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第二話 師匠

 セシルの町の食堂「山猫亭」はおじ夫婦と雇った女の子の計三人で切り盛りする小さなお店だったが、けっこう繁盛していた。おじは働かなくても良いと言ってくれたが、オレは働かしてくださいと自ら申し出た。オレは世話にはなるが、自らの食い扶持分ぐらいは自分で稼ごうと思ったからである。オレは朝早くから、店の掃除、食材の下ごしらえ等の仕事をして、昼は給仕もした。遅めの昼食を摂ると一日の仕事は終わりである。もちろん大人たちには夜の部の仕事もあるが、子供のオレはここで解放される。


 オレは午後からは毎日、図書館に通った。活版印刷が既に発明されているようで、図書館にはいろんな本が揃っていた。オレの中の異世界人としてのトキオがこの世界の事を知りたがっていた。それにオレは強くなりたかった。オレは魔法を中心に勉強をした。 


 この世界では学校は貴族や富裕層の子弟が通う者であり、字も読み書きできないものがほとんどだったが、村の教会の牧師が教えてくれていたおかげで、オレは幸いにも読み書きができた。図書館が閉まる五時まで魔法書を読み、呪文を書き写した。(この世界にも時計はあり、電気の代わりに魔力で動いていた)

 図書館を出ると町のはずれの広場で実践訓練をした。魔法は才能がないとできないらしいが、幸いにも才能があった。魔法の詠唱の練習の他には木剣を振った。トキオの記憶に基づいた自己流のトレーニングであるが体も鍛えに鍛えた。ときには町のチンピラと喧嘩して実戦経験も積んだ。


 自らを鑑定することで、レベルが上がっていくのが具体的な数値でわかり面白く、日々のきびしい訓練がそれほどつらくはなかった。自分の強さが具体的にわかって、鍛えれば鍛えただけその分強くなると分かっていれば、鍛えがいもあるってもんだ。


 一か月たったころには、町のチンピラでオレにかなう者はいなくなり、チンピラのボスになってしまった。チンピラのレベルはせいぜいLV10程度であり、何度倒してもオレのレベルは11からあがらなくなっていた。そこで、オレは引退した冒険者に弟子入りすることにした。


 グレイグは元Aランクの冒険者でLV40の剣士であった。引退した今は市井の徒としてひっそりと暮らしていたが、顔に残る大きな傷が只者でない事を物語っていた。ある日、オレは鑑定でグレイグの実力を読み取ると、町で見かけたその場で弟子入りを申し出た。


「すみません。突然の申し出で申し訳ありませんが、わたしに剣を教えていただけませんか?」


「ん?お嬢ちゃんはたしか山猫亭の看板娘じゃないか。どうしたんだい急に?」


「はい。申し遅れましてすみません。アメリと申します。実は訳あって剣を習いたいのです。今まで自己流で鍛えてきましたが、それでは限界も低いと思いまして、実力者の手ほどきを受けたく思い探してたところ、あなたのような手練れな方を見かけまして、突然で失礼と思いながらもつい声をかけてしまった次第です。」


「アメリちゃん。随分と礼儀正しくしゃべれるんだね。おじさん、ビックリだよ。でも、どこでオレが剣士だと聞いてきたんだい?」


「え。それは義父に聞きました。」


 おれはとっさに嘘をついた。


「グローバの奴、余計な事を。うーん。まあいいか。暇だし。じゃあ、今から時間があるなら俺ん家まで付いてきな。」


「あ、ありがとうございます。」


 オレはお礼を言うと、グレイグの後を付いて歩いた。


 グレイグの家は表通りから一本奥に入った所にあり、けっこうな豪邸であった。豪邸に入ると奥さんがお茶を出して歓迎してくれた。奥さんはグレイグより大分若そうな美人さんだった。


「まあ。かわいいお客様。どうしたのあなた?」


「どうしたも、こうしたもねえ。オレの弟子だ。」


「え!弟子!」


「アメリと申します。よろしくお願いします。」


 オレは頭を下げて挨拶した。


「わたしはメアリーと言うの。こちらこそよろしくお願いしますね。でも、何の弟子になるの?」


「はい。剣を教えてもらいたいと思ってます。」


「え!剣?そんなかわいい手で剣が握れるの?」


「握れます。」


 オレがむっとして答えると


「ごめん。ごめん。バカにしてるんじゃないの。あなたのようにかわいい子に剣は似合わないかと思ってね。それに、うちのは実は体を壊して冒険者を引退してるの、剣を握れるかしらね?」


「なっ。バカにするな!まだまだ、現役じゃ。」


「何強がってるのよ。左手が動かないくせに。そうだわ。わたしが代わりに教えてあげる。」


「「え?」」


「いやーね。あなたまでビックリすることないじゃない。アメリちゃん。大丈夫よ。現役時代からわたしのほうが強かったんだから。」


 オレは慌てて、メアリーを鑑定した。


 メアリー


 魔法剣士


 LV40


 HP B


 MP A 


 スキル 黒魔法 白魔法 魔法剣


 凄い。剣のみならず、魔法も使えるまさにオレの探し求めていた師匠だ。


「よろしくお願いします。お師匠様。」


 オレはメアリーに最敬礼した。


「おいおい。アメリちゃんはオレのかわいい弟子だぞ。横取りすんな。」


「何よ。横取りって、人聞きの悪い。じゃあ、あんたが一番師匠でわたしが二番師匠ね。」


「一番弟子と二番弟子なら、聞いたことがあるけど、へんな事いうな。まあいいか。ふたりで教えれば。」


 オレはいきなり二人も師匠を持つことになった。オレはグレイグから主に剣の型を習い、

 メアリーからは主に魔法を習った。模擬試合はメアリーとしたがまるで歯がたたなかった。

 オレはメアリーにボコボコにされたがメアリーの回復魔法で無傷だった。ボコボコにされても、されても笑っているオレにメアリーが声をかけてきた。


「どうしたの?アメリ。打ちどころが悪かった?」


「いえ。そうじゃなくて、痛さも吹っ飛ぶほどうれしいんです。メアリーさんが強くて。」


 オレは強くなりたい理由と、強い者を探し求めていたことを話した。二人はオレの話に同情して、何でも力になるとまで言ってくれた。


「うちも子供がいなくて寂しい思いをしてたの。アメリちゃん。気軽に毎日遊びに来てね。かわいがってあげるから。」


「かわいがるって、もしかしていじめるって事ですよね。」


「そうよ。覚悟しなさいね(笑)。」


「お手柔らかにお願いします(笑)。」


 オレは夕食までごちそうになって、グレイグ家を辞した。







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