第173話 ロボ
今日も私達2軍は地下4階に来ていた。昨日までと違うのは犬使い(エイミー)が使い魔の子狼を連れてきている所だ。ちなみにエイミーは私の中で村娘から犬使いに出世、いやクラスチェンジした。子狼はどっからどう見てもかわいい子犬だ。こんなかわいい子犬がまともに戦えるのか。役立たずが一匹増えただけじゃないのか。早く下の階に行ってもっと強い魔物と戦って、腕を磨きたいのが本音だが、ボスの男女から犬使い(エイミー)と子狼を焦らずじっくりと育てるように頼まれている以上、そんな無茶はさせられない。
例によって先頭は幽霊で、次に犬使い(エイミー)と子犬が付いて歩いていた。この先頭二組が主に戦い私と骨はサポート役だ。
「コボルト二匹よ!」
先頭の幽霊が魔物を発見した。
「マームさんとエイミーで当たって、船長と私はサポートするよ!」
私は作戦を手短に伝えると犬使い(エイミー)とのサポートをすべく犬使い(エイミー)の背後に回った。ちなみに特に指示がない場合は犬使い(エイミー)は私が、幽霊は骨がサポートすることになっている。
私はいつでも魔法を撃てるように呪文を唱えながら犬使い(エイミー)の戦いを見守る。コボルトはゴブリンよりも少し強い程度の魔物だから、もともと犬使い(エイミー)一人でも後れを取る事はない。そこに新戦力の子犬が加わったのだから、戦力として不足はない。私は安心して一人と一匹の戦いを見守った。かわいいロボちゃん、どう戦ってくれるのかな。ちょっと楽しみだ。
「ガルルルルー!」
いきなり子犬がコボルトに飛びかかった。速い。コボルトは子犬の先制攻撃に反応できない。子犬は急所である首筋に噛みついた。同じく素早い動きに反応できなかった犬使い(エイミー)があわてて斬りかかろうとしたその前にコボルトは光の球になって消えた。強い。強すぎだろ。これはご主人の犬使い(エイミー)よりはるかに強くて役に立つじゃないか。
「ロボー!」
すかさず犬使い(エイミー)が子犬を抱きしめてその労をねぎらう。
「強いね。ロボは。」
そう言って私も子犬の頭を撫でた。
「ねえ。ロボとは意思疎通ができるの?」
「念話ってやつかな。それで簡単な会話ならできるよ。」
会話ができるとは驚いた。こんなかわいい子と話せるとはうらやましい。
「それで今なんて言ってるの?」
戦闘を終えた幽霊も子犬の頭を撫でながら聞いてきた。
「うん。みんなに撫でられてうれしいって言ってるよ。」
そ、それは私にもわかるんだが、尻尾が激しく振られている事で。
「じゃあ、なんかロボに命令して見せてよ。」
私が言うと、しばらく考えた犬使い(エイミー)が子犬に命令を発した。
「お座り!」
子犬がそれは見事なお座りをした。
私と幽霊は少しだけずっこけた。
「ねえ。エイミー。ロボが今何を言ってるか当ててあげようか。」
「え!アーリンも分かるの?」
「分かるわよ。褒めて。褒めてでしょう。」
「すごーい。当たってるよ。アーリンって天才?」
お座りをしている子犬が大きく尻尾を振って犬使い(エイミー)に何かを訴えるように見つめていた。
「と、とりあえずは褒めてあげて。そ、それでさっきは攻撃を命じたら、ロボがそれに答えて攻撃したのね?」
「うん。行けと命じたら攻撃したの。」
なんかティマーって凄いスキルかと思ってたけど、賢い犬とそれを操る飼い主って感じなんだけど。まあ戦力が増えたんだから良しとするか。賢い犬ならそれを使った戦闘の仕方もあるはずだ。あ、もう一つ肝心な事があった。
「ロボってエイミー以外の命令も聞くの?」
「うーん。どうかな?アーリンも命令してみればわかるんじゃない?」
私もしばらく考えてみてから命令した。
「ロボ!お座り!」
子犬が見事なお座りをした。
尻尾を振ってアピールする子犬の頭を撫でて褒めてやると、さらに大きく尻尾を振って嬉しさを表現した。かわいい。私は思わず子犬を抱きしめてしまった。
「と、とりあえず、ロボの強さはわかったわ。ロボと組めばエイミーもオークを倒せるんじゃないの?」
「私もそう思ってたんだ。ロボと私のコンビは無敵じゃないのかと。」
