第194話 次のクエスト
「次は何のクエストを受けようかしら。」
掲示板の前で黒髪はじめチームBの皆は頭を悩ませていた。男女達脳筋組みたいに一直線にダンジョンに行けばそれで良いと言う物じゃない。掲示板にはそれこそ多種多様のクエストが張り出されていた。少しでも簡単で実入りの良い物を選ぼうと悩んでいるのである。
「あのう。すみません。美少女戦隊のみなさんですよね?」
そんな私達に声をかけてくる者があった。ギルド職員のミスズであった。
「そうだけど。それで何でしょうか?」
黒髪が代表して答えた。
「ええ。あなた達美少女戦隊指名でこんなにクエストのリクエストが来てるの。」
ミスズは紙の束を黒髪に渡した。
「え!こんなにですか!」
紙の束を受け取った黒髪が驚嘆の声をあげた。
「あなた達はC級だけど、その実力はそのへんのA級冒険者をしのいでいるわ。依頼主にしたら同じC級冒険者に頼むなら少しでも実力と名の知れたあなた達美少女戦隊に頼んだ方が安心だからってわけ。」
なるほど逆に考えると私達美少女戦隊はC級のお安い料金で働くお得なA級冒険者と言うわけか。ご指名を受けるのはありがたいけど。それって私達にもなんらかのメリットがあるのかしら。
「依頼主が私達を指名したがる理由はわかりましたけど、指名を受けた私達にも指名を了承するメリットはあるんですか?」
私は聞いてみた。
「もちろんあるわよ。まず金銭面では依頼料の他に指名料として依頼料の2割がもらえるわ。あと冒険者ギルドのポイントも2割アップで加算されるわ。」
「2割ももらえるの!」
守銭奴が驚嘆の声をあげた。お金がらみの事には彼女はうるさい。黒髪から紙の束をひったくると食い入るように眺めている。
「そこまで聞いたらこの中から依頼を受けざるを得ないわね。この紙の束をしばらく見せてください。」
「もちろん良いわよ。最初からあなた達に見せるつもりだったから。」
私達は冒険者ギルドの飲食コーナーで依頼書の束を見た。
「なんかいろいろごちゃごちゃあってどれにしたらよいか迷いますね。」
「うん。そうだね。とりあえず依頼の種類ごとにまとめようか。」
私がどの依頼が良いか決めかねて言うと、黒髪が的確な指示を出してくれた。なるほど依頼は多種多様に見えてその種類は実はそんなに多くはない。大雑把に分けて採集系と討伐系に護衛系だ。黒髪の指示で私達は依頼書を分けた。
「うん。まずこの採集系の依頼だけど、鑑定の使えるアメリと違ってわたし達に薬草を見極める能力は無いからパスね。」
黒髪が一つの紙の束を差して言った。
「次にこの討伐系だけど、わたし達の最も得意とするところなんだけど。残念ながらダンジョンに入るものがほとんどでアメリ達チームAの活動と被る所が多いから今回はなしね。」
もう一つの紙の束を差して言った。
「必然的にこの護衛系の中から選べってわけよ。」
さらにもう一つの紙の束を一枚ずつテーブルの上に並べながら言った。
「護衛って事は人間相手に戦わんといけないってことですよね。」
「まあ、そう言う事ね。アーリンは人間相手はだめなの?」
「いえ。冒険者をしている以上はある程度は覚悟はしていますけど、それでもさすがに殺人はちょっと。」
「まあ、わたしもセナも人を殺した事はないわ。でも殺さなくても無力にする方法をわたし達は持ってるじゃないの。」
「魔法ですね。」
「そうよ。魔法。サンダーを弱めで撃てばリオとアメリ以外の人類は大概気絶するわ。」
魔法に強弱をつけて撃つのはかなり高等な技だが魔法のスペシャリストの私には問題ない。もっとも私の最強の魔法を撃ってもこの二人は平気だと思うが。
「わかりました。どんどん魔法を撃ってしびれさせてやりましょう。」
「いや。なるべくなら戦わないほうが良いと思うけど・・・・・。とりあえずこの並べた依頼書の中から絞りましょう。」
黒髪がテーブルの上に並べた依頼書を差して言った。魔物が跳梁跋扈し盗賊が当たり前のようにその辺をうろつく物騒な世の中だ。隣の町や村に出かけるのも命がけだ。必然的に私達のような冒険者を用心棒として雇う事になる。上は大商人の輸送キャラバン隊の護衛から下は隣町に出かける家族の護衛まで大小様々な依頼があった。
守銭奴が依頼料が一番多い輸送キャラバン隊の護衛を推していて、ほとんどそれに決まりそうになっていたが、黒髪が一枚の依頼書を見つけて言った。
「これ。知り合いだわ。」
黒髪が依頼書の内容を読み上げた。それによると王都キンリーからリーベまでの物資の輸送の護衛を頼むと言った内容であった。
「ふーん。商人と知り合いなんだ。その人どんな感じの人?」
将来の夢が大商人である守銭奴が知り合いの商人と聞いて食いついてきた。
「うーん。商人と言うか商業学校の女子生徒なんだけど。」
「「「女子生徒⁉」」」
黒髪以外の全員が思わず声をあげた。
「その商業学校の女子生徒とどこで知り合ったの?」
私達全員の知りたいことを守銭奴が代表して聞いてくれた。
「ほらこの間、王都に来る時、わたしとアメリがはぐれてしまって陸路で来たじゃない。その時に山賊に襲われていたのを助けたの。」
黒髪が語り始めた。そう言えば山賊を討伐してその報奨金で馬2頭分の料金がチャラになったと言ってたっけ。その時に襲われていたのがこの依頼主か。え?でも親もいたんだよね。親が依頼主じゃないの?
