第150話 落とし穴2
「霧の草原って所は思った以上に厄介な所ね。」
先頭を歩くリオがぼやく。無理もない。濃い霧が立ち込めていてまったく見通しが効かない。どこに魔物が隠れているか分かった物じゃない。その上、他の冒険者が多いので、うかつに魔法も撃てない。
「うん。出てくる魔物も強いし、これは難儀な所ね。オレ達でもてこずるよ。」
「まさか全滅?」
「何言ってんの、リオ。アーリン達はE級だけど、その実力はA級のオレ達と変わらないのは、リオが一番知ってるでしょ?大丈夫に決まってるじゃない。」
アーリンはかってリオと試合をして、もう少しでリオを破るところだった。エイハブもオレ達をしのぐ剣の達人だ。そんな二人のいるパーティがこんなところで全滅なんてありえない。オレはみんなを安心させるように言った。もちろん不安な自分にも。
「ところでさあ。リオは何か当てがあって歩いてるの?」
「いや。本能の赴くままに。」
先頭を歩くリオにサオリが尋ねたが、その答えはリオらしい答えだった。何も考えずに歩いているのかこの脳筋野郎は。
「ちょっとストップ。このまま当てずっぽに歩いてもアーリン達を見つけられないよ。」
オレはみんなを立ち止まらせた。
「じゃあ。どうするのよ?」
リオが聞いてきた。いや、お前も少しは考えろよ。
「ちょっと、魔力の消耗が激しいけど、緊急事態だからそんな事を言ってる場合じゃないね。オレに魔法を撃たして。」
「え?こんな所で魔法を撃ったら他の冒険者にも当たるよ。」
魔法の誤爆を心配したサオリを無言で手で制してオレは呪文を唱え始めた。
「ウィンドストーム!」
ただの風を吹かしただけである。ただし、台風も顔負けの超特大の風を。そこら一面に漂っていた霧が一気に晴れた。いわゆる台風一過である。見通しが良くなって、オレ達は四人の冒険者のパーティを発見した。
「こんにちはー。すみませーん。女二人と男一人の剣士風のパーティを見かけませんでしたか?」
オレは走り寄って先頭の男に尋ねた。
「い、今の風はお前さん達が・・・・」
先頭の男は口をパクパクさせていた。しまった。今の魔法は規格外過ぎたか。でも、まあ、撃ってしまったものは仕方ない。
「はい。そうですけど。それで、女二人と男一人のパーティを見かけませんでした?」
「ああ、悪い。悪い。ビックリしたもんでな。オレ達はあっちの方から来たんだけど、途中で会ったぞ。魔法を撃たれそうになったから良く覚えてるぞ。」
再度オレが質問すると、先頭の男が自分達の後ろを指さして言った。オレはその男に礼を言うと、男の指さした方へ歩き出した。
「ちょっと、アメリ。今の男達の言う事を信じても大丈夫?」
サオリがオレに聞いてきた。確かに見知らぬ男達の言う事を鵜呑みにするのは危険だ。だが、オレはアーリン達の足跡を既に見つけていた。
「サオリ。そこの木を見て。赤い布が結び付けてあるでしょ。その布はオレがアーリンにあげた物なんだよ。」
オレはぽつんと一本立っている木を指さして言った。
「つまり、アーリン達はここを通ったって事よ。」
「さすが。アメリ。さえてるね。」
リオが褒めてくれた。
「うん。そうだろう。もっと褒めてくれても良いのよ。それで、後はあの男が差した方向にこの赤い布をたどって行けばアーリン達にたどり着くってわけよ。あ、リオ。取らないで、アーリン達の帰り道の道しるべになるから。」
オレは赤い布をほどいて取ろうとしていたリオに注意した。サオリのワープを使えば、そんな物は要らないけれど、アーリン達がまた使うかもしれないしね。
晴れていた霧はまた徐々に深まってきていた。オレは再び魔法で風を起こして霧を払い、さっきの男が指し示した方へ赤い布を探しながら歩いた。時々襲って来るビッグボアはオレとリオで切り伏せた。
小一時間歩いた所で、オレは立ち止まった。
「アメリ。どうしたの?」
「これってマームの帽子だわ。」
リオの問いにオレは草むらの中から帽子を拾って差し出した。
「なんで、こんな所に?きゃー!」
オレに近づいて来たリオはかわいい悲鳴をあげて落ちた。
「リオー!大丈夫?」
オレはリオの落ちた穴を覗いて言った。
「大丈夫。なんか地面がふわふわになってるから。」
穴の底でリオが答えた。
「穴の中はどうなってるの?」
「うん。暗くて良く見えないけど、広い空間になってるみたいよ。」
リオの声の聞こえ方からして深さは3メートルほどか。オレ達の身体能力ならケガする心配もないか。
「マームの帽子が落ちてたし、マーム達が落ちた可能性が高いね。リオも落ちた事だし、オレ達も入るか?」
オレはサオリとセナに聞いた。
「わ、わかった。」
サオリは穴をのぞき込んで不安げに答えた。
「怖いけど、仕方ないわね。でも、こんな所に飛び降りてケガしない?」
同じくセナものぞき込んで言った。
「誰がこんな所に飛び降りろと言った?オレ達はリオみたいなオークと違って人間なんだから。オークみたいに頑丈でない人間はケガしないように頭と道具を使わなきゃ。」
そう言ってオレはアイテムボックスからロープを取り出してサオリに渡した。サオリがロープを一本の木に結び付けると、オレはそれを伝い下に降りた。
「ライト!」
オレに続いて穴の底に降りたサオリが生活魔法のライトを発動した。光の届く範囲には壁もない。確かにリオの言う通り広い空間になっているようだった。
襲って来るビッグボアを倒しながら進むと、遠くに青白い光が激しく動き回っているのが見えた。
「あの光は?サンダーソードの光じゃない?」
リオが言うようにあの光は、サンダーで発光した剣が激しく振り回されているものに違いない。オレはアーリンの名を叫んだ。
「アーリン!」
「アメリ!助けて!」
アーリンに間違いない。オレ達は剣を抜くと光の元へと走り出した。
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