第130話 C級冒険者アーリンの憂鬱2
登場人物紹介
・アメリ・・・脳筋チート
・リオ ・・・脳筋剣士
・サオリ・・・チート剣士
・セナ ・・・普通剣士
・エイハブ・・骨
・マーム・・・幽霊
ダンジョンでの協力プレイのおかげで、私は骨と幽霊との距離を少しだけ縮める事ができた。メアリー師匠の所で私は骨と幽霊に魔法を教え、骨は私と幽霊に剣を教えてくれた。メアリー師匠の教えは、アメリと一緒に考えたものらしくとても合理的だった。私が習得に何年もかかった魔法がこれなら短期間で覚えられる。また、剣もアメリ考案の竹刀と言う物で稽古するからケガを恐れずに思いっきり実戦稽古ができた。私より年下のアメリ達がもうA級まで上り詰めた秘密の一旦がわかった。しかし、合理的だからと言って楽なわけではない。骨と幽霊と私の三人はぼろきれのようにされて船に帰った。でも、骨と幽霊は夜になると元気になった。あんなに疲れ切った表情をしていたのに、もう回復していた。本当に魔物は元気だ。今晩も船の幽霊達と宴会をしていた。昨日と違う所はその宴会に私も参加している事だ。骨と幽霊のおかげでオバケが怖くなくなったかも?船の幽霊達とお酒を酌み交わし、リラックスしてぐっすりと眠れた。
翌朝、アメリとサオリの二人だけが船に来た。
「おはようございます。アメリさん。サオリさん。」
私は二人に元気よく挨拶した。
「おはよう。アーリン。あれ?その顔は良く眠れたみたいね?」
「はい。ぐっすりです。アメリさん。」
「よし。オバケは克服したみたいね。今晩から家に帰って良いよ。」
「本当ですか。アメリさん。」
私はうれしさのあまりアメリの手を握った。しかし、幽霊達との宴会は楽しいのでちょくちょく遊びに行こうと思う。
「ところで、今日はお二人ですか?」
「うん。今日は急遽休みにしようと思って。それを伝えに来たんだ。」
え!休み。休み何て暁の時はひと月に一回あれば良い方だった。それも朝からの雑用でいつもつぶれてしまっていた。なのに、アメリ達は一週間に二日も休むそうだ。なんでも、アメリ達の元居た世界では週休二日は当たり前で、それより少ないとブラックと呼ばれるそうだ。ブラックって何かわからないけど、いきなり休みって言われてもね。私が戸惑っていると、
「ねえ、何も予定がないんだったら、オレ達と一緒に買い物に行かない?」
アメリが誘ってきた。
「え?いいんですか?」
私に断る理由はない。二つ返事でオッケーだ。私は幽霊も誘ってもらえるか聞いた。もちろんオッケーだった。
「よし。じゃあ、さっそく行こうか。」
「え!リオさんとセナさんは?」
「ああ、リオとセナなら酔いつぶれてまだ寝てるよ。起こしたけど、起きないから宿に置いてきた。」
昨晩は4人で飲みに行ったらしい。
「じゃあ、行こうか。サオリ頼む。」
え?買い物ってサークルアイでするんじゃないんだ。
「じゃあ、アーリンとマーム。手を放さないでよ。」
私達はサオリのワープで移動した。え!ここって?