「ねえ。襲われてた時に親もいたんですよね。その親が依頼主じゃないんですか?」
「うん。金持ち商人のお嬢様って感じだったけど、その辺はどうなんだろ?依頼を受けてみればわかるんじゃない。」
「そうですよね。私もそのシーナさんに会ってみたくなりました。」
「うん。気さくな子だから、アーリンもきっと仲良くなれるよ。もちろんセナもね。」
「じゃあ。依頼だけど、あらためてどれにする?」
黒髪が決を採った。
これは言うまでもないだろう。
「そんなもん。シーナの依頼に決まってるじゃない。ねえ、みんな?」
守銭奴が私達にも同意を求めてきた。
「うん。賛成します。」
「わしも。」
私と骨ももちろん賛成した。
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依頼の了承を冒険者ギルドに告げた後、私達はシーナに会いに商業学校に出向いた。
田舎町で生まれ育った私は学校と言う物に行った事がない。見るもの聞く物全て新鮮だ。
「へえ。これが学校と言う物ですか。大きいですね。」
「アーリンは学校って初めて?わたしとセナは冒険者アカデミーに通ってたんだけど。」
「はい。なんせ田舎者ですから。」
「まあ。そんなに卑下する事ないよ。わたし達の学校なんて名ばかりでごろつきの収容所みたいなもんだったから。」
まあ、それでも学校に行った事のない私からしたら相当うらやましいんだけど。
「剣を下げたごろつきが4人もいきなり来たんじゃ。学校側も警戒すると思うわ。とりあえずわたしとアーリンでシーナに会ってくるわ。セナと船長は近くのお店でお茶でもしていて。」
「うん。わかった。船長とデートね。船長、角の所にあったお店に行きましょ。」
「はい。」
守銭奴と骨は仲良く手をつないで喫茶店へと行った。学校に行った事のない私を一緒に連れてきてくれたのは黒髪の配慮だろう。うれしいな。
黒髪が門番の兵士に訪問の目的を話すと、私達は校舎の中の一室へと案内された。しばらく待っていると綺麗な服を着たいかにも良い所のお嬢様と言った感じの子が入って来た。
「サオリー。お久しぶり。」
「お久しぶり。シーナ。」
二人は女同士で抱き合っていた。これは黒髪達異世界人の挨拶らしい。男女に聞いて私も知っている。
「それでこちらの綺麗なお嬢さんは?」
シーナが私を差して尋ねた。それにしてもこのお嬢様はよく分かってらっしゃるじゃないの。
「あ、ありがとうございます。私はアーリンと申しましてサオリさんと一緒に冒険者をやってます。」
「アーリンちゃんね。よろしくー。」
私もシーナに抱き付こうとしたら手を握られた。これも黒髪達の挨拶だ。
「シーナ。授業中だったんじゃないの?だとしたらごめんね。」
「うん。全然良いのよ。あんなつまらない講義を聞いてても一ゴールドも儲からないわ。こちらからそちらに出向きたいくらいだったのよ。」
「じゃあ大丈夫ね。仕事の話をしても。依頼主があなたのお父様でなくてシーナになってるけどどういうわけで?」
「ええ。これはお父様が仕込んだ仕事じゃなくて、私が考えて私がやろうとしている仕事だもの。私が当然依頼主よ。」
シーナが仕事の内容を語り始めた。要するに王都の特産物を馬車でリーベの町まで運び売りさばくと言う事だった。なるほど王都の物はリーベのような田舎じゃ高く売れるだろう。でもリーベの町で売る当てはあるのだろうか?
