第136話 山賊
全力で駆ける馬はさすがに速い。歩けば丸一日がかりの距離を昼に出発したにもかかわらず、日暮れ前に次の宿場町であるカオクの町に着いた。ちなみにオレとサオリの勝負はサオリの圧勝だった。サオリの馬であるフランソワーズは、瞬発力はオレの一郎に劣るが体力がずば抜けて高かった。勝負に勝ったサオリは勝ち誇っていたが、サオリが偉いんじゃなくてフランソワーズが偉いのだ。悔しくなんかないぞ。悔しく無いったら悔しくないんだからね。
ところでカオクの町であるが、宿などの宿泊施設を中心に発展した小さな町で、これと言った特徴も無かった。女二人旅と言う事で、門番の兵士に変な顔をされたが、冒険者プレートを見せると、簡単に中に入れてくれた。
馬小屋のある宿を探し、そこに泊まる事にした。宿泊料を宿の女将に払っているときにサオリがすっとんきょうな声を発する。
「お金!」
「え?お金なら心配せんでもいっぱいあるよ。」
お金ならオレのアイテムボックスにうなるほどある。うなるほどは言い過ぎか。まあ、たくさんある事は間違いない。
「いや。うちらのお金でなくて。リオ達みんなのお金。」
「あっ!・・・・」
そうだ。オレ達のお金はオレが一括で預かってる。オレのアイテムボックスに入っている。
「リオ達、文無しじゃないの?」
「いや。おこずかいぐらいは持ってると思うけど。でも、路銀としては全然足りないと思う。それに食料も全部オレのアイテムボックスの中だわ。」
「えー!」
「ま、まあ。リオ達ならたくましいから、大丈夫だよ。きっと。」
「そ、そうね。リオ達なら海の水飲んででも生き延びるわね。きっと。」
オレとサオリは力なく笑った。笑うしかなかった。すまん。みんな。
オレとサオリは翌朝早くカオクの町を出発した。一日馬で駆け、リーベの町に着いた。リーベの町は山の麓にある町で、この先は山越えの難所である。近隣の村や町の物資を王都キンリーに運ぶための中継点の町として発展していた。
「この町はけっこう賑わってるね。」
「うん。セシルほどじゃないけど、大きな町だね。」
オレとサオリは町を眺めながら、宿を探していた。
「あっ。冒険者ギルドがある。寄ってく?アメリ。」
「いや。何かのトラブルに巻き込まれたら出発が遅れるわ。やめとこう。」
「うん。そうだね。近くにダンジョンもあるけどやめとこう。」
「え!ダンジョン!ダンジョンは行きたい。」
「だめ!だめ!出発が遅れると言ったのはアメリでしょ。」
翌朝、後ろ髪惹かれる思いでオレ達はリーベの町を出発した。これからは山道に入る。道は険しくなるし、出てくる魔物も増える。オレ達は気合を入れなおした。
最初に遭遇した魔物はゴブリンが二匹だった。オレ達の進路を塞ぐように道に現れた。ゴブリンの姿を認めてもサオリは馬のスピードを緩めなかった。
「危ない!」
思わず叫ぶオレ。それと同時に、哀れ二匹のゴブリンは馬に蹴り殺された。
「あー。ひっでー。」
「なによ。わたしとフランソワーズの進路を塞ぐゴブリンが悪いのよ。」
サオリがもし車を運転するような事があったら、絶対に乗りたくないな。
次に襲って来たというか現れたのはワーウルフが4匹だった。ワーウルフの中にサオリは躊躇せず突っ込んでいく。敏捷性に優れたワーウルフはサオリの突進?をなんなくかわすと、オレ達を追って来る。
「ふん。しつこいわね。サンダービーム!」
サオリに迫る一匹のワーウルフが雷に撃たれて倒れた。
「やれやれだぜ。」
そう言ってオレは後ろから飛びかかって来たワーウルフを斬った。二匹の仲間を失って戦意を無くした残りの二匹は追っては来ないようだった。
「サオリ。ワーウルフは回収しないのか?」
「雑魚は回収するまでもないわ。それよりも急ごう。」
ワーウルフも毛皮や牙は結構な金になるのに、もったいない。後ろ髪惹かれる思いで先を急いだ。
しばらく走ると今度は2メートルはあろうかと言うオークが現れた。
「どけ!豚野郎!」
そう叫びながらサオリはまっすぐにオークに向って行く。サオリの言葉が解ったのか、それともサオリの迫力に圧倒されたのかオークが道を開けた。
「凄い!あんな大きなオークがどいた!」
「ふん。わたしとフランソワーズのコンビは最強よ!」
オレがあきれていると、サオリがどや顔でそれに答えた。やっぱりこの人はハンドル握ると性格変わる人や。怖い。
サオリとフランソワーズの活躍で何事もなく?山道を順調に登って行った。坂がきつくなってそろそろ馬たちを休めてやるかと思っていた所に、道を塞ぐように木が倒れていた。
「フランソワーズなら楽勝よ。」
「止まれ!サオリ!」
木を飛ぼうとしていたサオリをあわててオレは止めた。サオリは木の直前でフランソワーズを止めた。
「どうしたの?アメリ?」
「そこら中に人間がいるわ。木の先に間違いなく罠があるわ。」
オレの鑑定はそこいら一帯の草むらに潜む人間を察知していた。こんな所で隠れている人間なんてまともなわけがない。鑑定でも盗賊だの山賊だの物騒な文字が出ていた。
「馬が戦闘に巻き込まれたらかわいそうだ。馬を放そう。」
