第131話 ダンジョンマスター
買い物と猫探しで忙しかったけど、一日休んだおかげで体調はばっちりだ。アーリンと船長とマームをセシルの東のダンジョンへ送り届けた後、オレ達四人は古城のダンジョンに来た。先日下りた階段までサオリのワープで来たんだ。階段下の扉の前には、これまでのパターンから言えば、門番がいるはずであったが、何もいなかった。
「気を付けて!リオ!」
扉を開けて中に入ろうとしたリオにオレは声をかけた。それと同時にハンドサインで警告を発した。
リオは無言でうなづくと立ち止まり、ハンドサインを返した。リオの口元は無言の詠唱で動いていた。
「ファイガ!」
扉を開けると同時にリオは部屋の中に魔法を撃った。
「グガー!」
扉が開くと同時に斬りつけようと構えていた剣士が火だるまになった。火だるまの剣士を蹴り飛ばしてリオが部屋に入った。それにオレ達も続いた。
オレが転げまわる火だるま剣士の首を落としてとどめをさすと、
「さすがにやるな。待ち伏せを見破るなんて見事だ。」
聞き覚えのある声が部屋に響いた。
「「「「ゲラン!?」」」」」
そこにはゲランを始めとしたゾンビ剣士が4匹いた。
「あなた、ゲランよね?」
「いかにも。」
オレが聞くとゲランは答えた。こいつらは死んだはずじゃ、いや、もともと死んでるから死んだはおかしい。オレ達に倒されたはずじゃ?
「あんた達は死んだ。いや倒されたんでしょ?」
「ああ、オレ達はこのダンジョンの中なら何度も復活できるからな。」
まあ、ダンジョンの魔物ならそう言う物だけど、
「でも、そうしたら復活すべき部屋が違うでしょ?」
「ああ。オレ達は親衛隊だからな。王を守るのがオレ達の仕事だ。この先の部屋におられるダンジョンマスターをお守りするためにここに召喚されたってわけだ。」
「ゲラン!」
ゲランの横に立つリリアがゲランをたしなめた。
「おっと、口が滑ったな。そういうわけで、こっから先はどんな手を使っても行かせるわけにはいかないぜ。」
「それで、さっきは待ち伏せしたのね。」
「ああ、すまないな。」
「剣士としての矜持はどうなったのよ?」
「ああ、わし達のプライドよりもダンジョンマスターの命の方が大事だからな。」
「ふーん。相変わらず、良くしゃべるわね。でも、おかげで呪文の時間を稼げたわ。」
「なっ。しまっ・・・」
「「「ファイガ!」」」
ゲランと話をしていたオレ以外の三人が同時にゲラン達ゾンビ剣士四匹に魔法を撃った。4匹で固まっているなんて魔法を撃ってくれと言ってるも同じだ。
「くっそー!」
炎の中から飛び出したのはロンだった。ロンはリオに激しく斬りつけた。
「オレも行くよ!サオリとセナは残りに備えて!」
そう、指示を飛ばすとリオとつばぜり合いをしているロンに斬りつけた。いくらロンと言えどオレとリオの二人がかりにかなうはずもなく、オレに首を斬り落された。これで4対3になった。
ゲラン達残りの三匹はどうしたかと言うと、燃え盛る炎の中からゆっくりと現れた。さすが高位のゾンビ魔物、炎も物としないのか、平気なのか?
「私の自慢の髪がー!」
リリアが頭を押さえて喚き散らしていた。まったく平気と言う訳ではないようだ。
「じゃあ、もう一度。ファイ・・・」
「させるか!」
さらなる魔法を撃とうとしたサオリにリリアが斬りかかった。オレとリオにはゲランとカミラが来た。
「リオ!サンダーソードよ!」
「おう!」
オレの呼びかけに答えるとリオは呪文を唱え始めた。オレもゲランと切り結びながら呪文を唱えた。
「サンダーソード!」
オレの剣が電気を帯びて発光した。よし。これで終わりだ。オレは縮地でゲランとの距離を詰めると上段から斬りつけた。
キン!
