第157話 大蛇
「え!ちょっとマジ。今手が離せないんだけど。う、うわー!」
身の丈5~6メートルはあろうかと言う大蛇が大口を開けて迫ってくるのが見えた。ビビったオレはリオをつかんでいた手を放して身構えた。食われる。
「サンダー!」
その時サオリの雷魔法がオレとリオを食おうと襲い掛かって来た大蛇に炸裂した。もちろん大蛇の捕食対象であるオレとリオも被爆した。
「「ぎゃー!」」
オレとリオはサンダーぐらいの魔法は平気である。しかし、だからと言って痛くないわけではない。
「アメリ!リオ!大丈夫?」
「大丈夫。全然平気・・・なわけないだろ。」
オレは心配して駆け寄って来たサオリにヘッドロックをかました。
「ワニの次は蛇か。蛇も皮とか牙とか良いドロップ品が取れそうね。」
「カッコつけて言ってないで、さっさと上がれば?」
リオがセナに促されて木道によじ登った。全身ずぶ濡れの濡れネズミ状態だった。このままでは不衛生なのもあるが、風邪をひいてしまうかもしれない。なにより、さっきみたいに感電しやすい。セナが生活魔法のクリーニングでリオを綺麗にした。
「ありがとう。セナ。」
セナに礼を言うとリオは気を取り直して歩き始めた。三又になった道を右に回った。三又は結局左端が正解だったと言う事か。
しばらく歩くと、今度はオレの鑑定に反応があった。
「リオ、止まって!ブラックサーペント、さっきの大蛇ね!二匹右前方の水の中にいるよ!蛇だけど毒は持ってないみたいね。」
「わかった。で、どうする?」
「すぐに魔法攻撃よ!サオリ、サンダー!他のみんなは反撃に気をつけて!」
「「「おう!」」」
サオリのサンダーの一撃で二匹のブラックサーペントは光の球になった。後にはドロップ品の大蛇の肉が水に浮いていた。オレはアイテムボックスからロープとフックを出し、その二つで何とか大蛇の肉を取り寄せた。
「なんか見た目と違って弱い魔物ね。」
「うん。弱点の電気魔法を撃ったからね。」
「こんな弱いなら、今度は道の上におびき出して私が剣でやっつけるわ。そうすればドロップ品も道の上に落ちるから拾うのも楽よ。」
調子に乗ったリオが剣で退治すると言い出した。しかし、オレは反対だ。オレは蛇が苦手なんだ。魔法で遠距離攻撃ならともかく、近距離での戦闘なんて御免被る。
「ブラックサーペントなめたらあかんよ。近接戦闘は危険だ。オレは反対だね。」
「あれ?いつもイケイケのアメリが今日は随分弱気じゃん。」
「ああ。アメリは蛇が苦手なんだよ。」
サオリのバカが余計な事を言いやがった。
「え!アメリ。蛇が怖いの?」
「ああ、そうだよ。さっきから怖くて怖くて逃げだしたい気分だよ。悪いですか?」
セナが馬鹿にしたように聞いてくるもんで、オレも開き直って答えた。
「じゃあ、私と交代ね。」
チキンのオレに異論をはさむ権利はない。オレは最後尾にさがった。最後尾の役目は主にみんなのサポートと魔法攻撃である。もちろん全員が魔法剣士であるオレ達にそんな明確な役割分けはないが。まあ、とにかく大蛇との直接の接触はこれでなさそうだ。
しばらく歩くとブラックサーペントをオレは再び感知した。
「リオ!セナ!左前方の木の陰にブラックサーペントが一匹潜んでるよ!」
オレは二人に魔物の警報を出した。今回は後衛のオレはお二人のお手並み拝見と言うところだ。
「みんな、剣を抜いて!リオ!気をつけてブラックサーペントを道までおびき寄せて!サオリとアメリはもしもに備えてサンダーの呪文を唱えといて!」
セナがオレの代わりにみんなを仕切った。オレは言われた通り剣を抜きながら呪文を唱えた。ブラックサーペントもこちらを発見したようで、木の陰から出てきてこちらを威嚇していた。今までならここでサンダーを一発撃って終了だが、今回は違う。
「来い!蛇野郎!」
リオがブラックサーペントを挑発した。言葉が解るとは思えないが、挑発に乗ったようにこちらに向って来た。でかい。推定5メートルはあるだろう。それが大口を開けて向って来るのだ。オレは既にブラックサーペントに飲まれている。恐怖でいっぱいいっぱいだった。
ブラックサーペントの頭がリオを襲う。迎え撃つリオが剣で迎撃するが、おしい。致命傷を与える事はできなかった。ブラックサーペントはすかさず頭をひっこめた。頭をひっこめられると本体は湿原の中である。オレ達に追撃のすべはない。逆に尻尾による反撃を後衛組のオレとサオリが受ける。オレは素早く前に出てサオリをかばった。大蛇に既に飲まれているオレに反撃などできるはずもない。尻尾攻撃を剣で受け止めるのが精いっぱいだった。
「まずいわね。さすがに魔法なしで戦うのは無理があるか。よし。リオ!サンダーソードよ!」
セナが新たな指示を飛ばすが、魔法を使うなら先に撃てよと思った。
「サンダー!」
そう思ったのはサオリも同じみたいで、勝手にサンダーをリオのサンダーソードより先に撃った。
ブラックサーペントは光の球になって消えた。
「ちょっと何勝手に魔法を撃ってるのよ。」
自分の指示を守らなかったサオリにセナが珍しく食ってかかっていた。
「同じ魔法を使うならリスクの少ない方を取ったほうが良いでしょう。魔法で一発で倒せるのに、やられるかもしれない魔法剣をわざわざ使うなんて馬鹿げてるわ。」
それに対してサオリが反論した。
「でも、今回は剣でやっつけると決めてたんでしょ。」
「そうだけど、そんな取り決めで死んだら元も子もないでしょ。戦闘は遊びじゃないのよ。」
二人がヒートアップする前に止めに入るか。
「まあまあ、二人とも冷静に。あんな大きな魔物に剣だけで戦うのは無理があるとわかったでしょ。魔法を使わざるを得ないよね。じゃあ、サオリの言う通り遠くから撃った方が反撃受けるリスクも低いからそうするべきよね。今回はサオリが正しいわ。決して蛇が怖いから言ってるわけじゃないよ。」
「リオはどう思うのよ。」
納得できないセナはリオに意見を求めた。
「ああ。どっちでも良いんじゃない。ケースバイケースよ。先に呪文を唱え終わった人が魔法を撃てばいいんじゃない。」
セナも聞いた人が悪かった。リオらしい意見だけど、それじゃあチームで戦闘している意味がないじゃないか。
「と、とにかくオレとサオリで魔法を撃つから、セナとリオは魔法で取りこぼした魔物を剣で迎撃して。」
「お、おう!」
セナがようやく納得してくれた。サオリの勝手な行動に怒っていただけで、もともと魔法攻撃には反対じゃなかったから当然だろうけど。
「じゃあ。そう言う事で引き続き散策開始と行こうか。リオとセナよろしくね。」
リオを先頭に再びオレ達は歩き出した。出てくる蛇はオレとサオリが順番に撃破して行った。
そしてついに行き止まりの広場に行きついた。
「この雰囲気はボス部屋と言ったところね。」
「うん。そうみたい。大鰐と大蛇のお出ましよ。」
リオが言った通りボス部屋に間違いなさそうだ。二匹の巨大な魔物を鑑定しながらオレは言った。大鰐は魔法が効かなかった。と言う事は大蛇も魔法耐性がありそう。これってけっこうピンチじゃね。
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