「ここってセシルですか?」
「うん。そうだよ。サークルアイの市場も良いけど。セシルの方が品ぞろえが良いからね。」
私が聞くと、アメリが答えてくれた。隣近所に買い物に行く感覚でセシルに行ってしまうなんて。やっぱりこの人達チートだわ。でも、この前来た時は冒険者ギルドしか行ってないから、また都会のセシルに来れてうれしいわ。幽霊も喜んでいるみたいだけど、この人は海の上に30年も漂っていたらしいから見る者聞くものなんでも珍しいみたい。
サークルアイみたいに露天の店じゃなくて、立派な構えの店舗が所狭しと立っているわ。それにこの人の多さ。さすが都会だわ。なんか緊張するわ。幽霊と二人でビビっていると、ある店に連れていかれた。服屋である。
「さあ、きれいな服をいっぱい買うよ。」
「え!私、お金ないですけど。」
「大丈夫。お金は必要経費にするから。」
アメリ達は稼いだお金を一括で管理していて、そのお金の中から給料としてお金を個別にもらっているらしい。それで、食費や武器防具代などの必要なお金は必要経費としてそのお金の中から出していると言う事だった。
「でも、私。どんな服を選べばいいのかわからないわ。」
「それも大丈夫。サオリさんがかわいい服を選んでくれるわ。」
冒険一筋で、おしゃれに疎い私と違ってサオリはおしゃれに詳しかった。なんでも、あっちの世界にいた時の知識らしい。ちなみにアメリは全くセンスが無いらしい。アメリ達は凄い勢いで服を選び始めた。気に入った物、似合う物をかたっぱしから買った。そんなに買ってどうやって運ぶんだってくらい買った。
「そんなに買って、どうやって持って帰るんですか?」
「あ。ちょっと、買いすぎたかな。」
「ちょっとじゃねえよ。サオリ。でも、大丈夫。」
私達が服の荷物を抱えて外に出ると、アメリがそれを片っ端から消してみせた。
「え!消えた?凄い魔法だけど、消してどうするんですか?せっかくお金出して買ったのに。」
私が抗議すると、アメリが無言で今消した物を再び出して見せた。
「え!え?どうなってるんですか?」
「アイテムボックスって言って、何でもしまえる倉庫みたいな物なんだ。ここに見えない倉庫があるんだよ。」
アメリが何もない空間を手で指し示した。これもチートの一つらしい。この人達最強じゃない。アメリの倉庫に詰めるだけ詰めて、サオリのワープで運べば、儲け放題じゃない。なのに・・・。つくづくもったいない。
「じゃあ、次行くよ。」
私がアメリ達のチートを有効利用しないのをあきれていると、次の店に行く事になった。
「いらっしゃい。あ、アメリさん達。いつも、ありがとうございます。」
次の店の食料品店に行くと、店主が揉み手で現れた。それも無理もなかった。なぜなら、アメリは高価で貴重な香辛料なんかをそれこそ端から端まで手当たり次第に買うからである。この店でも持ちきれないほど買った。かかったお金はそれこそ目玉が飛び出るほど高かった。アメリはその値段を聞いても臆することなく、淡々とお金を払った。この人はやっぱりなんかおかしい。私達庶民とは金銭感覚が違う。貴族の出なのかな?
野菜もパンもスイーツも高級店でこれでもかと言うほど買った。使ったお金も凄いけど、こんな大量に買って、どうするんだろう?やっぱり商売するのかな?
「アメリさん。そんなに買ってサークルアイで売るんですか?」
「いや、オレ達で食べるんだよ。」
え!なんですと。7人で食べても何か月もかかるよ。
「え!腐らないですか?」
「大丈夫。オレのアイテムボックスの中に入れとけばいつまでも新鮮だから。」
アメリの説明によるとアイテムボックスの中は時間が止まっているからいつまでも新鮮なままだと言う事だった。このチート野郎め。
繁華街でこれでもかと言うほど買い込むとアメリ達は人通りの少ない方に歩き出した。
「次のお店は随分と寂しい所にあるんですね?」
「いや。次に行くのはお店じゃないんだ。」
そう言って連れて来られてきたのは、サオリとセナのいた孤児院だった。アメリは先程大量に買い込んだ食料やお菓子の一部を院長に渡していた。なんかこの人達良い人だな。
私がほっこりしていると、
「ねえ。お姉ちゃん達は冒険者なんでしょ?だったら子猫のミーちゃんを探してくれない?」
小さな女の子が話しかけてきた。
「え!」
私が戸惑っていると、
「こら!お姉ちゃん達はねえ、A級冒険者なんだよ。依頼料がたくさんいるんだぞ。」
院長が女の子をたしなめた。
「わたし、お金貯めたもん。」
そう言って女の子は小銭を差し出した。
「よし。依頼は受理した。」
アメリは女の子の差し出した小銭から銅貨を一枚取ると言った。
「「え!」」
私と院長が同時に驚きの声をあげた。たしかに迷い猫探しも冒険者の仕事だ。でも、それは初心者冒険者のF級冒険者の仕事。そして、A級冒険者は院長も言ったように依頼料が最低でも白銀貨一枚はかかる。それを銅貨一枚で初心者冒険者の仕事を受けた?
「よし。美少女戦隊出動するよ!」
「「「おう!」」」
本当にチートで変な二人だけど、私は嫌いじゃないわ。彼女らのパーティに入れてよかった。そう思って私はアメリ達の後を追った。あれ?でも、子猫の特徴とかいなくなった場所とか詳しく聞かなくていいのかな?脳筋アメリは恰好つけて走り出しただけじゃないの?
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