第182話 クラーケンか?
「貧乏な村で気の利いた御もてなしもできないけど。」
そう言って村長のマヒはお茶を出してくれた。馬でずっと駆けてきたからちょうど喉が渇いていた。ありがたい。オレとリオはお茶を飲みながらマヒの話を聞いた。マヒの話を要約するとこうだった。最近イカの化け物が出るようになり、網の中の魚を食い散らかすのみならず、ついには漁に出る船まで襲って来るようになったと言う事だった。漁に出れないため村は収入の当てが無くなり、このままでは干上がってしまうって事だった。イカの化け物はたった1匹であるが船よりも大きく銛も槍も効かず、村人達ではどうすることもできず、冒険者ギルドに討伐を頼みに行っていると言う事だった。
「イカの化け物って。もしかして?」
「そう。断言はできんけど十中八九クラーケンね。」
オレはリオにそう答えたけど実際問題クラーケンだと厄介だなあ。オレ達美少女戦隊全員でかかってやっとやっつけたのにリオとオレの二人っきりではたして勝てるだろうか。一度キンリーに戻って仲間を呼んでこようか。オレが試案しているのに。
「クラーケンなら前に倒したじゃない楽勝よ。」
リオったら相変わらずお気楽だよなあ。
「おお。そうかい。楽勝かい。良かった。頼みます。」
リオの言葉に安心したマヒが頼み込んでくる。
「アメリのとっておきの必殺技のなんとか砲で一発でしょ。」
エネルギー破の事を言ってるのか。あれはまさにとっておきの技であれを出すとその後動けなくなるし、なにより他人に見せたくないからできれば使いたくないんだよな。最後の最後の起死回生のとっておきとして隠しておきたいんだよな。
「エネルギー破ね。あれを一発撃つとオレは使い物にならなくなるよ。それで魔物が死ななかったら、その後リオ一人で戦える?」
「そっかー。ものすごい威力の攻撃だから忘れてたけど、そんな欠点があるんだ。」
楽勝だと思っていたが、オレの必殺技が思いのほか使えないのを知らされて二人で戦えるかどうか考えこんでリオは黙ってしまった。
「とりあえず、下見させてもらえないでしょうか?イカの化け物は断言できないけどクラーケンの可能性大ですね。」
オレはマヒに依頼了承の前に下見できないか聞いた。
「クラーケンだとどうだと言うんじゃ?」
「はい。オレ達二人だけだと倒すのは難しいですね。いや。オレ達どころかこの国中のどの冒険者でも二人では倒せないですね。その場合はオレ達の仲間がキンリーにいますからそいつらを呼んで来て全員でかかる事になりますね。」
「全員でかかると言う事は当然報酬も全員分払わないといけないって事じゃな?」
「まあ、ここまでの交通費、危険手当諸々含んで一人頭金貨50枚、8人で400枚って所ですか。」
「なにー!400枚だとー。払えるわけがないよ。」
「もちろんこれは冒険者ギルドを通さなかった場合の事であり、通せばSランクの魔物って事もあり、国や冒険者ギルドも費用を負担してくれるからそんなにはかからないですよ。それでも100枚は軽く超えるでしょうね。」
「えー!100枚でもこの村は破産じゃ。」
そう言ったあと、今度はマヒまで黙り込んでしまった。
「ま、まあこれは最悪の場合であってクラーケンじゃない可能性もあるわけですから、オレとリオが見てきてあげますよ。」
「た、頼みます。金貨100枚もとてもじゃないけど払えません。もっと安い魔物にしてください。」
そう言ってマヒは頭を下げてオレを拝むが、魔物の種類はオレが決めるわけじゃないしね。
「とりあえず、オレとリオが乗れる小舟とそれを一番早いスピードで漕げる船頭をお貸ししてもらえないですか?」
「わかりました。今息子のゴランを呼んできますから、ゴランに案内させます。ゴランは村一番の力自慢ですから船を漕ぐのもそうですが。戦闘でもお役に立つと思います。」
そう言ったあとマヒは別室にいるゴランを呼びに行った。
出てきたゴランはマヒの言う通り筋肉もりもりの大男だった。
「なんか強い冒険者様が助けに来てくれたって言うから期待して来てみたら、小娘が二人じゃないか。」
ゴランはあからさまにオレ達二人を見下していた。
「その小娘と今力比べしてみる?」
そう言ってリオは右手を握手する時のように差し出した。
「おもしれえ。」
そう言うとゴランはリオの差し出された手を渾身の力で握った。
「なかなか強いじゃない。素人にしては。」
ゴランが顔を真っ赤にして力をこめるがリオは涼しい顔のままだ。
「じゃあ、ちょっとだけ、力を入れるよ。」
「ぎゃー!参った!参った!離してくれー!」
リオが少しだけ力を入れて握り返すとゴランはあっという間に降参した。ゴランが非力なわけではない。リオが強すぎるんだ。オレ達だって力ではリオに敵わないんだ。素人のゴランが敵うはずがない。
「どう?私達の力を認めてくれる?」
「認めます。認めます。姉御。疑ってすみませんでした。」
涙目になったゴランはリオに深々と頭を下げた。
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「アメリさん。リオさん。そろそろ魔物が出る領域です。」
船を漕ぎながらゴランが言った。
「え?魔物が出る所は決まってるんだ。じゃあそこを避ければ漁はできるんじゃないの?」
リオが聞いたがもっともな質問であった。わざわざ魔物が出る領域で漁をする意味がわからなかった。
「それが魚はどこにでもいるわけじゃないんですよ。魚が集まるポイントじゃないと魚は獲れないんですよ。魚が集まる一番いいポイントがここなんすけど、魔物もそれを知っていてここにいついているんすよ。」
なるほど魔物と人間が良いポイントの取り合いをしているってわけだ。
「ここには何があるんですか?」
「はい。海の底には岩がごろごろとあってその岩に海藻がたくさん生えていて小魚がこれまたたくさん住んでいるんです。その小魚を食べに魚が集まり、さらにその魚を食べる大魚も集まり、大魚を食べに魔物が来ているって所ですかね。」
オレの質問にゴランは海を指さして答えた。海の中は見えないけど岩場になっているって事ね。
「じゃあ、コマセをまくか。リオ手伝って。」
オレとリオは、あらかじめアイテムボックスから取り出して船に並べてあった魚たちを海にまいた。投げ入れてすぐに大きな魚がそれを食いにきた。なるほどゴランの言う通り魚影は濃いみたいだ。多量の大魚が餌をとりあっていた。バシャンバシャンと大魚たちが水面で暴れ狂う情景は圧巻である。オレ達はしばらくその様子を見とれていた。
すると突然水面を割ってとんでもなく大きな魚が飛び出した。
「マッドシャークよ。いよいよ魔物のお出ましね。」
とんでもなく大きい魚を鑑定してオレはみんなに言った。
「どうする?アメリ。やる?」
「しばらく泳がそう。リオ。」
オレ達を襲って来る気配のなさそうな魔物を文字通り泳がせた。マッドシャークはマグロみたいな大きな魚を次々に食い散らかしていた。
「うわー!もったいない。マッドシャークめ。食い放題じゃないの。」
「こんな魔物もいたんですね。こいつの退治もお願いしますよ。」
リオとゴランがマッドシャークの蹂躙を見て言ったが、その心配ももういらないだろう。
「どうやらようやく本命のお出ましのようよ。」
オレは二人に言った。
巨大な二本の足が突然水面にいるマッドシャークの巨体に絡みついた。
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