第179話 オークの魔法使い
私達美少女戦隊1軍は黒髪のワープで地下10階に来ていた。美少女戦隊1軍かー。打倒1軍を目指してダンジョンの底をはいつくばってきた2軍のメンバーである私にとって良い言葉だ。犬好きの男女と脳筋のコンビが自ら2軍に堕ちたためのお情け昇格と言うのは分かっているがそれでもうれしい。私は王都キンリーでも一二を争う実力者パーティの1軍なんだ。冒険者は数多くいれど、ほんの一握りしかいないAランク冒険者のパーティの一員なんだ。ちなみに私自身はC級冒険者で美少女戦隊2軍はDランクパーティだ。今までのように足手まといをかばいながら戦う必要もない。味方はどいつもこいつも超実力者だ。私の実力が100パーセント出せる。本気の全力魔法を撃てる。さあ!魔物達よ。どんどんかかっていらっしゃい。
「この階はわたし達も初めてなんだよね。アーリンと船長にはそれぞれ苦手の剣と魔法を磨いて欲しいところだけど、どんな危険な魔物や罠があるかわからないから今日は全力で行くよ。そこでアーリンは後衛で魔法主体、船長は前衛で剣主体で頼むわ。セナは今日は後衛ね。つまりわたし、船長の前衛、セナ、アーリンの後衛で今日は行くわ。」
私が1軍昇格の喜びを噛みしめていると、黒髪の作戦指導が始まった。男女がいないときはナンバー2の黒髪がパーティを仕切っていた。
「それとこれは大事な事だからアーリンと船長によく聞いて欲しんだけど。前の階(9階)のボスは魔法を使ったわ。今までのパターンから言って、たぶんこの階から雑魚魔物も魔法を使って来ると思うのよね。わたし達は魔法を使って来る相手との戦闘は慣れてないでしょ。それもあって全力で行きたいの。あと、魔物も詠唱がいるみたいで魔法を撃つときはその前に光だすからわかるわ。光だした魔物は真っ先に潰してね。」
魔法を使って来る魔物?私は初体験だ。対人間でも魔法使いは厄介なのに。動きの速い魔物が使って来るとなるとこれは大変危険だ。1軍昇格は良かったが、これはとんでもない修羅場に連れて来られてしまった。私が青ざめて震えていると、
「アーリン怖いの?怖かったらアメリ達と代わっても良いよ。今ならまだ代われるよ。」
私の表情を読んだ黒髪が心配してくれた。
「大丈夫。正直怖いですけど。私、頑張ります。」
「よしっ!大丈夫そうね。なあにいざとなったらわたしもセナも全力で守るから安心して。」
黒髪が私の背中を叩いて言った。
「よしっ!じゃあ、船長。先頭をお願いします。」
「え?今の流れから言ってサオリさんじゃないんですか?」
「今日は斬りこみ隊長のリオも怖い物しらずの爆弾娘のアメリもいないからね。半不死身の船長に先頭をお願いするのは必然よ。それに元々わたしは後衛専門だし。」
わしだって未知の魔物は恐いんだぞとかブツブツ言いながら骨が先頭を歩き始めた。
しばらくして先頭を歩いていた骨が足を止めた。
「次の曲がり角の向こうに魔物がいます。」
男女も子犬もいない以上骨が大事な魔物探知係だ。
「よしっ!船長とわたしで切り込むわ。アーリンとセナは魔法の準備をして。」
そう言うと黒髪は剣を抜いて走り出した。あわてて骨が後を追った。曲がり角に来ると二人は立ち止まり、曲がり角の向こうをうかがっていた。
「オークが4匹ね。」
「なーんだ。オークですか。」
私が少し安心して言うと、
「オークだからって舐めたらダメよ。奥の奴はたぶん魔法使いね。」
サオリが油断するなと言った。それにしてもオークの魔法使いか。どんな魔法を使うんだろう。
「それじゃあ。奇襲をかけるから、さっきの作戦で静かに突撃ね。」
言うなり黒髪は無言で突撃して行った。骨も無言で後を追った。やや遅れて私と守銭奴は魔法の詠唱を小声でしながら後を追った。
前衛の黒髪と骨が突然斬りこんできたのでオーク4匹はパニックになって逃げ始めた。そのうちの1匹、こん棒を持ったオークの全身が淡く光始めた。なるほどそう言う事か。これが魔物の詠唱ってやつね。だがさせるか。
「ファイアーボール!」
オークの魔法が撃たれる前に私のファイアーボールがそのオークを襲った。残りはただの雑魚魔物だ。黒髪と骨があっという間に斬り伏せた。
「それにしてもなんでオークが魔法を使えるんでしょうか?」
私が魔法使いオークの残した魔石を拾いながら聞くと、