オレの上段斬りはあっさりとゲランの剣で防がれた。さすがはゲラン。剣さばきははるかにオレを凌駕している。しかし、それだけだ。ダンジョンで剣と魔法の両方を鍛え続けたオレの相手ではもうない。オレの剣から電流が流れ、それがゲランの剣を伝いゲランの体に流れた。感電したゲランは一瞬動きを止めた。ほんの一瞬だったがそれで充分だ。オレはその隙でゲランの首を斬り落した。ゲランが青白い光となって消えたのを見届けて、オレの隣のリオ達の方を見るとリオもカミラを斬り殺したところだった。サオリとセナももちろんリリアに負けるはずがなかった。
オレ達はゲラン達の残した魔石を拾うと、先へと急いだ。ゲランの言う通りならこの部屋を出ると次はいよいよボスの部屋だ。
「いよいよね。アメリ、扉に罠は無い?」
「うん。オレの鑑定だと、只の扉だし、待ち構えている敵もいないみたいよ。」
扉を開けようとするリオの問いにオレは鑑定をしながら答えた。
「じゃあ、開けるよ。良い?」
そう言いながらリオは勢いよく扉を開けた。
「おい。おい。乱暴だな。ノックぐらいしろよ。」
部屋の奥に座っていた若い男が言った。
「お前は?」
「ああ、オレがこのダンジョンのダンジョンマスターだ。」
オレの問いにその若い男は答えた。
「じゃあ、死ねー!」
リオが斬りかかるとその男の横に控えていた若い女がリオの剣を受け止めながら言った。
「ちょっと、待ってください。私達は降参します。私達に戦闘の意志はもうありません。剣を引いてください。」
「リオ!剣を引いて!他の皆はいざと言う時に備えて呪文を唱えて!」
オレはみんなに指示を飛ばすと、リオに近づいた。
「さすがアメリさん、用心深いな。そこのローラが言うように、もう降参だ。」
ダンジョンマスターは両手を上げて降参の意思を示しながら立ち上がった。
「なんで、オレの名を?」
「ああ。このダンジョンの中の事は全部この部屋で見ていたから、知っているよ。」
「それで、そのダンジョンマスターさんはなんとおっしゃるんですか?」
「これは失礼しました。私はこの古城のダンジョンのダンジョンマスターでファンケルと申します。そしてこちらは秘書のローラです。それで、誠に勝手な申し出だと思いますが、私とローラの命だけは助けてもらえないでしょうか?」
オレが敬語を使って名前を聞くと、ファンケルも敬語で命乞いをしてきた。
「何を勝手な事を言ってんのよ!」
リオが再び腰の剣を抜いた。
「待って!リオ、いくら何でも無抵抗の者は殺せないわ。それに何か訳がありそうじゃない?」
「アメリさん。ありがとうございます。私が死ねばこのダンジョンは死んでしまいます。それにこのローラが死ねばダンジョンの魔物達も二度と復活できなくなるんですよ。」
「それがどうしたって言うのよ。」
リオが再び噛みついた。
「リオ。ダンジョン殺しの栄誉は確かに大事だけど。そんな物のためにダンジョンは潰せないわ。ダンジョン一つの経済効果って考えた事ある?魔物の落とすドロップ品と魔石でどれだけ町が潤ってると思ってんの。」
「そ、そうね。」
リオは渋々納得した。
「でも、わたし達が攻略したセシルのダンジョンはダンジョンマスターがいなかったけど。」
サオリが聞いた。そう言えば、ラスボスみたいな奴はいたけど、ダンジョンマスターはいなかった。
「ああ。それはたぶん、殺されてもういなかったんでしょうね。そして、ローラみたいな魔物がどこかに隠れていて、魔物達を復活させていたんでしょう。」
「じゃあ、ローラだけ助けりゃ良いじゃん。」
三度リオが噛みついてきた。まったく血の気が多い奴だ。オレはリオを制して言った。
「そんな事したら、ダンジョンがもう成長したり、修復したりしないんでしょ?」
「アメリさんのおっしゃる通りです。私はまだ、このダンジョンを完成させてないんです。」
「でも、そう言って安心させておいてわたし達を嵌めるとかするんじゃないの?」
今まで黙っていたセナが言った。
「大丈夫そうよ。ローラはともかくファンケルはそんなに戦闘力はないわ。」
オレは二人を鑑定しながら言った。
そういうわけで、戦闘を避けたオレ達はダンジョンマスターの部屋を見学させてもらった。部屋には水晶の球がいくつもありそれにはダンジョンの内部が映っていた。なるほどこれでオレ達の様子をうかがっていたのか。他にも魔法陣のようなものがいくつもあり、それで各階層に自由に行き来できるって事だった。ダンジョンマスター自身はサオリのようにダンジョン内ならどこでもワープできるって事だった。出口まで送ろうかとのファンケルの申し出を断ってオレ達はサオリのワープでダンジョンを出た。
「なんか思ったよりもあっけなかったよね。」
「終わればみんなそうよ。」
しみじみと語るリオにオレは相槌を打った。
「そうね。でも、強敵ぞろいの手ごたえのあるダンジョンだったよね。」
サオリが言った。
「でも、おかげでオレ達も強くなれたよ。」
「よし。ダンジョンも攻略したことだし、もうこんな田舎町に用はないわ。新しい町に向けて出発よ。」
「リオ。忘れたの?わたし達が契約で半年はサークルアイにいないといけないのを。」
サオリが言った。
「ああ。それはたぶん大丈夫だと思うよ。サークルアイの冒険者ギルドに所属ってだけで、遠征するなっては言われてないから。」
セナが言った。
「つまりは、冒険者ギルドを利用するときだけサオリのワープで戻れば無問題ってわけね。」
「そうよ。アメリ。新しい町に向って出発よ。リオの言う通りこんな田舎町にもう用はないわ。」
セナがそう言うと、ちょうどセシルの東のダンジョンのボス部屋の扉が開いてアーリン達が元気に出てきた。
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