第17話 泣きの土下座
ダンジョンを出て防具屋で、革の帽子、革のチョッキ、鎖帷子を買った。三人お揃いの装備である。
防具屋を出ると師匠のメアリーの家に向かった。
「こんにちは。メアリー師匠。」 「コンニチハ。」
オレとサオリは庭にいたメアリー師匠に声をかけた。
「こんにちは。今日は新しいお友達?」
オレ達を庭に招き入れるとメアリー師匠が尋ねた。
「はい。新しい仲間でリオと言います。リオ、挨拶して。」
後ろに控えていたリオを促した。
「初めまして。リオと申します。アメリとサオリの仲間になりました。メアリー師匠にわたしも弟子入りしたくて参りました。よろしくお願いします。」
「リオさんね。こちらこそよろしくね。じゃあ、さっそく稽古する?」
リオの剣の腕を見るためにサオリと模擬試合をさせることになった。もちろん竹刀と模擬槍とである。
メアリーの始めの合図と同時にサオリの突きがリオに決まった。防具のない首に模擬槍とは言え、会心の一撃を受けてリオは気絶した。
オレはリオを抱きかかえヒールをかけてやった。
「げほっ。」
「リオ。大丈夫?」
「だ、大丈夫。サオリって剣士なの?」
「いや。どちらかと言えば、魔法使いだけど。槍は魔法が使えないとき用ね。」
「しかも、はじめて数か月なんでしょ。それでこんなに強いの?」
「いや。強くないけど。槍の腕はポンコツね。」
「わたし、はじめて数か月のポンコツ槍使いに負けたの?」
「そういう事ね。」
リオはかなりショックを受けていた。
「こんなわたしでも強くなれる?」
「大丈夫。大丈夫。メアリー師匠は槍よりも剣が専門だから強くしてくれるよ。」
腕は無いが向上心と根性はあるようだ。
次の試合は開始と同時の槍攻撃を何とか避けたが、次の連撃を胴に受けてしまった。
ポンコツだと思っていたサオリの槍が意外に上達していた。メアリー師匠の言う通り、実戦に勝る訓練は無いという言事か。
今のリオでは到底サオリには勝てないとわかり、試合は終わった。
三試合目はオレとサオリの申し合いになった。魔法を禁じた試合はオレの一方的な勝利で終わった。サオリが猛然と抗議したので、四試合目は魔法有になった。
オレは試合開始の前に呪文を心の中で唱え始めた。試合開始とともにファイアーボールを撃つためである。
メアリー師匠の試合開始の合図が出るとともに。
「「ファイアーボール。」」
二つのファイアーボールがぶつかって相殺し合って消えた。
「「突きー。」」
二人同時の突きだったが、オレの突きだけが決まった。
突きをくらってサオリは気絶した。
オレがヒールでサオリを介抱していると、目を覚ましたサオリが
「やってくれたわね。アメリ。もう一試合やろう。」
と、懇願した。
「いいわよ。お願いしますって土下座したらね。」
「ぐっ。わかったわ。お願いします。」
サオリは土下座した。
「ちょっ。アメリ。サオリはいったいなにしてるの?」
メアリー師匠が不審に思って尋ねた。
「わたしたちの国の最高のお願いの仕方です。」
「で、何をお願いしてるの?」
「再試合です。」
「え!そんなことで?
アメリ。あなた。何か余計な事を言ったんでしょ?
まあ、良いわ。再試合を認めるわ。」
メアリー師匠の許しが出て再戦となった。
「ファイアーボール。」
試合開始の合図とともに前倒しで呪文を唱えていたファイアーボールをオレは撃った。オレのファイアーボールが当たる直前にサオリの姿がかき消えた。
「なにー!」「消えた!」
メアリー師匠とリオが同時に声をあげた。
「まずい。」
オレは咄嗟に身構えたが、無防備な背後から強烈な面をもらってしまった。
「ちょっ。何、今のは?アメリ。説明して。」
倒れてるオレにメアリ師匠が詰め寄った。オレの体も少しは心配してくれよ。
「今のは無詠唱に次ぐ、サオリの第二のギフトでワープです。」
「ワープ?縮地の事?でも、わたしの目にも止まらないなんて。」
「縮地じゃありません。速く動いて消えているように見える縮地と違って、本当に消えているので、絶対に目では追えません。」
「え!そんなありえない。」
「ありえないのが神様のプレゼントであるギフトですから。それよりも、もう一度サオリとやらしてください。」
オレはメアリー師匠に頼んだ。
「ええ。良いけど。何か考えがあるのね。サオリは了承してるの?」
「それは今から了承を受けます。」
オレはサオリの前で土下座をして再試合を頼んだ。
「ええ。良くってよ。もう一度、叩きのめしてあげるわよ。」
勝ち誇ったサオリは、余裕の表情であった。
サオリのワープ戦法は確かに凄いけど、オレとサオリの剣の腕の差で勝てる。いや、勝てるかもかな?
ともあれ、メアリー師匠の開始の合図で再戦が始まった。
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