「その魔法使いのオークの魔石は普通のに比べて一回り大きいでしょ。たぶんこのダンジョンは魔力の元となる瘴気が多いんだと思うの。その瘴気をたっぷり吸って育った魔物は有り余る魔力で魔法も使えるようになるんじゃないかしら。わたしは学者じゃないからあくまで推測だけど。」
黒髪が答えてくれた。確かにこのダンジョンは瘴気が強い。私も魔法の調子が良い。
「それにしてもアーリン。ナイス判断だったわ。さっきので魔物が魔法を撃つタイミングがわかったでしょ。これからもばんばん魔法を撃って私達前衛をサポートしてね。」
黒髪が褒めてくれた。うれしい。1軍の中でも足手まといにならず戦力になれた。私の魔法は今日も絶好調よ。
今度のオーク4匹は通路の先の見通しの良い所にいた。剣や鉈を持つ者はいない。全員杖やこん棒を装備している。私達が気づいたと言う事はこいつらも当然気づいたと言う事で、全員光出した。
「ファイアーボール!」
まず、無詠唱で魔法を撃てる黒髪が口火を切った。先頭のオークを炎の球が襲った。
「「ファイアーボール!」」
私と守銭奴のファイアーボールがほぼ同時に1匹のオークを襲った。
「ブキー!」
オークの1匹も詠唱を終えたようで魔法を撃って来た。オークの前の空間が歪む。歪んだ空間が先頭の骨を襲った。骨はその風の塊をなんなく斬り伏せると魔法を撃ったオークを斬った。残りは1匹だ。こちらは魔法を撃つ前に黒髪が斬り伏せた。
「どうやら風魔法を使って来るみたいね。船長。受けてみた感じはどう?」
黒髪がオークの魔法の初被爆者の骨に聞いた。
「空気の塊みたいな物を撃って来ますが、ちょっと見えにくいけど遅いから簡単に避けれれますな。」
「ウィンドボールね。魔法を使うって言ってもたいした事なさそうね。わざわざこっちも魔法で応戦するまでもなさそうね。よし次は全員で斬りかかろう。」
「魔法使い相手に魔法を使わないで大丈夫ですか?」
私が心配して聞くと、
「大丈夫。ウィンドボールを撃ってくるだけのオークなんか雑魚よ。雑魚相手に魔法はもったいないわ。魔力を温存するべきね。」
黒髪が答えた。
私の魔法が活躍するはずが、いつものように剣での攻撃に代わってしまった。まあ、それでも良いわ。最近私も剣の極意ってやつを掴みつつあるから、剣の腕を磨くチャンスよ。
「それじゃあ、1回ごとに並びを変えるのはどうですか?私も剣の腕を磨いてみたいですし。」
私は2軍でやっているローテーションを提案した。
「面白いわね。それやってみよう。」
黒髪は賛成してくれた。
「じゃあ、最初はアーリン、わたし、船長、セナの順で行こうか。」
いきなりの先頭抜擢である。やっぱりこの人は先頭を歩きたがらないのね。まあ、でも黒髪が後ろに控えているのは心強い。私は黒髪こそ美少女戦隊で一番強いと思っている。男女も脳筋も強いがいざと言う時に一番冷静に動けるのは黒髪だろうと。
「わかりました。」
私は返事をすると剣を抜いて先頭を歩き出した。いざと言う時に備えて魔法の詠唱も忘れてない。
「アーリン!気をつけて!」
先頭を歩く私に後ろの骨から声が掛かる。
「突撃!」
黒髪の命で私は走り出した。今度の敵はまたしてもオーク4匹だ。セオリー通りなら魔法使いの後ろ2匹から潰していくべきだが、今の私にはそんな敵の選り好みをする余裕があるはずもなく一番先頭のオークに斬りかかった。いくら怪力で大ナタを振り回そうともオークごときは私の敵ではない。簡単に斬り伏せて一息ついている所に空気の塊が私を襲った。
「ぐはっ。」
衝撃で私はうずくまった。
幸いにも黒髪達が素早く敵を全滅してくれたおかげで追撃を受ける事はなかった。
「大丈夫?ハイヒールをかけようか?」
「だ、大丈夫です。」
心配して駆けつけてくれた守銭奴を手で制して私は起き上がった。
「攻撃中に周りを見渡すのは難しいけれど、気をつけてないと絶好の標的になるよ。」
「は、はい。」
黒髪の注意にうなずくしかなかった。当たり前だが混戦中に相手は攻撃を待ってはくれない。私は自分の未熟を戒めた。
「まあ。オークの魔法ぐらいじゃ。ケガもしないって事さ。」
黒髪は気軽に言ってくれるけどめっちゃ苦しかったんですけど。
こうして私達は魔法を使わずに剣だけでオークを倒して進んだ。未熟者の私がたまに被爆するぐらいで大して困難な事もなくボス部屋まで到達した。
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