第205話 出航
「ほーう。なかなか立派な船じゃないの。」
タロウは港に停泊しているオレ達の船を見て言った。タロウがオレ達の船を見てみたいと言ったので今案内してきたところだった。
「どうですか?この船なら戦えますか?」
「うん。大丈夫。この船なら村で借りた木っ端舟と違ってシードラゴンの体当たりにも耐えてくれるよ。よし。善は急げだ。早速出航だ。」
オレの問いかけに大丈夫と言ってくれたのは良いけど、もう出発かよ。
「え!準備とかは良いんですか?」
「準備いるかい?全部アメリ、君のアイテムボックスに入ってるだろ?」
「まあ。そうなんですけど。一応みんなに出発の挨拶ぐらいはしとこうかなと。」
「それもだけど。今から死地に赴くから止めてくれとでも言うんかい?それともこれで最後かもしれないからみんなでお別れ会でも開くんかい?」
「いや。そんな事は・・・・・・」
「俺達はこれからいつものように魔物退治に行くだけだ。特別な事は何もないんだよ。いつものようにさくっと退治してさくっと帰って来るだけだろう?だから最後の別れなんかいらないんだよ。そうは思わないかい?」
「お、おう。」
そうか相手がドラゴン族だと言う事で気負い過ぎていたかもしれない。相手はただの魔物なんだ。タロウの言う事を聞いて気が少し楽になった。
「じゃあ。そう言う事で出航だ!」
「「「おう!」」」
船に乗り込んだオレ達4人を乗せた船はキンリーの港から外海へと滑るように走り出した。
「うお!速い!思ったよりもはえー!これで誰も漕いでないって信じられるかよ!」
タロウは大はしゃぎである。まるで初めて船に乗った子供のように。ん、初めて?
「もしかしてタロウさんはこう言った大きな船は初めてですか?」
「うん。村で借りた自分らで漕ぐ釣り船は乗った事有るけど、こういったエンジンで動く本格的な船は日本でもこっちでも初めて乗るよ。」
正確にはエンジンで動いているんじゃなくてエイハブの仲間の魔力で動いているんだけどね。それよりも初めてと言う事は船の事は何も知らないんじゃないのか?
「それじゃあ、タロウさんは船の動かし方わかりますか?」
「動かし方って今動いているじゃないか?」
「これは船長の親友であるこの船自らが魔力を使って走っているんですよ。いくら幽霊船と言ってもその魔力には限りが有りますからね。オレ達がサポートしてやらんといけないわけですよ。」
「そ、そうなんだ。動かし方なんて全くわからんよ。」
「まあ。そうでしょうね。じゃあ、いつものようにエイハブに船長をやらせますよ。」
「お、おう。」
「そう言うわけで船長仕切って!」
「おう!」
エイハブが元気いっぱいで返事した。海に出ればエイハブは水を得た魚である。
「よし!じゃあ、アメリとサオリは帆を張って!」
「「おう!」」
船の舵を取るとさっそくオレ達をこき使い始めた。
「あのう。俺は何をすれば良いですか?」
てきぱきと働くオレ達を見て自分も何か手伝わないとまずいと思ったのかタロウが恐る恐るエイハブに聞いた。
「うん!タロウさんは魔物が現れないか船首で見張っててくださいよ。」
「お、おう!」
役目を与えられたタロウはうれしそうに船首に向かって行った。
*
一昼夜も船で走った頃だろうかようやく目的地のリーム村近くの海域に到着した。浜辺では村の子供達が無邪気に遊んでいた。
「凶悪な龍が出没するってんのにのんびりしたもんですね。」
「ああ。シードラゴンは陸の上までは襲ってはこないからね。陸にいる限りは安全だからね。」
見張り役を任せられて張り切って監視をしているタロウが辺りを見回しながら言った。
「じゃあ。人間とは棲み分けができているから無理に退治しなくても良いんじゃないですか。」
強敵との戦闘をできれば避けたいのかサオリがそう言った。
「うん。海は海の神様たるシードラゴンの領域なんだろうね。そこに人間が土足で踏み荒らしに来るから怒って襲って来るんだろうね。だけど、人間の勝手な言い分かもしれないけど、浜辺に住むリーベの村の連中はここの沖に出て漁をしないと干上がってしまうんだよ。それに都に向かう船だってここを通るし、ここにいてもらっては困るんだよ。」
「そうだよ。サオリ。タロウさんの言う通り人間と魔物は相いれないんだよ。ドラゴン族と言うだけで万死に値するんだよ。」
両親をスカイドラゴンに殺されているオレはドラゴンとの共存なんて考えられない。
「それでこれからどうします?」
船の舵を取っていたエイハブが尋ねてきた。船のリーダーは船長たるエイハブの仕事であるがあくまでもこのパーティ(ライジングサン)のリーダーはタロウである。作戦を考えるのはリーダーであるタロウの仕事だ。
「そうだね。ここでのんびりと魚でも釣りながらシードラゴン様が現れるのを待つか。」
「え!こんな所で?村に近すぎませんか?」
「確かに村に近すぎるからできればここで戦うのは避けたいんだけど。なんでここに村があると思うサオリちゃん。」
サオリの問いかけに質問で返したタロウ。
「えっと。・・・・わかりません。」
「魚がたくさん獲れるからでしょ。良い漁場があるからでしょ。」
サオリの代わりに答えた。
「さすがアメリ。わかってるじゃん。あれだけ大きなシードラゴンだとたくさん魚を食わないといけないだろう。だからシードラゴンもたくさん魚がいるここを離れるわけにはいかないって事なんだよ。だから俺達もここで現れるのを待つってわけさ。」
「じゃあ。ここに停めますよ。タロウさん。アメリとサオリ。帆を降ろして。」
オレとサオリに命令したエイハブは自分は錨を降ろしにかかった。
「あのう。俺は?」
一人取り残されたタロウはエイハブに恐る恐る聞いた。
「あ!タロウさん?あんたは引き続き魔物の監視ね。」
忙しそうに錨を降ろしながらエイハブが答えた。
「わかりました。」
タロウはいそいそと船首に走った。これでは誰がリーダーだか。
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