第167話 アクアパッツア
「いい?これから信じられない事がおきると思うけど、わたしの手だけは離さないで。手を離すとたぶんこの世界には戻って来れないわよ。」
黒髪がワープ時の注意事項を村娘に説明している。村娘はポカーンとして聞いていた。私にも経験があるけど、何がおこるかなんてわからないよね。男女と脳筋はこれからおこる事を予想してニヤニヤしていた。
「じゃあ行くよ。みんな手を離さないで。ワープ!」
一瞬目の前が暗くなったと思うと目の前には鬼師匠の家が現れた。みんなの予想に反して村娘は冷静だった。
「エイミー。ビックリしないの?」
思わず聞いてしまった。
「え?何がおきたの?え?え?」
どうやらあまりの出来事に頭が付いていってないみたいだった。私は今おきている事について親切丁寧に説明した。
「え?今セシルにいるの?セシルって王国東のずっと外れの町よね?すっごい遠い。なんで?」
「それはサオリさんの魔法のおかげよ。」
「え!凄い!凄い!」
「やっと驚いたね。遅いよ。みんなエイミーが腰抜かすほど驚くと思って期待してたんだから。」
「じゃあ。改めまして。うわー!うわー!ビックリした!腰が抜けた!」
「わざとらしいわ!」
男女がつっこんだ。
「とにかくここはセシルの町のオレ達の師匠のメアリーさんの家の前だ。今からメアリー師匠に挨拶に行くぞ。」
男女が呼び鈴を鳴らすと鬼師匠が出てきた。
「師匠、8人目のメンバーです。」
男女が村娘を紹介して今までの経緯を説明した。
「じゃあ。今日はエイミーの歓迎会ね。」
「はい。師匠、オレが料理を作らせていただきます。」
鬼に男女が答えた。男女の料理は異世界料理だ。私達の世界の塩で味付けするだけの料理と違って、高価な香辛料や調味料をふんだんに使った贅沢で大変に美味しい料理だ。これは楽しみだ。
「え?ボスのアメリさんが料理してくれるの?私、手伝わなくていいかな?」
「いいからいいから。黙って座っとき。エイミーはお客さんなんだから。アメリさんの料理はビックリするくらいうまいから。楽しみにしとき。」
恐縮して手伝いに行きそうになった村娘を諭して私の横に座らせた。料理ができるまでの間、みんなで雑談タイムである。脳筋が面白い事を言ってみんなを笑わせて、緊張していた村娘も次第に打ち解けてきたころに料理が完成した。
「アメリシェフ。今日の料理は何ですか?」
脳筋が手を上げて聞いた。
「うん。山の子のエイミーに新鮮な魚介を食べさせてあげようと思って、アクアパッツァだよ。」
「アクアパッツア。私大好き。」
「リオは何でも大好きじゃないの。リオじゃなくてエイミー喜んでもらわなくっちゃ。エイミーは魚大丈夫?」
「ええ。山にも渓流魚はいますから、私良く釣って食べてました。大好きですよ。」
男女の問いに村娘は大好きと答えた。
「良かった。じゃあまずはパンからね。」
男女はアイテムボックスから出したパンをみんなの皿に並べていった。
「え?今パンどこから出したの?手品?」
「手品じゃないよ。魔法だよ。アメリさんの。なんでも何もない空間になんでも収納できるんだって。」
隣で驚いている村娘に私は説明した。
「じゃあ、次はアクアパッツアを配るよ。」
男女のよそった皿を順番に私達は回した。
「みんな。皿は行き届いたね。じゃあいただきまーす。」
「「「「「「「いただきます。」」」」」」」
相変わらずうまい。男女の料理にしてはシンプルな味付けの料理だが、素材のうまさを生かしている。このうまさは新鮮な魚介があっての話だろう。いつでも獲りたての新鮮な材料を出せる男女ならではの料理だろう。私は感激しながら隣の村娘の様子を覗き見た。村娘は無言で食べていた。何回も食べてる私がこれだけ感激しているのになんだこいつは。感情が無いのか?それとも味音痴なのか。
「エイミー。美味しくなかった?」
「うわーん。」
私の問いに村娘は号泣で答えた。
「私。こんなうまいもの。初めて食べた。うまくてうまくてうれしいんだけど。家にはお腹を空かした弟と妹がいると思うとなんか申し訳なくて。」
「泣かなくて良いよ。エイミー。エイミーのご両親にはお金いっぱい渡してきたから、今頃は弟さんも妹さんも美味しい物食べてるよ。」
泣く村娘に男女がやさしく言った。
「え!お金ですか?そんな物もらえませんよ。」
「あー。エイミーの契約金だからエイミーのご両親はもらう権利あるよ。それにあげてないもん。エイミーの給金を前渡しで払っただけだもん。」
「え?それって?」
「ああ。しばらくはエイミーはただ働きって事ね。」
そう言って男女はにやりと笑った。
「そ、そんな。」
村娘の情けない声にみんなは笑った。
「エイミー。あんたお金をなんに使いたいの?」
「おしゃれな服とか靴に・・・・。」
脳筋の問いに村娘は消え入りそうな声で答えた。
「とんだ孝行娘ね。そういうのはサオリとセナがいっぱい持ってるから分けてもらいなさい。」
「良いよ。エイミー。あとでわたしの部屋においで。キンリーで流行ってるかわいい服を分けてあげるわ。」
「私もあげる。」
脳筋の提案に黒髪と守銭奴が乗った。ちなみに脳筋の服はサイズが合わないだろうし、男女に至ってはおしゃれな服を全く持っていなかった。私?貧乏人の私にはあげるほどいっぱいの服はないわ。まあ、貸しても良いけど。
「盛り上がってる所、悪いけど。アメリあんたなんか忘れてない?」
鬼が男女に催促した。
「あ!エールですね。キンキンに冷えたのを今出しますから順番に回して。」
そう答えて男女はコップにエールを注いでみんなに回した。
「くー。アメリの料理にはやっぱりこれね。」
エールを一気に飲み干して鬼が言った。あんた男女の料理じゃなくても飲んでるじゃないの。ともかくこれで午後の自主練は無くなった。残念やらほっとするやら。
鬼の家をお暇して私達は山の宿に戻った。
「うわー!うわー!」
空気を読んだ?村娘が今度は驚いていた。ちょっと大げさだけど。
「今日は自主練がなかったから時間があるよね。エイミーの装備を買いがてらキンリーの町に繰り出そうか?」
「やったー!」
男女の提案に脳筋が真っ先に食いついた。私?もちろん大賛成よ。
「よし!エイミーは一旦お家に帰っておしゃれしてきな。他のみんなはエイミーの準備ができるまで宿で待機。」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
キンリーの町の散策は私も楽しみだ。私だってサークルアイの町出身の田舎者だからね。よーし。かわいい服いっぱい買うぞ。
**************************
ブックマークされた方ありがとうございます。底辺を脱出できました。感謝感激です。




