第175話 ロボの訓練
「それでロボはどうなの?使えそう?」
男女が聞いてきた。私達は今、遅い昼食を摂りながら反省会をしている。
「はい。ロボは大変優秀ですね。エイミーとのコンビはもちろんなんですが、エイミー以外の人ともコンビネーションが取れますね。」
私が2軍を代表して答えた。エイミーよりも使えると本当は言いたかったがやめておいた。
「そう。良かった。かわいいだけじゃないんだね。オレのロボは。」
そう言って男女は犬使の横に寝そべっていた子犬を抱き上げた。
「何がオレのロボよ。ロボはみんなのものよ。」
と言って脳筋が男女から子犬を奪ったが、犬使のものでしょ。
こうやって人に抱かれていると本当にかわいい。もうみんなのアイドルになっていた。
「昼食後は自主練の時間だけど、エイミーとロボはもちろん参加するよね。」
「は、はい。もちろん。」
自主練は強制参加じゃないから別に参加しなくても良いが、男女が有無を言わせずに犬使いコンビを参加させた。
「エイミーはわかるけど、ロボも参加させるの?」
脳筋が質問した。
「うん。ロボには強くなってもらってオレ達1軍ともコンビネーションを組んでもらいたいからさ。」
「魔物を鍛えるなんてできるの?」
黒髪も質問した。
「サオリ。警察犬の事を忘れた?」
「あー。そうか。警察犬の訓練をするのね。」
「そう。昔テレビで観たやつよ。」
異世界コンビの二人で納得していたが、私達にはさっぱりわからない。
「なんかどういう訓練か分からないんですけど。」
私も質問すると。
「ああ、それは今日の自主練のお楽しみね。」
男女がもったいぶって答えた。
「よし!昼食食べたら準備して食堂に集合ね。もちろん自由参加だからやりたくない人は来なくていいよ。」
そう言って真っ先にご飯を食べた男女は食器をさげると部屋に戻って行った。
「あら、今日はかわいい子を連れてきたのね。私にも抱かせて。」
鬼師匠は子犬を見かけると、そう言って抱いた。
「でもこの子は訓練に邪魔ね。どうしようかしら。」
「師匠。邪魔じゃないですよ。ロボも一緒に鍛えるから。」
「え!アメリ。子犬も鍛えるの?」
「子犬じゃなくてこれでも立派な魔物なんですよ。そしてティマーであるエイミーの従魔なんですよ。」
「魔物?従魔?ティマー?」
分からない事だらけで混乱している鬼師匠に男女は犬使と子犬の出会いから順番に説明し始めた。
「へえー。そんなスキルがあるんだ。長い間冒険者をしてきた私も知らなかったわ。それでどうやってティマーを鍛えればいいのかしら。」
「それに関してはオレに考えがあります。今日の所は師匠はいつものようにエイミーを鍛えてください。」
「わかったわ。」
そう言うわけで、犬使は私と幽霊の初心者剣士組と一緒に汗を流した。初心者組の中でもだんとつに弱い犬使は鬼師匠が付きっ切りで指導した。
子犬の方の訓練はと言うと、男女がアイテムボックスから何かを取り出した。
「じゃーん。スーパーオークの手。」
「何がスーパーオークよ。昨晩遅くまで何をやってるかと思ったら、そんなもの作ってたのね。」
黒髪があきれて言うように、男女が遅くまで夜なべして作った傑作が男女の左腕に装着されていた。それは巨大な手と言うよりは巨大な籠手だった。古毛布か布団みたいなもので作った籠手だった。男女の右手には片手用の短い竹刀が握られていた。
「さあ!来い!」
子犬の前で凄む男女。しかし当の子犬は男女の前できょとんとしているだけだ。
「エイミー!ロボにオレを襲わせて!」
「わ、わかりました!ロボ!やれ!」
犬使の命令を聞いて子犬は目の前の男女に飛びかかった。男女は自称スーパーオークの手(巨大な籠手)でそれを防いだ。子犬はスーパーオークの手に噛みついた。男女が子犬を振り払おうとスーパーオークの手を振り回すが、子犬は噛んだ手を離さない。
「しかたないね!」
