第149話 落とし穴
私達は絶好調だった。骨の剣と私のサンダーソードの前にはビッグボアごときは敵じゃなかった。今の私達なら男女達美少女戦隊一軍にも引けは取らないだろうとその時は本気で思っていた。調子に乗った私達はダンジョン初日にも関わらず、もっと強い敵を求めて奥へ奥へと進んだ。なんせ、本気でS級を目指しているのである。こんな簡単な所でいつまでも手こずってはおられない。目印で結んでいた布もとうに無くなってしまったが、構うもんか。他のパーティだって、そんな面倒な事はしていないだろう。行った道を戻れば帰れるはずである簡単な事だ。
そんな訳で調子に乗り過ぎた私達は約束の時間が迫っているにも関わらず、まだ戻っていなかった。さすがにちょっとまずいか。
「ちょっと調子に乗り過ぎて奥まで来すぎちゃったみたい。時間も時間だし、急いで戻ろうか?」
私は鞄から魔導時計を取り出して言った。
「あとどれくらいですか?」
「うーん。一時間ぐらいかな。」
骨の問いに時計を見ながら答えた。
「え!やばくね?」
「うん。やばいね。時間がないから敵にあっても戦闘しないで逃げるしかないね。」
幽霊が言うのももっともだった。ここまで来るのに一時間以上は軽くかかっていたからだ。時間まで帰るには余計な戦闘を避けるしかないだろう。
私達は小走りで今来た道を引き返した。見通しの良いダンジョンなら、敵を避けながら帰るのも可能だっただろう。しかし、ここは霧の草原だ。二~三メートル先も見渡せないような所だ。簡単にビッグボアに捕まってしまった。
「しまった。ビッグボアの待ち伏せを見抜けなかった。どうします?戦いますか?」
「いや。逃げましょう。逃げても追ってきたら、応戦しましょう。」
骨に指示を出して私達は逃げた。幸いにもビッグボアはそれほど好戦的じゃないみたいで、逃げる者を無理には追っては来ないようだった。
「はあ。はあ。猪は追ってこないみたいね。」
息を切らしながら幽霊が言った。
「はあ。はあ。うん。この調子で逃げましょう。」
同じく息を切らしながら私は答えた。ちなみに骨はまったく息を切らしていなかった。まあ、私は魔法使いなんだから、剣士の骨に走り負けても仕方ない事であるが、私のライバルの脳筋もこんなことぐらいで息を切らしたりしないだろう。脳筋達、美少女戦隊一軍四人は魔法もさることながら体術や体力も超一流だ。私はこれからもっと体を鍛えようと思った。
簡単に逃げれる事もあり、私達は油断していた。そのため次にビッグボアに遭遇した時に、幽霊が落とし穴に落ちてしまった。
「きゃー!」
「あ、マームさん!船長!止まって!マームさんが落ちたわ!」
私は先頭を走る骨を呼び止めた。
「わかりました。とりあえずビッグボアを倒しましょう。それからですね。救出は。」
骨は剣を抜きながら答えた。
「おう!」
私も剣を抜いて呪文を唱え始めた。
ビッグボアは私に向って突進してきた。私は構えた剣でビッグボアの突進を防いだ。いつもなら吹っ飛ばされるが、今回はなんとか突進を止められた。突進さえ止めれば私の勝ちである。
「サンダー!」
私は剣から剣を押しているビッグボアに電気を流した。
「せりゃー!」
動きの止まったビッグボアを追いついた骨が一刀両断にした。ビッグボアが光の球になったのを確認すると、私は幽霊が落ちた穴に急いだ。
「マームさーん!大丈夫?」
穴を覗いて私は幽霊の安否を尋ねた。
「うん。大丈夫だけど。いや、大丈夫じゃないわ。ビッグボアが何頭もいるわ!」
その答えを聞いた骨が躊躇なく穴に飛び込んだ。しかたない。二次災害の恐れがあるが、私も意を決して穴に飛び込んだ。
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