「え!大丈夫?」
「うん。大丈夫。オレの一郎なら呼べば戻って来るよ。」
「じゃあ、わたしのフランソワーズも戻って来るね。」
オレ達は馬を降りると倒れている木の方に向って歩き出した。馬達はオレ達の気持ちを察したのか来た道を戻り始めた。
「さて!あんたら!オレ達になんの用!」
オレが叫ぶと、前方の草むらや木の影から武装した男達がぞろぞろ出てきた。
「後ろの人達も出て来いよ!」
オレは石を拾って後ろの草むらに投げた。
「これは驚いた。もしもの時のために待機していた後ろの奴らまで見破るとは、おまえら只者じゃないな。」
「ああ、これでも冒険者さ。」
山賊の親分らしき男がオレの気配探知に驚いていたが、これぐらいはA級冒険者なら当たり前だ。いや、鑑定のおかげか。どっちにしろ余計な事は言わないけど。
「ふーん。冒険者とは驚いたが、おまえら女だよな?」
「それがどうした。」
ニタニタ笑って問う親分にむかついたオレは答えた。
「いや。命だけは助けてやろうと思ってな。そのかわり・・・・」
「そのかわり、お前達の相手をしろと言うのか?」
「まあ、そういうこった。」
「ふざけるな!」
オレは激高すると剣を抜いた。
「おいおい。元気がいいな。いくらお前さん達が強くても多勢に無勢だ。オレ達10人が相手じゃかなわないだろ。それにオレ達だって何人かはやられるだろ。双方にとって良い事はないじゃないか。そこでだ。オレ達の相手をしてくれたら金も全部は取らないで解放してやろうってわけだ。」
「命だけでなくてお金まで返してくれるんですか。あんた達良い人だね。と、言うとでも思ったんか!お前らにやられるくらいなら死んだ方がましだ!お前らが、思ったよりもくそったれで良かったよ!思いっきりやれるからな!」
こいつらの相手をするなんて死んでも嫌だが、相手をしたところで無事解放されるとは思えない。殺されるか良くて奴隷として売られるかだろう。降参は絶対にない。オレとサオリを的にかけた自分達の不運を呪うがいい。
「しかたねえな。お嬢ちゃん達は痛い目みないとわからないか。お前ら殺すなよ!」
「ふん。こっちのセリフだ!サオリ殺すなよ!」
多勢に無勢でオレ達をなめきってかたまっていた山賊どもに向って撃たれたサオリの魔法が開戦の合図になる。
「サンダー!」
「なっ!こいつら魔法使いか!」
魔法の直撃をかろうじて避けた親分が驚愕の声をあげた。
「それがどうした!」
「そ、その恰好は剣士だろう?」
「ああ、そうだよ!」
オレは親分の問いに熱い剣撃で返した。もちろんみね撃ちである。ぐあっとうめき声をあげて親分は倒れた。これで10対2が5対2になった。残るは5人だ。オレは魔法を撃とうとしているサオリを止めて山賊どもに言った。
「これであと5人になったけど、まだやるかい?」
「わ、わかった。もう降参する。」
残りの5人が両手を上げた。
「じゃあ。武器を捨てて、この倒れている奴らをふんじばりな!」
オレは山賊どもの武器を奪うとアイテムボックスに回収した。
「縛りましたけど、あとオレ達はどうしたらいいんで?」
「じゃあ、そこに座りな。」
山賊どもは無言で座った。
「じゃあ、しばらく眠ってな!サンダー!」
オレの威力を弱めたサンダーで山賊どもは気絶した。オレはアイテムボックスから取り出したロープで残りの山賊どもを縛った。
「アメリ。こいつらどうするの?」
「うん。町の衛兵にでも渡せばいい金になるけど、面倒くさいし時間もかかるから、ここに置いて行こう。さっきオレ達が抜いた馬車軍団がなんとかしてくれるんじゃない。町まで連行するか殺すか。」
「え!殺されちゃうの?」
「うん。この世界じゃ強盗は重罪だからね。殺されても文句は言えないよ。」
「ふーん。ちょっとだけかわいそうだね。」
「なに言ってんの。オレ達はこいつらの慰み者にされて殺されるところだったんだよ。」
「じゃあ、しかたないよね。」
「うん。しかたないよ。悪いことする奴にはその報いを受けてもろわないと。じゃあ、行こうか。」
オレは転がる山賊どもをけ飛ばすと指笛を吹いた。
オレの指笛を聞きつけた一郎とフランソワーズが駆け戻って来た。オレ達はそれぞれの馬にまたがると先を急いだ。
山賊の出現でフラッグが立ったのか、しばらく行くと、馬車が山賊に襲われている場面に遭遇した。馬車には当然護衛の冒険者達が付いているわけで、両者は戦闘中だった。
「どうするアメリ?」
「うん。関わらずに行った方が良いんじゃない。」
助太刀をするかサオリが聞いてきたが、馬車の方も武装しているわけだからこれは馬車対山賊の戦いだ。オレ達が襲われたわけじゃないのに第三者のオレ達がでしゃばる事も無い。冷たいようだけどこれがこの世界の掟だ。
オレ達が通り過ぎようとすると、
「助けてください!」
襲われている馬車の中から女の子が手を振った。
「アメリ?」
「しかたないなあ。義を見て無さざるは勇無きなり。」
オレ達は馬の脚を止めた。
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