第202話 販売合戦
「よし。誰が一番売れるか競争しようじゃないか。一番の人には売り上げの中からボーナスを出そうじゃないか。」
ボスのアメリの言葉にみんな俄然やる気を出した。絵を売るのは私なのに。何を勝手な事を言ってるんだ。しかし美少女戦隊の絵じゃなければ売れないのも確かね。まあ肖像権の使用料と言う事か。考えようによっては全員に払う肖像権料が一人ですむからお得と言えばお得ね。それに私が一番を取ればお金の総取りじゃない。私も俄然やる気が出てきたわ。あ、その前に今とりかかっているお仕事を片付けないと。
私の歓迎会が終わると私とサオリとアーリンはリーベの我が家に戻った。一応私達はリーベに滞在している事になっているからね。ワープも2回目だったけど、慣れないわ。ワープの瞬間は気持ち悪いし、キンリーとリーベが遠い距離だって事を忘れてしまうわ。
翌早朝、アデル商会のみんなに見送られながら私達の馬車2台はリーベの城門を出た。
「そろそろ良いわね。」
リーベの町が見えなくなった頃にサオリが馬車を停めた。
「シーナ。馬車を私の馬車の横に寄せて。」
言われた私はサオリの馬車の横に私の馬車を停めた。
「よし。そのまま止めてて。」
サオリは馬車から降りると2台の馬車を掴んで叫んだ。
「ワープ!」
しかしワープしたのはサオリだけだった。しばらくしてサオリは戻って来た。
「だめ。わたしの能力じゃ馬車は運べないみたい。」
「えー。前にあんな大きな魔物を運んだじゃないですか。」
とアーリン。
「どうやら私は生物しか運べないみたいね。あ。ちょっと待ってて。」
そう言ってサオリは再びワープした。
そして今度はアメリを連れて戻って来た。
「やっぱりオレがいないとだめだよね。馬を馬車から外してあげて。」
そう言ってアメリは馬を馬車から外し始めた。私も言われたように馬を開放した。
「オレは逆に生き物をしまえないからね。」
そう言ってアメリが馬車を掴むと馬車は突然かき消えた。
「え?魔法?」
小さな物を出すところは見ていたが、大きな物を消すところは初めて見た私はびっくりして思わず聞いてしまった。
「まあ。魔法みたいなもんだよ。」
2台目の馬車を消しながらアメリは答えた。
「ちょうど人数も4人、馬も4頭。みんな馬に乗って4人で手を繋ごう。」
サオリの指示で私達は馬に乗って馬を寄せて手を繋いだ。
「行くよ。ワープ!」
私達4人と4頭はキンリーの近くの草むらにワープした。なんど味わってもこのワープってのは気持ち悪い。
「シーナ。大丈夫?青い顔をしてるよ。」
「うん。大丈夫。サオリ。」
「大丈夫そうね。じゃあアメリ。馬車を出して。みんな。馬を繋ぐよ。」
「オッケー。」
アメリが答えると何もない所から馬車が現れた。サオリのワープに隠れて目立たないがアメリのアイテムボックスも大変なものだ。私達はそれぞれ自分の馬を馬車に繋いだ。
私達4人と2台の馬車は何食わぬ顔で王都キンリーの城門を抜けた。商業者ギルドに到着した後アメリ達とは別れた。アメリ達はダンジョンに行くそうである。アメリ達がダンジョンで頑張るように私も今から頑張って積み荷の値段交渉をしなければならない。商業ギルドの職員は海千山千の食わせ物ぞろいだが、これは私の天命だ。負けるわけには行かない。よし。頑張るぞ。
*
私が気合を入れて頑張ったおかげかどれも良い値段で買ってもらえた。このミッションは大成功だった。だがいつまでも喜んでばかりはいられない。私は次のミッションに向けて動き出した。まずは服だ。アメリ達は美少女だと言っても所詮はセシルの田舎者。服装はダサいに決まってる。リーベの田舎者の私が言うのもなんだけど。とにかく綺麗な服を着ればアメリ達に差をつけられる。顔はいじれんけど服装はいじれるのだ。幸い軍資金は豊富だ。キンリーの流行の最先端の服を私は買い漁った。
次の日、アメリ達美少女戦隊の休日。私は偵察がてら遊びに行った。今日はみんなで肖像画を描いてもらいに行くらしく、みんな朝からおめかしをしていた。アメリもリオも私の思惑通りダサい。野暮ったい服装のおかげでせっかくの美貌が台無しだ。意外な事にアーリン、サオリ、セナはセンスが良い。私のマークすべきはこの3人か。おじさんとおばさんは問題外だし。
さすがに9人いっぺんで絵を描いてもらうのは無理なので3人ずつで違うお店に行った。私の行ったお店はキンリーでも高名な画家の揃う一流店だ。これは商業者ギルドで下調べしてきたから間違いない。後はこのお店でも一番の画家に描いてもらえば良いだけだ。これも問題ない。あらかじめ商業者ギルドを通じて、その画家に描いてもらえるように手付金を渡してある。
絵は1時間ほどで出来上がった。自分で言うのもなんだが良い出来だ。王都で一二の美少女が王都の最先端のファッションに身を包んで王都で一二の画家に描いてもらったんだ。私は勝を確信した。
一緒に来たアメリはお店で2番目の画家に当たったけどそのダサいファッションじゃだめだろう。ただのシャツにズボンてお前は男かよ(笑)。
昼過ぎまでにはみんな絵を描いてもらって来た。アメリに絵を渡して私達の仕事は終わりである。後はアメリが魔法で肖像画を量産するだけだ。アメリの言うところではいくらでも描けるらしいが紙が高いので一人分30枚とした。それにしてもこのアメリの魔法は凄い。元の絵と寸分たがわずの物を何枚でも作れるんだ。
「じゃあ絵は一枚銀貨2枚としよう。」
