185話 帝王イカ討伐2
「やった。やった。」
嬉しくなった私はゴランと手を握り合って喜びを分かちあった。
「あのー。喜んでいるのに水を差すようで悪いんだけど、アメリさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫。力を使い果たしてへばってるだけだから、一眠りしてご飯食べれば復活するよ。」
そう言って私はアメリを抱き抱えた。
「それにしても凄い魔法だった。あんな大きな魔物のどてっぱらに大穴が開いたもんね。」
反対側から抱きかかえたゴランが言った。
「どてっぱらじゃなくてあそこが頭らしいよ。頭に見えるのは胴体なんだって。そんな事よりアメリも言ってたけど、今の魔法は見なかった事にしてね。」
私はゴランにアメリの必殺技を他言しないように釘を刺した。それにしてもこんな凄い技を持っているなら私ならみんなに見せて自慢するけどな。サオリのワープもそうだけど、二人の技は他人に見せてはいけないんだって。必殺技ってそう言うもんなんだって。私にはよく分からないけど、二人の戦いの美学らしい。
「それで帝王イカはどうしましょう?」
三人で乗って来た船にアメリを寝かせるとゴランが聞いてきた。アメリのアイテムボックスなら楽勝で収納できるんだけどね。これも他人には見せられない技の一つだよね。わざわざアメリを起こして収納させることもないか。
「うん。このままにしておいて後でみんなで獲りに来ましょうよ。」
この判断が後で大変な事になってしまうがこの時の私は思いもよらなかった。
気絶して目を回したアメリを乗せて私達は家路を急いだ。
「今日はイカ食い放題ですなー。」
「そうね。美味しいイカ料理を頼むわよ。」
「まかせてくだせえ。美味しい漁師料理をふるまいまっせ。」
勝利の凱旋だ。私とゴランは高らかに笑いながら船を進めた。
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「それでどこに帝王イカはいるんじゃ?」
帝王イカを捌くために総出でやって来た村人を代表して村長のマヒが聞いてきた。マヒの言う通り筏の上にも海面にも帝王イカの巨体はなかった。
「わかった。海の中だ。」
私はロープをたどり寄せたがずいぶん軽い。上がって来たのはアメリ特製の巨大な釣り針だけだった。
「そんな。もしかして逃げたの。」
私がうろたえていると。
「まるで老人と海ね。」
少し元気を取り戻したアメリが言った。
「帝王イカはこいつらの腹の中に納まったのよ。」
そう言ってまたあのキモイ臓物を海にぶちまけた。マッドシャークが現れて臓物を奪い合った。
「ちょ!何をするんじゃ!」
そう言ったマヒを先頭にして村人達の船は逃げ帰った。
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「しかし困ったのう。アメリさん達にお礼をしたいが帝王イカの死体がないんじゃ証拠がないのう。」
村長のマヒはなかなかの狸だ。死体がないのを良い事に討伐料をただにしようとしている。
「ゴランさんに聞いてくださいよ。ゴランさんは全部見てましたから。」
私がゴランに証人になってもらおうとすると、
「まあまあリオ。この村の経済状態じゃ討伐料も払えんし、ゴランさんも知らないと言うしかないよ。でも、オレ達もただ働きじゃ悔しいじゃん。そこで提案があるんだけど。」
アメリの提案はこの村の名物の魚の干物を定期的にキンリーの私達の家にまで届けさせると言う物だった。金貨を何百枚も取られると思っていた村長のマヒにとっては渡りに船である。二つ返事で了承した。
「アメリ。あんな安い討伐料で良いの?」
フランソワーズにまたがりながら私は既に一郎にまたがっているアメリに聞いた。
「いいんだよ。オレの育った村もそうだったけど。みんな貧しいんだよ。討伐料なんかとてもじゃないけど払えないよ。それよりこれから半年に一度美味しい干物が食えるじゃん。そっちの方が断然良いよ。じゃあ、キンリーまで競争ね。」
そう言うなりアメリと一郎は駆け出した。本当は木陰で見送ってたゴランに挨拶ぐらいはしたかったんだけど、しかたなく私はアメリの後を追った。こうして私達の休日は相変わらずの波乱万丈で終わった。
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