第140話 キャットファイト
アメリとサオリがキンリーに到着した一日前、私達美少女戦隊本隊はキンリー到着を祝って町に繰り出していた。宿で料理が美味しくてお酒が飲めるところを聞いて、一軒の料亭に来ていた。そのお店は庶民的な雰囲気のお店で大勢の人で賑わっていた。客層は冒険者風の男達が多くて少々ガラが悪そうなのが気になった。私達一行は奥のテーブルへと案内された。
「じゃあ、まずは料理はこれとこれとこれを五人前ずつね。あと、エールを五杯お願いします。」
リオがメニューを見て店員に注文した。料理が肉とお酒のつまみみたいな物ばかりだったが、まあいいか。まずはエールが運ばれてきた。
「それじゃあ、無事キンリーに到着したのを祝って、かんぱーい。」
「「「「かんぱーい!」」」」
リオの音頭で私達は乾杯をした。乾杯はアメリ達異世界人の風習らしいけど、私達美少女戦隊も取り入れていた。食事の前のいただきますと言い、儀礼的な事が好きな人達だと最初は思ったが、これはこれで良い習慣だと最近は思っている。いろんなものに感謝の気持ちを忘れないのは大事な事だ。とりあえず、今はそんな細かい事はどうでもいい。私は冷えたエールを一気に飲み干した。
「いやー。エールはこの最初の一口が最高にうまいですね。」
「うん。そうそう。疲れた体に染み渡るよね。」
エールを飲み干した私が言うと、リオも賛同してくれた。そうしているうちに料理も出てきた。料理は肉とつまみみたいなお酒が進む物ばかりだ。当然、エールのおかわりもどんどんした。いつも明るいリオはお酒を飲むと、さらに明るくなる感じだった。意外なのはいつもはシャイなセナが性格が変わったように明るく成る事だった。幽霊も明るい酒だった。女子4人が集まれば、それだけでもかしましいのに、やっとキンリーに着いた安堵感とアルコールが手伝って、少々羽目を外してしまったか、大騒ぎをしてしまった。唯一の男子である骨は圧倒されて、テーブルの隅で縮こまっていた。
若い女が大勢で騒げば当然目立つ。横のテーブルの客がお約束のようにいちゃもんをつけて来た。
「おい。お前ら。うるさいぞ。がきんちょが飲んで騒ぐのは十年早いぞ。」
隣のテーブルのいかにも魔法使いと言った風体の若い女が文句を言った。
「あ、すいません。うるさかったですか。静かにします。お、ば、さ、ん。」
「ちょっと。セナさん。」
私があわててセナを諫めたが、もう遅かった。
「お、おばさん。」
女魔法使いは顔を真っ赤にして怒っていた。
「ちげえねえや。」
そう言って笑っていた連れの若い男は女魔法使いに思いっきりぶん殴られていた。
「おい。お前ら、口の利き方に注意しろよ。私らはこう見えても、王都キンリーでもちょっとは名の知れた冒険者パーティ稲妻の四人よ。」
女魔法使いはその言葉を聞けばビビるとでも思ったか、冒険者であると名乗って来た。名乗らなくても冒険者と言うのはその恰好でまるわかりだったが。かたや、こちらは骨以外は剣も防具も携帯していないので、とてもじゃないが冒険者には見えなかっただろう。
「え!?あの有名な稲妻の方々ですか。これは失礼しました。」
リオが立ち上がり女魔法使いにぺこりと頭を下げた。稲妻なんて知りもしないのに。
「わかればいいのよ。」
リオの機転で女魔法使いも矛先を収めた。そして、これを機会に女魔法使い以外の稲妻のメンバーが話しかけてきた。
「ねえねえ。君たちはなんの集まり?」
「私達も冒険者の端くれなんです。でも、冒険者になって一年足らずの初心者なんですけど、一発奮起してセシルから出てきたんですよ。よろしくお願いいたします。せ、ん、ぱ、い。」
リーダーらしき男の問いにリオが色っぽく答えた。こういう時のリオは女の私から見ても本当に色っぽい。
「おう。任しとけ。困った時があったら稲妻の名前を言え、俺達が助けてやるぜ。」
さっそくメロメロになったリーダーが安請け合いをした。
「ねえ。一緒に飲もうよ?」
「ええ。いいですよ。」
リーダーの提案で私達はテーブルをくっつけて一緒に飲む事になった。稲妻の男達が私達をチヤホヤとしてくれた。すると当然女魔法使いは面白くないわけで、近くにいたリオに絡んできた。
「あんたらみたいながきんちょが冒険者なんてできるんかい?」
「ええ。まあ。なんとか弱い魔物を倒したりしてやってます。」
「セシルで通用してもここキンリーじゃ、通用しないよ。」
「はい。頑張ります。」
女魔法使いの杖で小突かれたりしていたが、珍しくリオは下出に出ていた。リーダーとしての自覚が出てきたのかと私は感心していた。
「ふん。あんたらも、私達稲妻みたいにA級を目指して頑張りなさいよ。」
「お姉さんたちはA級なんですか?お姉さんもA級?」
「ああ、もちろんA級さ。」
女魔法使いのA級と言う言葉を聞いてリオの目の色が変わった。
