第178話 負けたけど勝った
なんか今まで影が薄かった気がするけど、オレはいつだってオレの物語の唯一無二の主人公さ。オレがこれから考え行動することが一つの物語を紡いでいくのさ。オレが・・・・
「アメリ。あんた何をブツブツ独り言を言ってんのよ。大丈夫?」
「いや。なんか久しぶりな感じがしてつい。」
危ない。危ない。思ってる事をつい声に出して言ってしまったか。それをリオに聞かれるなんて最悪だ。危ない奴だと思われてしまう。いや。もう思われてるか。と、ともかくオレとリオを加えた新美少女戦隊2軍は地下5階に来ていた。2軍と言っても1軍の主力のオレとリオがいるんだから新1軍と言っても良いだろう。
「今日はオレとリオが加わったけど、オレ達が魔物を倒してもマームとエイミーの訓練にはならないから、今日はオレ達はサポートに回るね。」
気を取り直してオレはみんなに注意事項を伝える。
「と言う事は私とエイミーが前衛を務めるって事で良いのね。それで私とエイミーは魔法を使っても良いのかしら?」
マームが質問した。マームは最近魔法を覚えて魔法攻撃にこだわっていた。
「もちろん良いよ。魔法は使えば使うほど上達するからね。魔力の許す限りどんどん使ってよ。」
「私とロボはコンビだから二人一緒に攻撃して良いですよね?」
「うん。本当はオークぐらい一人で倒してもらいたいんだけど、エイミーもロボもまだ初心者だし無理はさせられないしね。コンビで攻撃して良いよ。」
「ちょっと待った。エイミーとロボちゃんのコンビ攻撃も良いけど、ロボちゃんと他の人とのコンビ攻撃もできるようにした方が良いんじゃない。」
エイミーがロボとのコンビ攻撃を認めるよに言うと、リオがエイミー以外のコンビもできるようにした方が良いんじゃないかと主張してきた。
「まあ、リオの言う通りなんだけど、エイミーは魔法をなんか使える?」
「いえ。まだ使えません。」
「エイミーを後ろにさがらせても魔法を使えないんじゃ戦えないでしょ。今日の所はロボとエイミーのコンビで戦ってもらおう。わかった?リオ。」
「うーん。ロボちゃんと私のコンビ攻撃を磨きたかったのに残念。」
リオがコンビ攻撃とか言って残念がっているがお前はロボと一緒に戦いたいだけだろう。オレだってかわいいロボを手足のように使って攻撃してみたいさ。
「それじゃあ、先頭はエイミーとロボのコンビで2番目はマームで二人が主に攻撃して、オレとリオは二人の後ろからサポートするから。」
「「「おう!」」」
ロボを先頭としてオレ達は歩き始めた。
「グルルルル!」
先頭を歩くロボが立ち止まってうなり始めた。
「魔物が潜んでます!」
エイミーが警告を発した。オレの鑑定も曲がり角の奥に待ち構える2匹のオークを表示していた。
「オークが曲がり角の奥に2匹いるね!エイミーとマームは剣を抜いて突入!リオはもしもに備えて魔法の準備!」
「「「おう!」」」
ロボを先頭にオレ達4人は走り出した。オレが曲がり角を曲がった時にはロボが既にオークに噛みついていた。
「ファイアーボール!」
もう1匹のオークにマームが魔法を撃った。
「そして突きー!」
オレの必殺技のファイアー突きじゃないか。いつの間にパクったんだ、いやマスターしたんだ。2軍の実力はオレが思う以上に高いのかもしれない。そんな事より今はエイミーとロボのコンビの事だ。腕に噛みついたロボを振りほどこうとしてオークが腕をあげた隙を逃さず、エイミーががら空きの胴に剣を決めた。ロボとエイミーコンビもやるじゃないか。
「マームもエイミーもやるじゃない。オレとリオの出番はないね。」
「任せてくださいよ。私達2軍だってやればできるって所を見せますよ。」
オレが褒めるとエイミーは鼻息も荒く言った。まあ、ここまでは問題なしだ。問題は防御力の高い岩トカゲにどう対処するかだ。見せてもらおうじゃないかお前たちの実力を。
そしておあつらえ向きに次にエンカウントしたのは岩トカゲが2匹だった。
「岩陰に2匹の岩トカゲがいるよ!硬いから気をつけて!」