アメリが値段を決めてくれたけど安くないか。元の絵は銀貨5枚もかかってるんだからもっと高く売れると思うけど。
「安くない?」
私が言うと
「良いんだよ。何枚でも量産できるんだから。」
アメリが答えたけど確かにそうだ。アメリの魔法で沢山作って売りまくるぞ。
「それでみんなで競うんだから、どうせなら自分の絵は自分で売らないか。」
アメリ。ナイスアイデア。君たちは戦闘のプロでも商売はド素人だろう。君たちに観衆の前で絵を売る度胸とテクニックはあるのかな。また一つ私のアドバンテージができた。
「よし。みんな。自分の絵を持ったかい。時間は5時までにしとこう。5時になったら売れてなくても戻る事。もちろん売り切れたらその時点で戻る事。売り切れの場合は一番早く売り切れた人の勝としよう。じゃあみんな。行っておいで。」
アメリの合図で私達は一斉にキンリーの町へと繰り出した。
私はまず商業者ギルドに行った。商業者ギルドに来るお金持ちの親父達に私の絵を売りつける作戦である。結果は惨敗であった。いくら私が美少女でも目の前の本人から買うのはさすがに気の引けるものだ。
次に作戦を代えて学校で売る事にした。先の失敗を踏まえて今度は自分で売らずに男のクラスメイトに売ってもらった。その男の子の腕が良いのかお金持ちのおぼっちゃまが多いのか飛ぶように売れた。このまま全部売り切れかと思いきや。思わぬ邪魔が入った。クラスの女子の総スカンを喰らってしまったのである。これはやばいと判断した私はその男の子に謝礼を渡して早々に学校を出た。
そして今は大通りでこうして絵を並べて売っているのであった。人通りが多いから何人かの人が足を止めて見てくれてそのうちの何人かが買ってくれた。結局5時までに15枚を売った。完売とはいかなかったものの15枚も売れば上出来だろう。私は足取りも軽くアメリ達の家に帰った。
みんなほとんど戻っていて後はアメリとエイハブだけであった。ちなみに私がやっぱり一位で2位はリオとサオリで10枚ずつであった。なんでもリオは他のA級冒険者をぶっ飛ばした事があってちょっとは名を知られているって事だった。危ない。危ない。リオがもう少しかわいい服を着ていたら負けていたかもしれない。サオリはやっぱり一番の美少女だからだろう。同級生に売る作戦が無かったらこれまた負けていただろう。後は一枚かゼロ枚であった。まあそんなもんだろう。
最期にアメリとエイハブが帰って来た。
「お帰り。アメリ。どうだった?」
勝を確信している私は余裕の表情でアメリに尋ねた。
「うん。やったよ。やっと1枚売れたよ。」
やっぱりたった1枚か。
「良かったね。アメリ。1枚でも大したもんだ。」
「うん。良かった。ありがとう。」
アメリは感激して手のひらをこちらに向けてきた。これは知っている。ハイタッチとか言う奴だ。私は思いっきりアメリの手のひらに私の手のひらをぶっつけた。
「じゃあ。サオリ。今日の勝負の結果を発表してよ。」
とアメリがサオリに言った。そんな物言わなくても分かっているじゃない。私のぶっちぎりの優勝に。
「じゃあ。発表するわ。第一位は・・・・・」
サオリったら何をもったいぶってるのかしら、早く私の名前を呼びなさいよ。私は言われる前に立ち上がろうとした。
「アメリ!」
なにー!どうなっているのか!
「え!一枚しか売れなかったんじゃないの?」
「ああ。船長の絵を買ってくれる人がいたんだよ。あれはうれしかったよ。」
え!え?え?ますます持って意味がわからん。
「シーナがわけわからんって顔しているからアメリ。自分で説明してあげて。」
「わかったよ。サオリ。オレは早々に売り切ったから、一枚も売れずに困ってた船長のお手伝いをしていたんだよ。」
「え!売り切った!どうやって?」
「どうやってって。冒険者ギルドのお兄さん達にリオとサオリと一緒に声をかけただけだよ。」
「それでなんでサオリやリオよりも圧倒的に売れるのさ?美人で綺麗な服着たサオリならわかるけど。」
「あー。オレはサオリやリオよりも劣るって言いたいんだろ?本当に失礼な奴だな。」
「いや。そんな事は。ただ服装がダサいかなと。」
「ふん。服ね。お前たちがゴテゴテと着飾るから。オレは逆に服を脱いだんだ。引き算の美学よ。」
「ますますわからんわ。綺麗な服を着ないで逆に脱いだ?」
「何が引き算の美学よ。こいつは下着姿で絵を描いてもらったのよ。」
私が混乱していると横からサオリが言った。
「えー!下着姿!」
「そうよ。下着姿。ブラとパンツだけよ。そりゃ。若い男達に売れるわよ。いやおじさん達も買ってたわ。」
「いや。オレ達の国じゃそれぐらい常識じゃん。ホントは水着を着たかったんだけどこの世界じゃ水着なんてないからね。」
水着がどういうものか知らんけど下着が常識ってどんな国だ。私はアメリの絵を見せてもらった。こ、これは女の私が見てもエロい。恥ずかしい。いつもは鎧で隠されている大きなオッパイがブラジャーをはち切らせて自己主張をしている。体の線が丸わかりって言うか裸じゃん。勝つためとは言え、ここまでするとは私の完敗だわ。
私は負けを素直に認めたけど、ただでは転ばないわ。アメリの絵を中心に明日から売り出そうと思った。
こうしてこの世界初のグラビアアイドルが誕生したってわけ。アメリの人気はそれはそれは凄い物となったけどその話はまたいつかね。
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