「おい。おばさん。私達も田舎ギルドとは言え、A級なんだよね。おばさん達もA級とわかったら、遠慮はしないよ。どっちが強いのか表で決着つけようじゃないか?」
「誰がおばさんじゃ。ふん。面白いじゃない。あんた、見たところ剣士か戦士でしょ?剣もないのにどうやって戦うの?私が魔法使いだからって舐めない事ね。こう見えても体術も得意なんだから。」
私がせっかく感心していたのが、あっという間に無駄になった。お酒が入って気も大きくなっているんだろう。こうなったリオを止められるのは、今はいないアメリしかいない。それにお酒を飲んで暴れたり、ケンカをするのは冒険者にとっては珍しい事でもない。
「おい。シオン。やめとけよ。大人げないぞ。」
「こいつら田舎者に、王都キンリーの冒険者の実力を教えてあげないといかんでしょ。年長者として。」
意外にもシオンの方が止められそうになった。リオを止める者など、もちろん美少女戦隊にはいない。
「あー。仕方ないなあ。じゃあ、俺、ミカエルが仕切ってやるから、思いっきり殴りあえよ。見たところそっちのお嬢さんは丸腰みたいだから、武器の使用はなしね。魔法もこの町中じゃ他に被害がでるからなしね。」
稲妻のリーダーのミカエルが場を仕切った。
私達は支払いを済ますと表通りに出た。ここはキンリーでも賑やかな通りだ。夜と言えど、行きかう人で賑わっていた。
「あー!道行く皆さん!今から、われらが稲妻の紅一点シオンとセシルから来た美少女冒険者リオさんの一騎打ちが始まるよ!暇なら見て行ってよ!」
ミカエルが道行く人々に大声で呼びかけた。娯楽に飢えた人々である。なんだ、なんだとすぐに集まって来た。喧嘩も自分達を売り込むための材料にするとは本当に抜け目のない奴らだ。さすが都会の冒険者だ。
「リオ。大丈夫?向こうもA級なんでしょ?」
「大丈夫。大丈夫。これは勝ち負けなんかどうでも良いのよ。キンリーのA級冒険者の実力を計るためにわざとケンカを売ったんだから。」
心配したセナの問いにリオは力強く答えた。それにしてもリオがここまで考えていたとは。脳筋とバカにしててすみません。私もキンリーの冒険者の実力が知りたい。
「さて、お集りのみなさん。せっかくだから、どっちが勝つか、賭けようじゃないか。我らの仲間シオンはA級冒険者だ。だけど、得意の魔法も剣も使えない。かたやリオさんもセシルの町のA級冒険者だ。こちらも魔法も剣も使えない。よって力と力の勝負だ。俺達キンリーの英雄が勝つか、セシルの田舎冒険者が勝つか。これは王都キンリーの代表が勝つか、地方の雄セシルの代表が勝つか。いわば、王都キンリーが勝つか、はたまたセシルが勝つかの勝負と言っても言い過ぎじゃないだろう。王都キンリーを愛する者なら当然シオンに賭けるだろう。さあ、シオンに賭けた。賭けた。」
ミカエル、さすが王都キンリーの冒険者。抜け目なく、集まった群衆に金を賭けさせた。当然、みんな地元キンリーの冒険者で、A級と言う事はそれなりに有名人であるシオンに賭けた。私達はもちろんリオに賭けたが、賭け率は一対九で断然リオは人気がなかった。そんな中、ミカエルがリオにこっそり賭けていたのを私は見逃さなかった。
「よし。みんな、もう賭け終わったな。じゃあ、そろそろやるか。ルールは剣などの武器は無し、魔法も周りの被害を考えて無し。力と力の勝負で、どちらかが参ったと言うか、どちらかが伸びたら決着だ。さあ、始め!」
ミカエルの掛け声でリオとシオンは走り出した。シオンの右パンチを避けたリオがカウンターの右パンチを繰り出した。これで決まったかと思われたが、シオンが左手で防いでいた。
私達美少女戦隊はダンジョンに潜らない日は毎日のように練習試合をしている。もちろん、武器なしの戦いの訓練も怠らない。剣無しの素手での戦いではリオは抜群に強い。アメリでも敵わないほどだ。そのリオのカウンターパンチを防ぐとはシオンも只者じゃない。これは面白い勝負だ。
「リオさん!頑張れー!」
応援にも当然力が入る。
シオンの実力を認めたリオが足を使い始めた。シオンを殴っては反撃を受ける前に距離を取る。いわゆるヒットアンドウエイだ。これはボクシングと言う異世界の格闘技のテクニックらしい。アメリがみんなに教えてくれていた。棒立ちでパンチを振り回すだけのシオンと、ジャブで距離を測り足を使い、削るような攻撃をするリオとでは勝負にならない。だんだんシオンがパンチをもらって行くようになった。
「とどめよ!」
リオの右パンチでシオンは吹っ飛んだ。勝を確信したリオは棒立ちだった。
「サンダー!」
そこにシオンの魔法が炸裂した。サンダーを喰らったリオは立ち尽くしていた。
「な、魔法は禁止だろう!」
セナが猛抗議をした。
「ああ。試合は私の負けで良いよ。だけど、私は魔法使いなんだよ。魔法で一矢報いさせてもらうよ。」
シオンが棒立ちのリオに殴りかかる。
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