オレはみんなに警報を発した。そしていざと言う時に備えてウォターボールの呪文を唱え始めた。
真っ先に飛び出したのは例によってロボだった。岩トカゲ2匹も岩陰から飛び出した。ロボは今度はすぐに攻撃せずに相棒のエイミーの到着を待つように1匹の岩トカゲの周りを回り始めた。
「リオ!マームをサポートして!オレはエイミーの方に行くから!」
「おう!」
オレはリオに指示するとエイミーを追いかけた。
岩トカゲにたどり着いたエイミーは鉄パイプでひたすら岩トカゲを斬っていた。岩トカゲの防御力は高い。エイミーの鉄パイプによる斬撃ぐらいでは倒せないだろう。
「エイミー!助太刀に入ろうか?」
オレが心配して声をかけるとエイミーは無言で首を振って拒否した。いったいどうするのかと見守っていると、エイミーのしつこい攻撃に怒った岩トカゲが反撃しようとして頭を持ち上げたところにロボが滑りこんだ。うまい。ロボはそのまま岩トカゲの首を噛んだ。岩トカゲの首は背中側は文字通り岩のように硬いがお腹側はそれほど硬くはない。ロボを振りほどこうとして岩トカゲは頭を振るがロボはそんな事では離さない。やがて岩トカゲは力尽きて光の球になって消えた。
マームの方もオレのパクリ技のファイアー突きで岩トカゲを撃破していた。オレの伝家の宝刀のファイアー突きが雑魚魔物に連発されるとはなんだか複雑な気分だが、ここは素直に二人と一匹を褒めないと。
「やるじゃない。二人とも。いや三人とも。」
「そうでしょう。私とロボは無敵よ。」
なんかエイミーってリオみたいに調子に乗りやすいタイプみたいだな。
「その調子で頑張って。」
まあ、やる気に水を差すのもなんだからオレはややこしい事は言わない。
二人と一匹の頑張りにより、後衛組のオレとリオには全く出番がないままにボス部屋にたどり着いた。
「アメリ。私今日は何にもしてないんだけど。」
力を持て余したリオがついに不平を言い出した。
「うん。オレもだ。でも大丈夫。マームの魔力ももうないし、ボス部屋はオレ達二人に任せてもらおうよ。マームもエイミーも後衛に回って。オレとリオで頑張るから。」
オレは最初の言葉をリオに後の言葉をマームとエイミーに言った。
「それでどうする?」
「うん。魔法を使わずに倒すってのはどう?」
オレはリオに剣だけでの攻撃を提案した。
「それは面白いわね。じゃあ、アメリは岩トカゲとオークのどっちをやる?」
「うーん。岩トカゲとオークがそれぞれ固まってくれてたら良いけど、たぶんバラバラにいるよね。目の前の敵を適当に倒すで良いんじゃない?」
オレは作戦にもならないような作戦を言った。
「それもそうだよね。じゃあ鉄パイプでぶっ叩いてやるか。」
リオが鉄パイプを振り回しながら言った。
「私とマームさんはどうしたら良いですか?」
エイミーが聞いてきた。普通ならいざと言う時に備えて魔法でのサポートを頼むが二人とも今は魔法が撃てない。敵もいっぱいいるし、鉄パイプでの攻撃を頼んでも良いが、今日は全くの出番が無かったオレもリオも暴れたくてうずうずしている。どうしようかと思っていたら。
「後ろで見てたら良いよ。私とアメリの二人でやっつけるから。」
リオがオレの代わりに言ってくれた。
「それじゃあ、どっちがたくさん倒すか勝負しない?」
「本当に勝負が好きね。アメリは。面白い。受けて立つわ。」
「よし。じゃあ、オークと岩トカゲじゃ強さも違うから、岩トカゲはオーク3匹としてカウントね。」
「うん。わかった。」
「よし。行くよ。」
「おう。」
オレを先頭にボス部屋の扉をくぐった。
