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第135話 フランソワーズ

 


 絶体絶命のピンチにオレは、本当に最後の最後の切り札を切る事にした。それにはサオリの協力がいる。サオリに耳打ちすると一瞬のためらいの後、うなづいてくれた。オレとサオリは覚悟を決めてメガロシャークの上にワープした。魔物の上にワープする事自体は過去にもやった事があるから、大したことは無い。めっちゃ怖いけど。オレはすかさず手に持った銛をメガロシャークにぶっ刺した。オレの銛攻撃は案の定まったく効いてない。ダメージを与えるのが目的じゃないから、まあいい。オレはぶっ刺した銛を片手でしっかりつかみ振り落とされないようにした。さらに念のために空いた手でメガロシャークのヒレをつかんだ。サオリはオレの体を離さないように後ろからしっかり抱きしめていた。つまりオレ達二人と一匹は繋がっていたのだ。メガロシャークはオレとサオリの事など歯牙にもかけず、船を攻撃すべく泳ぎ出した。あと少しで船に衝突すると言う時にサオリが叫ぶ。


「ワープ!」


 オレ達は海の上から見渡す限り草しか生えていない草原に出た。やった。サオリのチート能力のワープはサオリに繋がった生き物ならなんでも運べるが、ここまで大きい生き物は運べるかどうかは自信がなかった。いちかばちかの賭けだったがどうやら勝ったようだ。オレとサオリはメガロシャークの上から飛び降りた。


「サオリ。ここはどこ?」


「セシルの近くの草原よ。前にゴブリン討伐で来たところよ。」


 オレとサオリがのんびりと話しているとオレを忘れるなとばかりにメガロシャークがのたうち回りながらこちらに向って来る。


「ふーん。凄いね。まだ、オレ達を攻撃しようとしてるんだ。」


「たぶん海以外に出たのは生まれて初めてで、今自分がどういう状況にあるのか理解してないんじゃない?」


「じゃあ、武士の情けで長く苦しまないようにとどめを刺してあげるか。」


「ラジャ!」


 オレとサオリは剣を抜くと剣に向って魔法を込めた。電気を帯びた剣は青白く光り出した。


「サンダーソード!」


 電気を帯びた魔法の剣のサンダーソードで斬りつけた。陸の上に上がった魚など怖くはない。オレ達の攻撃が面白いように決まる。決まるが、この巨体に硬い鮫肌だ。攻撃がちっとも効かない。


「アメリ!まったく効いてないよ。どうする?このまま干からびるの待つ?」


「いや。それじゃあ、メガロシャークに勝った事にならないよ。オレに任せて。」


 オレはアイテムボックスから銛を取り出すと、それを構えてメガロシャークに向って走り出した。メガロシャークの前に来ると、ジャンプしてその目に銛を突き刺した。さらに全体重を載せて銛をメガロシャークの体内に押し込む。メガロシャークは苦痛にのたうち回る。


「まだ死なないのか?さすがはメガロシャークだ。じゃあ、これはだめ押しね。サンダガ!」


 オレのサンダガは避雷針となった銛からメガロシャークの体内に入り、目の近くの一番大事な臓器の脳を焼き払った。メガロシャークはビクンビクンと痙攣した後にその動きを止めた。


「やったの?アメリ?」


「うん。さすがの化け物も脳みそを焼かれたら生きてはいられないみたいね。」


 オレは鑑定でメガロシャークの生命活動が終わった事を確認して言った。


「それで、どうする?」


「ああ、大丈夫。クラーケンでさえ収納できたもん。こんなのは楽勝よ。」


「いや。そっちの事じゃなくて、これからの事よ。」


「あ、そっちか。船にはやっぱりワープできないの?」


「うん。無理みたい。基本、船とか馬車とかの動いている物にはわたしが目で確認できないとワープできないし、行った事のある場所にワープできると言っても、海の中のどこか全く分からない所にはワープできないわ。」


 やっぱりダメか。こうなるとわかってはいたが、もしかしてと一図の望みを託したが。これからの事は全く考えていなかったな。サークルアイからキンリーに向う船はある事はあるが、たしか一週間後の出発だったはず、それにあんな化け物がうようよといる海路は危険だ。ここはセシルに戻って陸路でキンリーに向かうか。


「わかった。じゃあセシルから陸路でキンリーに行こう。」


「へっ。船には乗らないの?」


「うん。次の便は一週間後だし、海路は化け物がうようよで危険すぎるわ。それに冒険と言ったら馬よ。サオリだって冒険者アカデミーで乗馬を習ったでしょ。」


「わかった。それで馬はどこで手配するの?」


「冒険者ギルドで馬を売ってもらえるところを聞こう。」


 オレとサオリはワープで冒険者ギルドに来た。冒険者ギルドはいつものように冒険者達でにぎわっていた。


「おっ。町の英雄様のお出ましだぜ。」


「アメリさん。あんたのおかげでオークをいっぱい征伐できてもうかったぜ。ありがとう。」


 冒険者達に声をかけられ、それに手を上げて答えると、カウンターを目指して歩いた。


 いくつもあるカウンターの中で、いつものようにアリシーの元に向った。


「こんにちは。アリシーさん。」


 オレが声をかけると書類に書き込みをしていたアリシーが顔をあげた。


「あ!アメリさん。サオリさん。いらっしゃい。あなた達美少女戦隊のおかげでセシルの町は救われたわ。それに、担当者の私もボーナスがたっぷりと出てほくほくよ。ありがとうございました。」


