第141話 決着
「ああ。試合は私の負けで良いよ。だけど、私は魔法使いなんだよ。剣士や戦士じゃないんだ。悪いけど得意の魔法を使わせてもらうよ。試合は負けても勝負は勝たせてもらうよ。」
サンダーを喰らって棒立ちになっているリオにシオンが殴りかかる。
バキッ!
しかし、吹っ飛んだのはシオンのほうだった。
「な、なぜ?」
「ああ。私は電撃が効かない特異体質なんだよ。それどころか、こんなこともできるよ。」
思いもかけないリオのカウンターを喰らって倒れているシオンの疑問にリオが答えた。そして、右手を高々と上げた。そのこぶしは光始めた。そして、リオは素早く倒れているシオンに馬乗りになった。
「じゃあ、今度こそとどめね。サンダーパンチ!」
リオが光るこぶしでシオンの顔を殴り始めた。
「しょ、勝負あり!」
馬乗りになられたシオンはリオのパンチを手で防ぐだけで精一杯で、防いでもリオのサンダーパンチによる電撃を受けて、その動きを鈍くしたところに、顔面にパンチを喰らった。馬乗りになったリオのパンチは、手打ちでパンチ自体はそんなに威力はなかったが、その分を補う電撃と手数で、いつしかシオンは白目をむいていた。それを確認した審判のミカエルがあわててリオを止めに入ったのだ。
「うおー!」
立ち上がったリオが右手を高々と上げて吠えた。それに呼応するように周りの観客も一気に沸いた。口々に賭けに負けた腹いせにリオをののしっていた。しかし、リオを賞賛する声もそれ以上に多かった。
「リオー!」「リオさん。」
私達美少女戦隊はリオに駆け寄った。リオはセナと抱き合って喜んでいた。リオのケガのほどは二三発顔を殴られただけで大したことは無かった。セナのハイヒールで傷跡も無く治った。
「まいりました。完敗だ。がき扱いしてすまなかった。」
目を覚ましたシオンがリオに握手を求めてきた。シオンとリオはがっちり握手すると抱き合ってお互いの健闘をたたえ合った。シオンと言う魔法使いも脳筋の匂いがする。
「いやー。まいった。まいった。リオさん。強いな。こう見えてシオンはへたな戦士より、体術が優れているのに。そのシオンを軽くのしちゃうんだもんな。」
審判をしていたミカエルがへらへら笑いながら近づいてきた。
「いや。マグレですよ。」
「マグレじゃないね。光るパンチなんて初めて見たよ。魔法を使ったわけじゃなさそうだけど、どうなってるんだ?」
「あ。あれは・・・『企業秘密です!』
リオがしゃべろうとしているのをセナが慌てて止めた。自分たちの技の種明かしをするバカな冒険者なんていない。リオとアメリの脳筋コンビをのぞいて。
「ま、まあ。とにかくすごかったのは確かだ。これは賭けの配当金だ。受け取ってくれ。」
ミカエルはお金がぎっしりと詰まった麻袋をリオに渡した。リオとセナは大金をもらって歓声をあげた。
「良かったな。儲かって。」
「ミカエルさんも良かったですね。」
「「え!?」」
私がミカエルも儲かった事を言うと、ミカエルどころかリオもセナも驚いていた。
「いやー。さすがだな。俺がリオさんに賭けてたのを見ていたのかい。抜け目ないな。」
「なんでリオに賭けたんですか?」
「そうだよな。普通そう思うよな。俺は保険を掛けたのさ。」
「保険?」
「ああ、保険さ。シオンが勝てば俺達稲妻の名声も上がるから、リオさんに賭けた金は気にもならないはした金だ。もし負けてもと言うか、実際に負けたんだけどな。はした金が大きな利益を生むからな。名声は下がってもお金で回収できるってわけだ。名より実を取れたってわけだ。」
そう言ってミカエルはからからと笑った。どっちが抜け目ないのか。私は都会の冒険者の底知れない抜け目なさに恐怖した。私達はリオが負けた時の事なんか何も考えてなかった。と言うか、負けるとは想像もできなかった。負けたら美少女戦隊の評判は最初からがた落ち、私達を指名依頼する人はいないだろう。キンリーでの冒険者活動に支障が出る所だった。勝って良かったのだ。本当に。
「まあ。お互いたくさん儲かったんだから、この金でパーッと行こうぜ。新しい店で飲みなおそう。」
「じゃあ。あんた達のおごりね」
ミカエル達稲妻のおごりで私達は飲みなおした。リオは案の定シオンと仲良くなって飲み明かしていた。これがこぶしで語り合うと言うやつか。まったく、脳筋は。
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リオとシオンの決闘は娯楽に飢えたキンリーの人々の好奇心を刺激し、キンリーの人々の間で噂され、一夜明けた頃には冒険者ギルドの職員の間でも知らない者はいなくなった。そこにオレ(アメリ)とサオリがやって来たというわけだ。
「ここキンリーでも武闘派として高名な稲妻のメンバーであるシオンを地方から来た美少女戦隊と言う聞いたこともないパーティのメンバーがのしたんですから、キンリーの町はそのうわさ話でもちきりですよ。」
「え!それで誰がシオンさんをのしたんですか?」
オレは思わず、受付嬢のエルナに質問した。そんな事をしそうなのは一人しかいないが。
「たしかリオさんって聞きましたよ。」
「「やっぱり。」」
オレとサオリはうなづき合った。
キンリーの町で早くも名を上げている美少女戦隊の宿泊先を聞き出してオレとサオリは冒険者ギルドを後にした。
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