第152話 自主訓練
家に帰って遅い昼食を摂ると、今日は夕方まで、後は自由時間だ。だからと言って本当に自由に過ごすような者は美少女戦隊には一人もいない。黒髪のワープで来たセシルの鬼邸で自主訓練だ。私の目下の課題はやっぱり剣だ。せっかく必殺のサンダーソードも敵に当たらなければ意味がない。今日は鬼師匠にマンツーマンで指導を受けている。ちなみに骨と幽霊は男女に魔法を習っている。男女の教え方は本当に上手い。魔法の真理を良く理解している。私が何年もかかってマスターしたコツを包み隠さず、骨と幽霊に懇切丁寧に教えている。脳筋と守銭奴が短期間にA級になれた訳である。一方で鬼師匠であるが、こちらは教えると言うよりは自分で学び取れと言ったスタンスである。剣の指導も指導と言うよりは実戦だ。男女の考案した竹刀と言う安全な剣での斬り合いである。いや。斬り合いではない。一方的に斬られた。それも意識を失うまでである。ズタボロにされても、されてもハイヒールで復活させられるから、気を失って倒れる事も出来なかった。男女に聞いてはいたが、まさに地獄であった。私の精神が崩壊する前になんとか今日の訓練は終わった。私はいつか絶対に仕返ししてやろうと思った。いや、仕返しなんかじゃ生ぬるい、軽い殺意まで覚えた。このドS師匠に。そのためには剣の実力を磨かなければ。今のままじゃ全く歯が立たない。死んでも頑張るぞ。この鬼に返すまでは。はっ。もしかして、これが男女達が短期間で実力をつけた秘訣か。そういえば鬼師匠は男女達とはあまり練習をしないな。男女達に返されるのを恐れているのか。
自主訓練が終わると、楽しいお茶会の時間だ。鬼師匠の淹れてくれたお茶をみんなで飲んで、しゃべり倒す。この時ばかりは鬼もやさしい。みんな鬼を母親のように慕っている。あんなにいじめられているのに。私達は脳筋以外は親のいない孤児のような者だ。だから愛に飢えているのだ。つかの間の幸せな時を過ごした後は鬼に別れを告げてキンリーに戻った。
冒険者ギルドに向い、依頼の結果報告と戦利品の買い取り依頼だ。カウンターで男女の提出したメガロボアの毛皮と牙や肉に場が凍り付いた。
「こ、これはSランク魔物のメガロボアじゃないですか⁉」
受付嬢のセレナが巣頓狂な声を発した。
「ちょっと待ってください。」
そう言ってセレナは奥に引っ込んで行った。そして冒険者ギルド長を連れて戻って来た。
「初めまして。私は当第三冒険者ギルドの冒険者ギルド長のアデルと申す者です。」
冒険者ギルド長はそう言って深々と頭を下げた。冒険者あがりで荒くれものが多い冒険者ギルド長には珍しい人当たりの良いソフトな感じの紳士だった。
「初めまして。私達は美少女戦隊と申します。」
男女が代表して挨拶を返した。
「あなた方が今噂の美少女戦隊ですか。さすがはA級冒険者と言った所ですな。いきなりのSランクの魔物には私も度肝を抜かれました。それで、Sランクの魔物となるとこちらもおいそれとは値段をつけれないので、すみませんが奥の部屋で話し合いませんか。後、どこで仕留めたかもお聞きしたいですし。」
そう言ってアデルは私達を奥の冒険者ギルド長室へと案内した。私達美少女戦隊は7人の大所帯である。用意してあったソファには全員が座れない。ギルド職員が椅子をいくつか持ってきてくれた。
メガロボアのドロップ品は私のような初級冒険者が聞いた事もないような高額で買い取られた。メガロボアの肉は極上のうまさで、毛皮は耐火性と保温性に優れ、牙は高価な武器や装飾品の材料として最適だと言う事だった。金額を聞いて興奮する私に比べ、男女達は冷静だった。そういえばこのあいだ男女が仕留めたメガロシャークもSランクのはずだ。こいつらは何度もSランクの魔物を倒しているからこれくらいは普通なんだ。
「ところで、メガロボアはどこで倒したんですか?」
アデルがそう聞くのももっともな話だった。Sランクの魔物に遭遇すれば、大概のパーティは全滅だ。冒険者ギルド当局としては冒険者保護のためにも情報を仕入れておく必要がある。
「霧の草原です。」
男女は私達が落とし穴に落ちた経緯を話した。
「初心者向けのはずの霧の草原でごくたまに戻らぬ冒険者がいるのはそう言うわけだったんですね。これは他の冒険者にも注意を促さないと。」
もっともダンジョン内の魔物の配置は一日で変わってしまうらしいので、私達の運の悪さも手伝っての遭遇だったらしい。普通はビッグボアに囲まれるぐらいらしかった。初級者にとってはそれも全滅の危機だが。私達はお金を受け取ると礼を言って冒険者ギルド長室を後にした。
私達と入れ替わりに若い男女二人ずつの4人パーティが受付嬢のセレナに先導されてやってきた。先頭の男の顔を見た男女は足を止めた。その理由が私にもわかった。先頭の男の顔は黒髪とそっくりだったからだ。そっくりと言っても厳密にはそれほど似ているわけではないが、顔の特徴が似ていた。王国人には珍しい黒髪に黒目、そして平たい顔。王国人でないのは黒髪同様に一目でわかった。
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