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第14話 ワープ

 神様(読者様)、ポイントをください。

そして深海魚のわたしを底辺と言う名の深海から、いつかあげてください。

お願いします。

 オレとサオリは東のダンジョンの地下二階に来ていた。


「じゃあサオリ、なるべく魔法を温存して、いざというとき以外は槍でやっつけよう。」


「うん。一か月前のわたしとは違う所を見せてあげるわ。一か月の地獄の特訓でわたしの槍も進歩したんだからね。」


 相変わらず強気な発言だけど、言うだけの事はあった。サオリの槍はホーンラビットのスピードについていけるようになっていた。サオリが突き洩らしたものをオレが切るというパターンで、なんと一度も魔法を使うことなく地下二階をクリアできた。


 そして地下三階は地下二階と同じように背の高い草でできたダンジョンであった。


「アメリ。地下三階はどんな魔物が出るの?」


 サオリが槍を振り回しながら聞いてきた。オレは冒険者ギルドでもらったパンフレットを広げた。


「マッドボアっていう猪の化け物みたいね。」


「なーんだ。猪ね。楽勝じゃん。」


「そうだと良いけど。かわいいはずのウサギさんであれだけ狂暴だったからね。油断は禁物よ。」


「ラジャ。アメリ隊長。それで、魔法はどうする?」


「初物だから、万全を尽くして臨もう。出し惜しみせず、バンバン使って。」


「ラジャ。隊長。」


 やがて、前方に猪が一匹現れた。近づいて見ると、でかい。猪は猪でもデカすぎる。小型の牛くらいはあった。


「ちょっと、何アレ?」


 サオリが指さして言った。


「マッドボアレベル6って鑑定で出てるけど。」


「猪はわかるけど、デカすぎない?」


「うん。想定外にデカいね。あのデカさからして、タフなパワーファイターってところね。」


「呑気に分析してる場合じゃないわよ。き、来たわ。ファイアーボール。」


 サオリのファイアーボールが当たったが一撃では倒せなかった。


「任せて。」


 オレはサオリの前に出ると、


「ファイアーボール。そして突き!」


 得意の火の玉突きでとどめをさした。


「な、わたしのファイアーボールが効かないなんて。」


 得意の魔法の一撃で倒せなかった事にサオリがショックを受けていた。


「いや、効いてますって。ただ、もう魔法一発てわけにはいかないみたいね。いかにもHPが高そうな魔物だもん。魔法で削って、槍と剣でとどめを刺すのが良いみたいね。」


 オレはサオリをフォローして作戦を伝えた。


 倒したマッドボアを間近で改めて見ると、やっぱりデカかった。これは解体しないとカーゴでも運べるのは一匹が限界だろう。つくづく、アイテムボックスがあって良かったと思った。アイテムボックスにマッドボアの巨体を回収していると、


「本当に便利な能力ね。チートよ。チート。」


 サオリも便利だと思ったのか、声をかけてきた。


「うん。アイテムボックスがあれば、それだけで運送業で一財産築けるよね。チートと言えば、サオリにもワープってあるんだけど。」


「え、そうなの。なんでそんな大事な事早く言わないのよ。」


「え?聞かれてないから。」


「えー。酷い。相変わらずの人でなし(笑)。」


「ちょっと、忘れてただけじゃん。ていうか、自分の能力なんだから自分で気づいてよね。」


「えー。気づかんわ。それで、ワープって何?」


「ワープって言ったら宇宙戦艦トマトでしょ。星から星まで瞬間移動するやつ。」


「宇宙戦艦?何それ?」


「え!知らないの?あの名作アニメを。まあいいけどさ。ワープってそのアニメで宇宙戦艦が宇宙を光よりも速く飛ぶのよ。それがワープ航法よ。」


「え?宇宙に行けるの?凄い。」


「いや、違うと思うけど。たぶん行ったことのある街に一瞬で飛んで行くやつじゃないかな?」


「それはルー〇じゃないの?」


「〇―ラって言ってはいけないような気がするの。なんとなく。」


「ふーん。大人の事情ってやつね。ワープって何となくわかったわ。それで、どうしたら、発動するんだろ?」


「わたしの鑑定もアイテムボックスも心の中で強くイメージすると発動するから心の中で行きたい場所を強くイメージすればいいんじゃないの?」


「わかった。やってみる。ワープ。」「て、やっぱり無理か。」


「どこをイメージしたの?」


「日本のわたしの家。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「そこはやっぱり無理じゃないかな?もっと近い所にしよ。」