 アリシーは慌てて立ち上がり深々と頭を下げた。


「いやいや。たいした事はしてませんから。頭を上げてください。」


「その謙虚な所も良いですね。さすがです。ところで今日はどんな御用ですか?アメリさん達指名の依頼はこんなにあるんですけど。」


 と言ってアリシーは書類の束をオレ達に見せた。


「そんなに依頼が来てるんですか。残念ながら今日は依頼を受けれないので他の人達に回してあげてください。それで、今日来たのは馬を買おうと思いまして。どこか良い店を知らないですか?」


「ああ、それだったら冒険者ギルドと提携している馬屋があるわ。そうね。ちょうど昼休みの時間だし、私が案内してあげる。」


 そう言うと、アリシーはカウンターの奥に声をかけてからオレ達のほうにやって来た。


「わざわざすみません。」


「いいのよ。あんた達には本当に世話になったんだから、これぐらいはお安い御用よ。」


 オレが頭を下げるとアリシーは手のひらをひらひらさせて言った。


 冒険者ギルドを出ると、アリシーの案内で町はずれに来た。町はずれに一際大きな敷地の店があり、何頭もの馬と何台もの馬車があった。店の敷地の広さに比べ事務所は小さな小屋だった。オレは日本での中古車屋を思い浮かべた。


「こんにちは!」


「いらっしゃいませ。これはアリシーさん。今日はどう言った御用で?」


 アリシーが声をかけると店主が外に出てきた。


「ええ。今日はこの二人が馬を買われるそうよ。」


「はい。初心者のオレ達でも乗れるような大人しくて素直な馬をお願いします。」


 オレがそういうと店主はオレとサオリをじろじろと見た後に、馬達のいるところに案内してくれた。


「こいつら全部が今売り出し中の馬です。どれでも好きなのを選んでください。」


「え?馬の良し悪しなんてわたしたち分からないよ。」


 頑固そうな店主の言葉にサオリが当然の反応をした。サオリもオレと付き合いが長いくせにオレの事をわかってないな。オレは鑑定を使い。走る能力と体力の高い二頭を選んだ。


「驚いたな。うちの店のナンバーワンとナンバーツーを瞬時で見抜くとわ。」


「当たり前じゃない。このお二人を誰だと思ってんの?セシルの町を救ったカメイの英雄よ。だから安くしなさいよ。」


「え!そうなんですか!もちろん勉強させてもらいますよ。」


 物を見抜く目利きと魔物を倒す事と関係ないし、あとオレ達はカメイの英雄って呼ばれてんの?カメイ村であった事件だからしかたないけど、もっとかっこいい呼び方無いの?オレが心の中でいろいろ突っ込んでいると、店主は馬の値段を提示してきた。その値段が相場より断然低くて赤字の値段だった。


「そんな安い値段では買えませんよ。ちゃんと利益を乗せてくださいよ。」


「また。驚いたな。馬の値段までわかるんかい。じゃあこの値段で。その代わり鞍や手綱はおじさんがサービスしよう。」


 買い主が値段を釣り上げる変な値段交渉の後で、オレ達は馬二頭を相場の値段で買った。ただし、鞍や手綱のサービスを考えるとずいぶんとお得だけど。


「カメイ村にはオレの牧場があるんだよ。それを救ってくれたカメイの英雄にはタダでも馬を差し出したいくらいだよ。それなのにちゃんと相場の値段で買ってくれるとは。あんたらは神様か?」


 店主が変な事を言い出したので、オレ達はお金を払うとアリシーに礼を言って逃げるようにセシルの町を出発した。


 王都キンリーと辺境の大都市セシルを結ぶ道は人通りも多く良く整備されていた。馬二頭も良く調教されていて素直にオレ達の言う事を聞いた。


「ねえ。せっかくだから、この二頭に名前つけてあげない?」


 横を走るサオリが話しかけて来た。


「うん。もう考えてあるよ。店のナンバーワンのこいつが一郎でサオリのは次郎。」


「えー。ダサい。私の馬はフランソワーズよ。」


「え!フランソワーズ?」


「そうよ。なんか文句ある?」


「いえ。ありません。じゃあ、次の宿場町までもうちょっとだから、オレの一郎とサオリのフランソワーズで勝負しない?」


「あんた。本当に勝負好きね。いいわ。受けてあげる。わたしのフランソワーズは一郎なんてダサい馬には負けないわ。ハイヨー!フランソワーズ!」


「あ、ちょっと・・・・」


 スタートの合図も待たずにサオリとフランソワーズは駆け出した。どっちが勝負好きなんだよ。オレは一郎に鞭を入れて慌てて後を追った。




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