無敵とは調子に乗りすぎだが、オークより強いのは確かだ。そうと分かれば地下4階で雑魚を倒している時間がもったいない。私達はボス部屋を通らず、横の階段から地下5階に降りた。
しばらく歩くと先頭の幽霊より早く3番目に歩く子犬が敵を発見した。
「オークが潜んでいます。」
犬使い(エイミー)が言ったが、言われるまでもなく子犬の吠え声で私達はわかっていた。
「よし。今まで通り、マームさんとエイミーで行って!私と船長はフォロー!」
そうみんなに指示を出すと、呪文を唱えながら私は犬使いと子犬のコンビの後を追った。
岩陰に隠れていた2匹のオークが飛び出した。先頭を走る幽霊を追い越して子犬が一匹のオークに襲い掛かった。顔に飛びかかった子犬を振り払おうとしてオークが両手をあげた。がら空きになった胴に、ようやく追いついた犬使い(エイミー)が剣を浴びせた。内臓を斬られたらさすがのオークも致命傷だ。オークは光の球になって消えた。隣のオークも幽霊が難なく斬捨てたところだった。
「やった!やった!」
今までまったく歯が立たなかった難敵をやっつけて犬使い(エイミー)は大喜びだった。
「よくやった。」
私は尻尾を振る人間と子犬の頭を優しく撫でてやった。
「よし。エイミーもロボのおかげでオークを倒せるようになった事だし、しばらくはこの階で腕を磨こう。次は私と船長で出るわ。一回ごとに前衛と後衛を交代しましょう。」
みんなに指示をすると、私は犬使い(エイミー)と子犬のコンビとポジションを代わった。私とて、剣が得意なわけではない。逆に骨は魔法が苦手だ。敵が弱いうちに弱点を克服しないと。
オークは典型的なパワーファイターだ。力に任せて手に持ったこん棒を叩きつけてくる。だがその攻撃は単調だ。初撃さえかわせば、簡単に倒せた。骨の方もファイアーボールを決めて倒していた。一対一なら楽勝だと思っていたら、次に先頭を歩いた幽霊がオーク2匹ゴブリン2匹の魔物のチームを発見した。
例によって子犬が真っ先に飛び出した。
「ワン!ワン!ワン!」
子犬の激しい威嚇に魔物チームは思わず後ずさりをした。後ろにさがったがダンジョンの壁に阻まれてこれ以上はさがれない。これは魔法を撃つチャンスだ。
「エイミー!ロボをさがらせて!」
「ロボ!引け!」
子犬が後ろにさがった一瞬に私は魔法を発動した。
「ファイアー!」
魔物の群れの中に大きな炎が上がった。ゴブリン2匹は一瞬で光の球になった。生き残ったオーク2匹は幽霊と犬使い(エイミー)がとどめを刺した。
子犬は戦うだけじゃなくて、魔物の追い立て役としても役立つじゃないか。魔物を一か所に固めてくれれば、効率よく魔法を撃てる。私は子犬の加入による戦略の広がりの可能性を感じていた。
「ロボ。偉いね。よし。よし。」
私は子犬を撫でてやった。子犬は尻尾を激しく振って喜んでいた。
オークを順調に撃破して進んで、ついにボス部屋まで到達した。
「今までのパターンからして次がボス部屋に間違いないと思うけど、どうする?」
私は通路の奥まった部屋の前でみんなに尋ねた。
「どうするって行くでしょう。」
犬使い(エイミー)が元気よく答えたが、私が心配してるのはあんたの実力なんですけど。
「オークを倒せないのにボス部屋に挑むのは早いんじゃないかと思うんですけど。」
「エイミーの事を言ってるの?ロボなしでオークに敵わないから早いって?大丈夫よ。エイミーはロボと一心同体でしょ。エイミーはロボとコンビで考えてあげないと。二人のコンビならオークぐらい楽勝じゃない。」
幽霊が犬使い(エイミー)の子犬とのコンビでの強さを言って心配ないと言ってきた。確かに私もそう思うが。
「わしもマームさんと同意見ですね。まあ、もしもの時はアーリンさんがフォローすれば大丈夫ですよ。」
骨までそう言うなら大丈夫か。
「わかりました。ボス部屋に挑みましょう。ただし、全力で行きましょう。それで前衛は船長とエイミーでお願いします。後衛はマームさんと私で、魔法をガンガン使って行きましょう。それでは美少女戦隊2軍!ガンガン行くよ!」
「「「おう!」」」
私がみんなに気合を入れていると、ちょうどボス部屋の扉が開いた。
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