そう言った男女は子犬を振り回すのをやめ、右手に持った短い竹刀で思いっきりぶっ叩いた。
「キャイン!」
子犬は短く叫んでひれ伏した。
「どうよ。」
「あのう。ロボが意見があると言ってます。」
勝ち誇る男女に犬使いコンビが注文を付けてきた。
「何よ?言ってみ。」
「はい。自分は首筋の急所を噛むのが得意技だ。アメリさんが無防備すぎて本気出せないと言ってます。ロボが。」
「な、生意気な!お前ごときに防具がいるか!と、言いたいところだけど。ロボの言い分ももっともだね。そこで、じゃーん!スーパーオークの頭!」
そう言って男女はスーパーオークの手同様に毛布で作った頭巾を取り出して装着した。
「これで頭と首はガードしたよ。存分に狙ってくれよ。」
「何がスーパーオークの頭よ。いっその事、スーパーオークの着ぐるみ着れば。」
「ああ。サオリ。それも考えたんだけど、さすがに一晩じゃそこまでできなかったよ。」
やっぱりこの人は・・・・。
「さあ!本気で来いよ!こっちも本気出すからよ!」
「ガウウウウー!」
男女得意の決闘がどうやらまた始まった。みんなは突然始まった決闘に訓練の手を止めて見守った。
子犬は男女の周りをゆっくりと回り始めた。
「おら!来いよ!ちび犬が!」
男女が挑発する。挑発に答えるように子犬が男女に向って走り出した。
「死ね!」
自分に向って来る子犬に男女が斬りかかった。しかしそれを子犬は華麗なステップでかわした。うまい。そのまま男女の首筋に飛びついた。これで終わりかと思ったら、なんと男女は飛びかかる子犬に頭突きをかました。意表を突かれた子犬はあえなくダウンした。
「どうよ。まだおねんねの時間は早いよ。どんどん来い!」
勝ち誇った男女が子犬を叱咤する。
「ロボー!」
心配した犬使が駆けつけた。
「触るな!これは訓練だけど試合だ!」
男女が犬使を一喝した。犬使は竹刀を持ったまま固まった。子犬は気丈にも立ち上がると何度か吠えた。そして再び男女の周りを回り始めた。そして今度はフェイントを入れながら男女に向って来た。男女はフェイントにかからないようにどっしりと構えている。そこに子犬は飛びついた。男女はスーパーオークの手で難なく防いだ。ロボはそれに噛みつく。このままじゃ、さっきのように男女の右手に持った竹刀で斬られて終わりだと誰もが思った。
「なかなか良い攻撃だけど、オレの右手には竹刀があるの忘れたらダメだよ。」
そう言って、余裕を見せていた男女だが、やられたのは男女の方だった。
「アメリさんもなかなか良い攻撃だけど、ロボの影にはいつも私がいるのを忘れたらダメだよ。」
そう。男女の後ろで固まっていた犬使が持っていた竹刀で思いっきり男女の頭をぶっ叩いたのであった。
「ぐっ。卑怯な。」
「いや。今のは完全にロボとエイミーの勝ね。だいたい、卑怯ってあんたの得意技じゃないの。そのあんたが卑怯って言ったらいかんよ。ティマーって従魔と一心同体なんでしょ。従魔を攻撃していてティマーに注意しないのはおかしいでしょ。戦場でも卑怯って言うの?」
「ぐっ・・・・。」
後ろからの不意打ちに抗議する男女に、黒髪がいつも男女に自分が言われている事を言い返した。ぐうの音も出ない男女は頭をかかえてうずくまった。
「さすが私のロボね。よくやった。」
そう言って脳筋が子犬を抱きしめたが、やったのは犬使である。それに犬使の子犬なんだけど。
「アメリがやられたから、選手交代ね。次は私がスーパーオークになるよ。」
そう言ってオーク女ことリオが男女から装備を受け取っていた。オーク女がオーク役って似合いすぎるんですけど。男女よりも手足が長く力も強いオーク女は装備の重さをものともせず、男女以上に素早く動き回り子犬と犬使のコンビを苦しめた。
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