「うん。分かった。ワープ。」


 サオリが突然目の前で消えた。


 ややあって、サオリが突然現れた。


「できた。できた。やったよ。アメリ。」


「うん。わかっててもビックリしたよ。凄いね。イルージョンショーを開けるよ(笑)。それで、どこに行ってきたの?」


「イルージョンなんかじゃないわよ。もう。本物の空間移動よ。

 それでね、いつもの魔法を練習している空き地に出たの。誰かに見られたらまずいでしょ?」


「そうね。でも、見られたら、イルージョンですって言えばいいんじゃない(笑)。それよりも、わたしも、一緒に付いていけるのかしら?」


「じゃあ、わたしの手を握って。イルージョンじゃなかった。ワープ。」


 一瞬目の前が暗くなったと思うと、空き地に立っていた。


「す、すごーい。チートすぎるー。勇者はわたしなんかじゃなくてサオリのほうよ。」


「勇者?」


「うん。師匠がね、わたしが勇者でサオリが賢者だって言うのよ。でも、勇者はサオリだよね?」


「そっかぁ。やっぱり、わたしが勇者だよね。卑怯者の勇者なんていないものね。」


「ちょっとー。なんか言ったー?」


「どんな物語でも主人公は卑怯な事はしないもんね。この世界の主人公はわたしよ。勇者サオリ様よ。」


「はい。はい。勇者様。一生ついていきますわ。」


「よろしい。勇者の手下アメリよ。ダンジョンに戻るぞ。ついてきなさい(笑)。」


 オレ達二人は再びダンジョンに戻ってきた。


「ねえ。今思いついたんだけどさ、敵の背後にワープできたら、先制攻撃が絶対決まるんじゃないの?しかも、ワープで反撃を受ける前に逃げれるし。」


「さすが、アメリ。よくそんな卑怯な攻撃を思いつくわね。さすが卑怯の天才。」


「いや。宇宙戦艦の仇の〇ラーが得意としてたワープ戦法を思い出したから。」


「ワープ戦法か。わたしにも魔法以外の必殺技ができたって事ね。」


「うん。短距離のワープが成功したらね。わたしの後ろにワープしてみて。」


「よし。行くよ。ワープ。」


 目の前のサオリが突然消えて、後ろから現れた。


「やったー。ワープゼロ式の完成よ。」


「ワープゼロ式?」


「ほとんど距離のないワープだからワープゼロ式よ。」


「この厨二病患者め(笑)。でもこれは凄い技よね。よく縮地法とか言って一瞬で

 間合いを詰める達人の技があるけど、これはそれをはるかに凌駕しているわ。本当に瞬間移動してるんだから。でも、MPは大丈夫なの?」


「うん。ワープはあまりMPを消費しないみたいよ。使った感じ、ファイアーボール一回分ぐらいかな。」


「え。そうなんだ。でも、あまり人前で使わないほうがいいかもね。ここぞというときの切り札ね。」


「そりゃそうだ。必殺技ってそういう物でしょ。本来。誰かさんの必殺技みたいに、ポンポン出すもんじゃないわね。」


「悪かったわね。軽い必殺技で。ふーんだ。」


「でも、わたしの無詠唱と言い、ワープと言いチートすぎるのに、アメリのは鑑定にアイテムボックスだなんてしょぼすぎない?」


「そりゃあ。勇者様とその手下じゃしかたないじゃん。」


「アメリ。あなた、まだ何か隠してるでしょ?」


「え?そんな事ないわよ。」


「嘘つき。あなた、嘘をつくときに眉が少し上がるわね。」


「え?嘘?」


 オレはあわてて眉を触った。


「嘘よーん。わたしのはったりに引っかかったわね。眉を触ったってことは嘘ついたって認めたって事ね。」


 しまった。見事にしてやられた。オレは観念して最後のギフトについて説明した。


「でも、それじゃあ、ダンジョンで使えないじゃん。まさに豚に真珠ね。」


「うん。ダンジョンじゃね。でも豚とは何よ。せめて猫に小判にしてよ(笑)。」


「それを聞くと残念だけど、やっぱりアメリが勇者さまね。使えない必殺技の勇者様(笑)。」


「わたしはそういうの興味ないから、サオリが勝手に名乗ってたらいいじゃん。」


 オレ達がしゃべりながら歩いていると、前方にマッドボアとホーンラビットが現れた。


「ワープ戦法を実戦で試してみるわ。良いアメリ?」


「ええ。やってみて。」


「ワープ。ゼロ式。」


 目の前にいたサオリはマッドボアの背後に瞬間移動した。サオリは後ろから槍を突き刺した。完全に不意を突かれたマッドボアは反撃する余裕もなく滅多打ちされて絶命した。残り一匹のホーンラビットはオレが斬った。