ボス部屋に入るなりリオが駆けだした。あ、きたねえ。オレも慌ててリオの後を追った。どうやらリオは岩トカゲ狙いみたいだった。中央の岩トカゲ3匹に向っている。しかたない。オレはオークに狙いを変えて鉄パイプから長剣に持ち替えた。リオがポイントの高い岩トカゲにターゲットを絞っている以上は、オレはオークに手こずっているわけには行かなかった。最初から全力だ。縮地を使いオークとの距離を一気に詰め、一撃で斬り倒す。さらに縮地を使い2匹目3匹目も一太刀で倒した。最後のオークは岩トカゲの影にいた。オレは長剣から鉄パイプに再び持ち替えた。岩トカゲ狙いに変更である。ちなみにリオも1匹目の岩トカゲを撃破して2匹目にとりかかっていた。今のスコアはオレがオーク3匹でリオが岩トカゲ1匹だ。岩トカゲはオーク3匹分として数えるから、今は全く互角と言う事だ。つまり、それぞれが今戦っている岩トカゲを早く倒した方が勝ちと言うわけだ。
リオの方は力任せに鉄パイプを振り回し、防御力が高かろうが低かろうが構わずにやっつける戦法だ。実にリオらしいやり方だ。腕力が強く剣戟が飛びぬけて強いリオならではの脳筋戦法だ。岩トカゲも弱点の腹部を守るように丸くなっていた。リオと同じやり方をしてもリオには敵わない。オレは縮地を使い岩トカゲの側面に着くと、渾身の力を込めて岩トカゲの巨体をひっくり返した。
「グギャー!」
突然の出来事に驚き手足をばたつかせて元に戻ろうとする岩トカゲ。もちろん元に戻らせはしない。体をよじって地面に着いた方の足を下から斬り上げた。
背中側と違って腹部側は急所が目白押しだ。
「連続突きー!」
がら空きの急所を目掛けてオレは突きを順番に喰らわせた。頸に2発、心臓に3発、最後にとどめをみぞおちに喰らわせようとしたところで、最後に残っていたオークがオレに斬りかかってきた。攻撃に集中していたオレは気づいたが避けきれない。せめて傷を浅くしようと体をこわばらせた瞬間に、ロボがオークに体当たりした。オークの剣はオレの背中をかすめた。幸いにして着込んでいたクサビ帷子がオークの剣からオレを守った。危なかった。ロボの体当たりがなかったらまともに斬られていただろう。オークのバカ力でクサビ帷子ごとオレの背中は斬られていただろう。オレは気を取り直して、岩トカゲにとどめの突きを入れた。岩トカゲは光の球になって消えた。
リオの方も今しがた岩トカゲを撃破したようでこちらに向かっていた。だが、一手遅い。オレはロボを手にぶら下げてがら空きになっているオークの頭に会心の面を決めた。オークも光の球になって消えた。
「えーと。リオが岩トカゲ2匹でオレが岩トカゲ1匹にオーク4匹ね。岩トカゲはオーク3匹でカウントするから、オークでカウントし直すとリオがオーク6匹でオレがオーク7匹って事ね。どうやらオレの勝ちって事ね。キンリーの町の屋台での食い放題で許してやるわ。」
「ぐむー。悔しい。」
オレがリオ相手に勝ち誇っていると。
「ちょっと待ったー!」
マームが物言いをつけてきた。
「え!何?」
「マームさん。アメリがまたなんか卑怯な事したんですね?どうぞ言ってやってください。」
戸惑うオレとは裏腹にリオの方はまるで生き返ったとばかりに元気になってマームに促した。
「たしか。アメリとリオは二人だけで戦うと言ってたよね?」
「あー。言いましたね。私が。確かに。お前たちは見てろってマームさん達に。」
「それで私とエイミーは後ろにさがって見てたんだけど、ロボ君はアメリのピンチに助太刀しちゃったんだよね。」
「え!アメリ。本当?」
先程のオークの不意打ちに対してオレを守ってくれたロボの行動の事を言ってるのか。誰も守ってくれなんて言ってないよ。ロボが勝手にした事だろうと、言いたかったがあの行動でオレは大けがをせずに済んだ。オレはロボの好意を無にするようなわがままな人間じゃないぞ。
「ああ。本当だよ。オレの負けだよ。負け。負けを認めるよ。みんなに屋台での食い放題を奢るわ。」
「「「やったー!」」」
声をハモらせて喜びやがって。
「ふん。確かに勝負は負けたけどね。オレのピンチに真っ先に駆けつけてくれるロボちゃんのやさしさを確認できたから悔しくはないぞ。どう?リオのピンチには来てくれた?」
「むー。勝負に勝ったのになんか負けた気がする。」
オレの負け惜しみにリオは悔しがっていた。一矢報いたかな?
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