「リーベの町ではどうやって売るんですか?」
「そんな物お父様に全部売りつけるわ。私を誰だと思ってるの。リーベの町一番の商人アデルの娘よ。」
このお嬢様はー。でもそんなお嬢様なら危険を冒してまでこんなことをする必要がないんじゃないの。
「リーベの町一番のお嬢様がなんでこんな危険な事をやろうとしてるんですか?」
「アーリン。良い質問ね。私はサオリやアメリ。アーリンあなたも同じぐらいの歳でしょ?そんな私と同い年の子が命がけで頑張ってるのを知って私も命がけで頑張ろうと思ったの。冒険者じゃない商人の子の私が命を懸けるのは商売じゃない?だから命がけで商売をしようと思ったのよ。」
うーん。命を張るならもっと安全な事にしたら良いのに。私達はこれしか能がないからしかたなくやってるんであって、できればやりたくないんだけど。このお嬢様は勉強とか習い事に命がけでやれば良いのに。絶対に命の張り場所を間違えている。
「シーナ。あなたわたしの言った戯言を実行に移すなんて凄いわ。わたしのいた国ではあえて嵐の時に船で果物を運んで一財産築いた男の話があるわ。魔物や盗賊が跳梁跋扈するこの世界じゃみんな交易に二の足を踏んでるわ。まさに嵐の中に船で漕ぎ出す勇者よ。」
お嬢様の戯言に感動しているのが若干一人いたー。
「そうでしょう。私はただのお嬢様で終わる気はないわ。それにはまず、サオリ達みたいに親から自立することよ。そして力を持つ事よ。サオリ達みたいに武力を持たない商人の私の力は金とコネよ。コネの方は幸いにもこうしてサオリ達と結べる事が出来たわ。後は金ね。その金を稼ぐ時が今来たのよー。」
「うん。うん。わたしとアメリでよければいつでも使って。わたし達は友達じゃない。シーナのピンチにはいつでも駆けつけるわ。」
お嬢様の熱い熱弁に黒髪が答える。この二人は良いコンビなんだ。いや男女も加えてトリオか。お嬢様の戯言はどうでも良いけど、これは私達美少女戦隊のビジネスなんだ。大事な事を決めとかないと。
「あのう。盛り上がってるところ申し訳ないんですけど、日取りとか私達の報酬とか決めてもらわないと。」
「ああ。ごめん。ごめん。報酬は少なくて申し訳ないんだけど、相場どおり払わしてもらうわ。今の私に払える限界ね。後、日取りだけど、さっそくで悪いけど明日の朝5時に校門の前まで来てもらえるかしら。生ものも運びたいからできるだけ早く出発したいの。後、人数は二人でお願いします。」
「え!二人ですか?」
「そう。二人。お嬢様と言えど仕送りで生活する身ではそんなにお金がないのよ。だから友達のサオリとアメリに頼もうと冒険者ギルドに行ったら依頼書を書けとか大事になっちゃって。」
「そうなんだ。でも困ったわね。アメリはわたしと別行動しているし、わたしの仲間はアーリンを入れて全員で4人いるんだよね。」
「え!そうなの。どうしよう。」
「困る事ないですよお二方。私とサオリさんで護衛をすれば良いですわ。」
思わず勢いで言ってしまった。どうやら私もこの大ぼら吹きのお嬢様が気にいったみたいだ。
「でもセナと船長はどうしよう。」
「あの二人ならアメリさん達のチームに行ってもらえば良いんじゃないですか。元々ダンジョンでの狩が私達の専門ですし。問題無いですよ。」
「そうね。無問題ね。わかった。わたしから二人に言っとくわ。」
ひょんなことから私と黒髪の二人でお嬢様の護衛を引き受ける事になった。このお嬢様は商人の子らしく人当たりが良い。私もこの子と友達になりたいと思った。お嬢様の大ぼらに付き合いたいと思った。ちなみに馬車は2台あり、1台はお嬢様自ら運転するらしい。もう1台は黒髪が操る。私はお嬢様の馬車に乗り話し相手と運転補助が仕事だ。お嬢様に運転を教えてもらい慣れたら交代する予定だ。女3人に荷物満載の馬車が2台、これはもう。襲ってくれと言わんばかりじゃないか。さてさてどうなる事やら。
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