「やったわ。勇者サオリ様の必殺技の完成よ。どう、アメリ?」


「凄い。凄い。御見それしました。勇者サオリ様。どこまでも付いていきます。それでね、話変わるけどさ。槍が突き刺さるようにワープできないの?そしたら、一手早く攻撃できるじゃん。」


「アメリ。さえてるね。やってみるわ。」


「うん。ワープ攻撃と言ったら、これでしょ。やっぱり。」


 次に遭遇したマッドボアにサオリはワープ攻撃を試したが、一回目よりも近くにはワープできなかった。後ろからの攻撃は問題なくできたが。


 後ろからタコ殴りでマッドボアを沈めた。


「ダメ。これ以上は近づけないみたい。なんかマッドボアにはじかれたみたい。」


「うーん。やっぱりそうなんか。」


「え?アメリ、わかってたの?」


「うん。何となくね。だって、本当にゼロ距離までワープできたら、マッドボアと混ざっちゃうじゃない。だから、あまり近づくとはじかれるんじゃないかと。」


「え?混ざる?合体しちゃうって事?」


「うん。昔の映画でそういうの有ったわ。空間移動の実験しててハエと合体しちゃうやつ。」


「えー!マッドボアと合体してしまったら、どうしてくれるのよ。冗談じゃないわ。」


「いや、映画でも合体するのはハエと一緒に空間移動するときだから、さっきのわたしと一緒にワープしたときに大丈夫だったから、今度も絶対に大丈夫だと思ってたの。それにハエと合体した主人公は超人になったのよ。」


「いや。もう超人になる必要ないし。アメリとの合体はまだしもボアマンには死んでもなりたくないわ。それにそんな危険があるかもしれないのにさっきわたしとワープしたの?」


「うん。だって、ワープはゲームの便利機能じゃない。使わないと損じゃん。それにさ。わたしは元々合体人間じゃん。今更、もう一回合体したところでどうってことないわ。」


「いや。いや。わたしはどうって事あるわよ。わたしがわたしでなくなっちゃうんでしょ?」


「うーん。そんなこともないと思うけど。誰だって、優しい心を持ちながらも冷たい心も同時に持ってるでしょ?あと、陽気な心も陰気な心も持ってるでしょ?人間の心は一元的なものじゃないでしょ?優しくて陽気なわたしの心と冷たくて陰気なサオリの心を持った超人ができるから、サオリはわたしの中で生き続けるわよ。だから、安心して。」


「ちょっと、何自分に都合の良い事を言ってんのよ。わたしの中で卑怯でずるいアメリの心が生き続けるのの、間違いでしょ?」


「ごめんなさいね。卑怯でずるくって。でも、脇役ってそういう物でしょ?」


「ちょっと、今度は開き直るの?ちゃんと謝りなさいよ。」


「はーい。ワープの危険性を知ってたのに教えなくてごめんなさい。でも、神様からのギフトがそんな使えないものの訳ないと思ってたから、安心してたの。ごめんなさい。」


「まあ、また甘味処に連れてってくれたら許す。」


「え?甘味処でよければ、いくらでも。」


 言うほどサオリは怒ってないみたいで良かった。体を動かした後の冷たいお茶とケーキは最高だから、むしろこっちが行きたいくらいだ。


「よーし。甘味処のためにももうひと踏ん張りしよう。」


「ふん。ばーか。」


 サオリのワープ戦法のおかげで、ボス部屋まで問題なく来た。マッドボアは二匹以上同時に現れることはなかったが、一匹でも十分強いのでさすがにボス部屋の前には順番待ちの冒険者はいなかった。


 ボスはボアロードで牛よりも大きな猪でお供にマッドボアを両脇に従えていた。「レベル20って強いの?」


「わたしがレベル18でサオリがレベル10よ。ついでに言うと、マッドボアがレベル10ね。」


「えー!めちゃめちゃ強いじゃん。」


「だから油断禁物よ。サオリは右のマッドボアをワープ戦法でやっつけて。左のはわたしがなんとかするから。」


「え?ボスは?」


「当然わたしに向ってくるでしょうね。まあ一回ぐらい攻撃を受けても死にはしないでしょ?」


「え?大丈夫?」


「たぶん。でも連続で攻撃されるとやばいかも?だから、雑魚をかたずけたらすぐにボスを削にきて。」


「ラジャ。」「ワープゼロ式。」


 サオリは右のマッドボアの背後に現れた。それを合図にオレも左のマッドボアに突進した。前倒しで唱えていた「ファイアーボール」を撃つと同時に突きを放った。二段攻撃にHPの高いマッドボアもさすがに沈んだ。


「ぐっ。」


 だが、ボスのボアロードの体当たりをまともに受けてしまった。オレは何メートルも吹き飛ばされた。目の前がかすんできた。やばい。


「サ、サオリ!」


 オレは力なく叫んだ。








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