答えた。
「じゃあ。行くよ。アメリ。ワープ!」
オレ達は海の上に出た。幸いにもシードラゴンと即開戦と言う事はなかった。しかし漂うマッドシャーク達の死体の中に出たのはちょっといただけない。きれい好きなオレ達が血だらけになってしまった。
「うわ!」
案の定サオリが悲鳴をあげた。
「しっ!」
オレはサオリの口をふさいだ。
見ると前方の海上ではシードラゴンがマッドャークを貪り食っているところだった。オレ達は別のマッドシャークの死体の影に身を隠した。
「なるほど、目の前にごちそうがいっぱい転がってるからオレ達にかまってる場合じゃないってわけね。」
「で、どうする?アメリ。楽しいお食事タイムを中断して戦闘タイムにしてもらうの?」
「そうね。楽しいお食事タイムを中断してもらうのは悪いけど、こちらにしても手ぶらで戻るわけにはいかないわね。じゃあ軽く遊んでもらおうか。」
そう言うとオレは呪文を唱え始めた。
「サンダガ!」
水の魔物の弱点である電気系の魔法の最上級の魔法をシードラゴンにお見舞いしてやった。メガロシャークなら軽く気絶した呪文をゆっくりはっきりと唱えた威力重視の魔法である。
しかしシードラゴンは気絶してはくれなかった。楽しい食事タイムをいきなり中断されて怒り心頭になって暴れ始めた。
「アメリ!今の魔法は効いたの?」
「うーん。HPをちょっと削った程度ね。やっぱり簡単にはいかないね。それよりここは一時退却したほうが良くね?」
オレは暴れちぎるシードラゴンを指さして言った。オレ達二人を発見できてないシードラゴンはいきなり攻撃してきた敵を探すべくむやみやたらに暴れていた。オレ達二人が発見されるのも時間の問題であった。
「そ、そうね。逃げようか。ワープ!」
サオリのワープでとりあえずはシードラゴンからは逃げられた。しかし直接船にはワープできなかった。サオリが場所を認識できない所にはワープできないのである。だから海にぽつんと浮かぶ船にはワープできない。もう一度海の果てにワープしたところで船が見えた。見えればそこにワープできる。
「ただいまー。」
「お、おかえり。」
突然甲板に現れたオレ達二人にタロウはびっくりしていた。そんな事よりまずは報告だ。
「シードラゴンがオレ達を追ってこなかった訳がわかりました。」
オレはシードラゴンがマッドシャークを貪り食っていたことを報告した。
「なるほどなわばりを犯した俺達に腹を立てたんじゃなくて食事のために現れたってわけか。」
「まあどういう目的で出てきたのかはわからないけど、オレ達よりもマッドシャークの死体を取ったみたいですね。」
「それであらためて遭遇したシードラゴンはどうだった?挨拶してきたんだろ?」
「ええ。挨拶代わりにとびっきりのサンダガをおみまいしたんですけど。てんで効きませんね。」
「うーん。だろうな。魔法が効かないのは俺も経験済みだからわかるよ。」
タロウは腕組みして唸った。
「あれ。それよりもお前さん達、随分と生臭いね。」
今更ながらオレとサオリの姿に気づいたタロウが言った。
「ええ。ワープした先がマッドシャークの死体の群れの中でしたもので。」
「そいつは大変だ。血まみれ汚物まみれじゃせっかくの美人も台無しだ。よし!戻ろう!船長!退却!」
「おう!」
船はリーム村に向って静かに走り出した。
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